2019年6月2日日曜日

【ベルの狩猟日記】105.黒き凶つ風【モンハン二次小説】

■あらすじ
守銭奴のベル、天然のフォアン、爆弾使いのザレアの三人が送る、テンヤワンヤの狩猟生活。コメディタッチなモンハン二次小説です。再々掲版です。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【風雅の戯賊領】、【Pixiv】の四ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター コメディ ギャグ 二次小説 二次創作 P2G


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/135726/
【Pixiv】https://www.pixiv.net/novel/series/339079
■第105話

105.黒き凶つ風


 漆黒の化け物――ナルガクルガを前に、フォアンは背に負った大剣に指を走らせながら疾走……迂回するように外敵に接近していく。その視線はナルガクルガを捉えて離さず、一寸の動きも見逃すまいと神経を尖らせている。
 ナルガクルガの動きを具に観察しているのはフォアンだけでなく、ベルも同様だ。街にいた時には一度として遭遇した事の無いモンスター……情報が極端に不足している。どんな攻撃パターンが有るのか見極めなければ――モンスターと矛を交えるには、ともあれそれが先決だった。
「ガァァァアァァァ……!!」
 ベルにしてもフォアンにしても、全く身に覚えが無いにも拘らず、ナルガクルガは既に怒り状態に移行しているような気がして仕方なかった。真っ赤に燃える双眸で睨み据えられると、ナルガクルガもハンター同様に自分達の動きを隅々まで観察しているのではないか……と、そんな気にさせられる。
「……バンギはあの娘を助けたいんだったよな……」
 彼我の距離が五メートルを切った頃、フォアンが呟いた。ナルガクルガの首とでも言うべき部位に跨っているあられもない格好の娘は併し、助けを求める以前に、ナルガクルガと対峙している自分達へ途轍もない憎悪を振り撒いている。
「さて、どうしたもんか――なッ」
 距離が縮まった瞬間、フォアンは駆け足から全力疾走に走行速度をシフトする。真正面から突っ込みたいのは山々だったが、今はあくまで様子見……無理をすればベルにも過剰な負担が掛かる事を恐れ、横合いから攻撃を仕掛ける。
 ナルガクルガの右の前脚に向かって大剣――フルミナントブレイドを叩き下ろす。
 大剣使いは超重量の剣を扱うため攻撃のモーション一つ一つが鈍重になりがちだが、抜刀斬り……背に負った大剣を抜き放って斬りつけるモーションだけは、他の武器に勝るとも劣らない速度での攻撃を可能とする。
 フォアンも一人の大剣使いとして、抜刀斬りの技術は日頃から鍛えているのだ。腕の筋肉だけを使って振り抜くのではなく、足、膝、腰、腹、胸、肩、肘など、全身の筋肉と関節を駆使し、最低限の力で最速の抜刀斬りを繰り出す。速さは強さとイコールで結べる関係に有る。
 全身の筋肉と関節を流動するように繰り出した最速の抜刀斬り。初撃とは言え相手はモンスター、全力で掛からねばハンターでも狩られる側へ落とされるのは自明の理。
 ――併し、フルミナントブレイドが叩き潰したのはナルガクルガの前脚ではなく、腐葉土に覆われた大地だった。
「――――っ?」
 ドズンッ、と重たい鳴動を響かせて腐葉土が爆ぜる。手応えが無かった事に微量の驚きを刷きながら、フォアンは視界から唐突に消失した漆黒の影を探し求める。敵を視界から外すなど、狩猟に於いては致命的とも言える失態だ。それを理解した上でフォアンは――
「――後ろッ!!」
 言葉少なく爆ぜた喚声に、咄嗟にフルミナントブレイドを抱え込むようにして前転――腐葉土へ飛び込むように回避行動を取った。――刹那、背後とも頭上とも取れる至近距離で、ブォンッ、と大気が薙がれるような轟音が走る。次の瞬間には至近距離を擦過した何かが齎した業風が首筋を撫でていく。
「――――ッッ!!」
 前転しながら体勢を立て直し、至近距離を薙いでいった何かを確認するために振り返ると、大木の幹を思わせる尻尾がしなやかな動きで戻っていく瞬間を目視する事が出来た。
 ベルはその経緯を視認しながら、フォアンの無事を確認して安堵の吐息を落とす。
「何、あいつの動き……ッ!?」
 距離を取っていたベルでも、その動きを完全に捉えていた訳ではなかった。両前脚の筋力を用い、まるでケルビか何かのように、――否、ケルビでもそんな動きは不可能だろう――フォアンを視界に納めたまま飛び跳ねるようにして、標的の死角へ着地したのだから。普段相手にする飛竜種の中で、ここまで俊敏な動きをするモンスターはいない。小型のモンスターを含めても、だ。
 似たような体の造りの飛竜種――ティガレックスなら、強靭な前脚を使って雪山だろうが砂漠だろうが、全てを薙ぎ倒すように突進する事が出来た。それが眼前の漆黒の飛竜は、前脚の筋繊維を巧みに流用し、前へ突進するベクトルを左右前後自在に飛び跳ねる力に昇華させている。
 そのため、従来の飛竜種の動きしか知らないベル達に混乱が生じ、一瞬その姿を見失う要因になった。原始的な突進が主なモンスターにはない、自在なステップ。それは、ハンターが追える類いのモーションなのか。ベルは思わず瞠目したまま生唾を嚥下する。
「――ベル!」フルミナントブレイドを抜いたままナルガクルガと正対するフォアンは、様子見に徹しているベルへと喚声を放つと、ゆっくり前傾体勢を取る。「……先に謝っておくぜ」
 ――瞬間、ベルは彼が言外に込めた想いを察し、口許に引き攣った笑みが滲む。携えたハートショットボウⅠを握る指に自然と力がこもる。
「……ったくもう、逃げたくて仕方ないけど分かったわ! あんたがやるならあたしもやる! ――ただし! あたしが逃げろと言ったら絶対に逃げなさいよ!? それだけは誓いなさい!!」
 言いながらナルガクルガとの間合いを詰め――自身の射圏に入る。フォアンが様子見を超えて戦闘体勢に入ると言うなら、自分も見ているだけでは耐えられない。ハートショットボウⅠに矢を番え、弦を引き絞る。
 ハートショットボウⅠの射線の先には、漆黒の飛竜。今も尚、尻尾を腐葉土に叩きつけながら、正対するフォアンを威嚇しているその姿は、ベルにとっては隙そのものだ。
 ――だが、
「ガゥゥゥゥ……ウガゥアァ……ッ!!」
 ナルガクルガの首に跨る野生児に矢が当たってしまうのではないか、と言う危惧がベルの中に芽生える。己の射撃の腕に自信が無い訳ではない。併し、万が一と言う事が有る。モンスターに傷を負わせる程の攻撃を生身の人間が受ければどうなるかくらい、ハンターで無くとも分かる。
「――ベル!」
 弾ける怒号に、躊躇の底に沈んでいた意識が浮上する。“己の腕を信じろ”――そう、フォアンに檄を放たれたように感じたベルは、弦を引き絞る指に力を更に込める。――過たず射る。過信せず、ただ己の腕が出来得る最善を尽くす。
 ――掛け声も無く弦を離し、射出される矢。力の限り引き絞られた弦から放たれた矢は大気を切り裂きナルガクルガへと飛翔する。狙点は先刻フォアンが大剣を振り下ろそうとした右の前脚。あの健脚を負傷させれば幾分か狩猟し易くなるのではと考え、且つ野生児に当たり難いポイントとして定めたのだ。
 ナルガクルガはフォアンに全意識を傾けている。自己の技術にミスが無ければ確実に狙撃できる。そう信じて放った矢は――
「――ガァウ!!」
 野生児の甲高い咆哮に、ナルガクルガは矢が当たる直前に跳躍――再び飛竜種とは思えない身軽な動きでフォアンを迂回するように着地する。
「な――ッ!?」思わず愕然と声を上げてしまうベル。
 フォアンの真横へと跳躍したナルガクルガは併し、フォアンではなくベルへと意識を向けた。「ガァァ……ッ!!」と唸り声を漏らしながら、真紅の眼光をベルへと注ぐ。
「……厄介だな」呟いたのはフォアンである。ナルガクルガが跳躍した瞬間に大剣を背に預け、ベルの元まで駆け寄って来た。「あの娘、ナルガクルガの司令塔も兼ねてるみたいだな」
「……人間がモンスターと言葉を交わすなんて、普通なら信じられないところだけど……ザレアがいるからなぁ……」引き攣った笑みが思わず口許に浮かび上がるベル。「ねぇ、あの娘を助けに来たのに、何だってその娘に敵対されなきゃならないの?」
「現実とは斯くも厳しいものだったのさ、ベル」澄まし顔でグッドサインを作るフォアン。「……ワイゼン翁が提示した報酬を今になって理解できた気がするぜ」
 フォアンの苦笑交じりの発言に、ベルも自分が釣られる事になった法外な額の報酬を思い出す。あれはつまり、“彼女を含めた”依頼内容だったと言う訳だ。
「……師匠ェ……次に逢った時は覚えときなさいよ……?」ギリギリと奥歯を軋らせるベル。「――フォアン。あの娘はあくまで傷つけない方針を貫くわよ。あたし達が狩猟するのは、あの黒い魔獣だけ。――おうけい?」確認するようにフォアンに目配せする。
「合点承知の助だ、ベル」右手でグッドサインを出し、ナルガクルガへと駆け出すフォアン。「奴を見失ったら頼む」
 フォアンの言葉に、ベルは今一度ナルガクルガに視線を投じ、――神経を尖らせる。いつもの飛竜種と思って掛かれば痛い目を見るのは火を見るより明らかだ。奴の動作を一瞬たりとも見逃すまいと、ベルは自己が持っている飛竜種の常識を取っ払う。
「ガァァッ!!」
 まるでベルとフォアンの話し合いが終わるのを待っていたかのように、フォアンが自身へ駆け出したのを見計らって行動を起こすナルガクルガ。健脚を活かして跳躍――フォアンとの距離を取ると同時に、彼の死角へと移動する。近寄っていた筈の標的が刹那に視界からフェードアウトしたフォアンは、体の芯から凍えるような怖気に襲われる。
「――四時ッ!」
 視界外へと消え失せた魔獣の咆哮より先に、頼りになる隊長の喚声が樹海に轟いた。その言葉を脳が理解する前にフォアンは一足で方向転換――再び視野に黒き疾風を捉える。影のように走る飛竜が眼前へと飛び掛かる瞬間を視認したフォアンは、指を添えていたフルミナントブレイドの柄へ力を込める。
「でぇいッ!」
 ――傍目にはナルガクルガと少年ハンターが衝突したように見えた。自身の発した諫言は間に合わなかったのかと、ベルに悔恨の念が湧き上がり――そうになったが、ナルガクルガが体勢を蹌踉かせてフォアンの後方に着地、フォアンがフルミナントブレイドを大地に叩きつけた姿勢を視認し、フォアンは咄嗟にナルガクルガの飛び掛かりを回避したのだと気づけた。
「グルァァァァ……ッ!!」
 体を反転して再びフォアンを正視する形で威嚇を始めるナルガクルガの鼻っ柱に僅かながらも流血が確認できた事で、フォアンが回避しながらもフルミナントブレイドで攻撃をしたのだと、ベルは察した。あの寸隙で攻撃に転じたフォアンの機転の良さに、ベルは思わず舌を巻く。
「あっちが二人一緒に戦うってんなら、こっちだって二人一緒だ。互角だろ?」ニヤ、と得意気に口唇を歪めるフォアン。
「いや、こっちはあと二人も合流するから、人数的にはこっちが優勢なんだけど……。てか、相手は“二人”じゃなくて、一人と一頭でしょ!? モンスターと人間を一絡げにしちゃ不味いでしょ!?」ツッコミを入れずにはいられないベル。
「ん? あぁ、そういやそうだな。ザレアやヴァーゼを見てると、モンスターと人間って同じ存在なのかと思っちまったよ」済まん済まん、と頭を掻き始めるフォアン。
「う、うん……その二人と比較されるとツッコミ入れた方が間違いだった気がするんだけど……」どう返して良いか悩んでしまうベル。
「ガァウ!!」二人の漫才に怒り心頭の様子の女の子。
「っと、悪い悪い。今はお前と戦ってる最中だったな」視線を振り直し、フォアンは改めてフルミナントブレイドの柄を握り直した。「まぁ、ベルと一緒なら負ける気はしないんだがな」
「……どうしてそうここぞとばかりに臭い台詞を……」目元を隠すように手のひらを当てて呆れるベル。その頬はどこか温かそうに見えた。「併もそれ、何気に死亡フラグ臭くない?」
 言っている間に、遂にナルガクルガの忍耐の緒が切れたのか、大きく跳躍――再びフォアンの死角へと回り込んで来た。類稀なる強靭な前脚がなせる業だろう、ベルがフォアンへ勧告を投げる前に、再び跳躍――ベルの視野外へと姿を埋没させる。
「しくった――ッ!?」
 何もナルガクルガの標的はフォアンだけではない。そしてその首に跨る司令塔は恐らく、フォアンよりも先に潰す存在を心得ている。――ベルは思わず焦燥に駆られて視界を巡らし――眼前に黒い死が飛来しているのを視認した。
 轟――と、凶風が吹き荒れる。

【後書】
 今回はガッツリ狩猟回でした(^ω^) いやぁー、やっぱりナルガクルガは良いなぁ…(自画自賛)
 この幼女とナルガクルガはアレです、イメージ的にはもののけ姫のサンとモロです。獣に跨る野生児…(・∀・)イイ!! 性癖ドストライクなんですわ…!
 さてさて狩猟シーンは確かそんなに長く続かない筈です。次回どうなる!? お楽しみに~!w

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    いやぁー、ほんと好きなんだねぇナルガたんw
    攻撃パターンから、その運動性能のメカニズム(?w)までキッチリ細かく描写されててまさに「うーん、デリシャス!」

    そしてハラハラ・ドキドキのベルとフォアンの狩猟シーン。
    ハラハラしつつも二人のコンビネーションの良さに「うーん、デリシャス!」
    特にベルちゃんの持つ広い視野を活かした後方からの支援が( ´∀`)bグッ!です。これで残る二人が合流したら爆雷針(えっ?w)

    次回どうなる?あれかついに幼女の正体判明なのか?

    最後にボソッと書いとこう。わたしナルガたんもあまり好きではないですw
    (いや好きなモンスターとかいるのか逆に聞きたかろ?w)

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv「うーん、デリシャス!」

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    1. 感想有り難う御座います~!

      ほんと好きなんですナルガたん!w
      うーん、デリシャス!ww 何度も何度も通いましたからね~!w きっちり細かく描写されてると言われて嬉しさMAXです!w┗(^ω^)┛

      ベルとフォアンは回を重ねる毎にどんどん息が合っていくんですよね…! また出た「うーん、デリシャス!」www
      ベルの視野の広さはアレです、ガンナーやってると身に付いてくる奴だと信じているので、たぶんガンナーさんには「そうそう!」って共感を得られる奴だと思っております…!(なお指示を出す余裕は無いw)
      そう、爆雷針!w 折角作ったのに未だに出番が無いんですよねこれ!w 果たして樹海は、ナルガたんは、どうなってしまうのか…!w

      幼女の正体判明なのか!? 次回も乞うご期待なのですっ!!

      ナルガたん、あまり好きではないんですね…! いやまァアレですよ、わたくしも初めはナルガたん嫌いだったんです、あまりに強くてやってられるかーってw ただシリーズ重ねる度に「回避距離UP」の装備欲しさに、毎回毎回幾度と無く狩猟をしている内に…と言う奴ですw
      確かにとみちゃんの好きなモンスター、聞いてみたさ有りますね…!w 機会が有りましたらぜひ!w

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪ そしてダメ押しの「うーん、デリシャス!」www

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