2019年6月11日火曜日

【ベルの狩猟日記】108.王たる人と王たる龍【モンハン二次小説】

■あらすじ
守銭奴のベル、天然のフォアン、爆弾使いのザレアの三人が送る、テンヤワンヤの狩猟生活。コメディタッチなモンハン二次小説です。再々掲版です。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【風雅の戯賊領】、【Pixiv】の四ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター コメディ ギャグ 二次小説 二次創作 P2G


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/135726/
【Pixiv】https://www.pixiv.net/novel/series/339079
■第108話

108.王たる人と王たる龍


 黄昏に沈む世界に、未だ燦然と灼熱を放つ“王”が佇んでいた。古代より連綿と語り継がれてきた豪炎の王は、半日にも及ぶ死闘を感じさせぬ貫禄で泰然たるも殺意の奔流を迸らせて、眼前に立ち開かる王たる古龍より格段にヒエラルキーの劣る小賢しい存在を睨み据える。
 対するは、大いなる自然に属するとも言われる古龍を相手に立ち回る、矮小なる民の中でも抜きん出た実力と肉体と知恵を有する――狩人。世界を取り巻く自然と同等の脅威を懐く古龍を相手に、四人の英傑はこちらも、死闘を半日続けているにも拘らず、皆十全に等しい状態を継続していた。
 やがて日が没しようとしている街を囲う外壁の外で、四人の狩人は互いに視線を交わし、視界の奥――街を睥睨するかのように悠然と佇む古龍種――炎王龍ことテオ・テスカトルを見やる。
 大人の身長ほども有る顔の周りには鮮やかな朱のたてがみを纏い、二本の角は野牛のように背中に曲がって伸び、王たる威厳を存分に醸し出している。大きく広げている皮膜に覆われた翼に、体を支える前と後の四本の太く逞しい脚。全長十七メートル近くの紅蓮色の体に、長くしなやかな尻尾。
 何れもが神々しく、そして猛々しい。
 ギルドが一部の凄腕狩人に提供している情報にはこうある。
『灼熱の息を吐き、炎を纏う古龍。
 非常に強暴で、近づく者は例外無くその業火に身を晒す事になる。
 砂漠、沼地、火山などで目撃され、一説には良質な燃石炭を求めて移動しているとも言われる。
 過去には街を襲撃した事も有り、ギルドも常に動静に気を配っている』
 ギルドですら手を拱く相手でありながら、関する情報は殆ど無いも等しい。ただ、“灼熱の息を吐き、炎を纏っている”――それくらいしか、彼の王の生態は知られていない。
 無知にも等しい状況下での死闘は熾烈を極めた。灼熱の気息を浴びて生き延びられる者などいないだろう。全長約十七メートルを誇る、見上げる高さの全身を使った突進を受けて生き存えられる者などいる訳が無い。
 超常に生きる存在を相手に、狩人はあまりにも矮小に過ぎた。こんな怪物に敵う訳が無いと心を挫き、逃げなければ殺されると精神を壊し、戦場に濃密な人肉の焼け爛れる臭気を充満させ、一時の輩である狩人は屠られていった。
 半日も続いた地獄に勝るとも劣らない殺陣は、今なお継続している。今朝方確認できた五十人にも上る凄腕狩人の姿は見る影も無く、今や二十人を切っていた。そして残りの誰もが諦観に身を窶し、やがて来る蹂躙の時を恐々と耐えていた。
「――さぁて、お前ら。そろそろ命運が尽きそうって時節だが聞いてくれるか?」
 地獄の様相を呈す戦場の只中にありながら、【王剣】の渾名を冠する男は剽げた態度を崩さずに大声を轟かせた。皆彼の声を聞きながらも、視線は彼の王から離さない。一時でも彼の王から意識を剥離すれば、その瞬間こそ己が身命の最期だとでも言わんばかりに――加速的に磨耗していく神経を繋ぎ止め、無意識にこの戦場を統べるもう一人の“王”に耳を傾ける。
「俺ァな、故郷に一人息子と愛する嫁がいるんだな、これが。つまり、だ。生きて帰る以外に選択肢なんざねえ訳だ、うん」
「――当然じゃろう? ワシとてこれから老後の楽しみが控えとるんじゃ、こんなところでくたばるほど老いさらばえとらんわい」
 応じたのは老獪なる【猟賢】。老いてなお衰えぬ精度で“王たる龍”に幾度と無く射撃を敢行したが、彼の王はその矢さえ溶かさんばかりの業火を纏いて対した。
 半日にも及ぶ精密射撃でどれほどのダメージを与えられたのか、一見して判然としない。こちらの攻撃を全く意に介さぬ泰然たる態度も起因し、まるで無傷のように振る舞う仕草から、今までの攻防など実は全て無為だったのではないかと、そんな絶望を戦場に居合わせる狩人に与える。
「応ともよ! こっからオレの武勇伝が始まったってェーのに、まだまだこの程度じゃ温ぃ位だぜッ!!」
 虚勢とも取られかねない大言を吐き散らす若きギルドナイツは、得物である飛竜刀【葵】を逆手に構え、剰え視線を“王たる龍”から逸らし、彼が唯一認める“王たる狩人”へと向ける。
「フェイさんよォ、オレァ久し振りに熱くなれてんだ、弱音を吐くなんざ許さねェぞ!?」
 虚勢ではなく素なのだろう、若きギルドナイツは燃え滾る熱い激情を持て余して不用意に足を捌き、落ち着き無く得物を持つ手を持ち替える。相見えた好敵手の出現に、彼は全身全霊を持って応じているのだろう、まだその迸る激情をぶつけ足りないのだ。
 その様を見もせず意識しただけで苦笑を滲ませる【王剣】。己以上の戦闘狂振りに思わず安堵の情念が胸に広がっていく。
「……戦況はまだ覆っていません。如何にテオ・テスカトルが強靭な古龍種と言えど、ダメージは確実に蓄積されている筈。……私達はまだやれます」
 寡黙に戦況を見極め、剰え勝機が有るとさえ嘯く若き女のギルドナイツに、【王剣】だけでなく、【猟賢】も口唇に苦笑を刷く。ここまで食い下がれただけでも表彰に値すると言うにも拘らず、まだ彼の王を退ける意気を携えているのだ。彼女は大物になる――そう予感めいた感情が、二人の狩人の胸中に去来する。
 四人の視線の先――豪炎を纏いし王たる龍は今なお健在。ただ、初遭遇時とは異なった様相を呈している。一見しただけでは判らないが、折れるまではいかないまでも野牛のような角は若干欠け、翼の皮膜には孔が穿たれ、総身を包む紅蓮の甲殻には皹が入り砕け散っている箇所が幾つも見受けられる。
 ――そう、確かにダメージは確実に蓄積されている。併し、彼の王の自若たる振る舞いがそれを殊更に否定するのだ。相反する肉体の損傷と悠然たる挙動……それが狩人に、「この程度のダメージでは致命傷には全く届かない」と錯覚させるのだ。
 ただ、相手がダメージを蓄積しているのと同様に、狩人達の疲弊も尋常ではない域に達している。無限に等しい古龍種の体力と、矮小なる人間と言う種の体力では比肩できる筈も無く、既に四人以外の狩人は肩で息をする程に疲労が蓄積し、中には“龍の王”の攻撃をマトモに受けた訳でもないのに倒れ伏している狩人の姿も見受けられる。
 未だ十全に狩人としての機能を全うできる者は、今ほど声を掛け合った四人だけ。最早彼の王を退ける事も危ぶまれる中で牙を剥く意志が有るのは、四人しかいないのだ。
「――よぉし、その意気だクソッタレ共」凶悪に口の端を釣り上げ、【王剣】は頷いた。その瞳には不屈の闘志が今も燦然と煌いている。「それに、だ。あの“テオ何とやら”もそろそろ夕餉の時間で帰ってくれるだろうさ。もう一踏ん張りってところよ」
 不思議と、“王たる狩人”の言葉は戦場に居合わす全ての志士に闘志と気力を齎す。「もう敵わないかも知れない」、「早く死んで楽になりたい」と言う脆弱な思考を砕き割り、「あと一撃で沈めて故郷に帰る」、「もう少しで俺達は英雄になる」――そんな最高の形での終結を夢見てしまう。
 沸々と湧き上がる精力に、狩人達は【王剣】の言葉に呼応するかの如く、最早一歩踏み込むだけでも億劫な満身創痍の肉体に鞭打ち――精悍な面構えで“王たる龍”を見据える。全力で挑み、全身全霊を懸けてここまで食い下がってきたのだ、余力など残している訳が無い。次で仕留められなければ、どの道待っているのは死滅と言う名の末路だけ。
 ここに来て充溢し始める鋭気に、極限まで神経を磨耗していた狩人達は妙な昂揚感を覚えずにいられなかった。普段の狩猟に於いては、ここまで窮地に陥った事は無いし、こんな形での激励も初めてだった。安心して背中を預けられる朋友を前に、彼らは懸念無く全力を出し尽くせる。恐れるモノなど、何も有りはしなかった。
「グルルル……」
 不遜に唸りを発する【炎王龍】に呼応するかのように、【王剣】は声高らかに咆哮を放つ。
「オラ行くぞクソッタレ共ッ!! あの倣岸たる不遜の王を蹴散らせェェェェッッ!!」
 豪放な鬨の声に、狩人は怒号を持って応ずる。そして灼熱の防衛線は再び幕を開けた。龍の覇者たるモノへ挑みかからんとする矮小なる民の王はその時、よもやこの鉄火場にて命を落とすなど、露にも思わず――――
 彼の意気に触発されるように、龍の王もまた、心を竦ませる咆哮を奏で――永遠にも感じられた決戦の刻が、遂に終極へと辿り着く。

【後書】
 最終章の始まりは過去のシーンから。こういうね~中二心を刺激するシーンが大好きマシーンのわたくしです…皆が皆、カッコいい事を言ってさァ最終決戦! と言うシーンはアレですよね、王道ふぁんたじぃ感しゅごいですよね…!(語彙力~!)
 あと過去と現在がリンクしていくと言う物語がね~好き過ぎるんです…過去の英雄が勝てなかった強敵を今! その末裔達が再び臨む! みたいなね! 勇者とか魔王とかが世襲制と言う設定に弱いんです(^ω^)
 そんなこったでいよいよ最終回までカウントダウンが始まりました! どうか最後までお楽しみ頂けますように~!

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    遅くなってしまいましたm(_ _)m

    いや、もぅゾクゾクするほどかっこいいですねw
    【王剣】と【猟賢】それに戦闘狂のギルドナイツ…
    そんななかでもわたしはリボンちゃんのセリフにちょっと涙出た。
    ほんとヤバい(語彙力消失

    そして現在につながっていくのですね。
    新しい力がどんなかっこよさを見せてくれるのか楽しみです!

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      いえいえ~! 心待ちにしておりました…!┗(^ω^)┛

      ゾクゾクするほどかっこいい…!w 最高の誉め言葉じゃないですかヤッター!┗(^ω^)┛
      この四人だからこそ生まれる台詞と言っても過言ではないですからね…! それに心打たれたのでしたら、感無量の一言です…!

      ですです! この過去が有って、現実に繋がっていくのです…!
      ぜひぜひ楽しみに読み進めて頂けたらと思います~!!

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!

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