2019年8月10日土曜日

【ベルの狩猟日記】124(最終話).伝説の夜明け【モンハン二次小説】

■あらすじ
守銭奴のベル、天然のフォアン、爆弾使いのザレアの三人が送る、テンヤワンヤの狩猟生活。コメディタッチなモンハン二次小説です。再々掲版です。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【風雅の戯賊領】、【Pixiv】の四ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター コメディ ギャグ 二次小説 二次創作 P2G


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/135726/
【Pixiv】https://www.pixiv.net/novel/series/339079
■第124話(最終話)

124.伝説の夜明け


「――お姉様ぁーっ!?」
 砂漠の大地に降り注ぐ陽光が高みを目指し、その熱がこの地では常の灼熱にまで茹だり始めた頃。テオ・テスカトルを取り巻く一団に悲鳴染みた喚声が飛び込んできた。
 真っ先に振り返ったのはフォアンで、「エル」と小さく声を上げ、軽く手を振って応じた。それを機にテオ・テスカトルを取り囲んでいた二人――ザレアとティアリィが視線を転ずる。
 熱砂に足を取られながらも駆けて来たのは、エルだけではなかった。先程撤退を余儀無くされたワイゼンとヴァーゼに続き、ギースにロザ、アネ、ゲルトス、そしてウェズの姿も有った。皆、一様に疲れきった表情を浮かべてはいたが、胸の空くような光景を目の当たりにしたためか、清々しさが溢れ出ていた。
「……ガブラスが一斉に退いて行ったけえ、何事かと思っちょったが、案の定じゃ」口火を切ったのはギースだった。「……ようやりよったのう」感嘆の吐息が漏れる。
「はいっ♪ まさか撃退ではなく討伐になるとは、私も想像できませんでしたが♪」ニコニコ笑顔を浮かべたまま、ティアリィが朗らかに応じた。
「お姉様ッ!? お姉様はいずこですかっ、ですわぁっ!?」
 エルの泣き声染みた悲鳴が響き渡る。確かに、今この場に辿り着いた者の視野には、守銭奴の弓師の姿が見えなかった。有るのは三人の狩人と、巨大な生物の死骸だけ。
「あぁ、ベルなら中で剥ぎ取りしてる」「お宝探しの真っ最中にゃ!」
 フォアンとザレアが視線をテオ・テスカトルの死骸に向けて、応じた。確かに、死骸の方から肉を抉り取るような、骨を断ち斬るような悍ましい音が聞こえてくる。
「お姉様……」一気に激情が沈んでいくエル。「こんな時まで剥ぎ取りだなんて……ですわぁ……」ヘナヘナとへたり込んでしまう。
「古龍の肉体を解体する事など初めてであろうに。よくまぁ二の足も踏まずに行えるモノだ」その点に関しては感心せざるを得ないな、と微苦笑を滲ませるゲルトス。
「お宝が眠ってるかも知れないって勇み足だったぞ?」苦笑気味に振り返るフォアン。
「ハハハッ! 流石は嬢ちゃんだ!」呵々大笑するヴァーゼ。「ギルドナイツがいるってのに勝手に剥ぎ取り始めるなんざァ嬢ちゃん位のモンだろ! ティアリィも止めりゃァ良いのによォ?」そう言って視線をメイド服の美女へと向ける。
「どうして止める必要が有ります? 彼女は“依頼に応じて、モンスターを狩猟した”のですよ? そのモンスターの素材を剥ぎ取るのは至極真っ当な“報酬”ではありませんかっ♪」無垢な笑みで応じるティアリィの言は、有無を言わせぬ響きを孕んでいた。
「やっぱりベルちゃんはこうでなくっちゃねっ! お姉さんはとっても嬉しいのさっ!」快活な笑みを浮かべてグッドサインを出すロザ。
「よっしッ!」
 不意に、テオ・テスカトルの方から歓声に似た女声が飛び跳ねた。全員がそちらへ視線を転ずると、全身を血と脂でてからせながら少女が這い出て来る姿が飛び込んできた。
 手には、抱えきれない程の大きな、水晶のような、鮮やかに輝く、紅い塊。
 鮮烈な紅い光を絶え間なく振り撒く不思議な玉を抱えたまま、少女――ベルは満悦の表情で皆の元へとやって来た。
「見てこれ! すんごい値打ち品じゃない!?」子供のように顔を輝かせてウェズへ問いかけるベル。
「古龍種の素材ってだけでもう凄い値打ちが付くと思うんだけど……」マジマジと紅い宝玉を観察するウェズ。「僕じゃちょっと値が付けられないな~。ワイゼン様はどう見ます?」と老練たる弓師へ水を向ける。
「ふむ……」ヨタヨタの足取りで前へ出ると、ワイゼンも興味津々の態で宝玉の観察を始める。「……まだこの玉の中で炎が燃え盛っておるのう。希少価値が高過ぎて、値など付けられまい」ワイゼン翁に掛かってもお手上げの様子だった。
「よーしっ、だったらこれは家宝にするわっ! 何か、これを持ってるだけでご利益が有りそうだもの!」
 会心の笑みで宝玉を抱き締めるベルに、一同は共通の感想を懐いた。“やっぱり金なのか”――と。
「家宝にするのは何だか勿体無いな」そう言って宝玉に目をやるフォアン。「なぁ、これを結婚指輪に加工して貰うってのはどうだろう?」
 陽光照りつける砂漠に、風声以外の音が消え失せた。
「…………………………ん? 誰が、誰と、結婚する、じゃと?」仏のような笑顔だが、額に青筋が走り、ピクピクと頬筋が引き攣りながらもワイゼンが尋ねた。
「俺とベル」あっけらかんと応じるフォアン。「迎撃戦の前に、約束したんだ」しれっと告げた。
「「何じゃとォォォォオオオオオオオオッッ!?」」ワイゼンとギースの絶叫が綺麗なハーモニーを奏で、「エエエエエエエエエエ!?」エルの顔が真っ赤に染まり、「おめでとうございます♪」平常心が微塵も揺らがないティアリィ、「まぁあんっ! どうして先に話してくれなかったのよぉんっ!」悍ましい動きで腰を振り始めるアネ、「な、何と……」言葉を失ってしまうゲルトス、「へェ~、お前らそんな仲だったのかよ、お幸せになァ!」バンバンッとフォアンの背を叩いて祝福するヴァーゼ、「やったねベルちゃん! お姉さんはすんごい嬉しいよっ!」グッと胸の前で拳を固めて歓喜を示すロザと一斉に続いた。
 嵐のように吹き荒れるコメントの大群にベルは錯乱しかけてしまう。
「遂にベルも結婚か~。これで少しは守銭奴も治ると良いな!」
 ポン、とベルの肩を叩いた幼馴染は、どこか寂しげではあったけれど、素直に喜んでいるようでもあった。その笑顔は、今はむず痒い。
「おめでとうだにゃっ! オイラは心から二人を祝福するのにゃっ!」
 二人の間に立ち、感極まって〈アイルーフェイク〉の目許が潤んでいるザレア。精一杯飛び跳ねて祝福してくれている彼女を、ベルはそっと抱き締めた。「ありがとね」
「これでオイラはまた新しい旅を始められるにゃねっ!」
 そう言ってベルから体を離そうとするザレアを、彼女は許さなかった。抱き締めたまま、力を加え続ける。
「く、苦しいのにゃ……ベル、さん……っ?」
「……何言ってるのよザレア?」そっと体を離したベルは、ザレアに向けて笑顔を振り撒いた。「あんたも一緒にいなくちゃ困るじゃない!」
 ザレアは言葉に詰まったように、二の句を継げずに固まってしまう。「ベルさん……?」
「結婚したからって、どうして除け者にするのよ? あんたは、あたし達と一緒にいないと、――ね? ううん、あたしはザレアにいて欲しいの。――って言うか勝手にどこかに行くなんて許さないわよ!」
 ザレアの胸の谷間を指で押して、ニヤッと笑むベル。
「そうだぜ、ザレア。俺だって、ザレアが勝手にどこかに行かれちゃ困る。俺達は、三人揃ってないと駄目なんだからな」
 ザレアの背後から両肩に手を置き、澄ました笑顔を見せるフォアン。前後を挟まれたザレアの〈アイルーフェイク〉はよく分からない液体でグシャグシャになり、二人の首に手を回して「ありがとにゃーっ!」と雄叫びを上げた。
「……何て言うかアレだな。ザレアが娘に見えてくるな」
 ポツリと零したウェズの呟きに、その場に居合わせた全員が思わず納得してしまった。
「って許さんぞぅ!? ワシャ反対じゃからな!! ウチのベルは誰にもやらん!! たとえ【王剣】の息子だとしてもじゃ!!」ワイゼンが怒濤の咆哮を上げ始めた。
「そうじゃそうじゃ!! こんな頼りない男にはやれんけえのう!! 考え直すんじゃ、お嬢!!」主の威勢に委ねるままに吼えるギースが続く。
「お姉様が結婚……!? わっ、わたくしも負けてられませんわっ!! ゲルトス様!! わたくしと婚姻を結んでくださいませっ、ですわぁっ!!」いきなりゲルトスの両手を握り締め、涙目で懇願し始めるエル。
 眼球を落っことすどころか顎すらも外れそうな勢いのゲルトス。「ひひひ姫様ッ!? いいいいいきなり何を仰いますのです!? わわわ我輩のような輩と婚姻を結ぶなど、いいいいけませぬッ!!」
「わーぉっ! こっちではお姫様と騎士様の禁断の恋……あぁあああんっ、燃えるわっ、燃え上がっちゃうわぁんっ!!」身を捩じらせて悶え始めるアネ。
「お姫様だァ? そいつ男じゃねェかよ」呆れた様子で告げるヴァーゼ。
 容赦無い陽光が照りつける、静かな時間が現出した。
「「「「何ィィィィイイイイイイイイイイッッ!?」」」」
 ゲルトス、ワイゼン、ギース、そしてウェズの絶叫が迸る。
「ふぇはいらだはくへかうあへぁぁあ!?」そして意味不明の悲鳴が弾けるエル。「どどどどどうしてバレましたのッ!?」戦々と口唇を震わせてヴァーゼを見据える。
「あン? 見りゃ解るだろそんくらい」ざっくばらんに応じるヴァーゼ。「てか、お前らそいつを何だと思ってたんだよ?」耳を穿りながら“アホ臭ぇ”とでも言わんばかりの態度である。
 四人の男が四つん這いになって魘され始めた。
「バカな……こんな可愛い娘が、男の筈が……ッ」
「ワシャ遂に男の娘に目覚めてしまったんじゃろうか……ッ」
「おやっさんより変態に近づいてしまったなんて信じられんけえのう……ッ」
「あばばばば……」
 完全に意識がここではない彼方へと吹き飛んだ四人を見て、エルもへたり込んでしまう。「うぇ~んっ!! また婚期が遠ざかってしまいましたわぁ~んっ!!」
「婚期も何も、まず根底からおかしくない!?」ズバリとツッコミを入れるベル。
「師匠も勝手にどっか行っちまうしよ~、どうなってんだこの時代は? ――はッ、そういう事か!?」はたと、何かに気づいたのか手を打つヴァーゼ。
「――嫌な予感しかしないのですが♪」ニッコリ笑顔を彼に向けるティアリィ。
「くく……はーっはっはっはっ! ようやく解った……俺の次の敵は“時代”って事だなァ!? なるほど、こりゃヤヴェ……勝てる気がしねェ!! だが屠り甲斐が有るってもんだ!! こりゃァやっぱり師匠に稽古付けて貰わなきゃなァ!!」
 そう言って突然足踏みをし始めたヴァーゼに、ティアリィはゲンナリとした、けれども笑顔で尋ねた。「また状況報告の任をほっぽり出して放浪の旅ですか? ――騎士長様」
「あァん? 状況報告なんざやりたい奴がやりゃ良いんだよ、ンな面倒臭ェ事! 俺ァもう“時代”と戦う準備を始めなきゃならねェんでな! また用事が有りゃこれで呼べッ!」吐き捨てながらヴァーゼが投げ渡したのは、小さな犬笛のような笛だった。「じゃァなァ! またいつか逢おうぜ!!」
 そう声を掛けた時には既に駆け出していた。犬笛を受け取ったティアリィは「やれやれ」と言わんばかりに肩を竦めると、笛をそっとポーチの中に、大切そうに仕舞った。
「――さて、ベル」
 混沌としている光景を眺めていたフォアンが、不意に口を開いた。
「……何?」キョトンとして彼を見つめ直すベル。
「まだ、返事を貰ってない気がしたんだ」ベルの瞳を覗き込むように、フォアンは尋ねた。
 ベルが沈黙すると、僅かに不安そうに表情を曇らせる彼が可愛くて、彼女は小さく小首を傾げ、悪戯っぽく笑んだ。「さて、どうしよっかな♪」
「その時はオイラと結婚しようにゃ!」ガバッと二人の間に入り込むザレア。
「どうしてそうなるの!?」思わず絶叫を走らせるベル。
「グッジョブだ、ザレア」ビシッと指差し、そして笑むフォアン。
「むぅー!」頬を膨らませて怒るベル。「そんなのズルいわよ!?」
 そんな問答しなくたって、もう返事は決まっているのだから――――


 夜明けを迎えた世界は熱を帯び、また燦然たる輝きを伴って、地上を照らし出す。
 伝説を越えた先に有るのも、彼女達にとってはテンヤワンヤの、“日常”でしかなかった。


最終章〈牙を持つ太陽〉―――了

【後書】
 ここまでお付き合い頂きまして、まことに、まことに有り難う御座いました!
 約一年と十ヶ月の長い狩猟日記もこれにて完走です! 大変お疲れ様でした!
 さてさて、【ベルの狩猟日記】はこれにて終幕と相成りまして、彼らの狩猟もこれにて完遂です。
 であれば、次回作は、次代を生きるハンターでなければなりますまい!
【ベルの狩猟日記】の正統続編は年内配信予定! と言う事で一つ! また御贔屓にして頂けたら幸いです!
 それでは改めまして、ここまでお読み頂き、有り難う御座いました! またお会いできる日を夢見つつ、この辺で筆を擱かせて頂きまする!

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    いやぁ~みんな頑張りました!
    各自が個性を持って、作者先生の思惑をぶち壊しながら物語を作っていく様子がとっても痛快でした(オイオイw
    最後の最後までほっこりする日常シーンこれぞベル日!!

    本当に素敵な作品をありがとうございました。
    また次回作も+(0゚・∀・) + ワクテカ +しつつお待ちしておりますのでぜひぜひよろしくお願いいたしますvv

    今回も楽しませて頂きましたー
    続編も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      みんなめっちゃ頑張りました!┗(^ω^)┛
      それなwwわたくしの思惑通りに行かないのはね、もう避けられないんですよね!ww 
      うんうん! 始まり方が日常シーンだったからこそ、締めもやっぱりこうじゃないとって思っておりました…!

      こちらこそ! 毎回素敵な感想を送って頂いて、本当に感謝が尽きませぬ! 本当に、本当に、有り難う御座いました…!
      次回作もふんわりのんびり楽しんで綴りますゆえ、どうかお楽しみにお待ち頂けたらと思いまする!┗(^ω^)┛

      今回も、とってもお楽しみ頂けたようで、しゅんごい嬉しいです!!
      続編もぜひぜひ! 楽しみにお待ちくだされ~!!

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