■あらすじ
守銭奴のベル、天然のフォアン、爆弾使いのザレアの三人が送る、テンヤワンヤの狩猟生活。コメディタッチなモンハン二次小説です。再々掲版です。
▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【風雅の戯賊領】、【Pixiv】の四ヶ所で多重投稿されております。
■キーワード
モンハン モンスターハンター コメディ ギャグ 二次小説 二次創作 P2G
【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/135726/
【Pixiv】https://www.pixiv.net/novel/series/339079
■第109話
109.砂漠の果てより放つモノ
ガタゴトと震動する竜車の中で、レックスシリーズに身を包んだフォアンは、はたと意識を取り戻した。周囲に視線を配り、ここが竜車の中……エルが姫として統治する国、パルトー王国へと向かっている道すがらだと思い出した。
竜車の幌の中では、ザレアが〈アイルーフェイク〉を被ったまま安眠している。寝顔こそ見る事は叶わないが、安らかな寝顔をしている事を気配で察する事が出来る。布団を撥ね退かして寝こける様は隙だらけのように映るが、その実〈アイルーフェイク〉に手を出そうものならどんな災難に見舞われるか判らないと、フォアンは承知済みだ。
ベルはどこにいるのかと幌の外に視線を投げると、御者台にてアプトノスの手綱を繰っていた。今にも降り出しそうな空の下、ベルの様子はどこか上の空に映った。
「……怖いのか?」
傍に寄って声を掛けると、彼女はピクリと肩を震わせた後、振り返る事無く小さく吐息を零した。
「……そりゃ、ね。今まで相手にしてきたモンスターとは違うもの。……天災クラスのモンスターなんて、あたし達の手に余り過ぎるわよ……」
狩人を統轄する組織“ハンターズギルド”が危険視し、更に“古龍観測所”ですら生態の殆どを知り得ず、“天災”と称する存在――古龍種。彼らが現出するだけで世界の均衡が危ぶまれ、その場に居合わせた人間の命運は尽きたも同然と言われるだけの膂力を秘める、生物のヒエラルキーに於いて頂点に君臨する“王”。
今まで相手にしてきた鳥竜種や甲殻種、牙獣種、そして飛竜種とは一線を画すだけあって、彼らだけがパルトー王国へ招集された訳ではない。各地に点在する狩人に達しが回っているのは明白だ。その一つが奇しくもここに辿り着いたに過ぎない。
「――そうだな。俺達じゃ敵わないかも知れない」
いつも以上に弱気になっていたベルだったが、続いたフォアンの発言に目を丸くしてしまう。
「……フォアンらしくないわね? あんたがそんな事言うなんて、思わなかったわ」
いつも豪胆無比に前向きな発言を残してきた彼だから、今の台詞には違和感を覚えずにいられなかった。それだけ相手が強大な存在なのだとしても、こんなのは彼らしくないと、ベルは思わず正したくなった。
そんなベルの怪訝な面持ちに気づいたのだろう、フォアンは澄まし顔に苦味を混ぜ、気まずげに黒髪を撫でた。
「……テオ・テスカトルは、俺の……“壁”、なんだ」
呟きを落とした瞬間、無意識に顔が強張っていくのにフォアンは気づかなかった。強く握り締めた拳が震え、自然と声が硬くなっていく。
「……奴だけは、俺が屠らないといけない。全身全霊を持って、俺は奴を……」
「――お父さんの敵討ち、……ね?」
言葉が口からまろび出た瞬間、フォアンの瞳に濁った炎が点る。炯々と輝くそれは、決して良き感情の光ではなかった。だがその光はベルを見つめている内に、温和な色へと移ろっていく。
俯くと、意を決して顔を上げ、どこかぎこちない表情でフォアンは口を開いた。
「……親父の敵討ちってのは、確かに有る。だけど、それよりも奴は……俺達の全てを狂わせた。親父を、お袋を、そして……俺を。だから俺は、……清算したいんだ。終わらせたいんだ。奴を倒して……ッ」
慟哭に等しい、フォアンの本音。切なる叫びにも似たそれを、ベルは痛みを共感するかのように苦しげな表情で見守っていた。その体が自然に動き、右手に手綱を携えたまま、左手をフォアンの首に回し、そっと抱き寄せる。無抵抗のフォアンは、微かに震える体をベルに押し当てた。
「……こんな時に何て言えば良いのか分からないけど……あたしはフォアンの傍にいるわ。ザレアだってそう。だから……お願い、無理しないで。傍にいるあたし達の事を忘れないで」
静かに、保母が幼子に言い聞かせるようにゆっくりと囀るベル。吐息が掛かる至近距離で彼女の落ち着いた声を聞くと、それだけでフォアンの体は緊張から解かれていくようだった。
普段より若干速足に街道を駆けるアプトノスの手綱を握り締めたまま、ベルはそっとフォアンから顔を離す。間近に有る彼の顔は、いつもの剽げて頼もしい色へと戻っていた。それを確認したベルの顔にも、いつもの意気が戻ってきた。
「あたしだって怖いんだから。あんただけが抱える問題じゃないんだし、もっとほら、あたし達を頼りなさいよ! ザレアほど頼れる狩人もそういないと思うわよ?」
「――全くだな」それには確然と頷かざるを得ないフォアン。「悪い、突然の事態に混乱してたみたいだ」
「にゃにゃっ? オイラに掛かればテオ・テスカトルにゃんて爆弾飯前にゃ!」突然幌の中から飛んでくるザレア。
「爆弾食べるのあんた!?」思わず頓狂な声を張り上げるベル。
いつもの様相に戻る一同に、ベルもフォアンも安堵した。相手がどんなモンスターであろうと、いつもと変わらぬ姿勢で挑む。そうすれば、きっといつもの結果が追い駆けて来てくれる。そう信じて、二人は場を和ましてくれたザレアと共に竜車の目指す先――パルトー王国へと続く街道を見つめた。
今にも泣き出しそうな暗雲が垂れ込める空が彼らの深層意識を映し出す鏡のようで、居心地の良い景観ではなかった。
◇◆◇◆◇
砂漠地帯へと入り、熱砂に相応しい快晴で出迎えられたベル一行は、パルトー王国を遠景に望む小高い砂丘の上で周囲に視線を配った。
「……静か過ぎるわね」
ダイミョウザザミの狩猟を目的として来た以前と違い、パルトー王国の周囲一帯に広がる茫漠たる砂漠には生命の活動が見受けられなかった。以前ならば、邪魔にこそならなかったが、小型のモンスターが砂漠でも多く活動していたのに、今に限って言えばその影すら見つける事は叶わない。死した世界――そう形容しても遜色無い程に、生命力の稀薄な景色が延々と広がっている。
乾いた砂風が通り過ぎ、風紋を新たに刻みつけていく。竜車の轍の後も綺麗に拭い去られ、辺りには凪いだ湖のように静かな砂面が広がっている。
――その空気が、遥か彼方から届けられる明確な“敵意”によって、ピリピリと緊張している事を、狩人としての本能で悟るベル。
砂漠の果てへと視線を投げても、何の姿も見て取る事は出来ない。それでも、彼女の中に眠る危機感が察知している。“向かってはならない”――、と。
「――何か見えるか?」
怖い表情をしていたベルの背中に、剽げた声が浴びせられた。彼女は振り返らず、小さく頭を振る。
「……ううん、何も見えないわ」小さく呟いて、竜車の御者台へと足を向けるベル。「さ、行きましょ。エルも待ってると思うし」
「にゃ~、エルさんに逢うの久し振りだにゃ~♪ 元気かにゃ~♪」
危機感が欠片も感じられない声質でぴょんぴょん小躍りするザレアに緊張感を殺がれながらも、ベルは微苦笑を滲ませる。
「元気だとは思うけど、それどころじゃないと思うわよ、ザレア……」
「にゃにゃっ? そういう時は爆弾が一番にゃ! 爆弾をパルトー王国全域に設置すれば、みんにゃ元気でハッピーににゃれるにゃっ!」グッとグッドサインを出すザレア。
「パルトー王国が古龍によって滅びる前に滅ぼしたいのあんた!? ただでさえ古龍が来るって怯えてるのに、爆弾なんか設置したら軽く恐慌状態じゃないそれ!?」絶叫を張り上げるベル。
「――待て、よく考えるんだベル。古龍が来ると言う恐怖心を爆弾が爆発する恐怖心に切り替えたら……イケるんじゃないかっ?」名案だ! と手を打つフォアン。
「何がイケるのか詳しく説明してくれない!? 天国に逝けるだけでしょそれ!?」お前は何を考えてるんだ! とツッコミを忘れないベル。
「爆弾天国に行けるだにゃんて……こうしちゃいられにゃいにゃっ! 早速爆弾を準備……」「しちゃダメェェェェッッ!!」
ベルの絶叫はパルトー王国にまで届いたとか届かなかったとか。
【後書】
だいぶシリアス寄りの展開なのですが、ザレアちゃんが良い感じに緩衝材になりました…!w 正直ザレアちゃんの存在感が大き過ぎてヤバいです(笑)。
古龍と言う最大規模の災害相手ですからね、そりゃ緊迫もします。けれど、緊張感で一杯になったら呑まれてしまうと思う訳で。そういう面で、ザレアちゃんの功績はめちゃんこ大きいと言っても過言ではないんですね…!
着々と最終決戦に向けて話が進んで参ります。次回はパルトー王国にて、エルちゃんと合流…かな? お楽しみに~♪
更新お疲れ様ですvv
返信削除いつもとはかなり違う雰囲気のベルちゃんとフォアン君ですが、そんななかでもいつもと変わらないザレアちゃんは大物ですなw
劣勢なときでも一発で雰囲気を変えられるザレアちゃんはほんとすごいっす(語彙力w
それもこれもこれまで培われてきた狩猟技術があってこそなのでしょうけどねw
テオさんはわたしもトラウマ。大嫌いでしたw
なにせ初めて連れて行かれた剛種がテオさんだったもので…チョーコエェー
久しぶりに登場のエルちゃん、姫様っぷりに期待w
今回も楽しませて頂きましたー
次回も楽しみにしてますよーvv
感想有り難う御座います~!
削除そうなんですwwザレアちゃん大物の風格ですよね…!w
ほんそれwwムードメーカーって言うんですかね、どんな時でも仲間を和ませてくれる、素晴らしい娘ですよこの子は…!w
ですですw 根底に有るのはきっとそれなんでしょうな…!w
まさかの初めてが剛種ww それはトラウマになっても仕方ない奴ですぞい!ww
わたくしは流石にそんな事は無かったのですけれど、初めて挑んだ時は本当に無理ゲーって思わずにいられませんでしたよね…! カーブしてくる突進がまるで避けられない…!w
ぜひぜひ期待してお待ち頂けたらと思います!w>姫様っぷりなエルちゃんw
今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
次回もぜひぜひお楽しみに~♪