2019年8月3日土曜日

【ベルの狩猟日記】122.既往の清算【モンハン二次小説】

■あらすじ
守銭奴のベル、天然のフォアン、爆弾使いのザレアの三人が送る、テンヤワンヤの狩猟生活。コメディタッチなモンハン二次小説です。再々掲版です。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【風雅の戯賊領】、【Pixiv】の四ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター コメディ ギャグ 二次小説 二次創作 P2G


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/135726/
【Pixiv】https://www.pixiv.net/novel/series/339079
■第122話

122.既往の清算


「おいジーさん、いつまで惚けてンだよ、とっとと起きて自分の足で歩きやがれってんだ」
 砂漠の只中を暢気な散歩調で歩く一つの影。夜空は消え去り、微かな星の瞬きが霞みつつある白い世界で、青年が退屈そうに声を上げた。声は風に乗り、彼方まで運ばれていく。
 青年に背負われた老爺はと言えば、そこでようやく意識を取り戻したのか、我に返ったように周囲に視線を配る。やがて目前に迫っていた筈の危難が無い事を確認すると、深く嘆息を落として、――一気に老け込んだ声で呟きを落とした。「……はぁ、やっぱり駄目じゃったか……」暗鬱とした想いを孕んでいた。
「まっ、仕方ねェだろ。俺達ゃ役不足だって時代に言われちまったんだ、引き下がらねェ事にゃァ神の御許に旅立っちまう」不貞腐れた態度で鼻から呼気を吐き出すヴァーゼ。
「……ヌシも限界だったようじゃしのう。……いや、前回よりも更に過酷な状況で、且つ苛烈な戦法を選んだんじゃ、比較にならんか」
 前回の古龍迎撃戦では何十人もの凄腕狩人が集結し、最前線には常に十何人と言う数の狩人が駆け回り、王の意識を常に拡散し続ける事が出来た。それが今回は近接武器――否、拳打蹴脚を武器として最前線に常に立ち続けたのはヴァーゼ唯一人。武具を繰って戦ってさえも相応の疲労が蓄積されると言うのに、彼は武具を纏わず、且つ武器で傷つけるより遥かに凌駕する膂力で攻撃を続けた。それは常人の狩人とは一線を画すどころの騒ぎではない。何倍……否、何十倍の疲弊が伴うに違いなかった。
 それを半日以上連続して行うなど、最早人間の枠に留めておくのも烏滸がましく思える暴挙だった。
「まァーな」ヴァーゼは軽く笑った。「こりゃァ、一から修行のやり直しだな。――師匠の匂いが仄かに漂って来てるし、久し振りに稽古でも付けて貰うかァ」
「――バンギが来ておるのか?」思わず鼻をひくつかせるが、バンギの匂いと言うのが果たしてどんなものかも想像が付かないワイゼン。「あ奴とはあんまり顔を合わせたくないのう……」
「ジーさん、師匠と仲悪ィのか?」キョトンとするヴァーゼ。
「あ奴、無駄にモテるからのう。異性に好かれる男は皆嫌いじゃ」
 へェー、とどうでも良さそうに返事をしたヴァーゼの視界の奥――砂漠を駆けて行く少年の姿が映り込んだ。真っ直ぐこちらへ駆けて来るその姿を見て、ヴァーゼは思わず口唇を笑みの形に歪めた。
「――やっと来たかァ!!」
 嬉々とした咆哮に耳を押さえるワイゼン。「一々吼えるな馬鹿者!」と一言怒鳴ってから、彼も視野に少年の姿を捉える。忌々しそうな表情を思わず浮かべるが、内心では安堵の吐息を零してしまう。「……遅いんじゃよ、バカタレが」
 少年は装備の隙間から包帯を靡かせ、それでも懸命に走り続けていた。時折足運びが拙く、思わず転びそうになりながらも、前へ。ひたすら前へ、足を踏み出して行く。
 やがて三人の距離が十メートルを切った頃、ヴァーゼは涼しげな笑みを刷いたまま、ゆっくりと右手を持ち上げた。肩の高さまで持ち上げてから、右手を固定する。少年はそれを見つめながらも、足を止める事は無い。
「――バトン・タッチだ」
 少年がヴァーゼに辿り着いた瞬間、彼はフンドシ男の右手をパシンッ、と叩いて通過した。
「――後は任せろ」
 少年の声は砂漠を渡る風に乗って二人の耳朶を叩いた。
 その言葉だけで、二人はもう心配する事柄が全て消え失せたように、満足気に歩き出す。
 遠く離れた砂丘の稜線が、輝きを増していく。

◇◆◇◆◇

「――あーもうっ、道具が全然足りないじゃないかもうーっ!」
 宮殿を走り回り、怪我人の手当てを行っているメイド達に医療道具を渡している青年がいた。普段から行商人として、過酷な地域をその足だけで進む彼である。この程度で音を上げる程に華奢な体ではないのだが、絶え間無く走り回っているのと、パルトー王国へ向かう道中ほぼ夜通しで走っていたために精神が擦り切れ始めていた。目の下にはぼんやりと隈が浮かび上がり、どこか顔色も悪い。
 更に彼の精神状況を悪化させる要因として、膨大な数の道具類を持ち運んで来たにも拘らず、それらの道具類が今に至って不足に陥っているという事実が有る。豊富な種類と大量の在庫を自負していたウェズにとって、それは自分の行商人としての器が足りなかったためだと責める一因にまで至っていた。
 宮殿内を駆け回り、備え付けの道具類を掻き集めてメイド達へ持って行く橋渡し役を自ら買って出て、昼夜を問わず走り回っていたのだが、肉体は既に限界を迎えていた。
 足を止め、際限無く加速して行く動悸を落ち着けるために深呼吸を敢行する。まるで納まらない胸の高鳴りに息苦しさが喉を痞える。寝不足による気持ち悪さも、彼の精神状況を悪化させるには充分だった。
「ま、不味い……このままじゃガチで倒れちゃうよ……――そうだ、確か栄養剤をフォアンの部屋に置いといた筈……」
 フォアンが大怪我をして運び込まれた際、ウェズも駆けつけた。放心状態のベルを放っておくのは気が引けたが、自分は自分に出来る事を全力でやらねばと、心を鬼にして部屋を後にしていた。その時、ベルに「ここに薬を置いてくからな。もしフォアンが起きたら飲ませてやってくれ」と、纏めて薬類を置いて来たのだ。
 それを思い出してフォアンが眠っている部屋まで辿り着くと、ノックも無しに入室した。
「――あれ?」
 白み出した世界に感化されるように光が滲み出した部屋に、包帯塗れの少年の姿は無かった。無論、それを見守っていた少女の姿も無い。
「元気になったのか、な……? あんな怪我しといて、もう動ける時点でメチャクチャだけど……」
 フォアンの強靭に尽きる肉体と精神に感嘆の言葉を並べながらも、部屋の隅に置いておいた袋を手にして、――目を点にした。
 袋の中に纏めて入れておいた薬が、丸ごと全部消え失せていた。――全てのビンが空になっていたのだ。
 どういう事なのか暫し沈思した後、ウェズは愕然とした。
「あんのバカッ、この薬全部飲み干したのか……ッ!?」
 回復薬に始まり、鬼人薬、硬化薬、強走薬、栄養剤、漢方薬、解毒薬、活力剤、怪力の丸薬に忍耐の丸薬と、あらゆる薬物をデタラメに飲み干している。こんな事をすれば体内は最早混沌を極めているだろう。思考ですらマトモに働いているとは到底思えない。
 常人ならば精神に異常を来たしてもおかしくない程の量を飲み下した彼がどこに消えたのかなど答は一つしかなく、単純明快に尽きた。
「……ったく、本当に無茶苦茶するよなー、あいつも」
 ウェズの顔には苦笑が浮かんでいる。呆れたが、同時に安心もしていた。それだけ強い意志が有るならば、きっと大丈夫だろうと、そんな想いにさせるのだ。
「ウェズ様~? 道具が届いていないのですけれどどちらにおいでですか~?」「こちらにも来ておりませんわよ~?」「至急持って来て頂かないと困るのですが~!」「ウェズ様~! ウェズ様~!」
 それこそ宮殿中から響き渡るウェズコールに、ウェズは思わず顔を顰める。美女に一斉に名前を呼ばれる事を嬉しく思いつつも、全てがウェズではなく、ウェズが持ってくる物に対して喜んでいるだけと言う事実を知る彼にとって、この声は上官からの命令と然して意味合いは変わらない。
「はいっ、ただいまっ、ただいまーっ!」
 そう言ってウェズは駆け出した。
 地獄のような夜が明けようとしている事に、彼はまだ気づいていなかった。

◇◆◇◆◇

「にゃーっ!」
 ネコの嬌声が響いたと思った次の瞬間には爆弾が起爆する轟音が砂漠を蹂躙する。爆風は黄砂の大地を席巻し、砂煙が落ち着く前にそれを振り切って巨像が飛び出して来る。弾丸の如く疾走する巨躯に、ベルは落ち着いた所作で回避を行い、擦れ違い様に矢を放つ。過たず古龍の尻尾を撃ち抜き、王に更なる痛苦を与えた。
 ヴァーゼとワイゼンが立ち去ってからどれだけの時間が経過したのか、既に思考から時間の感覚が消え失せている。白さを増した世界には、暴虐なる王と屠り合うだけの荘厳なる空間しかなく、時間の経過などそこには一切関与しなかった。
 己の弓の腕を信じ、己の輩の腕を信じ、無心に駆け、無謬に矢を射掛ける。
 不思議と高揚感や使命感、そして恐怖感は無かった。相手は超常の主であり、彼を撃退しない限り背後に座す国は滅亡の道を辿る以外に無い。自己の実力では比肩すると思うだけでも烏滸がましい差が付いている筈なのだけれど、ベルは気負う事無く王に臨んだ。
 立ち回りが著しく改善された訳で無ければ、実力が唐突に増幅した訳でもない。ただ彼女の心底に宿る気概が変容したに過ぎない。全てを負わず、けれども荷を降ろしきった訳でもない。
 ――自然体。そう呼ぶに相応しい姿勢で、王の御前に立つ事が出来た。
 時折危うい面も見せながらも、ザレアとフォローしつつ、彼女はあくまで“いつもの狩猟”の表情で王と対峙していた。
 恐怖は確かに有り、焦燥も決して消えない。けれど、何れの負の感情にも負けぬ想いが、彼女の胸中に宿っていたのだ。
 ただ延々と繰り返す、弦を張って矢から指を離す、単調で、且つ流麗な挙措。師匠に比べればこの程度の苦行、欠伸すら出てくる位だろう。そう思いつつ、ベルは更に矢筒から矢を引き抜く。
 余裕は無い。隙も極限られている。その間隙を縫うように、ひたすら矢を射掛け続ける行為に、ティアリィは先刻まで戦場を舞っていた弓師を重ね合わせていた。生き写しとまで言うのは大袈裟だが、彼女は確かに師の教えを忠実に守り、そして意志を継承していると思わせられる。
「グルルル……ッ!!」
 灼熱の王が、足を止めた。果敢に突進を繰り返し、爆撃も辞さず、ただひたすら攻め続けた王の静止に、ベルは同様に弓を構えたまま動きを止めた。彼の王の近くで爆弾を抱えて舞い飛んでいたザレアも、空気を読んだのか爆弾を地に下ろした。
 いつの間にかテオ・テスカトルは満身創痍の態だった。全身に刻まれた傷痕は何もベルが放った矢や、ザレアが起爆した爆弾によるものだけではない。ゲルトスのランスで貫かれた刺し傷、ヴァーゼの拳打蹴脚によって出来上がった打撲傷、ワイゼンが射掛けたであろう矢が突き刺さり、ティアリィが射出した弾丸による弾痕もあちこちに穿たれている。
 飛竜種ならば既に息絶えていても不思議ではあるまい。否、古龍であっても、これだけのダメージが蓄積した今、何故立っているのか不思議な程だ。ティアリィはここまで傷ついた古龍を見た事が無かった。彼女が王と対峙し、数刻経った時点で既に、過去に彼の王が撃退した時以上に傷ついていた。いつ立ち去ってもおかしくないと思っていただけに、今の状況は彼女にとって常軌を逸したロスタイムだった。
 ティアリィはこっそりと腰に吊っていたポーチに手を触れる。弾丸の予備はほぼ無いに等しい。これ以上戦闘を続行する事は無理だ。一度退却しない事には攻撃すら出来ずに、本当にただ見ている事しか出来なくなってしまう。
 ――その時、だった。
「!」
 三人の視界の中心に座す王が、ゆっくりと踵を返し、背を向けたのだ。
 遂に撃退に成功したのか。そんな安堵がティアリィの胸中に湧き、それが伝播するようにベルの表情が緩む。
 のっそりとした動きでテオ・テスカトルが歩き出す。彼方へ向けて、一歩、また一歩と踏み出して行く。こちらには一切の敵意を向けず、漫然とした歩みだった。まるで――“戦意が完全に喪失したかのような歩み”に、ベルもティアリィも、――――“油断”、してしまった。
 ティアリィはその時、脳髄の底で警鐘が鳴らされている事に気づけなかった。一度経験した事が有る情景にも拘らず、彼女はその危険に満ちた過去を思い馳せる事が出来ない。疲労が思考を砕いているのは明白で、彼女は記憶が示す最悪の結末を想起するに至らない。
「――や、った……、やった!」
 そう、ベルが、王に、背を向けた瞬間だ。ティアリィの視界に二度と見たくなかったトラウマがフラッシュバックした。
 英雄が、そこにいた。緩みきった、でも清々しい笑顔を湛えた、――失われた英雄の顔。
 その表情が何故ベルと重なったのか理解が追いついた瞬間――、己の愚挙に怖気を覚えた。
 ――まだ、“終わっていない”。
 ティアリィがそう、口を開こうと、行動を起こそうとピンクフリルパラソルを構えようと――した時には、既にテオ・テスカトルは振り返り終え、ベルへ向かって飛び掛かっていた。
 刹那に消える彼我の距離。ベルは安堵の表情を崩さず、ただティアリィに笑顔を向けていた。こちらの表情が強張り、切羽詰まっている事に、どうして気づいてくれないのか。ティアリィは思わず笑顔を崩しそうになった。涙が――あの時捨てたと思っていた涙が、激情と共に込み上げて来る。
 ――逃げて。お願い、気づいて。
 それが果たして音となって現実で弾けたか否か、彼女には判然としなかった。
 ただ、彼女の視界には、ベルとテオ・テスカトル。
 そして、

「――どぅるりゃァァァァアアアアアアアア――――――――――ッッ!!」

 ――大剣を振り抜いた、黄金の騎士が映り込んでいた。

【後書】
 と言う訳で、はい。フォアン君、最高のタイミングで帰還ですッッ!!
 こういうね~熱い展開が大好き問題なのですよ! 週刊少年誌でありがちな王道展開! それこそが至天にして最ヤバ!!(語彙力が崩壊しています)
 いよいよクライマックス間近です! 最後までどうか! お楽しみ頂けますように~!!

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    何度読み返しても涙があふれる胸熱な展開…マジ激ヤバ(同じく崩壊
    こんなにカッコよくて、頼りになる「どぅるりゃーっ!」はそうそう聞けないよなぁ(ToT)

    そして渡されたバトン、先代のハンターたちがなし得なかった事を次代のハンターたちはどう決着をつけるのかめっちゃ楽しみ!
    そして彼は【王剣】を超えることができるのか!熱い!!熱すぎるぅ!!!

    やっぱウェズくんwほっとするよねw

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      「マジ激ヤバ」頂きました…!┗(^ω^)┛
      まさかね! まさか「どぅるりゃーっ!」がここまで熱い台詞に進化するとはね! 綴り始めた時は思いもしませんでしたよね!w
      こういう感想を頂くと切に感じるのが、時間の流れと言いますか、そういう時もあったなぁ…って言う、感傷と言いますか…!
      いつの間にか皆が成長している事に、作者としても感慨深さが果てしないです…!

      「渡されたバトン、先代のハンターたちがなし得なかった事を次代のハンターたちはどう決着をつけるのか」も~!ww も~!ww この台詞にこの「ベルの狩猟日記」が全部詰め込まれてますよう!ww
      まさにその延長線上にある「彼は【王剣】を超えることができるのか!」ですよ!!!! 私が最高に熱くなってますよ!ww

      そしてウェズ君ですよ!www この子の存在感はやはりヤバい…!ww(語彙力)

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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