2019年7月10日水曜日

【ベルの狩猟日記】115.灼熱の攻防戦〈2〉【モンハン二次小説】

■あらすじ
守銭奴のベル、天然のフォアン、爆弾使いのザレアの三人が送る、テンヤワンヤの狩猟生活。コメディタッチなモンハン二次小説です。再々掲版です。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【風雅の戯賊領】、【Pixiv】の四ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター コメディ ギャグ 二次小説 二次創作 P2G


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/135726/
【Pixiv】https://www.pixiv.net/novel/series/339079
■第115話

115.灼熱の攻防戦〈2〉


「――えっ、ロザ姉!? ギース兄も!? どうしてここに……ッ!?」
 パルトー王国の宮殿内に在る客室の一つを間借りし、意識不明のフォアンをベッドに寝かせた時だ。慌しく入室して来たのはベルの良く知る人物であり、誰よりも信頼に足る先輩狩人だった。
 二人はいつものメイド服と執事服ではなかった。ロザはザザミシリーズと呼ばれる、鮮やかな赤色が目立つ、堅牢なる“盾蟹”ダイミョウザザミの素材をふんだんに使った防具を身に纏い、ギースはギザミシリーズと呼ばれる、これまた鮮やかな青色が目立つ、触れている大気をも切り裂きそうな鋭さを誇る“鎌蟹”ショウグンギザミの素材をふんだんに使った防具を身に纏っている。――つまり、狩人としてこの場に臨んでいる事を示していた。
「お姉さんは妹分のピンチには欠かさず駆けつけるのさっ! さっ、後はお姉さん達に任せて、ゆっくり休みなさいっ!」
 いつも以上に快活な声で応じるロザ。隣に立つギースはベッドの上に横たわるフォアンを見て、表情を曇らせた。
「……オンドリャ、何を眠っとるんじゃボケェ……ッ! お嬢を連れ出しといてそんな体たらく、ワシャ赦さんけえのう……ッ!!」
 ベルにその声は届かなかったが、ギースが込み上げる激情を並々と湛えて憤っている事だけは傍目にも理解に苦しくなかった。両拳を固く握り締め、恨めしそうにフォアンを睨み据えたまま、ギリギリと歯を食い縛っているギースは、まるでフォアンを呪い殺そうとでもしているようだった。
「済まんのう、ちと遅れたようじゃ」
 そう言って二人の後に部屋に入って来たのは、無数のメイドを引き連れた老爺――黒子シリーズを身に纏った弓兵――ワイゼン翁その人だった。
「師匠……ッ!? それじゃまさか!?」吐き出された呼気が不覚にも震えるベル。
「良くぞ今まで耐え抜いてくれた」ポン、とベルの頭に皺だらけの手を載せるワイゼン。「後は任せておけ。ワシらの代の尻拭いを、次の世代が背負う必要は無い」
 いつもの彼からは信じられない程に、真摯な表情を浮かべて自分をあやす【猟賢】に、ベルは今まで堪えていた涙腺が破壊された。
 間に合った――その感情が色濃く表情に浮かび、途端に顔は涙でグチャグチャになってしまった。それを隠すようにワイゼンはベルを抱き締め、背中をポンポンと叩いてあやす。
「遅い……ッ、遅いのよ……ッ、フォアンが、フォアンが……っ!!」
「――皆の衆よ、総力を挙げてこの少年の治療を頼むぞ。万が一にでも此奴が黄泉路に旅立つような事が有れば、相応の処遇が待っておると思えよ?」
 静かな声で檄を飛ばすワイゼンに、背後に控えていた無数のメイドはまるで機械のような正確さで揃ってお辞儀を返すと、「承服致しました、ワイゼン閣下」と綺麗なハーモニーを奏でた。
 そこから先は劇的だった。洗練された動きで部屋内に次々と持ち込まれる最先端の医療器具の数々に、手際の良過ぎる処置を行っていくメイド達。ベルにはそれを眺めている事しか出来なかった。
「――さて、いざ参ろうかの、ロザ、ギース。ベルを怖い目に遭わせてくれたんじゃ、相応の代償を貰わねば釣り合うまい?」
「そうだねっ、“テオ・テスカトル”だか、“おてて、透かしとる”だか知らないけど、ギッタンギッタンのボッコボコにしちゃおっか! お姉さんは妹分のためなら一肌脱いじゃうのさっ!」
「当然じゃ……お嬢をこんな目に遭わせたボケはワシがぶっ殺しちゃるけえのう!!」
 ざっ、と一陣の風を纏って部屋を立ち去る三人の狩人に、ベルは掛ける言葉を失っていた。
“一緒に行く!”とも、“頑張って!”とも、そして、“無理しないで!”……とも、何一つとして声を掛けられないまま、三人を見送ったベルは言いようの無い不安感に包まれていた。
 あの三人がいれば何の問題も無い。きっと何とかしてくれる。これで悪夢は収束に向かう。――何れの感想も、胸にはやってこなかった。
 ただただ不気味な黒い渦が、胸中で蠢いているだけだった。

◇◆◇◆◇

「ダァァァァリャァァァァ―――――――――ッッ!!」
「ギャゥウ!?」
 陽がやがて西の彼方へ没し始める世界。眩く輝き続ける陽光は力が衰えつつあり、灼熱の大地は急速に温度を失いつつあった。やがて来る極寒の世界の到来に想いを馳せつつ、ゲルトスは息切れを起こしたまま動けずにいた。
 古龍が出現してから何時間経ったのか。正確な時間こそ測れなかったが、確実に半日は過ぎている。半日の間、絶え間なく襲い来る脅威に抗い続け、遂に肉体は限界を迎えた。節々は悲鳴を上げ、骨は軋み、肺は高速なる収縮を繰り返している。頭は熱に浮かされたようにぼんやりと靄が掛かり、最早命の危機にさえ鈍感になっていくようだった。
「……流石、と言わざるを得んな……。姫が惹かれるのも無理からぬ事、か……」
 そうゲルトスが感嘆の吐息を零さざるを得ない程に、ギルドナイツ騎士長の戦い振りは苛烈に尽きた。先程まではあくまでテオ・テスカトルにイニシアチヴを握られたまま、隙を見ては攻撃を仕掛ける戦法しか取れなかったが、今は完全に真逆――ヴァーゼがテオ・テスカトルを凌駕する速度、耐久力、膂力を行使して常に先を行くのである。
 人間と言う種の限界を軽く超越する挙動に、歴戦の戦士であるゲルトスでさえ彼の影を見失う程である。人間としての箍を完全に外す事が出来れば或いは、そんな超越染みた動きも可能になるのだろうか。
 ヴァーゼが到着してから凡そ三時間。彼はテオ・テスカトルですら戸惑いを見せる程に、間断無く攻撃を繰り出し続け、王たる龍の尊厳や意義などを諸共に破壊していく。
 更に付け加えるならば、
「喰らうのにゃっ☆ ダブル大タル爆弾G!」
 大タル爆弾Gを落とさないように片手に一つずつ携え、全力疾走でテオ・テスカトルへと肉薄する爆弾娘。尋常な思考を持つ者ならば、そんな決死隊のようなアクションできる訳が無いだろう。大タル爆弾一つですら人間を軽く消し炭に変える爆発力を有していると言うのに、それの更にでかい爆弾を二つも携え、挙句“灼熱の王”たる古龍に向かって突貫など、自殺行為も甚だしい。頭の螺子が何本も吹っ飛んでいなければ出来ない芸当である。
 それをあの娘は、何の惑いも懐かずにやり遂げる。
 テオ・テスカトルの眼前まで駆け寄ると、一切の躊躇無く投擲――古龍の顔面に着地した二つの大きな爆弾は、爆炎を上げてテオ・テスカトルを包み込む。
「……これは……狩人と呼称して良いモノだろうか……」
 ゲルトスに言わせれば、――次元が違い過ぎる。これは人間が可能とする狩猟の形ではない。人間を模した化物がなし得る狩猟――ではなく、“戦闘”の到達点だ。
 だが、そんな化物狩人が二人で掛かっても、真の化物は未だ地に伏せる事を知らなかった。
「グルルルゥゥゥゥ……ッ!!」
 憎悪の光に満ち溢れた深い色合いの瞳。肉体はあちこちに傷が付き、翼膜は破れ、鱗が剥がれ落ちてなお――その表情から泰然自若の輝きは消えない。睥睨する世界に映ろう存在は皆、己より下賎な存在に相違無いと言わんばかりの倣岸たる態度を貫き、――王たる風格は微塵も衰えていなかった。
「ヒャーハーッ!! やっぱりこうでなくッちゃいけねェよなァ!! 燃えるぜェ……燃え滾るぜェ!! これこそが俺の求めていた世界!! だがまだ温ィ!! この程度で満足してるようじゃァ、師匠に顔向けできねェってモンだ!! さァ掛かって来いよテオォォォォオオオオオオオッッ!! 俺ァこの刻この瞬間この刹那を待ち侘びてたんだよォォォォオオオオオオオオッッ!!」
 再び地を駆る人の形を模したモンスターに、【炎王龍】は静かに力を溜め込んだ。
 ブワッ、と今再び灼熱の風が湧き起こった。煌く鱗粉のような細かい粒子が、ヴァーゼの目にも確然と映り込んだ。それは七年前にも見た、脅威的な攻撃の前兆だとも、彼は確りと記憶していた。
「黄色――ッ!? テメエら死にたくなかったらテオ・何とやらに突貫しろォォォォオオオオオオオオッッ!!」
 その怒号に二人の狩人は躊躇しなかった。先刻、あのモーションをした後に爆撃に見舞われたのは記憶に新しい。けれども、あの時は至近距離にいたばかりに爆炎を浴びたのだ。離していた彼我の距離を殺す行為に戸惑いを覚えても当然だった。――が、二人とも解っているのだ。あのギルドナイツの騎士長が言う事に間違いは無い――と。
 最早肉体の限界は疾うに超えているにも拘らず、ゲルトスの歩みに鈍りは無かった。驚く程早くスムーズに足を捌き、テオ・テスカトルの眼前へと辿り着く。
 ――その瞬間だ。彼の王は大気を噛み砕くように牙を打ち鳴らすと、それが火種となったのだろうか、ゲルトスの背後――否、テオ・テスカトルを大きく囲うように、環状に爆発が立て続けに起こった。
 振り返らずとも解る。あのまま立ち竦んでいれば爆発に巻き込まれていた事ぐらい。
「ゴァァァア……!!」
 視野前方に聳える巨像は疎ましい存在を一人も仕留められなかった事に対して業を煮やしたかのように唸りを上げる。怒り心頭だと言うのが空気を媒介に嫌と言うほど伝わってくる。
 ただ一撃でも与えれば粉微塵に吹き飛んでしまいそうな命を相手に、どうしてこうまでも苦戦を強いられるのか。テオ・テスカトルにはそれが疑問であり、憤怒の源泉であるに違いない。併もその内の一人は人間らしい小賢しい手ではなく、次元の違い過ぎる種族の隔たりを無視して、真っ向からぶつかってきているのだ。これほど腹立たしい事が有るかと言わんばかりに、王の瞳には憎悪の感情が沸々と滾っている。
「――ヘェイッ、ザレアァ!!」ヴァーゼの怒声が黄昏に満ちる砂漠に鳴り響いた。「ゲルトス連れて一旦退け!!」
「にゃにゃっ!?」戸惑いの声がザレアの口から漏れる。「オイラもゲルトス君も、まだまだやれるにゃっ!」
「その心意気だきゃア貰っといてやんよ! だがな、――“揃っちまったんだよ”」
 そう言って口唇に笑みを刻むヴァーゼ。いつもの狂染みた笑みではなく、真新しい玩具を買い与えられた子供のような飛び切りの笑顔だった。
「――そういう訳じゃ。ザレアちゃん、後はワシ達に任せてくれんかのう?」
 気配も無く、ザレアのヒップを撫でる人物がいた。ヴァーゼに等しい超越的な感覚を有するザレアですら、背後に立つ狩人の存在に、尻に手を当てられた時点でようやく気づく程の、気配を殺す術を身に付けた老爺。ザレアはそんな人物を、生涯出逢った中で一人しか知らない。
「ワイゼン翁だにゃっ!?」
〈アイルーフェイク〉の瞳を輝かせて振り返ると、そこには黒子シリーズを身に纏った弓兵が一人と、メイド服を纏った銃士が佇んでいた。
「あにゃ? ティアリィさんもいるのにゃっ!」
 メイド服の女銃士――ティアリィはいつもの朗らかな笑顔で、「はいっ♪」と意気揚々と返事をする。
 メイド服――メイドシリーズと呼ばれる、これもまた狩人の防具の一種であると知る者は少ない。ギルドナイツ直営の酒場などで働く女性が着用するモノなのだが、実はそのまま狩場に出ても耐久性や防御力の面では狩人の纏う装備品と何ら遜色ない代物だったりする。
 弓兵と銃士の二人がやって来た事を気配で察していたヴァーゼは、テオ・テスカトルを睨み据えたまま無邪気な笑顔を滲ませる。
「まっ、そんな訳だ。積もる話もあんだろうが、まずはあのテオ・何とやらをぶっ飛ばそうぜ!? あの時を清算する時が来たんだよォォォォアアアアアアア!!」
「一々喚くな、相も変わらず喧しい奴じゃのう、全く」黒子の面の下から疲れきった嘆息が落ちる。「まぁ、その言を否定するつもりは無いがの。老骨に鞭打って来たんじゃ、完全試合でなければ認めんぞ?」
「全力疾走で独断専行した挙句、一人でどれだけの体力を消耗しているんですか?」小首を傾げて悩ましげな嘆息を落とすメイド。「あの時ですら半日掛かったと言うのに、始めから飛ばし過ぎですよ♪」
「だって楽しみで仕方なかったんだよ!! 仕方ねえだろ!? こんな機会二度とねェかも知れねェってのに、ちんたら乗ってられるかってんだバカヤローッ!! あわよくばテオ・何とやらを独り占め出来るかも知れねェってのによォ!!」
 テオ・テスカトルから顔を背けて、二人の狩人に向かって大袈裟な仕草をしながら抗弁するヴァーゼ。
 そんな隙だらけの背中を、彼の王は敢えて襲おうとはしなかった。それは王としての矜持なのか、それとも――襲うに襲えぬ理由があったのか。
「遠足か何かと勘違いしとるのかヌシは!? ……やれやれじゃわい、あの時から何の進歩も無いようじゃのう」大仰に肩を竦めるワイゼン。「ヌシらしいと言えばヌシらしいがの。――さて、ワシも後顧の憂いなく余生を全うしたいんでの、そこの古龍には悪いが――消えて貰うとしよう」
 ――空気が、変わる。
 テオ・テスカトルが纏っていた殺気の充満した砂漠に、ヴァーゼの暑苦しい空気に加え、ワイゼンの放つ凛然とした戦意が入り混じる。達人クラスばかりの狩場であるからこそ、皆が一様に察する事が出来る空気の変動。ゲルトスも思わず生唾を飲み込む程だった。
「――さて、んじゃザレア、頼んだぜ? 俺達はこれからお楽しみの時間なんでなァ!」
 そう言って再びテオ・テスカトルを睨み据えるヴァーゼ。【炎王龍】も応えるように咆哮を奏で、――進撃を始めた。
 三人の達人狩人が動き出したのと同時に、ザレアもゲルトスに肩を回して駆け出していた。
 やがて夜を迎えると言うのに、熱は一向に冷め遣らない――――

【後書】
 と言う訳で選手交代です! ザレアちゃん&ゲルトス君OUT→ワイゼン翁&ティアリィさんINと言う形で、まだまだ苛烈な防衛戦は継続です!
 最終章と謳っていただけあって、今までのキャラオール出演でお送りしておりますが、こういう展開がね~ほんと好きなんですw 今まで戦ってきた仲間達が一堂に会し、難敵に挑むってアレじゃないですか、劇場版感あるじゃないですか…!w ああいう演出が好き過ぎてね~綴りたさ有ったんですよね~~~。
 さてさて、そんなテオ・何とやら戦も次回で折り返し! 濃厚なようでいてあっと言う間に過ぎ去って参りますよう! そんなこったで次回もお楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    まさに劇場版!オールスターキャストでお送りしております状態です!
    +(0゚・∀・) + ワクテカ +止まりませんw

    達人三人参戦で楽勝ムードかと思いきや、ベルちゃんの胸中の黒い渦…
    王はまた贄を欲するのか?果たして……

    いやぁ~ほんとみんなの登場がうれしくて、カッコよくて、たまらん!
    “おてて、透かしとる”はまだまだ元気だけどそれを上回りまくる気力でみんながんばれ!!

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      ですです! オールスターキャストでお送りしておりまする!!
      もっともっとワクテカしていってくだされ~!w┗(^ω^)┛

      達人が三人も参戦しているにも拘らず、予断を許さない雰囲気なのがね、やっぱりこう、最終決戦感有るかなって…!
      ベルちゃんの胸中に渦巻く闇は果たして…!
      「王はまた贄を欲するのか?」の語感の良さよ…!w まさにわたくしの言いたかった事をズバァーッて言ってる感しゅごい…!ww

      やったぁ~!┗(^ω^)┛ やっぱりね~最後は全員総集合って物語がね、しゅんごい好きですからね! そう言われると表情筋緩みまくりですよう!!(*´σー`)エヘヘ!w
      “おてて、透かしとる”を超える気力! ぜひぜひ最後まで応援宜しくお願い申し上げます~!(*- -)(*_ _)ペコリ

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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