2019年6月8日土曜日

【ベルの狩猟日記】107.そして壁が訪れる【モンハン二次小説】

■あらすじ
守銭奴のベル、天然のフォアン、爆弾使いのザレアの三人が送る、テンヤワンヤの狩猟生活。コメディタッチなモンハン二次小説です。再々掲版です。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【風雅の戯賊領】、【Pixiv】の四ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター コメディ ギャグ 二次小説 二次創作 P2G


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/135726/
【Pixiv】https://www.pixiv.net/novel/series/339079
■第107話

107.そして壁が訪れる


 先刻、爆雷針を作るための調合素材を持ち寄ったエリア――大樹の根元に位置するそのエリアは、少し薄暗くなっていた。徐々に日が暮れてきているのか、遠くには大雷光虫と言う、雷光虫が集まって出来た大きな光の塊が漂い始めている。
「ウギャウアアア!!」
 静かなエリアに轟くのは野生児の喚声だ。ザレアに羽交い絞めにされて尚、元気溌剌に暴れ千切っている。恐らくザレアでなければ振り解かれているだろう膂力で、頭を振り、両腕を回し、両足をジタバタさせている。
「……この娘って、……えーと、何だっけ? コッチクルナ?」
「ニャルガクルガにゃ!」透かさず訂正の声を上げるザレア。
「そうそうそいつそいつ。ニャルガ……ナルガクルガに、攫われた娘なのかな……?」
 まさかモンスターから人間の娘が産まれる訳は無いだろう。ベルが考えたのは、過去にナルガクルガが聚落を襲撃した際に、娘を一人攫っていき、餌とするところだったが、何かが原因でその娘を自分の子供と認識して育てている……。そう考えてみたが、そんな単純な話だろうか、とも思ってしまうベル。
 そもそもモンスターが人間の娘を育てるなんて話は終ぞ聞いた事が無い。体の造りが全然違うし、人間には体一つで過酷な環境に耐え得る程の順応性は無い筈だ。ヴァーゼやバンギじゃあるまいし、極々一般的な娘が生きていられる筈は無いと思うのだが……
「いいや、彼女は攫われたのではない」
 野生児が暴れ千切る声が木霊する空洞に、不意に落ち着いた男声が響いた。振り返らずとも分かる。バンギだ。
「彼女のママンから聞いた話だが、彼女は樹海の入り口に置き去りにされていたらしい。マドモアゼル・ナルガクルガはそれを見かねて彼女を育てる事にしたんだそうだよ」
「そっか……って、んん!? バンギさん、あんた……ナルガクルガと話せるの!?」あまりの自然さに聞き逃しそうになるベル。
「ふむ? それがどうかしたのかね?」キョトン、と返すバンギ。
「…………」言葉が出てこないベル。「――う、ううんっ、何でも無いわ! そうよね! ザレアの師匠のヴァーゼの師匠だもんね! もう人間の域を遥かに超えてるわよね!!」瞳をグルグル回しながらベル。
「度し難い奴らがいたもんだな」憤然と腕を組むフォアン。「理由が有るにしろ、我が子をモンスターの出る領域に置き去りにするなんて……そいつが目の前にいたら、ぶった斬ってるところだぜ」
「フォアンの気持ちは痛いほど分かるけど、それ殺人だからね!? せめてぶん殴るくらいに留めておいてくれない!?」若干恐れ気味にベル。
「許せにゃいのにゃ!! そんにゃ人には爆弾にゃんて一つも上げにゃいのにゃ!!」プンプンと両手を振り回すザレア。
「……うん? よく分かんないけど……うん? ま、まあいいや……」ツッコミを入れるべきポイントが分からなかったベル。「でも確かに許せないわね。何を考えてたのかしら」
「それは今となっては知る術は無いよ、マドモアゼル・ベルフィーユ」穏やかな声調で右手を引っ繰り返すバンギ。「取り敢えず治療をさせて貰おう。私はそのためにここに来たのだからね」
 そう言って野生児へ近づいて行くバンギ。野生児はイヤイヤと首を横に振り、ザレアの腕の中で暴れ回っている。何とかザレアの束縛から逃れようとするが、まるで飛竜種にでも捕まったかのように、ピクリとも動かない。
 やがてバンギは野生児の下に辿り着くと、目を見たり、胸元に手を押し当てたりし始めた。
「セ、セクハラ……じゃない……?」ツッコミを入れようと拳を振り上げるが、真面目にやってるようなので躊躇ってしまうベル。
「――ふむ」野生児の体から一歩離れて頷くバンギ。「やはり私が睨んだ通りの症状が出ているね……」深刻そうな声で呟く。
「えっ、何か悪い病気にでも掛かってるの……?」ドキドキしながら尋ねるベル。
「うむ……早急に手を打たねば不味い……」コクリ、と頷くバンギ。
「よし。じゃあ早速その手を教えてくれよ。俺達が何とかするぜ」グッドサインを出すフォアン。
「ぉお……心強いね、でも安心してくれ。これさえ有れば大丈夫なんだ」
 そう言ってバンギが取り出したのは、アオキノコ。
「……え? アオキノコでどうにかなる病気なの……?」意味が分からないと言った表情でベル。
「うむ……彼女は深刻な……――――栄養不足なんだ」
 間。
「……ごめん、よく聞こえなかったんだけど……何て?」
「彼女は深刻な栄養不足なんだ」
「はぁい!?」頓狂な声が飛び出るベル。「え、何、ちょっと待って……それじゃあ何? あたし達って、その娘にアオキノコを食べさせるためだけに、呼ばれたの……?」
 ベルのガタガタ震える声に、バンギは不思議そうにこちらを見つめている……気がする。
「だから言ったではないか。“凄腕ハンターにとっては簡単なお手伝い”――だと」
 バンギが不思議そうに返すと、ベルはゆっくりとした動きで四つん這いになった。
「……あの戦いに何の意味が……むしろ、あたし達が来るまでも無く、バンギさん一人で何とかなったんじゃない……」凄まじいガッカリ感に襲われるベル。
「いや、そうでもないさ」と、バンギはベルの肩をポンポン叩いた。「私は見ての通りモスだろう? マドモアゼル・ナルガクルガは自分のテリトリーに入った存在を襲う習性が有るから、すぐに見つけられると思ったのだが、モスである私を敵と認知してくれなくてね。どうやら食用として見られなかったようだよ。こちらから見つけようにも、彼女は隠密スキルを有しているような存在……だからどうしてもハンターの助力が必要だったのだよ」
「……つまり、あたし達はナルガクルガを誘き出す餌みたいな役割だった訳ね……」トホホ……と爽やかな涙が零れるベル。
「それに――今、君達に出逢えて良かったよ」
「……どういう事?」ガッカリ感に覆われた表情で顔を上げるベル。
「一つ、予言をしよう」ぴっ、と人差し指を立てるバンギ。「君達は遠くない未来、過去の英傑が辿り着いた壁に、行き当たるだろう。その大いなる壁は、君達にとって大きな試練となる。越えるにしろ、避けるにしろ、君達は重大な選択を迫られるだろう」
 それだけ告げると、バンギは手に持っていたアオキノコを口に含み、咀嚼。それから野生児に近づくと、徐にキスをした。
「――――ッッ!?」我が目を疑うベル。「なななな何してんのバンギさんッ!?」遂にセクハラを強行してしまったのかと拳を振り上げるベル。
 ベルが拳をバンギの頭に叩きつける前に、彼は顔を離し、「ふむ? どうしたのかね?」と平然とした顔で応じた。
「どうしたもこうしたも無いわよ!! 無抵抗の女児にキッ、キキッ、キス……するなんて!!」ちょっと頬が熱くなっているベル。
「ぁあ、どうか勘違いしないでくれ、マドモアゼル・ベルフィーユ。これは口移しと言って、彼女がアオキノコを食べない事は彼女のママンから聞いていたから、已む無く――ん? どうか落ち着いてくれマドモアゼル・ベルフィーユ! 何故、弓を抜いているのか説明を――――」
 その後、バンギはボロボロになり、ベルを何とか説得するまで一時間は掛かったと言う。

◇◆◇◆◇

「ギャウアウア!!」
 樹海に立てた拠点の入り口に、四人のハンターと、野生児、そしてナルガクルガの姿が有った。野生児はナルガクルガの首に跨り、バンギを見つめて顔を赤くしている。
「ギャウア!!」
 バンギに向かって頻りに吼えているのだが、勿論ベルには何を言っているのか欠片も理解できない。
「……あの娘、何て言ってるの?」野生児を指差して尋ねるベル。
「ふむ? つがいになれと言っているだけだが」
「ふぅん……んん!? こっ、告白受けてるのッ!?」思わず頓狂な声を上げ、赤くなるベル。「併もあんたそれ、歳の差考えなさいよ!! このロリコン!!」遂に我慢できずに暴言を吐き散らす。
「どうか落ち着いてくれ、マドモアゼル・ベルフィーユ。私は相手が生物であれば歳の差なんて気にしないんだ」爆弾発言を惜しみなく投下するバンギ。
「ロリコン以前の問題じゃないかそれ?」小首を傾げるフォアン。
「にゃー! 愛の力は凄いのにゃーっ!」分かってるのか分かってないのか、嬉しげに飛び跳ね始めるザレア。
「さて、そろそろお別れの時間かな? 報酬の方は、後日ラウト村へ必ず送り届けるよ。手伝ってくれて助かった、ありがとう」
 す、と綺麗なお辞儀をして礼を言うバンギに、ベルは戸惑ってしまう。
「いや……あたし達ガチで何もしてないと思うんだけど……そもそも来る意味が全く無かったと言うか……でも報酬はキッチリ頂くわ!」瞳をお金のマークにして涎ダラダラのベル。
「バンギはこれからどうするんだ?」疑問に感じた事をそのまま舌に乗せるフォアン。
「私は彼女が確りと栄養を摂取するのを見届けねばなるまい。それからの事は……その時になったら考えるよ」
〈モスフェイク〉を野生児に向けると、彼女は「ギャウアア!」と嬉しげに吼えた……ように見えた。
「……バンギさんに限って変な事が起きるとは思えないけど……」失礼にもジト目でバンギを見据えるベル。「――それじゃ、そろそろ行くわね」
「うむ、また逢える事を祈っているよ。――それでは」
 そう言うとバンギは四つん這いになり、テコテコと樹海の奥へ消えていく。その後ろをナルガクルガがゆっくりと歩き、野生児が「ギャーウアー!」と手を振って見送ってくれた。
「……もう何か既に良い家族の感じになってるわね……」呆れた表情でベル。
「そうだな。俺達もああなると良いな」うんうんと頷くフォアン。
「へ?」上手く聞き取れずに振り返るベル。「何て?」
「――さっ、俺達も帰ろうぜ。ティアリィの焼いたこんがり肉が恋しくなってきた」そう言って拠点の片づけを始めるフォアン。
「ちょっ、何て言ったのよっ? ねぇー、フォアンってばー!」その後を追って駆け出すベル。
「にゃ~、オイラもそうにゃると良いにゃっ!」
 うんうん、と頷くザレアなのだった。

◇◆◇◆◇

「過去の英傑が辿り着いた壁……か」
 ハゥエット樹海へ来る時同様、三人は竜車に乗ってラウト村へと帰途に着いていた。御者台では、ラウト村の農場を管理しているアイルーのクロが、アプトノスの手綱を握っている。
 ポツリと零れたフォアンの呟きに、ベルは横になっていた体を起こし、彼に向き直る。
「何か心当たりでも有るの?」
「……無い、訳でも無い」難しい顔で呟きを落とすフォアン。「もしかするとその壁って言うのは――」
 フォアンが先を言いかけた、その時だった。ザレアが「あっ、誰か来たみたいだにゃ!」と、御者台の先――ラウト村へと続く道をこちらへ向かって来るケルビに跨った青年を指差した。ブラウンとブルーが主の甲冑を身に纏った騎士に、ベルは見覚えが有った。
「あれって……パルトー王国の……」
「済まぬ! そこのアイルーよ、竜車を止めてはくれまいか!?」
 声を掛けられたクロは「ニャニャっ? ど、どうしたニャっ?」と慌てて手綱を引き、アプトノスを止める。
 ケルビに跨った騎士は竜車へと近づき、息切れを起こしながらも何とか声を張り上げた。
「ハンターであるベル殿がそこにおられぬか!?」
「はぇ? あ、あたしだけど……」恐る恐る竜車から出て、自分を指差すベル。
 パルトー王国の若き騎士は「ぉお!! 貴殿がベル殿かッ!!」と驚いたと同時に安心したように嘆息を落とした。「おっ、おちっ、落ち着いててて、はなっ、話を聞いてべ、聞いていただだ、頂きたい!」
「あんたが落ち着いて!?」確りとツッコミを忘れないベル。「はい、水!」水筒を若き騎士に手渡す。
「す、済まぬ! ゴクゴク……」一息に水筒を飲み干す若き騎士。「ゴク……ふぅ、では改めて話を聞いて頂きたい! パルトー王国に古龍が向かっていると言う情報が、古龍観測所から齎されたのだ! 貴殿には今すぐパルトー王国に向かって頂きたい! 貴殿らの助力を乞いたいのだ!!」
 その瞬間、三人の纏う空気が一変した。
 古龍。存在するだけで天変地異を起こすと呼ばれる、超常的生物。生態が殆ど解明されていない、噂だけが一人歩きしている、生物の頂点に君臨する存在。
「古龍……!? それを、あたし達に相手しろって……ッ!?」
 凄腕のハンターでさえ何十人といても撃退するのが手一杯と言う膂力を誇る存在だ。自分達が相手をするなど尋常な話ではない。そもそも、そういう存在を何とかしてくれるハンターを雇うために、今まで銭を稼いできたのだ。今こそ、その貯金を使う時が来た。――そう、ベルは刹那に思ったのだ。――が、
「と、とにかく事態は逼迫しております! 近隣の聚落、街、そしてハンターズギルドに応援を要請しているのですが、まだ充分な人員が確保できない状況でありまして……ッ、何卒、お力をお貸しくだされ!!」
 若き騎士の表情は必死。焦燥が露骨に浮かび上がり、最早この場で問答する時間も惜しいと言いたげな雰囲気だ。だが――ベルは自己の実力を確りと把捉している。自分が手を貸したとしても、何の助力にもなるまい……
 併し、パルトー王国と言えば、自分の弟――エルフィーユことエルトランがいる。彼の事だ、民を守る事を優先し、自ら戦地へ赴くのではないかと思える。エルでさえ、古龍に立ち向かうには実力が不足しているのではと思えるのに、自分などが向かっても……
「――その古龍の名前は、……分かるか?」
 苦渋の決断を迫られて狼狽えるベルの隣から出てきたのはフォアンだ。いつもの剽げた態度は鳴りを潜め、強張った表情からは緊張と、……僅かな怯え、そして――高揚の色が見て取れた。
 若き騎士はフォアンの放つプレッシャーに気圧されたのか、一瞬間を置いて生唾を飲み込み、口を、開いた。

「……テオ・テスカトルと言うそうです……」

 ――その時だ。フォアンの瞳に、濁った炎が点ったのは…………


第七章〈絶影・そして王の再来〉―――【完】

【後書】
 と言う訳で不穏を残して、最終章へ突入です…!
 元々このエピソードは最終章へ向かっての前座、と言いますか、最後の前振りとして綴り始めたものでして、そのため内容はめちゃんこ遊んでる形になりますw いやー、幼女とおっさんと言う組み合わせはね、性癖なんだ…(正直)
 さてさて、そんな訳で。あっと言う間だったような、しゅんごく時間が掛かったような。いよいよ最終章が次回から幕開けです。ぜひぜひ最後までお楽しみ頂けたら幸いです! それでは次回もお楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    とりあえず無事解決ってことですかねぇw
    とんでもないハンターたちの系譜をまざまざと見せつけられたエピソードでした。「うーん、デリシャス!」

    そしていよいよ最終章。
    なにやら因縁がありそうなフォアン君と、避けられそうもない炎王龍との戦い…
    彼らの活躍に期待!!

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      ですねw ひとまず無事解決、と言う感じですw
      師匠がアレならその師匠も…そしてそんな師匠だからこその弟子で、その弟子もそりゃもう…みたいな、ね…(笑)
      もうそれ定型句の勢いにまでなってきてますよ!ww

      いよいよやって参りました最終章!
      ぜひぜひ最後までお見逃しなくっっ!!

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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