2019年7月7日日曜日

【ベルの狩猟日記】114.業火にニトロ【モンハン二次小説】

■あらすじ
守銭奴のベル、天然のフォアン、爆弾使いのザレアの三人が送る、テンヤワンヤの狩猟生活。コメディタッチなモンハン二次小説です。再々掲版です。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【風雅の戯賊領】、【Pixiv】の四ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター コメディ ギャグ 二次小説 二次創作 P2G


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/135726/
【Pixiv】https://www.pixiv.net/novel/series/339079
■第114話

114.業火にニトロ


「何コレ……ッ!?」
 ベースキャンプでの応急処置ではなく、確りとした治療が必要だろうと、パルトー王国に全力疾走で引き返して来たベルが目撃したのは、門前で無数の小型モンスターと騎士団が凌ぎ合いをしている場面だった。災厄を告げるモンスターとして忌み嫌われている小型の飛竜種である“蛇竜”ガブラスが、数にして百や二百では利かない姿を現し、門前は地獄の様相を呈していた。
 フォアンを背負って駆けて来たベルは、そのまま休む事無く騎士団の元に駆けて行く。そこには見覚えの有る、そしてもう二度とその格好は見る事は無いと思っていた姿があった。
「――お姉様!? フォ、フォアン様!? い、一体どうされたのですかっ!?」
 レイアSシリーズと呼ばれる、リオレイアの上質な鱗や堅牢な甲殻をふんだんにあしらった、まるでドレスのような防具――無論女性用のそれを纏っているのは、現パルトー王国国主、ルカ姫ことエルだった。手には愛用の片手剣であるプリンセスレイピアを握り、果敢にガブラスと抗戦を繰り広げていたが、只ならぬ様子のベルとフォアンを見て駆け寄らずにはいられなかったのだろう。その顔にはベル以上の焦燥と怯えが入り混じっていた。
「テオ・テスカトルの爆撃を受けたのッ、急いで治療を施したいのッ!!」
 最早相手が姫だろうが国家元首だろうが構っていられなかった。ベルはいつもの語調を更に荒らげ、エルに詰め寄る。エルもそんなベルに感化されたように焦燥を押し殺し、一度大きく唾を嚥下すると、毅然と姉を見上げた。
「――こちらですわ。付いて来てくださいませ!」
 そう言って駆け出したルカ姫は、間近でガブラスと応戦している騎士達へ大声を張り上げた。
「一時わたくしは戦線を離れますが、決してお気を緩めずに! 貴方方が最後の砦なのです、一瞬たりとも油断なさらぬようにお願いします!!」
 喉が張り裂けんばかりに怒声を飛ばすエル。その声は勿論女声のそれで、よくまぁ地声と言うか、男声にならないものだと、変なところで感心してしまうベル。
 先導するエルに付き従って、フォアンを担いだベルは、パルトー王国内部へと辿り着いた。王国内は今朝見た時と完全に様相を変えていた。戦えるような体ではない筈の老爺や老婆が木製の槍を担いで走り回り、騎士団の防衛線を潜り抜けて侵入して来たガブラスと戦っているのだ。小型の飛竜種とは言え、狩人でも手を焼くようなモンスターを相手に、あまりに無謀な行為だ。
 だが、誰一人として泣き言を言わず、懸命に戦っている。これが――護国精神なのかと、ベルは畏怖にも似た感情を懐かざるを得なかった。己が命は国と共に有る――ならば国が滅び行く様をただ指を銜えて眺めている事など出来る訳が無かったのだ。
 そんな国民の姿を見てエルは「あと少しですわっ! もう少し耐えれば狩人様が何とかしてくださいますわっ!」と懸命に声を投げ続ける。
 ――誰も、絶望などしていない。皆がこの国のために尽力し、明日へ繋がる希望を手にしている。
 そのためには自分達がテオ・テスカトルを撃退せねばならない。その想いが強く、そして熱く、ベルの心を燃え上がらせた。

◇◆◇◆◇

 一方、砂漠で防衛戦を繰り広げる二人の凄腕狩人は徐々に押されつつあった。
「にゃーっ、にゃーっ! 流石は古龍だにゃっ! もう五時間はぶっ続けで戦ってるにゃに、全然堪えてにゃいにゃーっ!」
「くっ……我輩がもう幾分か若ければ……ッ!!」
 陽光はやがて西へと傾きつつある時間帯だ。それでもなお王たる古龍は燦然と佇み、眼前で無礼を働く矮小なる存在を睥睨している。
 一切の休憩を挟めずに、やがて六時間が経とうとしているのだ。どれ程の狩人であろうと肉体に変調を来たすレヴェルである。三十分……否、十分でも休憩を挟めれば状況は変わっただろうが、彼の王は無尽蔵の体力を誇示したいのか、別のエリアへ移動する事が無ければ無休で襲い続けている。尋常ならざる狩人である二人の体力を以てしても、疲弊は隠し切れなかった。
「グルルルル……」
 相対する【炎王龍】は不遜なる態度を貫き、怯みこそすれ未だに蹌踉る事すらない健在振りを発揮していた。眼前に佇む矮小なる存在が如何に知略に長け、尋常ならざる膂力を有していようが、あくまでそれは“矮小なる人間の枠”に於いての話でしかなく、人類より遥かに強靭且つ堅牢な生物の頂点と、我慢比べを徹頭徹尾すれば必定、人類が屈するのは最早自明の理と言っても過言ではなかった。
 ゲルトスが纏っていた屈指の防御力の高さを誇る防具ですら、幾度と無く受け止めた放射性のブレスや体当たりを受けて、あちこちが熔解し、傷つき、剥離している。高熱によって熔解するような炎を浴びているのだ、中の体がどんな状態かなど、想像もしたくなかった。
 マトモな防具を身に纏っていないザレアはザレアで、テオ・テスカトルに肉薄する度に高熱の甲冑の影響で軽度の火傷を負い、徐々に全身が真っ赤になりつつある。このまま放置すれば何れ焼け爛れて大事に至るのは火を見るより明らかだ。
 それでも二人が立ち向かうのは無論、二人が敗れた瞬間、背に負う小国が亡国に到達すると理解しているからだ。
「にゃーっ、にゃーっ! ――ゲルトス君、そろそろ限界かにゃっ?」
 肩で気息を落としながらも、ザレアはなおも手に爆弾を握り締めて王たる龍から視線を逸らさない。その気魄だけで言えば、まだ戦意は欠片も失せてはいなかった。
 爆弾娘の挑発染みた発言にゲルトスもヘルムの奥の口唇に笑みを刻む。まさかパルトー王国最強の名を冠する自分にそんな言葉を投げかける者がいるとは思わなかった。……だがそれは、三年前にも言われた事が有ると、ゲルトスはふと思い出した。あの不遜を体現するかのような、ギルドナイツの騎士長の小憎らしい顔が、目に浮かぶ。
「ふぅー、ふぅー、……我輩の力量を見誤って貰っては困るな、ザレア殿。――これしきの艱難で音を上げるようではパルトー王国騎士団団長の名折れである!! この場は我輩に任せて、ザレア殿こそ休憩を取られては如何かな?」
 ガシャ、とランス――重槍グラビモスを今一度構え直すゲルトス。昔取った杵柄でどこまで戦えるかと思ったが、意外と何とかなるモノだと思うと同時に、まだまだ若い世代には任せられないな、と言う想いを強くする。
 眼前の王たる龍は相変わらず傲然たる態度を貫いていたが、二人の会話が途切れるのを律儀にも待っていてくれたのか、ようやくアクションを再開した。――後ろ足に力を込め、前脚で黄砂の大地を抉るように蹴る。
 飛び掛かり――一瞬で距離を殺しつつ、その巨躯で撥ね飛ばす単純な攻撃。だが単純ゆえにアクションは速く、そして威力も甚大。
「オオオオオオオオオオオオオッッ!!」
 最早躱せるだけの速さ――足を捌けるだけの余力は残されていない。真っ向から受け止める――全身全霊を込めて盾を構え、テオ・テスカトルを出迎える。
 ギィィィンッ、と硬質な衝撃音が駆け抜け、ゲルトスの体が勢い良く後ろへ流れて行く。それでも盾を離さず、構えも外さない。全力で受け止め切る以外に、防ぎ切る道は無い。
「こいつを喰らうにゃーっ!!」
 飛び掛かりの衝撃を殺せないまま後退を余儀無くされているゲルトスの前方――テオ・テスカトルの横合いから詰めて来たザレアは大タル爆弾Gを手に構え――あっさりとぶん投げた。それは緩やかな弧を描き、――テオ・テスカトルの背の上へ落下――轟音を轟かせて起爆する。
「ギャイィッ!?」
 突如として発生した爆撃に顔を顰め、轢き殺そうとしていたゲルトスの眼前で静止を余儀無くされる【炎王龍】。だが――それも一瞬だった。
「ゴァァ……ッ!!」
 唸り、そして――王から一陣の熱風が吹きつけた。一度体感したからこそ分かる恐怖が、ゲルトスの脳裏で警鐘を鳴らし始める。
 逃げねば。でも一体どこへ? あの爆撃は、何も無い間隙に突然生じたのだ。どこへ逃げようと逃げきれないのではないか――ゲルトスは焦燥を覚え、思考が停止し掛ける。
 間に合わない。恐らくこの一撃で我輩は――――
 カラッと澄み渡る空気が、常の砂漠では感じられる事の無い、ムワッと蒸したような熱気に変わって総身を炙る。前回もそうだった。この熱気に包まれた次の瞬間には、爆撃の只中に立たされていたのだ。こんなもの、躱しようが無い――そう諦めると、最期に一矢報いようと、重槍グラビモスを構え直し――見る。テオ・テスカトルが大きく口を開け、歯を噛み鳴らす瞬間を。


 ――その口に、“太刀が突き刺さる瞬間”を。


「グルゥゥゥゥゥアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!! 何勝手に楽しんでんだ、俺も混ぜろォォォォォォォオオオオオオオオオオオッッッッ!!」
 咆哮と呼ぶに相応しい怒声が砂漠一帯を駆け抜け、テオ・テスカトルはまるでその咆哮に怯むように、口の中に入り込んだ異物に呻き声を上げる。
 寸前で起爆を止めた太刀はテオ・テスカトルにとっては楊枝みたいなモノだった。唾液と一緒に吐き出し、視界に出現した煩わしい存在に意識を向け直す。
 全力で遥か彼方より疾走して来る青年は、ザレアと何ら変わり無い格好をした、奇天烈以外の感想を懐けない存在だ。
 上半身は裸。下半身はフンドシのみ。武器は恐らく今ぶん投げた太刀以外に無く、ポーチすら身に付けていない有り様だ。ここに存在する事だけでも自身の目の信用性を失いそうになるが、奇しくもこの場に居合わせた二人は共に彼の事をよく知っていた。
「ヴァーゼッ!?」「師匠だにゃッ!!」
 二人の喚声を浴びた男は、ペキポキと両手の指の骨を鳴らし、更に首を大きく回してゴキグキ鳴らしながら、ピョンピョンと軽く跳躍し――、ズンッ、と両足を重く踏み下ろして疾走を終えると、王の拝顔を奉る。
「ぃよーう、久し振りだなァ、テオ・何とやら。俺ァなァ、お前といつまた死闘が出来るかって四六時中ソワソワしっ放しだったんだぜ? これが恋って奴かァ? ――なァ、そう思うだろ? テオちゃんよォォォォォォォッッ!!」
 砂が爆発したかのように飛び散る。一蹴りで地を離れると、中空を弾丸のように滑走して放たれた音速の横蹴りは、テオ・テスカトルの鼻っ柱を容易く、そして容赦無く圧し折る。
「グォァアアアアアアアアアアッッ!?」
 必定、テオ・テスカトルは驚愕に目を見開かされる破目になった。低俗且つ矮小で、障害にもなり得ない存在に、何故これだけの力が有るのか――それは、彼の王の記憶に刻まれた或る人物を想起するに至る。
 たった数年前の出来事だ。理解不能な膂力を有した人間がいて、己が道を阻害しただけに留まらず、退き返さざるを得なくした。思い出したくも無い苦い記憶。
 ――その時の声、その時の姿、その時の空気を伴って、そいつは舞い降りた。
「ヴァーゼ様のォォォォッッ、おなァァァりィィィだッッ、グルァァァァァアアアアア―――――――ッッ!!」
 あらゆる生物に原初の恐怖を彷彿とさせる咆哮を迸るのは、モンスターの特権ではなかったと、思い知らされる事になる。
 尋常ならざる、人外に等しい“それ”は、初っ端から怒り状態に移行していた。そしてそれは、王たる龍にとって、雪辱を果たすまたとない機会でも有った。
「ゴァァァァァァアアアアアアアアア―――――――――ッッ!!」
 王の意志を継ぎし人外と、過去に退けられし王たる龍の、第二回戦が幕を開けた。

【後書】
 いやぁーヴァーゼが最高過ぎてニヤニヤが止まらない奴です(笑)。
 二人抜けた訳ですからね、その補填で誰かを入れねばってなった時、真っ先に候補に挙がるのがこの人外ですよ! あの時の雪辱を果たしたい者同士の屠り合い、ぜひ楽しみに読み進めて頂けたらと思います!
 ところであんまり憶えていないのですが、確かP2だったかP2Gの頃の古龍迎撃戦って、1回の戦闘では終わらず、何度も挑み直して体力を削って討伐…と言う形式だった筈なんですよ。その辺を意識してこの物語を綴っていますので、四人以上同時に狩猟する事は無いですが、メンツが変わって狩猟に挑む、と言う形式を取り入れています。
 流石に古龍クラスのヤバみ溢れるモンスターを四人だけで狩らせてはならないと言う防衛機能が働いたんですかね…! えっ? ラオシャンロン? アレは嫌な事件だったね…(笑)

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    ヴァーゼさんカッコ良すぎる!カッコ良すぎてちょっと涙でたw
    これで一気に形勢逆転を狙いたいところですが、天災だからなぁ…
    少しづつでも態勢を立て直して頑張っていきまっしょ!

    それにしてもパルトー王国民の決意というか国を愛する姿勢が感動的!
    こんなシーンみせられたら「ぜってー撃退してやんよ!!」ってなっちゃいますw
    何度でも言う!さすがルカ姫!!

    フォアンくんしっかり!

    !マークがいっぱいですwそれだけ力入っちゃってるってことでカンベンw

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      涙出るほど…! いやぁーヴァーゼさんをめちゃんこカッコ良く綴れてて良かった…!w
      そうなんですよねぇw これだけの人外を以てしても、相手は天災。
      態勢を立て直しつつ、どんどん過熱して参りますよう!┗(^ω^)┛

      何と言いますか、こういう一丸となる国と言いますか国民って、熱いと思うんだなぁ…! って綴っておりましたw
      ですです! 「ぜってー撃退してやんよ!!」ってなりますよねこれ!w
      さすがルカ姫!! その采配に狂いなし!!!

      フォアン君しっかり!ww たたたたぶん大丈夫ですたぶん!w

      いやー、力がこもった感想、有り難う御座います…!w 熱が入ってるのがひしひし伝わってきて、作者として最高の気分ですよ!w

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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