【滅びの王】８２頁■神門練磨の書２１『《冥王》』【オリジナル小説】

■あらすじ
《滅びの王》である神門練磨は、夢の世界で遂に幼馴染である間儀崇華と再会を果たしたが、彼女は《悪滅罪罰》と言う、咎人を抹殺する一族の末裔だった。《滅びの王》、神門練磨の旅はどうなってしまうのか？《滅びの王》の力とは一体？そして葛生鷹定が為そうとしていた事とは？《滅びの王》完結編をお送り致します。
※注意※2008/04/26に掲載された文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書を追加しております。

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■キーワード
異世界　冒険　ファンタジー　魔王　コメディ　中学生　ライトノベル　男主人公

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■第８３話

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８２頁■神門練磨の書２１『《冥王》』


　駆け出しは最高だった。
　オレの行動を、空殻は眼で追っている……かどうかも分からない虚ろな瞳だったけど、錫杖を振り上げたって事は、オレの走行はそれだけの速度しか出てないって事なんだけど……ッ、充分だ！
　その顔面を目掛けて、オレは渾身の力を振り絞る！
「ぶっ飛べエエエェェェェッッ！」
　――瞬間、皮肉った空殻の顔が、
　ボギィッ、「―――ぶぐッ」
　――完全に潰されたッ！
　空殻がもんどりうって吹き飛び、台を滑って倒れたのが見えた。
　鷹定も、麗子さんも、崇華も、そして空殻も、愕然とした表情で、現状を把握しようとしていた。
　オレだけが満足気にガッツポーズを取る！
「っっしゃああああああ！　どうだっ、見たか空殻っ！」
　ビシィッ、と指差して叫ぶと、空殻は未だに我が身に起こった事を理解できないらしく、ただただ驚愕の表情を浮かべて沈黙していた。
「一体、何をしたんだ、練磨……？」鷹定が驚きの顔を隠さずに問うてきた。
「へっへっへっ♪　それは、あいつが一番よく分かってる筈だぜっ」
　そう言ってオレは、空殻に歩み寄って行く。
　空殻は愕然としたままオレを見上げると、無表情だった顔から血の気が引くような変化が見られた。
「馬鹿な……っ！　貴様、何をした……っ！？」
「あれ？　本人も分かってねえのかよ？　――〈還元〉さ」
「――そうかっ！　練磨、あの人の〈吸収〉の〈附石〉を〈還元〉して、ただの〈器石〉にしちゃったんだ！」
　一番早く理解できたのは、崇華だった。
　その通り。オレは空殻の持ってる〈吸収〉の〈附石〉を〈還元〉して、力を無くしてしまった訳だ。故に、殴ったら普通にダメージを与えられるっ。そういう事だ！
「だけど、いつの間にそんな事を？」疑問符を浮かべる麗子さん。
「一瞬しかなかったろ？　――一発目、殴った時さ」
　殴った瞬間、〈還元〉を念じた訳だけど……これが上手くいったのが功を奏した。この時点で上手くいってなければ、今度こそオレの命は無かったかも知れない。
　だから賭けだった。一撃でも入ればオレの勝ち。〈還元〉できていなければ負け……、つまり死んでいた……　
「……有り得ない。私の〈附石〉は、体内に在るのだぞ……？　それを〈還元〉するなど……！　第一、詠唱も無しにそんな事、可能な筈が……！」
「だけど、出来ちまったもんは仕方ないだろ？　何て言われようが、事実は変わらねえぜっ？」
　得意気に話して、オレは空殻の胸倉を掴んで引き摺り起こした。
「テメエはクソッタレだよ、腐り過ぎてる。……そんな奴、生かしといても、世界のためにならねえ」
「……っ」
「だから――分かるよな？」
　会心の笑みを浮かべて、オレは胸倉を掴んでる左手をそのままに、〈ぶっ飛ばし〉の〈附石〉を握り込んだ右手を振り上げた。
「これで、三発目だッ！」
「―――ッッ」
　空殻の情けない顔が一瞬過ぎり――空殻の顔面が再度殴り込まれ、首から上が千切れそうな程に仰け反り、――そのまま意識を無くした。
「……殺しはしねえよ、空殻。――悔い改めろ。それがお前に出来る最低限の償いだ、くそっ」
　胸倉から手を離して、――空殻と共にオレも倒れ込んだ。
「練磨っ」
　すぐに駆け込んで来た崇華に抱き起こされ、ちょっと苦笑が漏れるオレ。
「へへっ……やっぱり甘いかな、オレ……」
「ううんっ、やっぱり練磨は最高だよぅ♪」
「……練磨」
　視線を向けると、跪いた鷹定が眼前に迫っていた。その後ろには、ちょっと切り傷を付けた麗子さんの姿。
「鷹定……。どうだ？　オレ、少しは役に立ったか？」ちょっと苦笑気味のオレ。
「……ああ。お前には、助けられてばかりだ。……心から礼を言っても、まだ足りない位だ。……ありがとう」
　そう言ってから静かに、そして深く頭を垂れる鷹定。
　後ろから鷹定の肩を抱く麗子さん。
「私からもお礼を言わせて、練磨君。……ここまで出来たのは、偏に練磨君のお陰よ。……でも私、何も無いから……体でお礼しちゃおうかしら♪」
「！　そっ、それはダメですぅっ！」何故か応えたのは崇華。
「あら？　崇華ちゃんも体で払いたいの？」妖艶っぽく麗子さん。
「えっ！？　えっ、えとえとっ……練磨、良いのぅ……？」何故かオレに尋ねる崇華。
「いやいや！？　何でそんな話にっ！？　嬉しいけどさ……じゃなくて！　ちがっ、お礼は言葉だけで充分ですっ」どもりつつオレ。
「それじゃあ……――んっ」オレの頬にキッスを麗子さんッ！？
　思わず顔が発火しそうになったけど、麗子さんは構わず妖艶な笑みを浮かべたまま、オレから顔を離していく。
「れっ、麗子さぁん……！」何故か涙目になる崇華。
「んふ♪　大丈夫よ、崇華ちゃん♪　練磨君を取ったりなんかしないわ♪　今のところは、だけどねっ♪」あくまでからかっているみたいに麗子さん。
　ちょっと嬉しいけど……崇華が涙目で訴え掛けてくるのを見ると……何か、何故か知らないけれど、申し訳なくなってしまいますよ？
　そんなハプニングも遭ったけど……オレは三人の仲間を見回して、ようやく言える言葉が浮かんできた。
「……ただいま」
「お帰りなさいだよぅ、練磨♪」
　崇華が返してくれて、鷹定が穏やかな微笑を浮かべ、麗子さんが小さく小首を傾げて頷いた。
　オレは嬉しくて、……泣きそうになったけれど、泣いちゃいけないと思って、笑顔を浮かべて見せた。
　……終わったんだ、これで。
　帰ってきたんだ、ここへ……。


「―――……まだ、終わらんよぉ……ッ」


「！」
　不意に呻き声が聞こえて振り返ると、空殻がふら付きながらも立ち上がろうとしていた。
　顔面は鼻血と打撲で凄まじい色をしていたけれど、虚ろだった瞳には今、鈍い輝きが点っていた。
「私の望みは、果たされねばならぬ……ッ、二十年もの歳月を掛けたのだ……ッ、必ずや果たしてみせようぞ……！」
　ヨタヨタと千鳥足で動く姿に、もう戦う力など残っている筈が無かった。
　なのに……まだ何かをしようとしている姿は、執念だけの醜悪な姿にしか映らなかった。
　諦めが悪いと言う点が醜く見える瞬間だった。
「空殻……お前は負けたんだ、いい加減、観念しろよ……」
　オレは崇華の腕から離れて起き上がり、空殻を諭そうと声を掛ける。
「私が負けた？……そんな筈無かろう？……ッ、私が負けるなど、有り得ぬのだよ……ッ！」
　顔面に叩き込んだダメージが足にもキている筈なのに、その足を引き摺ってでも、ズリズリとオレ達に歩み寄って来る空殻。
　執念……自分の望みに執着し続けた男の成れの果てを見るようで、酷く気分が悪くなった。
　でも、あいつにはあいつの考えが有って今に至ったんだ、それだけは変わらない。どんな結末になろうと、あの男はこうなる事を望んでいたんだ。……実際はこうなる事ではなくて、世界を滅ぼそうと考えていたんだけど、その行き着いた果てがここだっただけなんだ。
　もしかしたらオレだって空殻と同じ道を歩んでいたかも知れないんだ。《滅びの王》だけど《滅びの王》にならないと言う道を歩もうとしているオレが、いつか空殻のようになってしまう事だって、充分に考えられるんだから……　
「世界は……私が滅ぼすのだよ……私しかおらぬ……私がやらねば……！」
「空殻……」
「私が……私が……私、が……わた、し、が……ッ」
　ヨタヨタと覚束無い足取りで近付いて来て、――オレをスルーした。
　鷹定や麗子さん、そして崇華さえも無視して、その先、――大きく口を開いた穴《和冥の門》へと足を進ませる。
「空殻？」
「……くく、はははははは！」
　突然の空殻の哄笑に、オレだけじゃなく三人とも一様に驚いていた。
　その視線の集中点で空殻は一頻り笑うと、不意にオレ達に虚ろな瞳を向けてきた。
「――見せてやろう。貴様らは特別だ、《冥王》の復活を目の当たりにするのだからな！」
「どういう意味だ……？」鷹定の、一同の心を代弁する呟き。
　空殻は腕を大きく広げ、潰れた顔を月夜に向け、――言葉を紡ぐ。
「《贄巫女》は私により補完される……私が死す事により《冥王》の復活は確かなものとなる！　……滅び行く世に私がいないのは誠に忍びないが……もうそれしか残されておらぬ！」
　――瞬間、オレ達の中に電撃が走った！
　危険信号が点った瞬間、オレも鷹定も行動に移していた！
　鷹定の尋常ならざる速度を以てしても、空殻には届かない……ッ！
「――去らばだ。黄泉路で再び相見えようぞ」
「止せ――ッ！」
　鷹定の声も空しく、――空殻は何の躊躇いも無く背中を倒していく……！
　間に合わない！　分かってるのに足が動いていた。
「逃げるな、空殻ゥゥゥゥ！」
　オレの叫びも虚空を走るばかりで、鷹定が《和冥の門》の前まで来た時には、空殻は完全に闇の中だった……。
　オレも一秒後に辿り着き、……何も残されていない穴の前で、膝を突いた。
「く、そ……っ！　何で、お前は……ッ」
　悔やんでも悔やみきれない……ッ。
　殺しておけば良かったとか、止めを刺せば良かったとか、そういう事じゃなくて、どうしてあの時、空殻を止められなかったんだと、そればかりが脳裏を過ぎって、胸の中がグチャグチャになってた。
　……空殻こそ、生きて、王国に引っ捕らえられて、拷問なり尋問なり受けるべきだった。それだけの事をしたんだ、ちゃんと償って貰いたかった。
　更生の余地だって、どこかに有った筈なのに……。これはオレのただの思い込みなのかも知れないって分かってるけど、……信じたかったんだ、空殻を。

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【後書】
　練磨君の策略勝ちでしたが、空殻の執念勝ちでも有りました。
　遂に空殻の儀式が成功してしまいましたが、いよいよ次回クライマックス！　王国は本当に《冥王》の手により滅んでしまうのか！？　お楽しみに～！