2020年10月31日土曜日

【シルブレSS】シルブレハロウィン短編

 ■あらすじ

ネトゲで好きになってしまった相手は、きっと異性だと思っていた。

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【シルブレハロウィン短編】は追記からどうぞ。

シルブレハロウィン短編


 宵の口に向けて暗く沈んで行く秋の空を眺めてぼんやりと佇んでいたシルバーが下界に視線を落とすと、賑やかな喧騒と共に、仮装をして騒いでいる住民の姿が映り込んだ。
 今日が何の日なのか思い出そうとしても、己が元居た世界より過去の世界の風習に疎いシルバーにとって、ただ楽しそうな過去の人々を視野に捉えるだけの時間でしかない。
 仮装……カボチャの被り物をした人が、仮装をしていない人を脅かしている。悪い事をしているのかと言えば、そうではないらしく、周囲の人間が諫める事も無いし、どころか皆笑い合って楽しそうにその風景を見守っている。
「トリックオアトリート!」
「ん?」
 シルバーの背後で弾けた幼い男声に振り返ると、白い布を頭から被った少年……恐らくは幽霊の仮装をしているのだろう……が、両手を差し出して見上げていた。
 シルバーはその言葉の意味するところが分からず、ポカン、と呆気に取られたままゴーストの少年を見つめていると、彼は不満そうに肩を落とすと、「お兄ちゃん、お菓子くれないの? イタズラしちゃうよ?」と不貞腐れた声を漏らした。
「お菓子……? イタズラ……??」
 要領を得ない様子で反芻する事しか出来ないシルバーに、幽霊姿の少年は呆れ果てた様子で再び肩を落とすと、突然シルバーの頭をわしゃわしゃと撫で回し、そのクールに決まっていた髪型がぐしゃぐしゃにされてしまった。
「あっ、こら! 何するんだ!」
「キャハハハ!」
 白い布を棚引かせて、少年は走り去ってしまった。
 言い知れぬ感情を懐きながら、シルバーは髪型をサイコキネシスを使って整えながら鼻息を落とすと、改めて黄昏から宵闇に移ろう市街に視界を戻す。
 よくよく観察すると、仮装している者は、仮装していない者を脅し、どうやら菓子類を強奪しているようだ。互いに笑い合っているところを観るに、そういう風習・決まりなのだろう。
 納得できないが、先刻の幽霊少年に対するシルバーの対応は間違いだったのだと思わざるを得ない。
「お菓子か……」財布の中身を確認して、心許無い元手に溜め息をちらつかせながら、シルバーは立ち上がった。「またイタズラされちゃ堪らないからな」
 言い訳しながらも、この時代の風習を味わう事に些かの喜びを感じている自分に気づいたシルバーは、不貞腐れた風を装いながらも、口の端には小さく笑みが滲んでいた。

◇◆◇◆◇

「……それで、甘味を買った傍から奪われ続けた、と」
「……そうだよ」
 スッカラカンになった財布を見せながら、シルバーはどこか達成感に満ちた表情で、今までの経緯をブレイズに報告していた。
 ブレイズは呆れた風に鼻で笑っていたが、彼女は彼女で嬉しそうに映った。誇らしげと言い換えても良いかも知れない。
「ブレイズはお菓子を奪われなかったのか?」空になった財布を戻しながら尋ねるシルバー。「それともイタズラを選んだのか?」
「私は奪われる側ではなく、奪う側だからな」そう言ってシルバーに鋭い視線を向けると、彼の顎を掴みながら妖艶な眼差しで囁いた。「トリックオアトリート?」
 ゴクリ、と生唾を呑み込む。
 まるで今にも飲み込まれそうなプレッシャーに加え、妖しく輝く瞳にはまるで催眠術でも付与されているかのように、抗い難い魔力が秘められていた。
 シルバーが不自然な姿勢で硬直してしまっているのを見かねたブレイズがフッ、と笑みを零すと、スルリと指を離し、「――なんてな」と流し目で背を向けてしまった。
「冗談だ、私の用意した菓子も全て邪悪な子供のポケットの中だ」
 言いながら気分良さそうに離れて行くブレイズの手を、思わず取ってしまうシルバーがいた。
 一瞬仰け反りそうになり、キョトンとした表情を向けるブレイズに、シルバーは頬が若干紅潮した真剣な顔で、早口になりそうになる舌を自制しながら、尋ねた。
「じゃあ今、俺がトリックオアトリートって言ったら、……」
 ――イタズラしても良いって事、なのか?
 そう問おうとしたのかどうか、ブレイズには分からなかったが、彼が緊張と羞恥で真っ赤になっているのを視認してしまい、思わず笑声が口から漏れてしまう。
「流石にまだ、私を奪う度胸は無いか」ツン、とシルバーの鼻の頭を撫でると、ブレイズは優雅な足捌きで離れてしまった。「いいさ、貴様がイタズラできる勇気が得られる日まで、私は待つとも」
 悪戯っぽく笑むブレイズに、更に心臓が早鐘を打つシルバーだったが、それ以上会話を続ける自信は無かった。
 いつか、そういつか。
 菓子ではなく、彼女自身を奪えるように。
 その日がせめて再来年にならないように、シルバーは力強く拳を固めるのだった。

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