2019年7月14日日曜日

【ベルの狩猟日記】116.駆けつける者達【モンハン二次小説】

■あらすじ
守銭奴のベル、天然のフォアン、爆弾使いのザレアの三人が送る、テンヤワンヤの狩猟生活。コメディタッチなモンハン二次小説です。再々掲版です。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【風雅の戯賊領】、【Pixiv】の四ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター コメディ ギャグ 二次小説 二次創作 P2G


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/135726/
【Pixiv】https://www.pixiv.net/novel/series/339079
■第116話

116.駆けつける者達


「――む? ヌシ達も間に合うたか。流石じゃのう」
 黄昏に染まる黄砂の大地――つまり現在進行形で迎撃戦を行っている場所にワイゼンが赴く少し前。彼は愛弟子であり側近でもある二人の狩人を連れ立ってパルトー王国の入り口である大門の前に辿り着いた時、二人の狩人を目にした。
 二人ともメイド服と言う出で立ちは同じなのだが、内包する肉体と性別に大きな隔たりが有った。一方は華奢な少女然とした女性だったが、一方は筋骨隆々の逞しいにも程が有る男性だった。
「あらん! もしかしてワイゼン様ァん!? あぁんっ、ご無沙汰してますぅんっ!!」
 怪物と形容しても何ら差し支えないメイド服の男に、ワイゼンは頬筋を強張らせながら、「ひ、久しいのう、アネさんや。相変わらず気色の悪…………げ、元気そうじゃのう!」言葉に詰まりながらも何とか挨拶を返す。
「お、おやっさん。誰じゃけえ、そいつ……?」
 吐きそうな顔を隠そうともせずに尋ねるギースに、ワイゼンは彼の頭を容赦なく小突いた。
「いたッ! ……えっ、どういう事じゃけえのう!?」訳も分からず目を白黒させるギース。
「わぁ、もしかして“あの”ガーネハルトさんかなっ!? お姉さんはドキドキさっ!」ぱぁーと顔を明るくするロザ。
「“あの”って……そんな有名なんじゃけえのう?」頭を押さえながらコソコソとロザに耳打ちするギース。
「あのドンドルマの親方を超え、竜人をも唸らせる鍛冶技術を持つ、億に一人の鍛冶職人って謳われてる超有名人さっ! お姉さんは鍛冶に就いても物知りなのさっ!」
 ギースはポカーンと口を開けたまま茫然自失。完全に言葉を失っていた。
「噂では聞いておったが……ベルが世話になっておるそうじゃのう。こんな場で申し訳無いが礼を言わせて貰おうかの」小さく顎を引くワイゼン。
「あらやだんっ、ワイゼン様にそんな熱い視線を向けられちゃったらあちしっ、興奮しちゃうわぁんっ!!」腰をクネクネと不気味に振りながら熱い声を吐き出すアネ。
 ワイゼンが頬筋を痙攣させながら、「――す、済まぬ。ワシも今は急ぎの身での、また後で礼を言いに参るぞ」と言って足早に立ち去ろうとして――ティアリィに行く手を阻まれた。思わず彼女の顔に視線が向く。
「――ワイゼン様。“役者は揃いました、あの時の再現です”」
 何かの符丁だったのか、その単語を聞いた瞬間、黒子シリーズに覆われたワイゼンの瞳が炯々と輝きだす。沸き立つ気配に気づいたのか、ギースとロザの肌がゾッと粟立つ。
「……そうか、あ奴も間に合ってくれたか。これは重畳。ならば――“あの時の終わりの続きを始めるとしようか”」
 ゾッとする声だった。いつもの彼らしくない狂熱染みた声調に、二人の側近は顔を見合わせた。二人の知らないワイゼン翁が、そこにいた。
 ワイゼンは二人を振り返ると、黒子シリーズののっぺりとした面を向けて口を開いた。
「済まぬが――二人はガブラス討伐に向かってくれ。古龍迎撃戦は、ワシとティアリィだけで行く」
 思わぬ発言に二人は瞠目せざるを得なかった。
「ちょッ、何を言うとんじゃおやっさん!? 今さっき、落とし前を付けに行くけえ約束したばかりじゃ、そんなん――」
「済まんのう、今回ばっかりはワシにも譲れん。……分かってくれんかのう?」
 譲歩の余地は無いと言わんばかりの語調だった。ギースはなおも食い下がろうとしたが、ロザに手で制される。
 一歩前に出たロザがいつもの快活な笑顔のまま、小さく首肯を見せる。
「旦那様がそう言うんだったら、お姉さんは従うしかないのさっ! ――ティアリィちゃんっ、旦那様の事、宜しく頼むよっ!」
 無垢な瞳を向けられ、ティアリィは屈託の無い笑顔を返す。
「お任せください♪ 私の目が黒い内は誰も死なせませんから♪」
 確然と応じ、ティアリィはワイゼンを連れ立って駆け出した。ギースとロザは追うように駆け出すが、彼らとは砂漠地帯へ入る時、門前で別れる事になる。
 門前――無数のガブラスが間断無く現れ、ただでさえ数の少ない騎士団は宙を自在に飛び回る彼らに翻弄されていた。
「んじゃあ一丁やっちゃるけえのう、ロザ姐!!」
 威勢の良い声を張り上げて背中から抜き放ったのは、ガンランス――重厚な槍に銃砲の機構を施した武具だ。火竜のブレスの機構を元に作り上げたその武具は、槍の柄に施された引鉄を引く事によって砲撃を放つ事が出来る仕組みになっている。重たい槍と大きな盾を扱うために機動性に欠ける武器だが、その分ガード性能に長け、肉質の硬いモンスター相手でも刃を弾かれる事無く砲撃を放つ事が出来る、攻守に優れた武器である。
 その中にある“討伐隊正式銃槍”と呼ばれるガンランスを、ギースは己が武器として扱っていた。街のギルドに正式に卸されている、由緒ある一品である。青と銀の刻印が施された盾が、纏っているギザミシリーズの青と銀にマッチしていた。
「ようしっ、お姉さんも頑張っちゃうよ!!」
 ギースの気勢に同調するように、背に負っていた双剣を抜き放つロザ。彼女の所持する双剣――“ホーリーセーバー”もまた、街を守護する騎士の儀礼用装備だった。儀礼用とは言え、その切っ先は飛竜の甲殻を穿つ程の斬れ味を誇り、実用性に於いては何ら問題無い代物である。
 二人の狩人の参戦により、状況に僅かながら変化が生じる。騎士団は民間人から選出された戦士であり、モンスター専門の狩人には後れを取らざるを得ないのが実情である。たった二人でも馳せ参じてくれただけで戦況は大きく違ってくる。
 二人の狩人が指示を出しながら、騎士団と足並みを揃えて、ガブラス討伐の流れを変えていく。
 無数のガブラスが局地的に数を磨耗して行く光景を背に、ワイゼンはティアリィに声を掛けながら砂漠を駆ける。
「ところでティアリィや、ラウト村は今どうなっとるんじゃ? アネさんに加えてヌシも出てきては、守護する者がおらぬと思うのじゃが……噂では村長は箸より重いモノを持てぬ小娘らしいではないか」
 ティアリィだけが出て来たのなら話はまだ分かる。あの巨漢のメイド――ガーネハルトが鍛冶師の前は狩人として活躍していた事を、ワイゼンは知っている。あの体つきからは想像し難いが、以前はヘビィボウガンの扱いに長けた銃士だったらしい。が、一念発起して鍛冶師へ転職し、今ではドンドルマの親方をも凌ぐ腕前にまで至っている。二十代にして今の名声を得ている彼を見て、世の中何がどう転がるのかほとほと想像できない、とワイゼンは痛感している。
 その彼も今、パルトー王国に来訪しているのだ。ラウト村には村長のコニカしか残っていない。これではランポス程度の小型モンスターの襲撃すら対応できないのではと、ワイゼンは危惧しているのだ。
 ティアリィは音も無く砂地を駆けながら、クスリと笑みを零した。悪戯っぽい笑顔に、ワイゼンは黒子の面の下で疑問符を浮かべてしまう。
「私達にとっては幸運だったのですが、本人にとっては不運だったかも知れない、そんな事が起きまして♪ ……本来ならばここに来ていてもおかしくは無い腕を誇る方なのですが、他ならぬ彼からの進言でして♪」
 要領を得ないティアリィの返答に、ワイゼンは益々困惑した表情を濃くしていく。
「つまり、こういう事なんです♪」と前置きし、ティアリィはつい数日前の出来事を話し始めた。

◇◆◇◆◇

「出来たわっ!! 出来たのよティアリィっ!!」
 ドスンドスンとシェンガオレンが闊歩しているかのような音を鳴り響かせて酒場の扉を跳ね壊して入って来たのは、いつものメイド服姿の巨漢、アネだった。
 それを出迎えたのは、酒場の奥でニコニコ笑顔を浮かべたまま動きが静止していたティアリィと、ソワソワと落ち着き無く店内を彷徨っていたコニカだった。
「な、何が出来たんですかっ?」
 興奮しきった様子のアネに若干怯えつつも、コニカは相変わらずソワソワしながら彼女に歩み寄って行く。
 少し前にパルトー王国の使者が現れ、古龍テオ・テスカトルの迎撃戦に参戦して欲しいと依頼を伝えた。その時丁度ラウト村を訪問していたウェズが「コレっ、ベル達に届けて来ますっ!」と勝手に彼女達の部屋を漁り回って出て行った。それからと言うのも、コニカは心配と不安で終始ソワソワしっ放しだった。
 心ここに有らず状態のコニカに、アネはむさ苦しい笑顔でグッドサインを作った。
「ベルちゃんの武器よう! これを今すぐ届けなくっちゃ!」
 そう言って麻でグルグル巻きにされている弓を掲げるアネ。それを見たコニカがハッと目を見開いた。
「あっ、あの素材を使った弓なんですねっ!? 良かった……ちゃんと形になって……」
「あちしに任せたらこんなの朝飯前よ~うっ♪ 出来ればあちしが自ら届けに行きたいんだけどぅ……、――ティアリィちゃん、行きたいんでしょっ?」
 いきなり話を振られても、ティアリィは動じる事無く笑顔を貫いていた。ゆっくりと首肯を返し、カウンターの奥から出て来る。
「アネさんがベルさんのために弓を作ってくれていると言うので、それを待っていました。ただ……アネさんの意志を蔑ろにしたくはありませんが、出来ればこの場に、もう一人狩人がいてくれれば……」
「そうよねぇ……あと一人足りないのよねぇ……」
 二人が悩ましげな溜め息を零して、どうしたものかと頭を抱えた、まさにその時だった。
「あのー……済みませーん……」
 不意に、誰も聞いた事の無い男声が、酒場の戸口から聞こえてきた。
 全員が驚いたように視線を投げると、少年と言っても差し支えない若い男が立っていた。纏っているのはタロスUシリーズと呼ばれる、上質な甲虫種の素材があしらわれた、“狩人”の装備だ。背に負っている物もインセクトオーダー改と言う名の双剣――狩人が用いる武器だ。
 一見して判る。狩人だと。
 三人の奇異の視線を浴びつつも、狩人の少年は怖ず怖ずと三人に視線を向け、思ってもみない事を口にする。
「ここに、ザレアって狩人、いませんか……?」
 三人は瞠目し、それから顔を見合わせる。
「坊や、ザレアちゃんの知り合いなのぅ?」
 聞き返したのはアネだった。その巨躯に似合わぬ猫撫で声に一瞬怖気を走らせながらも、少年狩人はヘルムを脱いだ頭を小さく掻く。
「えーと……知り合いって言っても、一度一緒に狩猟をしただけなんですけど……えと、ここ、ラウト村で合って、ます、よね……?」
 自信無さ気に聞き返す少年に、今度はコニカが前に出てきた。
「はい、そうですよ~。ここはラウト村で、ザレアさんはここの専属狩人なんですっ!」
 屈託の無い笑顔で応じるコニカに、少年は安堵したように吐息を落とした。
「良かった、間違ってなかった……。あ、自己紹介が遅れました。おれっちはイルム。シレイユ村の専属狩人をやっている者です」お辞儀をし、少年狩人――イルムははにかんだ。「今日はザレアを訪ねて来たんですが……アポを取ってなかったんで、もしかして留守だったりしますか……?」
 怖ず怖ずと尋ねるイルムに、二人の女は何かを閃いたように顔を見合わせた。
「丁度良かったわぁん! 貴方、ちょっとだけで良いからラウト村の守衛をやってくれないぃんっ?」
 アネの極太の猫撫で声に、イルムは怯みながらも何とか応じる。「は、はい? それってどういう……」
 イルムの疑問符に、ティアリィが掻い摘んで説明を与える。それを聞いたイルムは納得したように苦笑を滲ませた。
「なるほどね……ザレアらしいや」呟きながら頬をポリポリ掻く。「――判りました。おれっちはきっと、そのためにここに来たんだと思います。それにザレアなら、古龍なんて簡単に撃退するでしょうし。おれっちで良ければ、皆さんが留守の間、ラウト村の守護を任せてください」
 真摯な視線を向けられ、アネとティアリィの顔が綻ぶ。それが、二人の出立の決意を固める大きな要因になった。

◇◆◇◆◇

「イルム……どこかで聞いた名前なんじゃがのう……はて、どこじゃったか……」
 砂漠を駆けながら小首を傾げるワイゼンに、ティアリィはニコニコ笑顔を崩さずに振り返る。
「ワイゼン翁の記憶に辛うじて残っていると言う事は、やはり高名な狩人だったのでしょうか?」
「“あの”ザレアちゃんの知己と言うからには相応の狩人ではあると思うのじゃが……はてな、ワシも耄碌したかのう」
 そう、一つの結論を出した時だ。黄昏色に染まる視野に、陽炎を放つ巨影が映り込む。その周囲に群がるように駆け回る狩人の姿も。
「――さて、あの時の借りを返す時が来た。此度こそ屠らして貰おうぞ、【炎王龍】――テオ・テスカトルよ」
 戦意を漲らせるワイゼンに、ティアリィもまた、静かな戦意を滾らせていく。
 衝突の時は間近。あの時果たせなかった一つの結末を、此度こそ成就する――その強靭なる意志を抱えたまま、二人は戦場へと降り立った。

【後書】
 どんどん参戦キャラが増えていくの、控えめに言って最高ですわ…※自画自賛
 と言う訳でね、勿論イルム君も馳せ参じますよう! 何せあの! ザレアちゃんに一目惚れしちゃったんですからねぇ!w
 ガンガンキャラを盛って、ガンガン熱くして参ります! 次回も熱々でお楽しみに~!!

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    熱いです!まさかのアネさんまで参戦とは…
    そして一瞬だけ本気を滲ませたワイゼン翁のかっこよさ…
    さすが本物!って感じですw

    ザレアちゃんのピンチに「虫」が知らせたのでしょうか、イルムくんも登場ですw
    しかし、パルトー王国ではなくラウト村に現れるあたりが彼らしいといえば彼らしいw

    ここのところ少し涼しいので、熱々が良いですw

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      そう! アネさんも参戦です!!!┗(^ω^)┛
      ワイゼン翁もね、この人もやはりベルちゃんの師匠であり、渾名持ちですからね! 偶にはカッコいいシーン挟みたいですよね…!(笑)
      良かったーっ!w 本物感出てるようでほんと良かったーっ!ww

      巧いっ! そうそう、虫の知らせが来たんでしょうね…! イルム君だけにね…!w
      そうなんですwwその辺が彼らしいと感じて頂けてる辺り、分かってるぅ! と言わずにいられないです!w

      もう夏の始まりだと言うのにこの涼しさ…せめて物語の中だけでも熱々でお送り致しますよう!w

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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