2019年8月6日火曜日

【ベルの狩猟日記】123.王たる龍とただの人【モンハン二次小説】

■あらすじ
守銭奴のベル、天然のフォアン、爆弾使いのザレアの三人が送る、テンヤワンヤの狩猟生活。コメディタッチなモンハン二次小説です。再々掲版です。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【風雅の戯賊領】、【Pixiv】の四ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター コメディ ギャグ 二次小説 二次創作 P2G


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/135726/
【Pixiv】https://www.pixiv.net/novel/series/339079
■第123話

123.王たる龍とただの人


 テオ・テスカトルがゆっくりと背を向けて歩き出した時、ベルは安堵した。
 それは何も、テオ・テスカトルの撃退に成功したから――“だけではなかった”。寧ろそれは二の次であり、何より己が淵に眠っていた感情の波を抑え切れなかった理由、それは――――
「――どぅるりゃァァァァアアアアアアアア――――――――――ッッ!!」
 砂の地を全力で駆け抜けて来る少年。その気配に、“気づいた”からだった。
 気配を察するなど、ザレアやヴァーゼではあるまいし、そんな事は出来る筈が無かった。ベル自身、そんな特殊な能力に目覚めた意識は絶無だった。けれど、体の底が震える感覚に気づいたのだ。“彼”が、近くまで、――目前にまで、辿り着いて来てくれた事に。
 振り返ってその姿を捉えたベルは、思わず涙を零しそうになった。対する少年は決死の表情で、ブラッシュデイムを振り被り、彼女の背後へと迫り来る脅威へ果敢に立ち向かって行った。
 バギンッ、と何かが瓦解する音が弾け、直後に「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!」と古龍の雄叫びが迸り出た。
 振り返りながらも、ベルの体は即座に臨戦体勢に移行を終えていた。これで終わりになる、とは思っていなかった。彼女の中では、この戦に於いてまだ足りない要素が有ったのだ。――彼、だった。
 テオ・テスカトルの尊顔中央に叩きつけられたブラッシュデイムはビシビシと音を走らせて、彼の尊顔に亀裂を走らせていく。絶叫に等しい喚声を張り上げ、テオ・テスカトルは飛び掛かりの威力を破砕されてその場でのた打ち回る。
「――悪い、待たせた」大剣使いの少年はそう言って澄まし顔を浮かべた。「後は任せとけ」
 その、いつもの、剽げた態度に、ベルは思わず潤みそうになる瞳をゴシゴシ擦ると、会心の笑顔を見せた。
「遅いじゃない! どんだけ待たせてるのよ、あんた! 後で罰金払いなさいよね!」フォアンを指差すベル。
「金は無いが愛なら無限に有るぞ。愛ならどれだけ払っても減らないからな」ふふん、と胸を張るフォアン。
「愛だけじゃ食っていけないって言うか何素面で恥ずかしい事言っちゃってるのあんた!?」赤面しながらツッコミを入れるベル。
「にゃにゃっ、だったらオイラが爆弾で払うにゃ! 爆弾は世界共通の通貨だからにゃ!」自信満々にグッドサインを出すザレア。
「初めて聞いたわそんな恐ろしい通貨!? どこの世界の常識それ!?」ツッコミを入れざるを得ないベル。
「――さて、このまま楽しいお喋りを続行したいところだが――」
 視線を改めて王へ向けるフォアンに釣られるように、三人の狩人の視線は同じ焦点を結んだ。
 テオ・テスカトルはゆっくりと立ち上がった。尊顔に走る大きな亀裂も誇りだと言わんばかりの漲る戦意を滾らせ、小さく唸りを上げる。
「――そうね、終わらせましょうか!」
 吼え、ブラックボウⅡを構えるベルに、
「了解です、隊長」
 フォアンの敬礼が続き、
「分かったのにゃーっ!」
 ザレアが飛び跳ねて締め括る。
 三人が三人とも、共通の想いを懐いたのは、その時だった。
“負ける気がしない”――不遜にも、王の御前にてその想いが強く宿ったのだった。
「グルルルァァァァアアアアアアアアッッ!!」
 テオ・テスカトルが進撃を始める。
 あれだけの裂傷を刻まれながらも、その歩みには惑いも迷いも無く、ただ沸き上がる戦意の解放のみを求めて、距離を殺してくる。その姿は勇壮に満ち、何より王たる孤高の意志を存分に秘めていた。
 対する卑小な存在に過ぎない三人の狩人は、皆が示し合わせたかのように展開し始める。
「どぅるりゃァァァァアアアアアアアアアアアッッ!!」
 気合裂帛、フォアンが突貫を仕掛ける。先刻、テオ・テスカトルの飛び掛かりを制止せしめた彼の一撃ならばもしかしたら――とティアリィは思ったが、同時に“まだ、足りない”――とも感じた。
 一瞬――最早瞬きする余裕も無く、フォアンの振り抜いたブラッシュデイムとテオ・テスカトルが衝突を繰り広げた。先程刻み付けた裂傷へと一寸の狂いも無く振り下ろしたブラッシュデイムは、更に肉を抉り、深々と沈み込むが――進撃は止まらない。
「まだにゃーっ!!」
 フォアンの背後から飛び出たザレアは、その手に持つ“龍殺し”のハンマー、龍壊棍を振り抜き――その芯をブラッシュデイムの刀身へ叩きつける。武器同士が搗ち合う悲鳴が弾け、更に深々とブラッシュデイムが沈み込み、テオ・テスカトルの顔から鮮血が噴き出る。――が、それでも、なお、止まる気配が無かった。
「いい加減にィ――――ッ」ギリギリと弦を引き絞り、限界の力を解き放つべく矢を射る。「逝けェェェェ―――――――ッッ!!」
 飛翔した矢は、ブラッシュデイムを叩きつけた龍壊棍に過たず突き刺さり、更なる膂力が込められ、ブラッシュデイムの刀身は最早テオ・テスカトルの内側へと完全に姿を消した。
 動きが、飛躍的に――“鈍化”する。
 漲る意志を湛えていた瞳は、風前の灯火と言うべき炯々とした輝きを増していたが、彼の王の肉体は既に――限界を迎えていた。
 それでも、――それでも、なお、王は後退を赦さなかった。
 前へ。ただひたすら、降りかかる火の粉を振り払うように、押し寄せる愚民共を悉く撃滅し、ただ――前へ。
「まだ……ッ、足りないのか……ッ!!」
 己が歯軋りする音が、熱を持ち始めた砂の地に響いたのが分かった。
 まだ、あと一手――ほんの少しで良い、あとちょっとだけ――

「仕方ないわね~、私がいないと~、駄目なんだから~♪」

 ふわっ――と、フォアンを包み込むように、稜線を超えた陽光が射し込んだ。
 その瞬間、フォアンだけでなく、その場に居合わせた者全員が、幻覚を見た。
 陽光の只中に、穏やかな笑みを浮かべる、“天使”を。
 天使はにこやかな笑みを浮かべて大きなシャミセンを振り被ると、「え~いっ♪」――容赦無く、ブラッシュデイムを叩きつけた。
 次の瞬間、テオ・テスカトルに沈み込んでいたブラッシュデイムが再び大気を吸った。――遂にテオ・テスカトルの尊顔を両断した。
 洪水のように溢れ出る鮮血を、フォアンとザレアはシャワーのように浴びた。生温かく、そして脈動する流血を。
「ガ……グゥ……ァ……ッ」
 四肢を折り、ゆっくりと跪く王。その瞳は未だ爛々と戦意を漲らせていたが――不意に、その光が失せた。
 ず……ずん……、と地響きを伴って崩れた王は、動き出す気配は無かった。
 五秒、十秒と待っても動き出さず、一分ほど時間が経過して、初めて四人は我に返った。その時には幻も泡沫の如く消え失せていた。
「終わった……の?」
 思わずフォアンの元へ歩み寄るベルに、フォアンはテオ・テスカトルを見下ろしたまま、ゆっくりと、だが確実に、――頷いた。頷いて、振り返った彼の顔は、清々しいモノだった。
「――さっ、帰ろうぜ? ラウト村が、俺達を待ってる」
 いつもの口調で、いつもの態度で、いつもの仕草で、フォアンは告げた。
 だから、ベルも、いつもの笑顔で、彼を迎えた。
「――うんっ!」

 ――そうして、壁が取り払われた世界は、また新たな物語を刻み始める。
 絶え間無く続く物語の、一つが幕を閉じ、そして新たな幕が上がる。

 ――その年、新たな伝説が生まれた。
 たった十二人の狩人が、一人の死者も出さずに、古龍テオ・テスカトルを討伐したと。
 その伝説が世界を席巻するのは、また、別の話――――

【後書】
 蛇足と言いますか、この物語を綴った当時、編集長さんに「この天使の説明が無いと読者は誰か分からないんじゃない?」と言う疑念を呈されたのですけれど、今読み返しても「いや分かるやろ…(慢心)」と言う想いは当時から変わらずでした…!w なので補足説明は敢えてしませんが、わ、分かる、よね…??ww
 と言う訳で! 遂に!! 討伐完遂です!!!
 感慨深過ぎて読みながら瞳を潤ませる作者is私です(´▽`*) いやー、あのですね、当時すんごいね、狩猟シーンの短さがね、ずっと気になってたんです。それがね、最終章で払拭できたんじゃないかなーぼく頑張ったんじゃないかなーもっと褒められて然るべきなんじゃないかなーなーんて思っていた次第です!(笑)
 ともあれ! 次回、最終話です。皆様、再々投稿が始まってから、一年と十ヶ月。大変長らくお付き合い頂けました。最後の最後の最後まで! どうかお楽しみ頂けますように…!
 この場を借りて感謝したいお二人の名を挙げさせて頂きまする。一話ごと再投稿する度に素敵な感想を送り続けてくれたとみちゃん。そして、この【ベルの狩猟日記】を改めてネットの海に放流するきっかけを頂けた旋律さん。お二人に有りっ丈の感謝を。有り難う御座いました!!
 あんなに長かった物語も、次で終わり、そして…

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    やっぱり来てくれた!わからない人なんていませんよ!!(キッパリ

    感慨深過ぎて読みながら滝のように涙を流す読者isわたしです(´▽`*)
    一度読んでるはずなんだけど、結構忘れてて新作のように楽しませて頂いておりますv
    何度も言ってましたが、
    「狩猟シーンの短さを補ってあまりある日常シーン」
    これがベル日の真骨頂だと思って来ましたが、成長した彼らが最後に見せつけてくれたのが極上の狩猟シーンでした。
    前回コメントの返信で先生がおっしゃっていた、
    「いつの間にか皆が成長している事に…」
    全ては彼らが望んだ事なんでしょうねぇ(シミジミ
    彼らに活躍の場を与えてくれた先生、エライ!もーめっちゃ褒めてあげるぞ!!vvちょーえらいーw

    いよいよ最終回長かったようなあっという間だったような…

    お褒めのお言葉などいただいてしまいましたが、もったいなくてw
    読後に涙と鼻水をふきつつ思ったことを書き殴るだけでしたので…
    いつはじき出されるかヒヤヒヤもんなんだぜw
    こちらこそ誠にありがとうございましただ!

    そして…

    きになるぅ~

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      ですよね!ww ですよね!www これで分からなかったらどうしようと思っておりましたよ!www

      全く同意見でして…! 感慨深過ぎて読みながらうんうん頷いておりました…!
      そうなんですよねw 懐かしさも有るのですけれど、新作のように楽しんでいた作者ですww(笑)
      狩猟シーンの短さを補ってあまりある日常シーン」…これが真骨頂と言われるのはね、もうね、嬉しさで頭が蒸発する勢いですよね…!w
      でも! そうなんです!! 最後の最後でね、見せつけてやりましたよう! 極上の狩猟シーン!!!(褒められてめっちゃ舞い上がってる図)
      彼らが望んでここまで成長してくれたなんても~~~~作者冥利どころかお前らが最高のキャラクターだよ…って言いたいレヴェルでヘドバンする勢いです…!
      ヤッター!┗(^ω^)┛ めちゃんこ褒められた!ww (*´σー`)エヘヘ!w せやろせやろ!?ww(笑)

      何かやがて二年も更新していると言う感覚が無いくらいには、あっという間にここまで来てしまった感です…w

      いやいや! とみちゃんあってこそでしたよほんと!!
      その書き殴った結晶こそがわたくしの糧…! 否! 宝です…!!
      はじき出されるなんてそんな!ww 永久保存したいレヴェルですよ!ww
      本当に、本当に、ここまでお付き合い頂きまして、有り難う御座いました…!!!

      (ΦωΦ)フフフ…

      今回も、とぉーってもお楽しみ頂けたようで、めちゃんこ嬉しいです!!
      次回最終話! ぜひぜひ最後までお楽しみ頂けますように~!!

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