2019年6月18日火曜日

【ベルの狩猟日記】110.脱獄して来た彼【モンハン二次小説】

■あらすじ
守銭奴のベル、天然のフォアン、爆弾使いのザレアの三人が送る、テンヤワンヤの狩猟生活。コメディタッチなモンハン二次小説です。再々掲版です。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【風雅の戯賊領】、【Pixiv】の四ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター コメディ ギャグ 二次小説 二次創作 P2G


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/135726/
【Pixiv】https://www.pixiv.net/novel/series/339079
■第110話

110.脱獄して来た彼


「――ようこそパルトー王国へ。……と歓迎する余裕が無い事は察して頂こう。早速本題に入りたいのだが、良いか?」
 パルトー王国に入国し、宮殿へと足を踏み入れたベル達を待ち受けたのは、切迫した表情で厳かに頭を垂れた騎士長・ゲルトスだった。以前見た、茶色と青色の甲冑ではなく、鎧竜・グラビモスの稀少な素材をふんだんにあしらった“狩人”の防具を纏っている。未だにベルにはその防具一式の名称は判じかねたが、今はその事を話題に取り上げている場合ではない。ベルは小さく顎を引き、話を促す。ゲルトスはその反応を見て重々しく口を開いた。
「古龍観測所の予測では明朝にはパルトー王国近隣の砂漠地帯に姿を現すらしい。貴殿らの到着は間に合うか否か正直危うかったが……現状、最悪の事態だけは忌避できた」
 ――明朝。宮殿の外へ視線を向けると、既に外は黄昏色に染まっている。時間的余裕は最早無いに等しかったのだろう。ゲルトスがどんな想いで自分達を待ち侘びていたか、その気持ちが痛い程に伝わってくる。
 ただ、ゲルトスのそんな態度と対する国情に疑念を感じた。
「……ねぇ、もしかして国民には伝えてないの? 古龍が来るって……」
 パルトー王国に来て疑念に感じたのが、国民達が誰も不安そうな顔をせずに日常を謳歌している事だ。目前に古龍と言う名の脅威が迫りつつあると言うのに、皆がにこやかにいつも通りの日常を送っていた。尋常な精神を持つ者ならば有り得ない光景だろう。ベルにはそれが、古龍観測所からの情報を開示していないのではないかと思わせたのだ。
 ゲルトスは神妙な面持ちで小さく吐息を漏らすと、苦々しい笑顔を見せた。
「……我が国には老いた者が多くてな。既に国外へ脱した者もいるのだが、逃げ出せない者もいる。何より、この国と共に朽ち果てたいと申す馬鹿者が多くてな……王族の言い分もまるで聞かない問題児ばかりで、吾輩も頭を悩ませておるのだ」
 困った風に、――けれど誇らしげに応じたゲルトスに、ベルはすぐには言葉を返せなかった。
 古龍に襲撃されると、どんなに栄えた大きな街や国でも、どんなに高名な狩人や守護兵が応戦しても、滅びた方が圧倒的に多い。それだけ人類には及ばない超常的な存在だからこそ、古龍観測所の所員も国を棄てて逃げろと勧告するのだ。にも拘らずこの国の民は、自分の命は国と共に有ると返した。それはどれだけ勇気のいる事だろうと、ベルは驚嘆の念を覚えずにいられなかった。
 ――いや、それはもしかすると、王族に対する絶大な信頼の証なのかも知れない。彼らがいる限りこの国が滅びる訳が無いと、そう頑なに妄信しているのだ。故にこそ、古龍が翌日に来る事を理解していても、安穏と日常を謳歌していられるのかも知れない。
 ゲルトスの困り果てつつも誇らしげな微苦笑を見て、ベルは小さく微笑みが湧いた。
「流石はエル……じゃなかった、ルカ姫が統治する国だけの事は有るわ。……ねぇ、まさかとは思うけど、あたし達だけで古龍を迎撃する訳じゃないん、でしょ……?」
 宮殿の一角を歩きながら尋ねるベル。向かっているのは“謁見の間”――パルトー王国の元首であるルカ姫と対談すべく、比較的小さな宮殿を足早に突き進んでいた。
 纏う装備品でカチャカチャ音を立てながらベル達を先導し、ゲルトスは苦々しげに頷く。
「……現状、召喚できた狩人はベル殿達以外におらぬ」
「ぇええ!? ほ、本気であたし達だけで古龍を迎撃できると思ってんの!?」思わず本音が飛び出してしまうベル。それからそれが失言だったと気づき、悄然と眉根を下げて、「……ごめん、でもこんな少人数で何とかなる相手じゃないと思うんだけど……」
「ベル殿の申し分は解る。過去に行われた古龍迎撃戦では渾名持ちは勿論の事、五十人近い狩人を内包しても撃退がやっとだったと言う。……だが、我々だけでなく古龍観測所からも狩人の要請は行ったのだが……」
 苦々しげに声が尻すぼみになるゲルトス。――間に合わなかったのか。そう、ベルは判じた。
 狩人が誰も到着できないと言う最悪の事態こそ免れたが、現状は殆どそれと変わらない。たった三人の狩人で撃退できる程、古龍との戦闘は生易しいモノではない。それぐらいは古龍との実戦経験が無いベルと言えど理解できた。
「……絶望的な展開な訳ね」口にして、現実を噛み締めるベル。「――任せといて、ゲルトス」小さく顎を引くと、ゲルトスの肩を叩いた。
「ベル殿……?」呆気に取られた表情でベルを見やるゲルトス。
 ベルは普段よりも精悍な表情で、ニッと八重歯を見せた。「最悪の事態は慣れっこよ。いつだってあたしは、フォアンとザレアがいればどんな逆境でも越えられた。だから……今回もきっと大丈夫。そんな気がするの」
 確証など無い。理屈なんて有る訳が無い。ただの結果論を無理矢理当て嵌めようとしているだけなのだ。ただそうであって欲しいと言うだけの願望だ。想いだけで人を救える訳が無いと、ゲルトスは知っている筈だ。
 ――にも拘らず、
「――ベル殿がそう申されるのならば、大丈夫だろう」
 応じるゲルトスの顔には、現状に似つかわしくない穏やかな微笑が浮かんでいた。
 ベルに絶大な信頼を置いている――そう思わせるだけの安心し切った声質に、ベルは自分で言っておきながら戸惑ってしまう。
「そうだぜ、俺達の隊長に任せとけば問題ないさ。それに、俺達も付いてる」
 続けて言を発したのは、澄まし顔でベルの肩を小突くフォアンだ。自信に満ち足りた顔からは、先日垣間見た焦燥の色は削げ落ちている。いつもの剽げた態度で、頼りになる光を黒瞳に湛えている。
「オイラだって今回は本気を出さざるを得にゃいにゃ! パルトー王国は何だか故郷みたいにゃ国だからにゃっ!」
 両手で拳を作ってガッツポーズを取るザレア。そんなザレアの言にツッコミをするなどと言う野暮な真似はせず、ベルは「そうね、そうよね!」と彼女の拳に自分の拳を当てる。
 四人の自信に満ちた会話はそこで一度止まり、“謁見の間”へと辿り着いた。
 玉座に腰掛けるルカ姫以外に姿が有るのは二人の騎士だけ。以前来た時はもっといたと思うのだが、どこか別の場所へ派遣されたのだろうか、とベルは思索を巡らせた。
「お待ちしておりましたわ、ベル様、フォアン様、ザレア様。急なお呼び出し、申し訳無く思っています」
 厳かな声調で語るベルの弟のエル――ではなく、ルカ姫。楚々とした雰囲気を壊さずに、切羽詰っている状況を物語るかのように、いつものような砕けた口調が食み出る事は無く、礼節を弁えた言葉遣いでベル達を労う。
「用件は騎士長のゲルトスから聞いていると思います。――パルトー王国に迫りつつある脅威、古龍テオ・テスカトルの迎撃を要請したいのです。どうか、わたくし達にお力をお貸しください」
 す――と、頭を下げる一国の姫の態度に、騎士二人は厳かな表情で倣うように頭を下げる。騎士の一人は、以前訪問した時にベルやフォアンの軽率な発言に噛みついてきた血気盛んな若者だ。恐らくベルやフォアン達の事をよく思っていないだろうに、その表情には苦味や嫌悪感は微塵も無く、ただただ危難に晒されているパルトー王国を救ってくれる事を信じて、自分達に嘆願している。
 本当に余裕が無いのだ。もしかしたら、とベルには思い至る事が有った。狩人が来られないのではなく、雇うだけの金銭が無かったのではないかと。恐らく、国と呼ぶにはあまりに小さいパルトー王国では、凄腕の狩人を召喚する程、財政に余裕が無いに違いない。
「――お任せください、姫様。必ずやテオ・テスカトルを迎撃してみせます。我らは、そのために呼ばれたのですから」
 自然と出てきた言葉に、ベルは内心で苦笑を浮かべてしまう。
 面を上げたルカ姫は、「そう言ってくれると信じていましたわ♪」と言いたげな嬉しげな顔を刷いていた。
「た、ただいまウェズ参上――――ッッ!!」
 厳かでありながら、静かな安息の空気をぶち壊すような喚声に、ベルは驚きと共に嬉々とした感情が湧く。
 振り返ると、彼女の脳裏に浮かんだ人物と同一の青年が大きな風呂敷を担いで、“謁見の間”へと飛び込んで来たところを目撃した。
「ウェズ!? あんた何でここに……っ?」「お、ウェズじゃん」「ウェズ君お久し振りにゃーっ!」
 三人の狩人の反応に、入室した行商人の青年は右手でグッドサインを作り、ポーズを決める。
「久し振りだなベル、フォアン、ザレアちゃん! 僕に掛かれば牢獄なんて何の障害にもならないのさっ!」
 間。
「……え? あんた入獄してたの……?」怪訝な面持ちのベル。
「遂に罪を犯したのか。普段からそんな傾向は無きにしも非ずだったが……残念だぜ」腕を組んで悩ましげな吐息を落とすフォアン。
「にゃ~。犯罪をするようにゃ人だって思ってにゃかったのに……ウェズ君は悪い人だったにゃ?」不思議そうに小首と共に〈アイルーフェイク〉を傾げるザレア。
「待って、聞いてくれ!! 僕は冤罪で捕まったんだ!! 僕は何もしていないんだ!! 僕はただティアリィさんの私服姿を見たかっただけなのに!!」
 景色が真っ白になるような間があった。
「変態……」吐きそうな表情でウェズから視線を逸らすベル。
「変態と言う名の変態だな」うん、と頷くフォアン。
「爆弾と言う名の爆弾にゃ!」ビシィッ、とウェズを指差すザレア。
「どうして!? 変態って単語は勿論否定しまくるけど、“爆弾と言う名の爆弾”ってどこから出てきたの!? 爆弾の“ば”の字も出てきてないよね!?」思わずツッコミを走らせるウェズ。
「ウェズ様……見損ないましたわ!! ゲルトス!! その者を即刻斬り捨てなさい!!」
「承知致した、姫様。……ウェズ殿、斬り捨て御免ッ!!」
 ルカ姫の怒声と、至って冷静でありながら怒気に表情を強張らせたゲルトスの対応に、ウェズは眼球を落っことしそうになった。
「ちょちょちょ待ってッ!? 落ち着いて僕の話を聞いて!? 話し合おう!? 君達は何か勘違いしてる!! 話せば分かるッ、話せば――」
 宮殿にウェズの断末魔の叫びが木霊したのは次の瞬間だった。

【後書】
 ザレアちゃんもこの物語では重要なコメディ要素ですが、ウェズ君もね!w 忘れちゃならないコメディ要素ですよね!(笑)
 何と言いますか、シリアス一辺倒って話も勿論綴りますけれど、ベル日はこう…コメディシーンを必ず入れなければならない、みたいな縛りと言いますか、どうしてもコメディ入れたいんですワシが!ww
 尤もアレです、最終章ですからね、笑えるところで笑っておかなければ、殆どシリアスと言いますか、過酷な狩猟…もとい、戦闘シーンの連続になると思って綴っていましたから、自然とこういうシーンをね、入れたかったんでしょうね…w
 さてさて、メンバーも揃って参りました! 最終章なんですから、そりゃもう大集合して貰わなくちゃ! 次回もお楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    パルトー王国…良い国ですね、ルカ姫流石です!
    そんな感情を土俵際にうっちゃりコメディ展開に持ち込むウェズ君!彼もまた手練の者か…w

    【後書】を読んでいるとどうも大変なことになりそうでw
    ヤバいwめっちゃ楽しみ!!

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      良い国ですよね…! ルカ姫ですからね! 安心感が違いますよ…!
      手練の者wwwいやーウェズ君ですからね、間違いないですよ!www(笑)

      最終章を謳ってますもの…! 今までとはちょっぴり重みの違う過酷さをご提供できるものと信じております…!w
      ぜひぜひ楽しみにお待ち頂けたらと思います~!┗(^ω^)┛

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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