2019年7月27日土曜日

【ベルの狩猟日記】120.出陣【モンハン二次小説】

■あらすじ
守銭奴のベル、天然のフォアン、爆弾使いのザレアの三人が送る、テンヤワンヤの狩猟生活。コメディタッチなモンハン二次小説です。再々掲版です。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【風雅の戯賊領】、【Pixiv】の四ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター コメディ ギャグ 二次小説 二次創作 P2G


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/135726/
【Pixiv】https://www.pixiv.net/novel/series/339079
■第120話

120.出陣


 パルトー王国大門前では夜が更け、空がやがて白み出した刻限に至ってもなお、戦況は変わっていなかった。
 絶え間無く湧き続けるガブラスを相手に、騎士団は既にほぼ全員が体力を消耗して国内へ戻り、今や戦場となっている門前には四人の狩人の姿しか残っていなかった。
「オンドレはこの国の姫じゃろうが! とっとと戻って休んどれ! 後はワシ達が何とかするけえ!」
「なりませんですわ! それに今は姫ではありません! 一人の狩人と見てくださいませっ、ですわ!」
「あぁんっ、何て頼りになる姫様なのかしらぁんっ! あちし、惚れちゃいそう!」
「何か色物パーティって感じがするねっ! お姉さんはこんな時でも客観的に自分達を見る事が出来るのさっ!」
 討伐隊正式銃槍を振り回しながら怒号を張り上げるギースに、毅然とプリンセスレイピアで戦うエルが吼え、バストンメイジと呼ばれるヘビィボウガンをぶっ放しながら腰をくねらせるアネが続き、ホーリーセーバーを絶え間無く振るい続けるロザが締め括る。
 一見すると不思議な組み合わせの四人だが、誰もが腕に覚えの有る狩人ばかりだったため、互いに補い合うように立ち回る事が出来、時間にして半日以上も動き回っているにも拘らず、彼らから気力が損なわれる事は無かった。
 但し、少なからず疲弊を被っていたのは事実だ。動けなくなる程ではないにせよ、多勢に無勢と言う戦況を覆す事が出来ない現状、このままではジリ貧だった。何か突破口さえ開ければ――そうは思えど、ガブラスは常に宙を旋回し降下して攻撃を仕掛けてくる厄介なモンスターであるため、常に注意を上に向けていなければならない状態に陥り、迂闊に休息を挟めないどころか、常時警戒心を保たなければならないために心身は磨耗し、更に攻撃が当て難い事がストレスを増発させる。
「えぇいっ、はぁんっ、てぇいっ!」
 アネが所持するヘビィボウガン――バストンメイジが撃てる弾種である散弾を使う事によって、頭上を旋回するガブラスを纏めて撃墜する事も出来るのだが、如何せんその野太い嬌声がギースにとって耳障り以外の何物でもなく、彼が「あぁんっ、てぇいっ!」などと喚き散らす度に戦々と気持ち悪さと苛立ちに全身が震えた。
「じゃかあしいんじゃオンドリャァ!! どうにかならんのかその声ェ!?」
 堪りかねて叫び散らすギースに、一瞬誰の事で怒っているのか、三人が三人とも気づかなかった。
「すっ、済みませんですわっ! もう少し音量を下げますですわっ!」慌てて縮こまる姫様。
「い、いや、オンドレじゃのうて……!」慌てて声を上げるギース。
「お姉さんの大声には目を瞑りなさいっ! お姉さんは熱くなると大声になっちゃうのさ!」開き直る形のロザ。
「いやロザ姐でも違うけえ……!」寧ろ正すべき相手は一人じゃないのか? と言いたげに冷や汗を流し始めるギース。
「あぁんもうっ、ギースちゃんったらワガママなんだからぁんっ! 良いじゃないっ、可愛い娘達の声なのよぅ? 寧ろ興奮しなさいよぉんっ!」ポーズを決めるアネ。
「オンドレじゃオンドレェェェェ!! シバキ倒すぞグルァァァァ!!」遂に爆発するギース。「オンドレのケッタクソ悪い声のせいでテンション駄々下がりなんじゃ!! ちょっと黙っちょれ!!」
 その瞬間、アネの瞳にブワッと涙が込み上げた。
「あぁぁああああんっ!! ギースちゃんが苛めるぅぅぅぅっ!! いたいけな、か弱い、華奢な娘を相手に怒鳴り散らすわぁんっ!!」
 そう言って冷たくなっている砂漠の地にアヒル座りでしゃがみ込んでしまうアネ。ガブラスの大群を前にしてする行動ではない。ギースに言わせればまさに狂気の沙汰と言うべき所作だった。
「いたいけ!? か弱い!? 華奢!? 娘!? オンドリャ言葉の意味を悉く履き違えとるぞ!! いたいけで、か弱い、華奢な、娘っちゅうのは、そっちの姫様の事を言うんじゃボケェ!!」エルを指差して吼え滾るギース。
「あっ、えとっ、そ、そんなっ、照れますわ……っ!」途端に頬を赤らめてギースから顔を逸らすエル。
 その瞬間、ギースの頬が発火したかのように赤くなり、慌てて「いやその、そんなつもりじゃのうて……っ」と何だか変な空気になってきたのを自覚する。
「おやおや~? ギース君ってばベルちゃんからお姫様に鞍替えかいっ? お姉さんは何でもお見通しなのさっ!」ここぞとばかりに言葉を差し挟んでくるロザ。
「ちちち違うんじゃ!! そんなつもりじゃないけえのう!!」必死に否定するギース。
「あんっ、狼狽えるギースちゃんってば、か・わ・い・い♪ ちゅっ☆」投げキッスをするアネ。
「オンドリャ一生黙っとれェェェェエエエエエエッッ!!」
 咆哮を上げながらも、ギースは手を止めずに頭上を舞うガブラスに向けて砲撃を浴びせていた。併し当たらない。こちらが攻撃に転じようとすると上空へ逃げ、砲撃を浴びせるためにリロードを行おうとした時を狙って下降して来る彼らに、ストレスは溜まる一方だった。
 ガブラスが音に弱いのはこの場に居合わせる狩人なら誰もが知っている。従来の狩猟ならば、“音爆弾”と呼ばれる、“爆発すると高い周波数の快音を発する手投げ爆弾”を用いて、ガブラスの半規管を揺さ振り、地面へ落としてから狩猟を行うのだが、ここに音爆弾は無い。いや、元は有ったのだが、全員が持ってきた音爆弾全てを使い尽くした今、既に手元に一つも無いのだ。
 使い果たした時点で既に何十頭と撃滅していたのだが、それだけでは全体数を削るには全く足りなかったのだ。以降は止むを得ず宙に浮かぶガブラスを相手にひたすら惑わされながら攻撃を加える他無かった。
 故に、ギースのように感情的な声が上がるのも無理は無かった。皆が一様にフラストレーションを溜めているのだ。自分の刃圏で戦えない事に、己のペースで挑めない事に、少なからぬ苛立ちを蓄積しつつある。先刻のギースのようにいつ激情が爆発してもおかしくない状態に有った。
 そして精神を極限まで削った先に有る“隙”こそが、ガブラスにとって格好の獲物になるのだ。ちょっとした隙を見せる度に細長い尻尾でどつかれ、体のあちこちに痣が刻まれていくのが装備の上からでも分かる。そんな環境に長時間身を置くだけで精神は際限無く磨耗して行く。
「…………?」
 ふと、エルは視界の奥に不思議な“闇”を見た。もう辺りは黎明を迎え、月明かりが湛えられた世界は均衡を崩し、白み出した世界が徐々に熱を帯びていく、そんな世界に蹲る闇。一瞬見間違いかとも思ったが、――違う。この世界に於いて有り得ない生物がこちらへ向かって来ている事を理解する。
 俊敏な動きで迫り来る“それ”は、初めて見るモンスターだった。そしてそれは、この迎撃戦に於いて最悪の結末へと加速させ得る障害になるだろう存在でもあった。
「アレは……ッ!?」
 エルの悲鳴染みた声に、三人の狩人も気づいた。明けようとする世界に現れた漆黒のモンスターに。
「まさか……このタイミングで新手けえのう!?」ギースの悲痛な声が響き渡る。
 既にガブラスとの抗戦で回復薬等の道具類も尽きかけている現状、更に大型のモンスターを相手にする事など、肉体的にも不可能だった。絶望が心の奥底から滲み出てくる。万事休すと言う単語が脳裏を過ぎった。
「――いいえ、違うわぁん!」三人の狩人が絶望の淵に立たされた瞬間、アネは叫んだ。あくまで野太い猫撫で声を保ったまま、先を続ける。「最高の助っ人の登場よぉんっ!」
“助っ人”? と皆が一様に理解不能な単語に眉根を顰めたその時だ。漆黒のモンスターは機敏な――有り得ない程の俊足で狩人の眼前へ飛び込み、彼らを捻り潰せる距離で静止した。艶がかった黒い体毛を靡かせ、長く細い尻尾をビタンビタンと黄砂の大地に叩きつけ、「グルゥゥゥゥアアアアアアアアアッッ!!」――咆哮を奏でた。
 その瞬間、狩人は皆一様に耳に手を当てて蹲る。敵意を剥き出しにした咆哮を浴びたのだ、即座に行動を拘束され、咄嗟に動き出す事が出来なくなる。原初の感情を呼び起こされた彼らは“殺される”と意識せずにはいられなかった。
 だが、その咆哮は決して狩人だけに注がれたモノではなかった。
「ギィィッ!?」
 金切り声を上げて遥か頭上から墜落してくるガブラス。音爆弾に近い周波数だった漆黒のモンスターの咆哮を受けて堪らず落ちてきたようだった。
 無数のガブラスが黄砂の大地でのた打ち回る光景を作り出したモンスターはと言えば、狩人には目も暮れずにガブラスに向かって飛び掛かって行く。自然界では有り得る光景であろうそれは、この場に於いては一種異様な光景に映った。
「――御機嫌よう、マドモアゼル・アネ」
 漆黒のモンスターがガブラスへ飛び掛かった瞬間の出来事だ。まるでモンスターの影から湧き出たかのように忽然と姿を現したのはモス――に擬態した人間だった。四つん這いのままこちらへテコテコと歩み寄り、すっくと立ち上がった彼――モス紳士は優雅な礼を取った。
 アネに続いてまたも理解の範疇を超えた存在の登場に、ギースは目を白黒させる。それから漆黒のモンスターへと視線を投げるが、一向に狩人を襲わないどころか、パルトー王国には見向きもしない。そして何故かその背の上には凄まじい格好をした幼女が乗っているように見える。
「あぁんっ、お久し振りですバンギ様ぁんっ! こんなところでお逢いできるなんてっ、あちし感激っ!」
 腰をくねらせて頬を赤らめるアネに、モス紳士――バンギは〈モスフェイク〉に仄かな友好的な笑みを刻ませると、腕を広げて応じた。
「マドモアゼル・アネもご健勝そうで何よりだよ。――どうやら新たな時代の幕開けのための幕引きに間に合ったようだね」そう言ってバンギは遥か彼方――ここではなく、“戦場”を見据える。
「オ、オンドリャ一体……!?」
 ギースの質疑は、アネを除く狩人全員の想いを代弁していた。モンスターを従えて現れたモスシリーズの狩人と言う時点で常軌を逸していたが、彼は武器を持っているように見えなかったのだ。モンスターに戦わせるのだとしても、そんな事が可能なのか。彼を見れば見るほど疑問が溢れ出てくる。
「おや? 小さい頃に顔を合わせた事が有ると思うのだが……憶えていないかな? 私だよ、ムッシュー・ギース」そう言って〈モスフェイク〉を持ち上げ、精悍な紳士の顔を見せるバンギ。
「!? も、もしかして……ッ!?」「――旦那様のお友達のバンギさんかなっ!?」ギースの言葉尻を取って喚声を上げるロザ。「随分と変わったねー! お姉さんはビックリだよ!」
「十年以上逢ってなかったか。君達も逞しく成長したね。私は純粋に嬉しいよ。ムッシュー・ワイゼンに師事していると言うからどんな風に育つか興味が尽きなかった……」懐かしげに目を細めるバンギ。「さて、君達は少し休みたまえ。夜が明けきるまで私と彼女達が彼らの相手をして差し上げよう」そう言って四人に背を向けるバンギ。
「ちょっ、バンギさん! あのモンスターは何じゃけえのう!? 彼女ってどういう事じゃ……っ!?」必死な仕草で漆黒のモンスターを指差すギース。
「彼女は私の姑にあたるらしくてね。因みに背に乗っているのは私の嫁らしい」曖昧な表現で言葉を濁すバンギ。「何、不安がる必要は無いよ。彼女達は私達に友好的なんだ。共に次代に移ろう瞬間を見るために連れて来たに過ぎない。それに、最前線に比べたらこの程度の艱難、どうと言う事は無いからね。ゆっくり休んできたまえ。次代を迎える刻はもう間近なのだから、その時のためにも、ね」
 そう言ってバンギは歩き出した。――四つん這いで。
「姑……? 嫁……?」困惑しきりの様子で言葉を失くすギース。
 キザな台詞を吐き散らした割には酷い仕草でガブラスの群れへと突っ込んで行ったモス紳士に、エルもギース同様、掛ける言葉を失っていた。何がどうなっているのか理解の範疇外の上に、勝手にモンスターを引き連れてガブラス退治へと乗り出した、その全ての展開に付いて行けない。
「あの方って、一体……?」エルが恐る恐ると言った態で三人を見上げる。
「あらん? 姫様は知らなかったのかしらぁん? バンギ様はねぇん、ワイゼン様に並ぶ……いいえ、軽く凌駕する位の実力を有する狩人なのよぉん♪ 達人クラスの更に上、超人クラスの狩人なのぉん♪ 何せ、ギルドナイツ騎士長ヴァーゼちゃんのお師匠様なんだからぁん!」
 アネの発言に虚偽が混じっている事は無いとは理解していたが、半信半疑だった。尤も納得できる面も少なからず有った。実力が頂点に近ければ近い程、“変わった”人間が多いと言う点では頷かざるを得なかったのだ。
 そしてアネの発言通りの行動を始める。ぴょんっ、と軽い跳躍でガブラスの旋回する地上十メートル近くまで跳び上がり、その長い尻尾を掴んで叩き落としたのだ。その一撃だけでガブラスは逝去し、グッタリと黄砂の大地に横たわる。後はその作業の反復だけだ。何もかもが常軌を逸している。
「相変わらずだなー、バンギは」
 そんな異常事態を目の当たりにしていた四人の背後から、少年の声がした。
 驚いて振り返った先には、レックスシリーズを纏う大剣使いが、確りとした足取りで大門を潜り抜け、砂漠地帯へと足を踏み入れて行く姿が有った。
「フォアン様ッ!?」頓狂な声を張り上げるエル。慌てて駆け寄り、心配げに顔を覗き見る。「あんなお怪我をされていたのに、もう動いても……っ?」
「俺は問題無いさ。この程度で音を上げてたら、あいつにまた叱られちまう」
 そう言ってばつが悪そうに笑むフォアンに、エルは惚れ直したと言わんばかりに頬を紅潮させた。
「オンドリャ、今度倒れてみぃ? そん時ゃワシがお嬢を無理矢理にでも連れ戻すけえのう!!」フォアンを指差して吼えるギース。ヘルムの奥の顔に笑顔が刻まれていた事は、誰にも見えない筈なのに誰もが分かってしまった。
「これが愛の力なんだねっ! お姉さんはロマンチストでも有るのさっ!」双剣を握り締めたままグッと親指を立てて腕を伸ばすロザ。
「あぁんっ、やっぱりフォアンちゃんはそうでなくっちゃねぇん! あちしっ、惚れ直したわぁんっ!」悍ましい動きで頬を赤らめるアネ。
 四人の反応を受け取ったフォアンは、「じゃあ、ここは任せた。あっちは、任せてくれ」と言って駆け出した。
 その後ろ姿には一切の迷いが無かった。それを見送った四人は同じ感想を頭に浮かべていた。
 曰く――負けていられない、と。
 黎明の空を駆ける少年の姿は、やがて遠く、見えなくなる。

【後書】
 オールスターでお送りしております! ただたぶんですけれどこれ、バンギさんが王様と戦えばサクッと捻り潰してくれそうな予感がするんですよね…w
 と言う邪推はさておき、夜の砂漠にナルガクルガは現れないものですけれど、その辺は設定をガン無視です! 助けに来たから別に良いんだ! と言う週刊少年誌的発想で宜しくお願い致します!(笑)
 残り4話! 彼も復活してまだまだ熱くなりますよう! きっと台風もこの熱さで蒸発したんでしょう!ww 次回もお楽しみに~!

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    遅れました、すまぬ…

    バンギ様まで…ほんとオールスターですv
    そしていよいよ次代に移り変わろうとする世界、まだまだ熱い展開が期待できそうですwもちろん台風だって熱帯低気圧になっちゃいましたしw

    バンギ様だし細けぇこたぁいいんだよw

    復活のフォアンくん、思わず涙です。頑張って!!

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv


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    1. 感想有り難う御座います~!

      いえいえー! お待ちしておりましたずい…!┗(^ω^)┛

      ですです! もーここまで来たらね! バンギ様も出しますよね!w
      >いよいよ次代に移り変わろうとする世界
      この表現がも~好きでニヤニヤが止まらなくなりました…! 有り難う…!!
      台風も熱帯低気圧になっちゃいましたし!ww やはりこの熱がね!ww 効いたんでしょうな!wwww(笑)

      もうそれwwwそれしか言えない奴wwwww(笑)

      フォアン君の戦いはここからです…! 応援宜しくお願い申し上げまする~!!

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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