2019年7月30日火曜日

【ベルの狩猟日記】121.灼熱の攻防戦〈4〉【モンハン二次小説】

■あらすじ
守銭奴のベル、天然のフォアン、爆弾使いのザレアの三人が送る、テンヤワンヤの狩猟生活。コメディタッチなモンハン二次小説です。再々掲版です。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【風雅の戯賊領】、【Pixiv】の四ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター コメディ ギャグ 二次小説 二次創作 P2G


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/135726/
【Pixiv】https://www.pixiv.net/novel/series/339079
■第121話

121.灼熱の攻防戦〈4〉


弓を構える。弓手を引き、視線は射線上に浮かぶ顔。立ち上がりかけた姿勢からこちらへ突進して来る事を予測し、力み過ぎない程度に弦を引き絞り――射る。シュンッ、と軽やかな音色を奏でた弦より射出された矢が、テオ・テスカトルの額を撃ち抜く。
「ギヒィッ!?」
先刻までワイゼンが射続けていた矢でさえ弾かれるか、辛うじて突き刺さる程度だったにも拘らず、ベルの放ったそれはテオ・テスカトルの肉体の奥深くまで喰い込んでいた。人間と同等の痛覚が有れば悶絶どころの騒ぎではない筈だが、テオ・テスカトルは眩暈を振り切るように頭を回すと、再び瞳に憎悪の炎を灯らせ、眼前に現れた敗走者を睨み据える。
威風堂々として佇む少女からは、敗走した時に感じられた焦りや迷いは一切感じられなかった。“吹っ切れた”と言う表現が似つかわしいだろうか。澄み切った表情で、王たる龍を見上げている。その瞳には周囲に屯する狩人が宿す、憎悪や執念と言った感情とは程遠い色が滲み浮かんでいた。
「――あんた、あたしの事、憶えてる?」
弓を構えた姿勢のまま、少女が呟きを落とした。無論、古龍である王にはその言語を理解する事は出来まい。けれども王は、静かに切り出した少女に対し、即座に反撃を繰り出す事は無かった。小さく唸り、少女の言を促す。
「勿論、さっき逃げ戻った時の事を言ってるんじゃないわ。もっと昔――ずっと過去の話」
現状を理解していないとは思えないが、少女の口調はハッキリとしていた。ここは戦場であり、併も話しかけている相手は言葉の通じないモンスターであるにも拘らず、その発声に惑いは無く、淀みも無い。熱は少なからず感じられたが、あくまで語調は淡白としたモノだった。
周囲の狩人も、彼女が何を言いたいのか理解が及ばないのだろう。攻撃の手を休めて、少女の声に耳を澄ませている。風の止んだ黄砂の大地は、耳が痛くなる程の静寂に満ちていた。
「あんたさ、トレゾって村、――襲わなかった?」
その単語を耳にした瞬間、一人の老爺が目の色を変えた。咄嗟に何か言葉を発そうとしたが、失敗してしまう。ここで口を挟んだところで、彼女の意志は変わるまいと、老爺は気づいたのだ。
無論、古龍である王は少女の言葉を理解する事は無い。だがその真摯な瞳が、何物よりも雄弁に物語っているように、――少女には、思えたのだ。
「まっ、そんなの確認のしようが無いんだけどね」そう言って少女は構えを崩さぬまま、新たな矢を引き絞り、王へ無慈悲な笑みを見せた。「仮にあんたじゃないとしても、ここもあんな風にされたら堪らないから――あたしの名に懸けて屠ったげるわ!」
矢を放つ。大気を切り裂いて飛翔するそれは、テオ・テスカトルが反応して躱せる類の速度ではなかった。再び眉間を射抜いたそれは、まるで錐で果実を刺し貫くように容易く穿ち、鮮血を撒き散らす。
「グルルルァァァァァアアアアアアアアアッッ!!」
怒号が駆け抜けた。彼とて、的となるためにそこに佇んでいた訳ではない。――愚民の進言を聞くだけ聞いてやったに過ぎない。下らない与太話が済めば、最早その者に用は無く、ただ邪魔になると言う理由のみを以てして駆逐するだけだ。
「ザレア!!」
幾許かの距離を取っていたベルには、テオ・テスカトルの咆哮が拡散して届くだけで、原初の恐怖による拘束は免れていた。至近距離には狩人はおらず、皆が臨戦体勢に戻っていく。
その最中、ベルは一番古龍に近い場所で待機していた少女へ声を飛ばした。彼女は「にゃいさーっ!」とフォアンのように確りとした敬礼を返すと、ここまで持って来た巨大な――大タル爆弾Gをも超える巨大なタル爆弾を頭に乗せ、――全力で駆け出した。
テオ・テスカトルは突進を始めている。その直線上に立っている狩人はベルとワイゼンだ。ワイゼンは咄嗟に回避に移ろうとして――足を縺れさせてしまう。既に肉体は限界を超え、遂にそれが表層に現出した。
「ヴァーゼッ! 早くご老体を連れて離脱してッ!」
まだテオ・テスカトルとの距離は離れていたが、そんな最中に叫ぶ内容ではないとワイゼンは思ったが、次の瞬間にはフンドシ青年に担がれていた。いつの間に距離を殺したのか理解できない速度に、ワイゼンは苦笑と共に納得してしまう。なるほど、此奴なら有り得る動きじゃ、と。
「ったく、だから言ったじゃねェか、クソして寝とけってよォ!!」大声で文句を吐き散らすヴァーゼ。「仕方ねえから嬢ちゃんに美味しいトコやってやんよクソッ!!」吐き捨てると、テオ・テスカトルに向き直る。「代わりに最後に一発置き土産くれてやがるッ!!」
テオ・テスカトルの突進はトップスピードに乗り、最早人間如きが止められる速度ではなくなっている。轢死は確実と言う勢いで迫り来る巨体に、ヴァーゼは敢えて拳を振り被るだけで応じようとしていた。
「何をするつもりじゃヌシは!? 背にワシが乗っておる事を忘れてはおらんだろうな!?」ヴァーゼの背で絶叫を奏でるワイゼン。
「るせェバカヤロウ!! 俺ァカンカンなんだよッ!! 待望の獲物が次代に取られちまいそうなんだからなァァァァッッ!!」ギリギリと限界まで拳を振り被っていくヴァーゼ。
「ちょっと!? あんた死ぬ気なの!? あたし、師匠を連れて逃げろって言ったわよね!?」
突進を躱すつもりだったベルは既に二人とは距離を離し、側面からテオ・テスカトルを迎撃する体勢を整えつつあった。その視界に映る二人の言い争いに、彼女は眼球を落っことしそうになるほど狼狽した。
テオ・テスカトルが距離を殺すのに時間は微塵も要らない。あっと言う間に彼我の距離が死に、二人の轢死体が出来上がる――
そんな最悪の想像を懐いたのは、奇しくもベルとワイゼンの師弟だけだった。
「ハァァァァァアアアアアアアアアッッ!!」
ボンッ、と空気が弾ける爆音が、大気を脅かした。
コマ送りのように映像がゆっくりと流れる。意識が速度を増しても追いきれなかったヴァーゼの拳。拳の振り抜きが高速過ぎたために大気が破裂し、音の壁を破壊していた。その最高速とも言える拳を受け止められる程、テオ・テスカトルの顔は硬くなかったのだろう。鼻を中心に撓むように凹み、「ギャゥアアア!?」と仰け反って倒れ込む。鼻からは多量の血液が流れ出し、瞳には涙すら浮かんでいるように見えた。
渾身の力を放ったのか、ヴァーゼは拳を振り抜いた体勢のまま深く細く呼気を吐き出し、静かに筋肉を冷却していく。そこには先程までの爆熱の気概は無く、冷めきった鉄のように落ち着いた色が浮かんでいた。
「さーて、んじゃまっ、老兵は死なず、ただ消え去るのみと行くかァ。後は任せたぜっ、嬢ちゃん!」
仰け反って怯んでいるテオ・テスカトルには一瞥すらくれず、ヴァーゼは暢気な歩調で踏み出した。背に乗っているワイゼンは一瞬にして老け込んだかのような表情でグッタリとしている。この戦いが終わった後の師匠の精神が気懸かりになってしまうベル。
「ベルさん」
テオ・テスカトルがもんどり打っている光景を見つめていると、ふと近くで声が弾けた。聞き覚えの有る、そして狩場では一度として聞いた事が無い者の声だ。振り返らずとも解る。そこにメイドが立っている事は。
「貴女ならきっと戻ってくれると思っていました♪ ……私の見立てが正しければ、間も無くこの戦いは終わるでしょう。その瞬間を、ここで見届けさせて頂いても宜しいですかっ?」
ティアリィの表情は、ベルが否定などする訳が無いと言わんばかりの、快晴に似た笑顔だった。八時間以上の迎撃戦を経てなお、その顔には疲労の影が見えない。一体どれだけの鍛錬を積めば彼女に至るのか、ベルには見当も付かなかった。
そして、ベルにはその申し出を断る理由が無かった。
「後で聞かせなさいよっ? どうしてこんな所で戦ってるのかとか、色々!」
ティアリィを指差して宣言するベルに、ティアリィはいつものニコニコ笑顔を崩さずに頷いた。
「ヒロユキ三世! ごーいんぐにゃうっ! にゃっ!!」
よく分からない台詞を吐き散らしながら、ザレアがテオ・テスカトルへ飛び掛かった。手には異様な大きさのタル爆弾が載っている。大タル爆弾Gより更に大きい、パンパンにタルが膨れ上がった爆弾。それを起き上がりかけていたテオ・テスカトルの頭上へ、――あろう事か放り投げた。
弧を描いて宙を舞う爆弾。その光景を見るのは、実は二度目だった。
一度目は、先刻ワイゼンを屠る寸前の出来事だ。尋常ならざる速度で砂地を駆け抜けたザレアは、突進を敢行していたテオ・テスカトルの眼前に立ち塞がり、爆弾を盾に彼を庇ったのである。
常識的な価値観で言えば、それは自殺行為以外の何物でもなく、死ぬ気かとベルも我が目を疑った。――否、ヴァーゼ以外の誰もがザレアは自らの命を犠牲にしてワイゼンを助けようとしたと思った。――が、現実はそれを履行しなかった。
理由は単純明快。あの爆弾は――――
爆音が轟き、テオ・テスカトルだけでなく、至近距離にいたザレアをも爆炎が舐めていく。テオ・テスカトルの絶叫をも掻き消してしまう爆発である、離れた場所で見守っていたベルやティアリィの元には黄砂の入り混じった爆風が颯爽と駆け抜けていく。
ベルもティアリィも、先刻起きた現象を鵜呑みにした訳ではない。天命とでも言うべき神の悪戯によってザレアは爆発を免れたのだと認識した。それだけの威力を伴った爆弾なのである。どう足掻いても黄泉路に旅立つ事は確定事項に思えてしまう。
――尤も、ベルはそうならない事を事前に知っていた。
「……あの爆弾ね、さっきベースキャンプを出る時に、獣人族から貰ったの。何でも……“爆造のロージョ”と言う人の最高傑作らしいんだけど……ティアリィ、知ってる?」
砂煙が徐々に晴れていき、甚大なダメージを被ったテオ・テスカトルの姿と、
「――なるほど、得心できました。“爆造のロージョ”と言えば、タル爆弾製造の第一人者。何でも、モンスターに過剰なまでのダメージを与えつつも――」
――無傷の〈アイルー仮面〉の姿が、飛び込んでくる。
「――“人体には無害”の爆弾を製造できるとか……」
ベルは小さく顎を引く。一見は百聞に如かず。現在進行形で視野に飛び込んでくる情報こそが真実だった。
そんな与太話、ベルも半信半疑だったが、これだけまざまざと見せつけられては否定する事など出来なかった。
「――さて、とっ」
休憩は終わりだと言いたげに漆黒の弓を構え直すベル。ティアリィはその弓を眺めて、感嘆の吐息を零す。
「……ブラックボウⅡ、ですね」
「――知ってるの?」思わず問い返すベル。
ティアリィが小さく頷く。「ラウト村に古くから祀られている黒色の塊が在るのですが、それを用いた武具が幾つか、アネさんの手によって世に出されているのです。その一つがそれ……ブラックボウ。アネさんが真に認めた相手にしか作らない、特注品の中の更に特注品です。私が見るのは、それで二本目ですが」
「……もしかして、一本目って……?」恐る恐る尋ねるベル。
「ベルさんの想像してる方で合っていると思います♪ 師弟で授与されるなんて、流石だと言わざるを得ませんね♪」
ティアリィの笑顔を見て途端に複雑な想いに駆られるベル。師匠と同等の素質が有ると言われて果たして素直に喜ぶべきか悩んでしまう。特にあの性癖を意識すると、どうしても同類と見られたくない想いが強くなってしまう。
「後は任せて! ……なんて、大それた事言えないけれど、ここまで来たんだもん、やるだけやらないと溜飲が下がらないってもんよ!」そう言うベルの表情は厳かでありながらも晴れやかだった。迷いの消えた、青空のような顔をしている。「じゃ、行くわ。いい加減、終わらせるわねっ!」
ベルが快活に吼えた時を同じくして、テオ・テスカトルも爆撃の衝撃から立ち直り、ゆっくりとその巨体を持ち上げた。あれだけの爆撃を二度も受けてなお、その尊顔から戦意が失せる事は無かった。先刻まで矛を交えていた好敵手が消え失せた事に対して嘲笑しているようにさえ見える。
泰然自若たる王に向けて、ベルは駆け出した。
黎明は光を増し、やがて来るだろう陽光を迎える段取りを整えつつある。

【後書】
世界は狭いなーと言う展開と言いますか、実は全ては何かしらどこかしら繋がっている、と言う設定が好き過ぎでしてな…! ここまで来たら、もうこことここも繋がる他無いでしょう! と思いながら綴っておりましたよね…!
いよいよ大詰めです。後は彼の訪れを待つだけ! 落着は間も無く! お楽しみに~♪
※追記
蛇足of蛇足ですが、このサブタイトル、実は誤植だったりするんですよね…!w 完結した後に「あれ? これ何か違わない…?w」って気づいても~モダリスト三世になったのですが、折角ね、当時はこのサブタイで通した訳ですから、リメイク版も通す事にしました…!w
と言う裏話をこっそりとw いやー、攻略本と睨めっこしてたのですが、思い違いが働いたんでしょうな~(笑)。

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    因縁というかなんというか、これも繋がりました。
    全ては偶然で、また必然だったのか…
    迷いを断ち切ったベルちゃんがどんなシーンを見せてくれるのかとっても楽しみです。

    こっそり裏話w
    こっちのほうがピッタリ来る感じしますよw

    急げ!!フォアンくん!!!

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      因縁…まさにそう言うべき繋がりなんでしょうなぁ、これも。
      「全ては偶然で、また必然」と言うのがも~「物語」と言う感覚が得られて、ヤバいです…(語彙力~!)
      この辺はアレです、わたくし自身ですら綴り始めた当初は「こうなると思っていなかった!」と言う、偶然とも必然とも言える運命に従った結果なのでね、とても感慨深かったりします…!
      ベルちゃんが迷いを断ち切ったからにはね、もう大丈夫ですよ! たぶんw

      ヨカター!w このサブタイはもー後から後から変えようかどうしようかと悩んでおりましたので、そう言って頂けて心底ホッとしておりまするw

      間に合うのかフォアン君! 待て次回!!

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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