2019年6月5日水曜日

【ベルの狩猟日記】106.バンギの依頼【モンハン二次小説】

■あらすじ
守銭奴のベル、天然のフォアン、爆弾使いのザレアの三人が送る、テンヤワンヤの狩猟生活。コメディタッチなモンハン二次小説です。再々掲版です。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【風雅の戯賊領】、【Pixiv】の四ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター コメディ ギャグ 二次小説 二次創作 P2G


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/135726/
【Pixiv】https://www.pixiv.net/novel/series/339079
■第106話

106.バンギの依頼


 死んだ――と思った瞬間、ベルは轟然たる衝撃ではなく、肉球のようなプニプニした何かに突き飛ばされた。視界は明瞭。体勢を立て直せずに腐葉土へ体を投げ出したベルが捉えた映像は――ここぞという時にやってくれる爆弾娘の姿。
「ベルさんに何するにゃーっ!!」
 腐葉土の上を転がって体勢を整えるベルの視線の先――ベルとナルガクルガの丁度中間点に佇むのは、小タル爆弾を両手に携えたザレアだ。しゅーっ、と導火線に火の玉が点ったそれを見て、ベルは思わず上空を見上げる。縦横無尽に頭上を駆け巡る枝葉の隙間から見える空は、雲間から斜陽が差し込み、樹海全域を湿らせていた雨粒が止んでいた。
「あ、ありがとザレアっ!」
 一瞬前の光景がフラッシュバックしそうになり、ベルは恐怖に身が竦むが、それでも尚、ハンターとしての精神が彼女の足を立ち上がらせる。強靭な怪物に相対しての行動停止は、即ち死だ。それを師匠に何度と無く叩き込まれ、そして幾度と無く修羅場を体験したから、今のベルは恐怖に満たされて逃げ出す事も、腰を抜かす事も無い。
「ガァァァ、アァァァ……ッ!!」
 ベルを屠る絶好の機会を潰された黒き魔獣は、先刻自身の前から撤退した筈のネコ頭を見て、再び尻尾を腐葉土に叩きつけて威嚇する。その真紅に輝く双眸は、チャンスを阻害された事に怒り心頭と言った色が灯っている。
 ザレアは両手の小タル爆弾を携えたまま、ギラリッ、と〈アイルーフェイク〉の瞳を輝かせると、何の迷いも無くナルガクルガへ駆け寄って行った。
「にゃーっ!! ニャン法! 爆弾突貫の術っ!!」
「それは必殺技でも何でもないわザレア!? ちょッ、戻ってきてザレアァァァァ―――――ッ!!」
 小タル爆弾を両手に携えてナルガクルガに突っ込んで行くザレアに、思わずベルは絶叫を上げるが、爆弾娘が聞く耳を持つ訳も無く。
 ナルガクルガは首に跨る野生児の掛け声と共に、前脚を使って大きく跳躍――容易くザレアから距離を取り、――透かさず死角から襲い掛かる。
 ――が、ナルガクルガと野生児が見たのは、死角から襲い掛かった筈にも拘らず、正面に自分達を見据えるネコ頭の姿だった。
「狙い通り! にゃァァァァ―――――ッ!!」
 ザレアに飛び掛かったナルガクルガの口腔にそっと小タル爆弾を詰め込むと、次の瞬間には身を翻して身軽な動きで野生児の背後へ着地。――そして、ナルガクルガの口腔から爆音。
「ギュァァァァァアァァァァッッ!?」
 流石のナルガクルガも、口の中に爆弾を詰め込まれて堪らず仰け反る。野生児も驚愕に目を見開き、背後に降り立った――と言うか跨ったザレアに、若干の恐怖を懐いている様子。
「……まぁ、うん、心配する必要なんて全く無いわよね……」
 一瞬前の光景に肝が凍りつきそうになったが、危機に陥ったのはザレアだと言う事を今一度再認識すれば、まるで心配する要素が無い事に気づく。彼女は最早、“ハンター”や“人間”と言うカテゴリで認識すべき存在ではないのだ。
 ナルガクルガの首に跨るザレアを見て、安堵とも後悔とも取れる吐息を落とすベル。彼女らしい無茶っぷりだが、やはり見ている者とすれば身震いする程の緊張と恐怖を強いられる。本当に勘弁して欲しい……とベルは意識を再び狩猟モードに戻す。
「ガァッ!? ウギャウァアアッ!?」
 ナルガクルガが口内爆破に仰け反るのと同じくして、野生児も、背後に降り立った、人の形をした何かに取り乱していた。明らかに人間の動きを超越した何かが背後にいるのだ。どこぞの殺し屋じゃなくとも手を出したくなるのは仕方なかった。
 咄嗟にデタラメな裏拳を放って、ザレアを牽制しようとする野生児だったが、先手を打つかのように、その手が加速する前に握り締めるザレア。逆の手も同様に、だ。
 両手を背後から捕縛された野生児は、見る間に顔が青褪めていくのが分かった。明らかに焦燥に駆られている。
「にゃふふふ……もう逃げられにゃいにゃよ!! 神妙にお縄につくのにゃ!!」
 ご機嫌な声でにゃーにゃー笑う得体の知れないネコ頭に、野生児は――
「ウギャウァアウアァァアアア―――――ッッ!!」
 咆哮――それも樹海全域に轟くかと思える爆音に、離れていたベルとフォアンは耳を押さえて蹲り、ザレアは音源から発せられた衝撃波によって吹っ飛ばされていた。
「ザ、ザレアッ!?」
 咆哮を上げたのは、野生児――だけではない。彼女が跨っていたナルガクルガも、まるで共鳴するかのように吼えたのだ。野生児の咆哮に人を吹き飛ばすだけの肺活量が有る訳が無い。恐らくはナルガクルガの咆哮の力だろう。
 ザレアはまるで木の葉のようにクルクルと宙を舞い、――頭上に張り巡らされた樹木の枝に足を纏わりつかせると、そのまま宙吊りになり、ナルガクルガと野生児を見下ろす。
「にゃにゃっ、にゃんて咆哮にゃ! 師匠の怒鳴り声には劣るけどにゃ!!」
 見るからにダメージが無さそうなザレアに、ホッと安堵の嘆息を落とすベル。人を吹き飛ばす程の衝撃波を放つ咆哮は、ティガレックスしかしてこないとばかり思っていたのだが……また常識が破られたか、とベルが舌を巻いていると、
「――ふむ。あのマドモアゼルはどうやら、咆哮を共鳴させる事によって、威力を上げているようだね。本来ナルガクルガの咆哮には人を吹き飛ばす程の力は無いのだから」
 不意に背後で上がった安穏とした声調に、ベルは驚きと共に振り返る。案の定、そこにはモス紳士がアオキノコを食んでいる姿が。因みに二足歩行で、右手にアオキノコを握り締めて、――だ。
「バンギさん!? ちょっとどこ行ってたの!? 何気にピンチだったんだけど!?」詰め寄りながらナルガクルガ顔負けの怒号を張り上げるベル。
「どうか落ち着いてくれ、マドモアゼル・ベルフィーユ」スッ、とアオキノコを差し出すバンギ。「君にはこのアオキノコがとても似合うよ」
「褒めてんの!? バカにしてんの!? この際どっちでも良いけどッ、あの娘、本当に助けるべきなの!? 明らかにあたし達に敵意を持ってるんだけど!?」バンギの持っていたアオキノコを振り払い、ナルガクルガの上にいる野生児を指差すベル。
「勿論だとも、マドモアゼル・ベルフィーユ。私は何としても彼女を救わねばならない……そのためにはまず、ナルガクルガから引き離して欲しいのだ」凄い格好を決めている筈だったが、突然四つん這いになり、「フゴフゴーっ!」と鳴き声を発しながらベルが吹き飛ばしたアオキノコ目掛けて走って行く。
「……台無しな紳士ね。略して台無紳士だわ……」額に手を添えてガックリと項垂れる。「――って、ちょっと引っかかったんだけど……あの娘をナルガクルガから引き離せば良いだけ? ナルガクルガを狩猟すれば良いんでしょ?」
「フゴフゴーっ!」ちょっと拉げたアオキノコの元に辿り着いたバンギは、四つん這いのまま、顔を下げてアオキノコを咀嚼。「モグモグ……う~ん、デリシャス! ――ふむ? ナルガクルガは彼女の親だからね、狩猟したら彼女が可哀想だろう?」
 間。
「ちょ……ちょっと……待ってね……」額に添えた右手が汗に濡れてジンワリしてくるベル。「……ごめん、バンギさんの依頼を上手く理解していなかったみたい……つまりどういう事なの!?」瞳がグルグル回り始めるベル。
「――ベルッ!!」フォアンの怒号が弾ける。
 刹那、ベルは気づいた。今は狩猟の最中。併も相手は未知のモンスターで、加えて自分達に確定的な敵意を向けている。そんな戦闘の只中で意識を逸らすなど――自殺行為に他ならない。自身が招いた破滅の展開に、ベルは意識を狩猟へと再びシフトする――が、既に死の権化が目前に迫っていた。
 黒い凶風。視界を漆黒に塗り潰し、意識を暗黒へと葬り去る――――
「――まぁ落ち着きたまえよ、君。まだ私の話は終わっていないんだ」
 ――ベルの意識が純黒の暴力に消し飛ばされる直前。飛来した漆黒の尻尾を、モスの姿をした紳士は素手で、受け止めていた。
 愕然とした表情で、思わず尻餅を着いてしまうベル。そして――何故か納得した。
「さ、流石はザレアの師匠のヴァーゼの師匠……っ!!」溢れ出る恐怖が引く程の、超越し過ぎた者が発する重圧に呑み込まれるベル。
 バンギはモスの顔をこちらに向けると、表情が見えないにも拘らず、何故かはにかんだように見えた。
「私が君達に頼みたい事は、元を辿れば一つなんだ」右手でナルガクルガの尻尾を掴んだまま、バンギは左手の人差し指を立てる。「即ち、ナルガクルガに囚われた迷子の治療。これを成し遂げられる程のハンターなら、“簡単なお手伝い”に過ぎないと思ったのさ」
 そう告げたバンギを見て、ベルは呆気に取られると同時に、――あのジジイからどれだけふんだくろう、と悪魔っぽい心が生まれるのを感じた。
「今がチャンスにゃ!」
 バンギがあろう事かナルガクルガの尻尾を素手で制止させている間に、頭上から舞い降りて来るザレア。今の話を聞いて、即座に野生児の捕獲へ走ったのだろう。フォアンもフルミナントブレイドを背負い直してナルガクルガへ駆ける。
 まさかナルガクルガの攻撃を止める者が現れるなど露にも思わなかったのだろう、野生児は混乱を極め、「ウゥ、アゥアア……ッ!?」と呻き声を上げて視線を彷徨わせている。
 そんな隙を見逃す筈も無く、ザレアは再びナルガクルガの首――野生児の背後へと降り立ち、今度はその華奢な肢体を抱き締める。そしてそのまま立ち上がると、軽やかな動きで跳躍――ナルガクルガ顔負けの身軽さでベルの元へ着陸する。
「捕まえて来たのにゃ!」まるでアイルーでも相手にしているかのように、抱き締めた野生児を掲げて嬉しげに告げるザレア。
「……何て言うか……あたし達の出る幕全く無くない?」途方に暮れそうになるベル。「と、とにかくっ、でかしたわザレア! バンギさん、これからどうするのっ!?」バンギに振り向き、声を張り上げる。
 ナルガクルガの尻尾を握り締めたまま、ザレアに抱き上げられた野生児に視線を飛ばすバンギ。〈モスフェイク〉を被っているため表情は確認できないが、真剣な空気が漂っている。
「――よし、まずはこの場を一時撤退しよう。君達はハゥエットの中心――大樹の根元に向かってくれ。私は暫し彼女と語らってから向かうよ」
 ニコ、と笑ったような雰囲気を醸し出すバンギに、ナルガクルガとタイマンを張ると言うのに一切の心配や不安は浮かばなかった。ザレア以上に、そしてヴァーゼ以上に心配や不安と言う言葉とは無縁のハンターだと、さっきから思い知らされているからだ。
「わ、分かったわ! ザレア、フォアン! 今度こそ一緒に逃げるわよ!!」
 ハートショットボウⅠを畳み、背に戻しながら喚声を上げるベルに、フォアンは駆け寄りながら「了解です、隊長」と声を返し、ザレアは野生児を掲げて「分かったのにゃ!」と走り寄って来る。
 三人のハンターが全力ダッシュで樹海を駆け抜けて行くのを見計らうと、バンギはナルガクルガへ視線を振り直した。
「済まないマドモアゼル――っと、そうだった。マドモアゼルは人間ではなかったね。――ウギャゥアグルウアアゥウギアア」
 突然、人語ではない言語で喋り始めたバンギに、ナルガクルガは瞠目し、やがて尻尾に込めていた力を緩めた。バンギもそれを察すると、尻尾から手を離した。
 モンスターと人間が見つめ合う不思議な時間が流れる。ナルガクルガの真紅の瞳には僅かな敵愾心が残っていたが、すぐさまバンギをどうにかするような雰囲気は無い。
「ガァアアア……ウギャウオアウゥア……」
 どこか不安げに紡がれたナルガクルガの獣声に、バンギは〈モスフェイク〉越しに微笑んだ。
「どうか安心してくれ、マドモアゼル。私はそのためにここに来たのだから」

【後書】
 こういう超展開に次ぐ超展開が好き過ぎてですね…!w 何がどうなってるの!? と思いながら読み進めて頂けると幸いです!w
 そして次回でにゃんと! このエピソード7も終幕だったりします。えっ? 何も解決してないどころか今から始まりじゃない??? って感じですが、次回でどう風呂敷を畳むのか、ぜひ楽しみにお待ち頂けたらと思います!
 ところで最近更新タイミングガタガタで申し訳ぬい…! パソ子ちゃんがお亡くなりになったり、単純に忙しかったりと最近てんやわんやでして…! 今後も更新日が一日ズレたりするかも知れませぬが、悪しからずご了承くだされ~!(*- -)(*_ _)ペコリ
 そんなこったで次回、エピソード7最終話! どうかお楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    すっかり見落としておりました。申し訳ないm(_ _)m

    やっぱり凄いんだなぁザレアちゃんw
    そしてそんな彼女の師匠の師匠バンギさんが凄く無い訳が無い訳でw
    全くもって「うーん、デリシャス!」

    えぇ!次回で終幕ですと!?
    ちゃんと畳めるのか今から楽しみですw
    ところで、さいこーすいづゅんの3900万のパソ子さんはいかがです?w

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      いえいえ~! どうかお気になさらずですよう!┗(^ω^)┛

      ほんとそれなんですwwほんとザレアちゃん、凄いんですよね…!w
      ですですww師匠の師匠ですからね、そりゃもうヤバみ溢れてない訳が無い!w
      全くもって「うーん、デリシャス!」wwww流石に吹き出しましたよね!www

      そうなのです! にゃんと次回で終幕です!w
      わたくしもよくここから畳んだなーとしみじみしておりまする…(笑)
      中々良いですよ~! 流石はさいこーすいづゅんの3900万のパソ子さんです…!www

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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