2019年6月25日火曜日

【ベルの狩猟日記】111.熱を伴う夜【モンハン二次小説】

■あらすじ
守銭奴のベル、天然のフォアン、爆弾使いのザレアの三人が送る、テンヤワンヤの狩猟生活。コメディタッチなモンハン二次小説です。再々掲版です。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【風雅の戯賊領】、【Pixiv】の四ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター コメディ ギャグ 二次小説 二次創作 P2G


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/135726/
【Pixiv】https://www.pixiv.net/novel/series/339079
■第111話

111.熱を伴う夜


「――武器を持って来た?」
 黄昏色に塗り潰されたパルトー王国宮殿“謁見の間”。そこで何故かボロカスの傷だらけになったウェズが怯えながら風呂敷を差し出して縮こまっていた。切り傷だらけの青年は爽やかな涙を流しながら頷く。
「いてて……チクショウ……何で僕ばっかりこんな目に……」涙目で自ら傷を手当てするウェズ。「――オートリアを発ってラウト村に着いた時に、丁度パルトー王国の騎士と逢ったんだ。事情を聞いて、ベル達がラウト村に寄る時間も無いと思って、ラウト村から君達の武器を運んで来たのさ! なのにどうしてこんな仕打ちを受けなければならないのか誰か説明してくれないッ!?」裏声に近い奇声を上げて叫ぶ。
「仕方ないじゃない。あんたが変態なのがいけないのよ」至って冷静に応じるベル。
「そんな真顔で返されると僕もう立ち直れないよ……」爽やかな涙を流しながら、ここではないどこかに視線を投げるウェズ。
「これは……桜レイアの大剣じゃないか。流石ウェズ、言わなくても欲しい武器を持ってきてくれたんだな」
 ウェズの様子などまるで意に介さず、フォアンは感嘆の声を漏らした。手に持つ大剣は彼の説明どおり、桜レイア――リオレイア亜種の素材で作られた大剣、ブラッシュデイムだ。
 桜花にも似た淡い桜色の刀身を有する大剣。“重量に比例した多大な攻撃力を誇る、一撃必殺の巨大武器”と謳われる、龍属性の珍しい属性を有する大剣。
 武骨な造りではあるが、大剣として充分な働きを見せるであろうフォルムと、リオレイア亜種の堅牢な甲殻や上質な鱗を用いた刀身は、荘厳且つ重厚な威圧を放っている。
 両手で柄を確りと握り締め、ゆっくりと刀身を持ち上げる。相応の重量があろう大剣を静かに動かすフォアンの挙措には震えも惑いも無く、たったそれだけの挙動で大剣使いとしての力量が知れる。
 じっくりと刀身から柄に至るまでの表層を撫でるように眺めた後、フォアンはブラッシュデイムを背に負っていたフルミナントブレイドと交換し、背負い直した。
「助かったぜ、ウェズ。これでテオ・テスカトルに万全の体勢で挑める」
 澄ました笑顔で礼を述べるフォアンに、ウェズは「お安い御用さっ!」と自慢げに鼻の下を擦った。
「にゃにゃっ! オイラのハンマーも持って来てくれたのかにゃっ!?」
 ザレアの手に握られているのは巨大な青い爪を丸ごと刳り貫いた形状のハンマーだ。爪と言っても、人間の胴ほどの大きさと厚さを有する大きさである。――ラオシャンロンと呼ばれる古龍種の中でも“岩山龍”と呼ばれる亜種の素材があしらわれたハンマーだ。名を龍壊棍と言い、龍殺しに特化した脅威のハンマーである。
「てかそんなハンマー持ってたのあんた……?」思わずベルの口から漏れたのは感嘆を通り越した呆れの声だった。
 ラオシャンロンと言えば古龍種である。テオ・テスカトルに勝るとも劣らぬ、自然界の頂点に座する存在なのだ。そんなモンスターの素材を用いた武具を有している時点で、凄腕級の狩人として遜色は無く、謙遜抜きで称えられて然るべき狩人に違いない。
 にも拘らず眼前の爆弾娘は全く意に介した様子も無く、キョトンとした仕草で小首を傾げている。
「にゃにゃっ、このハンマー、やっぱりオイラには似合わにゃいかにゃ……?」オドオドした仕草まで始めるザレア。
「似合う似合わないの問題じゃなくて……いや、何でもないっ。ザレアなら何を持ってたって不思議じゃないものね!」そう結論付け、ベルはそこで彼女の武具の話を打ち切った。
「――あ、それとベル」フォアンの反応に一頻り満足したウェズは、ベルに視線を向けて口を開いた。「アネさんがベルのために何か作りたいとか言ってたんだけど……」
「あたしに?」思わずキョトンとしてしまうベル。「頼んだ記憶は無いんだけど……何だろ?」
「何でも、今回の古龍と戦うために使って欲しい武器だそうだけど……間に合わないよな? 僕がここに来たのでさえギリギリだったもの」そう言って肩を竦めて見せるウェズ。「まぁとにかく、僕が来たからには道具類を充実させてから古龍迎撃戦に挑んでくれよっ! 今回ばかりは僕だって何も言わないさ! 好きなだけ取って行けよっ!」
 快活な笑顔を見せて風呂敷の中身を広げるウェズ。狩場に勝手に入って採取を行うような行商人である。品揃えは大きな街の道具屋に勝るとも劣らない。鮮度に限れば街の道具屋をも凌ぐ程だ。
「にゃーっ! 流石ウェズ君にゃっ! 今日は大盤振る舞いにゃねっ!?」希望に満ち溢れた仕草をするザレア。
「やってくれるなー。よし、それなら回復薬グレートを二千個ほど貰おうかな」ゴッソリと緑色の液体の入った小瓶を集め始めるフォアン。
「二千個も有る訳無いだろ!? 常識的に考えて!!」思わず頓狂な声でツッコミを入れるウェズ。
「じゃー解氷剤を百個と、モンスターの体液を百個と、消臭玉を百個と、虫アミグレートを百個と……」ブツブツ呟きながら風呂敷を漁りまくっているベル。
「あ、あのベルさん……? それ、古龍迎撃戦で使うんだよね……? ――転売しようとか思ってないよね!?」悲鳴に近いツッコミを入れるウェズ。
「あと栄養剤を百個と……ん? もしかしたら必要になるかも知れないでしょ? 備えあれば憂いなし、ってね! ……これで幾ら稼げるかしら……じゅるり」
 瞳がお金の形になってしまっているベルを止められる者など、この場に一人として存在しなかった。
 ウェズが隅っこの方でシクシク泣いているのを慰める者もまた、一人もいなかった。

◇◆◇◆◇

 やがて宵の刻を過ぎ、夜半に至れどもベル一行以外の狩人が訪れる事は無かった。
「……眠れないのか?」
 ベル達に与えられた客室は、奇しくも以前ダイミョウザザミ狩猟の際に来訪した時と同じだった。
 あの時はミャオがいたが、今はいつもの三人だけ。あの時の事は良き思い出として、ベルの心の中に今でも大切に仕舞ってあった。彼女とは二度と逢えないが、掛け替えの無い思い出を貰った。それだけは忘れてならないのだ。
 テラスに出て、漫然と星空を眺めていたベルの隣に、頼りになる少年が立ったのを気配で感じる。ベルは視線を向ける事無く、ゆっくりと地上に視線を落としてから口を開いた。「まぁ……ね」
「――添い寝しても良いぜ?」
 剽げた態度で笑んだフォアンの顔が容易に想像できて、ベルは思わず微苦笑を浮かべてしまう。彼なりに励ましているのだろう、と理解できたし、何より――彼こそが今、励まされる立場に有ると言う事も、ベルは重々承知していた。
「――俺は、テオ・テスカトルって古龍を、今回初めて見る事になる」
 ベルが沈黙を続けた事をどう思ったのか、フォアンは柵に背中を預けた形で独白を始めた。ベルは促す事も、止める事もせずに、ぼんやりと薄い灯りに包まれた街並みを見下ろしていた。
「親父を屠った仇には違いない。俺とお袋の人生を狂わせた張本人だ。今でもその想いは変わらないし、恨み辛みも山ほど有る。面と向かった時、正気でいられるのかも、正直分からない」
 それが普通の感情だとベルは思った。テオ・テスカトルによって家族全員の人生が狂わされたのだ、怨嗟の一つぐらい有って当然だし、――寧ろそれ以上に恐怖の感情も有るのでは、とベルは思っていた。
 フォアンの父は、渾名を賜る程に熟練の腕前を持つ狩人だった。そんな人物でも屠るだけの膂力を有す自然界の頂点――古龍種。更に過去の古龍迎撃戦では何十人と言う凄腕狩人が束になって掛かり、半日以上掛けて撃退するのが限界だったと言う。それを、たった三人で迎え撃つのがどれだけ無謀な事か分からないベルではない。無論フォアンとて理解していない筈が無い。
 いつものテンションを取り戻し、いつものペースで挑もうと考えていたベルだったが、この時点に至っても、自分達以外に誰一人として狩人が駆けつけてくれなかった現実に、仄かな恐怖心が芽生えつつあった。心のどこかで思っていた、“頼りになる誰かが来てくれる”と言う幻想が砕かれ、全ての重荷が自身に負わされる現実に潰されそうになっていた。
「――でもな。俺はベルの言葉を聞いて、考えを改めたんだ」
 自然と震えていた体を抱き締めるように、そっとベルに寄り添うフォアン。一瞬ピクリと大きく震えたベルだったが、嫌がる事は無く、フォアンに体を預けるように瞼を閉じた。フォアンはそんなベルを見やると、頷いた。
「ウェズも言ってたよな? 過去に囚われるなって。――だったら俺は、今の俺に出来る事を全力で全うする。……それだけさ」
「…………うん」
 このまま逃げ出したい気持ちは、消えない。
 誰かが助けに来てくれると言う淡い幻想も、砕かれた今でも未だに燻っている。
 でも――誰かが立ち向かわなくては、この国の人間は助からないのだ。
 今は無き故郷が救われなかったのは、金が無かったから。そうずっと考えていたベルだったが、今はその思考に別の想いが混ざっていた。
“怖いから”――原初の感情が総身を制止するのだ。戦ってはならない、挑んではならない、臨んではならない、――と。
 幾らお金を積まれても、恐怖の権化に対して剣を執る行為は、健全な精神を焼き潰す。今ベルは、その想いに身を焦がしていた。
 だが、彼女の中に眠る想いは、そんな怯懦の念だけではなかった。
 ――自分のような想いをする人を、これ以上増やしてはならない。
「あとな、ベル」ベルを抱き締めたまま、ゆっくりと言を紡ぐフォアン。「この古龍迎撃戦が終わったら、お前に伝えたい言葉が有るんだ」
 真摯な声。静かだが力の有る声で、ベルは思わず覚悟を固めそうになったが、それから脱力するように肩から力を抜いた。「……フォアン? あんたそれ、死亡フラグって言うのよ?」
 暫しの間を置いて、フォアンは苦笑を浮かべた。「それもそうだな。じゃあ今伝えよう。古龍迎撃戦が終わったら、――結婚しよう」
 何の飾りも無い、告白。ベルは呆気に取られて暫し言葉を失い、それから返答に窮した。だが、不思議と赤面する程の羞恥心は芽生えなかった。
 フォアンに抱き締められたまま、彼が返答を待つだけの沈黙が続く。その沈黙も気まずいモノではなく、フォアンもベルの反応を予見していたかのように、何も付け足さない。
 フォアンに体を預けたまま、甘い沈黙を堪能するように、ベルは頭上にあるフォアンの顔を見上げた。そんなベルと視線を合わせるように、フォアンも視線をやや下に向ける。
 見つめ合い、また暫しの時間を要したそれも、幾許かの逡巡を合間に置いて終焉を迎えた。
「……それも、死亡フラグ、って言うのよ?」
 そう言って小さくキスをした。
 息の掛かる距離でフォアンは微笑を浮かべ、「それもそうだな」と自ら唇をベルのそれと重ねる。

 熱い夜はやがて溶け、灼熱の王を迎える宴が始まる――――

【後書】
 更新が一回抜けてしまい申し訳ぬいです…! 久方振りにネトゲ充しておりました…!※懲りない
 さてさて今回はロマンチック回ですよ~!(満面の笑み) だいぶ前のお話ですが、「幻想夜」って回に近しい雰囲気を醸し出しましたがね、わたくしこういう雰囲気がね~大好きなんです…(ゲンドウポーズ)
 決戦前夜ってこう…黄昏るよね…! あぁ、明日で死ぬかも知れない。斃せなかったら国が亡ぶかも知れない。そんな状況下で明るく振る舞っても、心底ではどうしても震えが止まらない…そういう時に励まし合い、高め合うのがも~~~好き…
 はい、そんな訳で! 最終章の雰囲気を醸し出しまくりつつ! 次回はいよいよご尊顔を拝謁…!? お楽しみに!

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    ネトゲ充の件了解ですw

    さてさて前夜なわけだけども、蹂躙されるウェズ君で笑いをとりつつベルフォのロマンチックな展開を見せつける…完璧やんw
    フラグ立ちまくりだけど、回収されないことを祈るよvv

    確かにあの回に似ています。客室がそうさせるのかwいい雰囲気のお話になりますね。が、実際の彼らの心情を察するにそんなことも言ってられないかもです。
    こんなときにミャオさんいてくれるといいのになぁw

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv


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    1. 感想有り難う御座います~!

      了解有り難う御座いますです!w

      蹂躙されるウェズ君wwwベルフォのロマンチックな展開を見せつける…!ww この二つが揃えば完璧…!(笑)
      ですね!w 回収されない事をお祈りください…!w

      要因は客室だった…!ww この雰囲気がね…! 好きなんです…!!
      確かに、実際の彼らにしてみれば、そんな事を言ってる場合じゃないんですけどね…!
      ほんそれww ミャオさんの心強さはこういう時に発揮される奴ですよね…!

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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