■あらすじ
守銭奴のベル、天然のフォアン、爆弾使いのザレアの三人が送る、テンヤワンヤの狩猟生活。コメディタッチなモンハン二次小説です。再々掲版です。
▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【風雅の戯賊領】、【Pixiv】の四ヶ所で多重投稿されております。
■キーワード
モンハン モンスターハンター コメディ ギャグ 二次小説 二次創作 P2G
【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/135726/
【Pixiv】https://www.pixiv.net/novel/series/339079
■第113話
113.灼熱の攻防戦〈1〉
「……ん?」
迎撃戦が始まって間も無くだった。テオ・テスカトルの単調で脅威的な突進を躱しながら、小さな小さな間隙を縫うように攻撃に転じていた最中だ。ベルは三人の狩人の動きが鈍化している事に気づいた。
それは極度の緊張による弊害ではない。寧ろその点に関して言えば三人ともこれ以上に無いコンディションで臨んでいる筈だ。ならば恐怖による行動の支障かとも思えたが、敢然と挑みかかる彼らにはそんな感情は無縁に思える。
では何か。――体力が加速度的に減衰している気がするのだ。
疲労に似た感覚を彼らは今、覚えているのではないか。テオ・テスカトルの攻撃は幸いにも、誰もマトモに受けてはいない。テオ・テスカトルの猛攻を紙一重で回避し、またはガードして受け流している。にも拘らず、三人が三人とも肩で息をして、見る間に体力を奪われている。
「フォアンッ、ほんの少しで良いから時間を稼いでッ!! ザレアとゲルトスはその間に回復!!」
何が起こっているのかベルにも杳として知れなかったが、このままでは支障を来たすと判断したベルは吼えた。適確に戦況を見極め、仲間の狩人に指示を飛ばす――戦場全体を見極められる遠距離系武器を行使する彼女に与えられた大事な役目である。
返事をするだけの気力も削られているのか、無言のまま右手を持ち上げグッドサインを返すフォアン。ザレアとゲルトスが戦線復帰したら、すぐにでも彼を一時的に戦線離脱させようと意識するベル。
「ふにゃーっ! すっごい暑かったにゃーっ!」
そう言って戦線を離脱して来たザレアは驚いた事に汗だくだった。どんなモンスターを相手にしても汗一つ欠かないザレアが、である。それどころか軽い火傷の痕すら見て取れる。ブレスが掠った訳でもないのに、一体どうしたと言うのか。
「……あ奴め、どうやら砂漠の気温より熱い熱を発しておるようだ。近づくだけで体力をゴッソリと持って行かれるわ……」ヘルムの隙間から回復薬をがぶ飲みしながら呟くゲルトス。
「熱……? ――まさかあの陽炎って……!!」
遠距離から彼を観察していたベルには微かに見えていたモノがある。テオ・テスカトルの周囲に浮かび上がる陽炎だ。ぼんやりとしか映っていなかったそれが、恐らく熱の塊なのだろう。――いや、炎になりきる前の高温の熱を全身に纏っているのか。
灼熱の甲冑を纏う、豪炎の王。飛竜種とは一線を画す常軌を逸した現象に、ベルは再び原初の恐怖が湧き上がりかける。
「――とにかく、小まめに休憩を挟みながら続行よ! どれだけ体力に余裕が有っても、あたしが退いてって言ったら退く。――良いわね!?」
テオ・テスカトルの動向を気にしながら仲間の体調も気に掛ける。ガンナーだからこそ可能な芸当である。常に遠方から狩場全域を見晴るかし、適確なアクションを続ける。剣士のような防御力の高い防具を身に纏っていないガンナーはどうしても耐久性の面で剣士に劣る故に、モンスターの攻撃は一度として受けてはならない。それ故に立ち回りは剣士よりも遥かに高度なモノが要求される。
ただ今回は剣士であっても眼前の王たる龍の一撃をマトモに受ければ命に係わるだろう。屈強な頑健さを誇るゲルトスの装備ですら、今では放射性のブレスによって黒ずみ、体力をゴッソリと刮げ取られている。幾らティガレックスの装備を纏うフォアンでも危険過ぎる。況してやザレアなど論外だ。
「――承知致した。ベル殿に全てを委ねよう。――いざ参らん!!」
回復薬を一瓶飲み干したゲルトスが再び猛然とテオ・テスカトルへ突進していく。彼はザレア並みに頼れる狩人だ。これが二度目の共闘だが、問題無い立ち回りをしてくれると、心底から信頼できる。何より、エルが恋した相手なのだから、ベルの今までの経験則から言って、この程度の逆境で屈する訳が無い。
「にゃにゃっ、フォアン君交代にゃっ! オイラの爆撃演舞を見せる時が来たのにゃっ!」
そう言ってやっぱりハンマーを飾りにするように、両手にタル状の爆弾を一杯に持って駆け出すザレア。彼女以上に頼りになる狩人を知らないベルにとって、これ以上無い安心感を与えてくれる。あの奇天烈な格好も見慣れてきた今、彼女に全幅の信頼を寄せる事が出来た。
たった一人でテオ・テスカトルの猛攻を凌いでいたフォアンもまた、この場に於いて信頼に足る仲間の一人だった。こう言ったらフォアンは渋い顔をするかも知れないから口にこそしないが、英雄の息子として相応の実力を兼ね備えていると思わせられる。英雄の資格を、彼だって充分に持ち得ているのだ。
◇◆◇◆◇
突進、ブレス、そして前脚による引っ掻き攻撃に加え、飛び掛かり攻撃と、飛竜種と然して変わりの無い攻撃の連続。それ故、皆も当初の驚きと脅威が薄れつつあり、テオ・テスカトルの動きに僅かずつではあるが順応していくのが見て取れた。何れも致死の威力を誇る攻撃ではあるが、慌てず焦らず応対すれば確りと躱す事も受け流す事も出来る。その事実が、彼らの中に勝機を芽生えさせる。
「ゴァアアアアアアアアア!!」
咆哮――一瞬だけ動きを封じられるが、こちらが動きを再開する頃に相手もアクションを開始する。ならば確りと回避する方向を見極め、確実に体を動かせば躱せない攻撃ではない。
「どぅるりゃーっ!!」
テオ・テスカトルの巨躯が脇をすり抜けた瞬間、既にフォアンはブラッシュデイムを振り被っていた。些かタイミングが速過ぎるようにも思えたアクションだったが、前脚を浮かして振り返った古龍の顔面にジャストのタイミングで叩き下ろされる。バギンッ、と顔面の鱗を弾き飛ばし、初めてテオ・テスカトルの顔に一筋の裂傷が走った。
「グァゥ!?」思わず首を竦めて怯むテオ・テスカトル。
一時間以上相対し続けて、やっと初めて攻撃が効いたと実感できた瞬間である。矢を番えながらベルは思わずガッツポーズを取りたくなった。
フォアンもそれを実感している筈だが、余韻を感じる間も無く咄嗟にテオ・テスカトルの視界から逃れるように前転を繰り出す。王たる龍の眼前は一番危険な領域であり、無防備に立ち開かろうモノなら、その巨大なる体躯に轢き潰されてしまう。テオ・テスカトルの右翼側へ流れるように回避し、放出されている熱に思わず顔を顰める。彼に肉薄すると途端に体力が減衰して行くのが実感として分かる。瞬く間に奪われる体力を回復するために、砂を蹴りつつ納刀しようとして――違和感を覚えた。
ブワッ、とテオ・テスカトルを中心に熱風が舞い上がったのだ。レックスシリーズの上からでも感じ取れる風に、一瞬テオ・テスカトルが飛び上がったのかと錯覚する。――が、振り返った先にいる暴虐の王は泰然と佇んだまま、身動ぎ一つ取っていなかった。何かを溜め込んでいるようにも映るモーションに、フォアンは訝りながらも距離を取ろうとして――
ガチンッ! と硬質な音が弾けた瞬間、世界が紅蓮に包まれた。
◇◆◇◆◇
「――――えッ!?」
その光景を視認したベルは、理解が致命的に遅れた。
前触れも無く、そして火元が無かったにも拘らず、まるで大タル爆弾が起爆したかのような爆発が、テオ・テスカトルを包み込むように炸裂したのだ。
あまりの出来事に、思わずハートショットボウⅠを取り落としそうになった。
まさか――と最悪の事態を想定する。ザレアが埋め立てた爆弾が、何らかの拍子に起爆したのか――と。今までそんな事態に陥らなかったのはあくまで偶然の産物であり、今回はそれが最悪の形を伴って具現したのだ――と、ベルは顔面が蒼白になっていく。
「フォアン君ッ!? ゲルトス君ッ!?」
悲痛な女声が轟く。悲鳴を上げたのはベルではなく――この狂気を現出させたであろうザレアだった。
思わずへたり込もうとしていたベルは、今一度気合を入れ直すように太腿を力一杯殴りつけると、毅然と駆け出す。
黒煙が落ち着くと、中から二人の狩人が姿を現した。一人は頑健なるグラビモスの重厚な甲殻を用いた装備を纏っている男である、大きな盾を有するランスもあってか、その動きは若干鈍くなりつつも無事な様子だった。
もう一人の少年は、全身から黒煙を上げながらも辛うじて二本の脚で黄砂の大地を掴み、瀕死でありながらも――生きていた。
「我輩は無事だッ!! 急ぎフォアン殿を連れ撤退せよ!! ここは我輩一人で食い止めるッ、急げ!!」
響き渡る怒声は掠れていた。もしかしたら今の爆撃で喉をやられたのかも知れない。ベルは返答をする余裕も無く、瀕死でありながらも未だ倒れる事の無い仲間へと駆け寄る。
「フォアンッ、一旦退くわよ!!」
「…………」
返答が無い。肉の焼け焦げた異様な臭気を発しながらも、フォアンはゆっくりと振り返った。
焼け爛れるまでには至らないが、顔は火傷で全体的に赤くなっていた。シュウシュウと煙を漂わせながら、フォアンはそれでも、口を開く。
「…………わ、るい……ちょ……と…………ね、る……」
そこで意識が寸断されたのか、糸の切れた人形のようにバッタリと倒れ込むフォアン。それを慌てて支えたベルは、すぐ近くまで駆け寄って来ていたザレアを見て、小さく頷く。
「――ザレア。ゲルトスをお願い。あたしはフォアンを連れてくわ」
「分かったのにゃ! ――あと、ベルさん」
真剣な声で応じたザレアは、それからこう付け加えた。
「さっきの爆発、オイラの爆弾じゃにゃかったにゃ……それだけは、信じて欲しいのにゃ!」
――顔に出ていたのだろうか。ベルは思わず自分の顔を隠したくなったが、すぐにザレアを真正面から見据え直す。彼女がこんな時に嘘を言う娘ではない事は、重々承知している。ならば、今の爆発は――――
「……うん、あたしはザレアを信じるわ。――お願いザレア、あたしが戻って来るまで頼んだわよ……!!」
ぽん、と小さく〈アイルーフェイク〉を撫でると、ベルはフォアンを背負って駆け出した。
背に負ったフォアンが、重く圧し掛かる。
【後書】
初見テオの時の地獄を一つ一つ思い出していく簡単なお仕事です(なお絶望する模様)。
と言う訳で早速トラブルが! てか初見でアレを回避できる猛者はいないと信じてますわたくし。何が起こったのか分からずに吹き飛ぶハンター達…なにこれ無理ゲーじゃん…となった当時を振り返りながらニヤニヤするのが最高な楽しみ方です(愉悦~!)。
いやー…本当に何と言いますか、誰かが犠牲にならないとその恐ろしさを実感できないと思う訳で、フォアン君はね、大体どの話でも大変な目に遭わせてほんとごめんやで…w 君ぐらいしか被弾しても大丈夫そうなのいないんや…w ウェズ君がいたらウェズ君が適役なんだけどね~!(笑)
さてさて、そんなこったで早速一乙スタートですが、まだまだ始まったばかりです。どんどん過熱して参りますよう!
更新お疲れ様ですvv
返信削除アレはヤバいですよねぇw
事前動作の時にテオさんの体からでる粉塵の色でなんたら…
それがわかるまで何回BC送りになったかw
「ガチンッ!」 本当にイヤな音でした。
確かに被弾しても大丈夫そうなのはフォアン君しかいませんねw
ウェズ君もいいんだけど、どうも「あ~~~れ~~~」とかいいながら空を飛んでいくギャグ漫画的な絵面しか想像できませんw
緊迫した場面が続いてて手汗すげぇwみんなガン( ゚д゚)ガレ
今回も楽しませて頂きましたー
次回も楽しみにしてますよーvv
感想有り難う御座います~!
削除ヤバいですよね!w
そうそう! 粉塵の色の濃さと言いますか明るさと言いますか、アレで判別できるまで何回爆破されたか…!w
その死の宣告レヴェルの「ガチンッ!」がね、も~恐怖でした…w
ですよね!?w フォアン君ぐらいしかマトモに被弾できる子がいないって言う!ww
ウェズ君wwwその飛び方は最高ですね!wwぜひそのまま全身打撲ないし複雑骨折して「トホホ…」ってしてくれると楽しいです!(笑)
この緊迫した場面、まだまだ続きますので、ガンガン手汗がしゅごくなって参りますよう…!w 引き続き応援宜しくお願い申し上げます~!┗(^ω^)┛
今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
次回もぜひぜひお楽しみに~♪