2019年7月23日火曜日

【ベルの狩猟日記】119.灼熱の攻防戦〈3〉【モンハン二次小説】

■あらすじ
守銭奴のベル、天然のフォアン、爆弾使いのザレアの三人が送る、テンヤワンヤの狩猟生活。コメディタッチなモンハン二次小説です。再々掲版です。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【風雅の戯賊領】、【Pixiv】の四ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター コメディ ギャグ 二次小説 二次創作 P2G


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/135726/
【Pixiv】https://www.pixiv.net/novel/series/339079
■第119話

119.灼熱の攻防戦〈3〉


「――ザレア!?」
 パルトー王国を後にし、狩場へと辿り着いたベルが真っ先に向かったのはベースキャンプだった。迎撃戦が始まる前に、ウェズから徴収した道具類をベースキャンプに分けて置いていたのを思い出し、それを取りに向かったのだ。
 迎撃戦が始まった狩場からそう離れていない場所にあるベースキャンプに立ち寄る余裕は無いと思っていたが、出来る限り万全の体勢で臨みたいと考えたベルは急ぎ足で向かったのだが、まさかそこでザレアと遭遇するとは思ってもみなかった。
 そしてその視線はベースキャンプの奥――簡易ベッドに向けられ、更に驚愕で見開かれる事になる。
「ゲルトス!?」
 グラビモスの装備を脱ぎ、楽な姿勢でベッドに横たわる青年は紛れも無くゲルトスだった。苦しげに呼気を漏らすその姿から、今朝見た勇壮な雰囲気は完全に吹き飛んでいる。その瞳が薄く開き、弱々しい光に濡れた視線がベルに向く。
「……ぉお、ベル殿か……済まぬが、このまま応対させて頂く……」
 力の無い声で、ゲルトスはそう詫びた。ベルの中に嫌な予感が湧き上がり、咄嗟にザレアの方に向き直る。
 月明かりが眩い世界に浮かび上がるザレアは、よく見ると全身が薄っすらと赤い。軽度の火傷だとすぐに察した。あの熱砂の世界を裸も同然で走り回れば当然の結果と言えるが、恐らくは違うだろう。
「ベルさん……ごめんにゃさいっ!」
 痛ましげなザレアを見つめていたら突然そのネコ頭を下げられ、ベルは困惑した。何に対して謝られたのか理解が及ばず、ツッコミの言葉も遅れてしまう。
「えっ、何? どうしたの? ザレア」
 頭を上げようとしないザレアの〈アイルーフェイク〉に手をやり、無理矢理頭を上げさせる。どうにも〈アイルーフェイク〉の目許に水溜まりが出来ているように見えてしまう。
「ベルさんが戻って来るまで頼まれたにゃに……ぐすっ、ゲルトス君をここに連れて来る事しか出来にゃかったのにゃ……っ! えぐっ」
 悲痛なネコの泣き声を上げるザレア。ベルはいつもどおり〈アイルーフェイク〉を撫でてあやし始めた。彼女はいつだって小さな事を過剰に気にしてしまうと、ベルは理解していた。
「ううん、そんな事無いわザレア。……それに、あんたがここにいるって事は、間に合ったんでしょ? ――師匠は」
 静かな口調でそう告げると、ザレアは〈アイルーフェイク〉を小刻みに揺らして肯定した。
「ベルさんの師匠もそうにゃけれど、オイラの師匠も駆けつけて来てくれたのにゃっ! それにティアリィさんもにゃっ!」
「ヴァーゼも来てくれたの!? ……って、え? ティアリィも?」
 ヴァーゼなら解る。彼なら、“ザレアの師匠である彼”ならば、こんな苦境に立たされようとも奮闘できるだろう。だが、ティアリィが何故ここにいるのか、理解が辿り着かなかった。
 つまり今現在、迎撃戦を敢行しているのはワイゼン、ヴァーゼ、ティアリィのメンバーだろうか。パルトー王国を出た時に、門前でガブラスと抗戦していたロザとギース、そしてアネを見たベルは、そう判断を下した。
 灼熱の世界が終わりを告げ、砂漠は今、極寒の世界に移行している。それでもなおテオ・テスカトルが退いていない現在、未だに脅威は眼前に有り続けている。
 まだ古龍迎撃戦は、終わっていない。
「……ザレア」ポツリ、とベルの口から声が漏れる。
 小さな声だったが、砂漠の澄んだ空気に凛と響き、ザレアはピクピクッと〈アイルーフェイク〉の耳を撓らせ、振り向いた。
「まだ、――戦える?」
 ベルは問いかけながらも、自分は何と酷な事を尋ねているのだろうと、自らを叱責したかった。
 軽度の火傷とは言え、このまま戦い続ければ皮膚が爛れてきてしまうかも知れない。それどころか、火傷から生じた些細な痛覚が動きを鈍らせ、一瞬の隙を生み致命的なミスを犯す要因にだってなり得るだろう。そんな危険を冒してまでこれ以上戦うべきではない。それはベルも理解していた。――けれど、どうしてもザレアには傍にいて欲しかった。
 ――“彼”が、いつ戻って来ても良いように。
「オイラはバリバリ戦えるにゃっ!」
 予想はしていたが、まさか本当に即答を返されるとは思わなかったベルは微苦笑を滲ませてしまう。
「本当にあんたって娘は……本気で、大丈夫なのね?」
「ベルさんがいればオイラは元気百倍にゃっ! あと五十年は戦えるにゃっ!!」両腕を振り回して喚くザレア。
「流石にそれだけ戦ってたらあたしが先に死んじゃう気がするわよ!?」思わずツッコミを入れるベル。
「――……ふふ、くはは……」
 不意にくぐもった笑声が響いた。音源を辿らずとも、それがベッドに横たわる男からのモノだとすぐに気づけた。
「何がおかしいのよっ?」口調に怒気こそ混じっていたが、笑みを隠しきれていないベル。
「ははは……いや、済まぬ」笑声を堪え、ゲルトスは小さく頷いた。「貴殿らに迎撃戦を依頼して正解だったと、殊更に強く思ってな。……これ以上に頼りになる狩人など、そうはおらぬだろう」
 そう言ってゲルトスは瞼を下ろし、細く長く鼻息を吐き出した。
「……我輩ももう幾許か若ければ参戦仕るところであるが、止むを得ん。貴殿らに全てを託そうと思う。何としてもテオ・テスカトルを迎撃してくれ……ッ!!」
 横たわりながらも、ゲルトスが力を込めている事が大気を媒体に伝わってきた。
 是非も無かった。ベルは「うん、任せて」と厳かに頷き、「任せるにゃっ!」とザレアも快活に応じた。
 ――その時だった。砂漠一帯に爆音が轟いたのは。

◇◆◇◆◇

「――ッ、ワイゼン様ッ!!」
 ティアリィの怒声が大気を疾走する。その声を認知するより早く、ワイゼンは咄嗟にバックステップを踏んでいた。眼前数センチの距離を、業風を纏って擦過する巨像に、思わず肝を冷やす。
 ティアリィの諫言が無ければあわやと言う事態だった事に、ワイゼンは自らの老いによる衰えに忸怩たる想いを懐いた。現役同然の立ち回りをし続けたために、肉体の損耗が激しい。“たった”八時間の連続運動にさえ追従できないなど、彼にとって認めたくない現実だった。
 徐々に白みつつある世界に於いて未だ燦然と輝き続ける古龍に対し、先に音を上げたのはやはり人間だった。心拍が際限無く上がり、血管が悲鳴を上げている。これ以上酷使し続ければ肉体が先に壊れてしまう。
「ふむ……流石に生態系の頂点に君臨する王だけの事は有るのう、テオ・テスカトルや。ワシゃそろそろ疲れてきたわい」
 常人ならば疾っくの昔に果てているであろう時間を優に超越し、なおも食い下がろうとする老爺は、やはり尋常ならざる“狩人”だった。但しその肉体は既に限界を迎え、一瞬でも力を抜けば膝から崩れ落ちる程に疲弊していたのもまた事実で、ワイゼンはその事実を頑なに拒絶してきたのだが、遂にここに至って緊張感の欠落と言う形で現実に具象化しつつあった。
 一度疲労感を認識してからは早かった。急速な視野狭窄に、動悸、息切れ、そして平衡感覚までもが崩壊していく。このまま戦う以前に、立っている事すら困難な状態へと追い込まれていく。
 それでも、なお、
「――“まだ、終われんなァ”」
 雑巾を絞りきるように、最後の一滴まで余力を使いきる。その選択に至るまでに一瞬とも掛からない。彼の王を相手に死力を尽くさずしていつ尽くすと言うのか。ワイゼンは全身に更なる気魄を漲らせ、殺意の奔流を狩場へ放出する。
「おーい、爺さん! 帰ってクソして寝た方が良いんじゃねえのかァ!?」
 大声でがなり立てるヴァーゼに、ワイゼンはコメカミに青筋を走らせ、「黙らんか若造!!」――と怒声を返した。一瞬前のふらつきが嘘のように確りとした挙措で、古龍を見上げた。その瞳には煌々と戦意の光を湛えている。
「たとえここで朽ちようとも、貴様だけは屠らねば気が済まんのじゃよ、テオ・テスカトル。――あぁそうとも、貴様だけはここで打ち滅ぼさねばならん!」
 それは何も、亡き旧友である【王剣】を想っての行動ではなかった。そしてパルトー王国の存続をも、あろう事か彼は視野に入れていなかった。確かに、両方の想いも確固たる意志を伴って彼を衝き動かしてはいたが、それ以上に勝る想いが、老練たる彼の精神に囁くのだ。
 愛弟子を苦しめた畜生を、生かしてはおけん、――と。
「――ふぅ」小さく吐息を落とし、ティアリィがピンクフリルパラソルのスコープから目を離す。「とは言え、もう残弾も尽きてきた頃ではありませんか? ワイゼン様」
 ワイゼンはその問いには応じず、テオ・テスカトルを睨み据えた。忌々しい古龍。誇りだった戦友を亡き者にし、剰え次代の狩人をも食い散らかそうとしている不届き者。許容など出来ない、ここで死力を尽くして滅する――何れも気概だけで、それを断行する手段が失われつつある事を、ワイゼンは苦々しげだが認めざるを得なかった。
 死力を尽くさねばならない、――ではなく、既に尽くし終えた結果なのだ。これ以上の足掻きは言葉通りの悪足掻きに過ぎず、それが良質な結果を生み出す筈が無いと、聡明な彼は否応無く理解せざるを得なかった。
“敵わなかった”と、キャパシティを超えた結末を認識しなければならない段階にまで、既に辿り着いている。
 テオ・テスカトルは静かにワイゼンを見下ろしていた。沸々と湧き上がる憎悪の眼差しは衰えを知らない戦意に燃え、かつて拝顔した時と変わらぬ雄々しき双眸を湛えていた。孤高の王。余人には辿り着けぬ域に佇む暴虐の主に、ワイゼンは――破顔一笑した。
「本当に憎らしいのう、ヌシは。“王”として、完膚なきまでに屠らずにはいられんと言う事か、――のう? テオ・テスカトルよ」
 己より何倍も卑小な存在である狩人を相手に一度として退かず、狩人が敗走を始めても追わず、あくまで、そして何よりも“闘争”の形を取り続けた彼は、確かに王として申し分無い程の器量を有していた。正面からぶつかり、眼前に沸き出る俗物を悉く撃滅した瞬間を初めて勝利とし、凱旋としてパルトー王国を蹂躙するつもりだろう。相手がモンスターである事を忘れてしまいそうな程に、“戦”に対して高潔な意識を有しているのだと思わせられた。
 人間が囀りを始めたら動きを止め、小休憩にもならない“猶予”を与える。人間の言葉を理解し得る知能をも有しているのではないかとも思わせられ、ワイゼンは古龍と言う存在の偉大さに幾度と無く琴線が触れた。併し、彼の存在とは共存は不可能だとも、心の奥底では理解していた。あくまで“闘争”の形で接する相手である。王が納得し得る形での終焉でしか、この戦は終わるまい。
「――ワイゼン様ッ!」
 ティアリィの怒号が弾けた。彼女には、恐らくワイゼンが死を選んだように映ったのだろう。そしてそれは、――強ち間違いではない。ワイゼンは王の懐の広さに負け、また彼の存在の厚みに敗北を喫していた。
「じゃがのう、テオ・テスカトルよ。心しておくが良い。ワシの愛弟子はのう、何れワシを超える。その時こそ、ヌシは――――」
 その後、何と続くかなど、知りたくなかった。知る瞬間など、想像すらしたくなかった。
“もう用は無い”――そう言いたげに小さく唸ると、暴虐の王は駆け出したのだ。一寸の狂いも無く、ワイゼンの元へ。
 もう間に合わない。ワイゼンの痩躯など一瞬にして破壊する力を漲らせ、重量の有る巨像が轢き潰す――――
 誰かが叫んでいる。恐らくはあの喧しい青年だろう。ワイゼンの意識はハッキリしていた。眼前に聳える巨像が向かってくる、特大のスクリーンが映っている。どこからか弾丸が飛翔しているのも見える。ティアリィが何とか巨像の突進を食い止めようとしているのだろう。が、彼女の弾丸だけでは怯むまい。最早命の灯火が吹き消されるのも目前だった。
「……やれやれ、最期の台詞くらいちゃんと言わせて貰いたいもんじゃのう」
 戦意が失せたと認識した途端に牙を剥くテオ・テスカトルに、ワイゼンは呆れて嘆息を落とした。若者はもっと年寄りの話をちゃんと聞くべきじゃ、と愚痴を零す余裕すら有った。悔いは有っても、自身では為し得ぬ事ならば何れ受け入れねばならなかった。
 ――どうせなら、ハーレムを築いて、娘共に揉みくちゃにされながら死にたかったわい。
 そう微苦笑を浮かべて――――ワイゼンは、ふっと目を閉じた。
 砲弾が炸裂するような砂を噛む音が眼前で弾けた。それが、テオ・テスカトルの足踏みの音だと信じて、せめて楽に殺してくれ――と念じたその時だった。
「逝くのにゃっ、ヒロユキ二世ィィィィッッ!!」
 ネコの喚声が弾け、続け様に爆音が轟いた。
 至近距離で何かが爆発した。にも拘らず痛覚が震えない。何が起こったのか理解の範疇を超え、思わずワイゼンはそっと瞼を持ち上げた。
 理解を超えた現象は、現在進行形で続いていた。
 テオ・テスカトルが視界の随分と遠く離れた場所で蹲っている。顔は真っ赤に燃え上がり、突如として湧き上がった痛苦にのた打ち回っている。そして、テオ・テスカトルの手前には――見覚えの有る〈アイルーフェイク〉だけの奇抜な格好の少女と、あまりにもでか過ぎるタル爆弾の姿。
「やいやいテオ・テスカトル! これ以上の狼藉は〈アイルー仮面〉のオイラが断じて赦さにゃいにゃっ!!」
 啖呵を切って古龍を指差している者は、最早疑う余地は無かった。先刻戦線離脱した、爆弾狂の超人娘――――
「――ちょっと、勝手に死なないでくれる? ――師匠」
 ポン、と肩を叩かれるまで全く気づかなかった。背後に立つ少女は、凛々しい顔立ちをした己の愛弟子――――
【猟賢】が二の句を継げなくなっているのを横目に、彼女は前に進み出、黎明を思わせる鮮やかな紺色の髪を掻き上げた。
「死ぬならせめて、財産を全部あたしに寄贈するって遺書を書いてからにしてよね?」
 そう言って彼女は背に負った弓を構えた。
 黒い、禍々しさを湛える、弓を。

【後書】
 地上最強系のハンター達ですら、八時間以上ぶっ続けで戦闘し続けてもなお、健在であり続ける王。
 古龍、生態系の頂点と言わしめるのですから、人外が揃ってもこれぐらいの時間は余裕で掛かるだろうな、って見通しでした。世界観的にもっと大人数で挑むであろう古龍迎撃戦を高々数人程度で挑んでいるのですからね、そりゃ時間も掛かるよねって…w
 物語もいよいよ佳境を迎えております。最終回まで残り5話! まだまだ熱くなりますよう!! お楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    命の遣り取りする者同士の信頼関係というか侘び寂びの趣が伝わる回ですねー。
    さすが王というところか。
    今はハンター絶対に殺すマシーンが多いからなぁ…信頼もへったくれもねぇですよw

    そしてワイゼン翁、かっこいいじゃないですかv
    「愛弟子を苦しめた畜生を、生かしてはおけん」
    これはかっこよすぎです!

    そしてそして、最後に登場する二人がめっちゃかっこいいじゃないですか!(2度目)
    王に啖呵を切るネコ娘wそして師匠を越えようとする愛弟子…
    これはかっこよすぎです!
    これに”彼”が合流すれば完璧!!

    残り5話あつすぎて扇風機過労死しちゃうかもw

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      命のやり取りをする者同士の信頼関係というか侘び寂びの趣…!
      もうこれが伝わったのなら何も言う事が無いレヴェル…!┗(^ω^)┛
      ハンター絶対に殺すマシーンwww確かにwww

      ワイゼン翁カッコいいですよね!w
      その台詞とかね、中二感がぎゅんぎゅんしてるのでね、綴ってても堪らんのですよ…!w

      最後の二人のシーンは最高にかっこよく仕上げました…!!!
      もうそのシーンがカッコ良ければ全て良しまである…!w
      ですです! 後はもう彼が合流するのを待つだけです!!( ´∀`)bグッ!

      しっかりTwitterも見てるんだからも~!ww 有り難う!www

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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