2020年12月12日土曜日

【浮世の聖杯組の話】~紫式部を癒そうの巻~【FGO二次小説】

■あらすじ
マスター・浮世のカルデアの聖杯組のお話。
紫式部さんが最近疲れ果ててるので、聖杯組の皆で癒そうと思ってやんややんやします。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【Pixiv】で多重投稿されております。



~紫式部を癒そうの巻~は追記からどうぞ。

~紫式部を癒そうの巻~


「最近よぉ、式部の奴が疲れ果ててるんだが、マスターの奴、酷使し過ぎなんじゃねえか?」
「幾らサーヴァントと言えど、こうも連日周回に駆り出されたら流石に疲労困憊しちゃうのだわ……モーちゃんが察する程なんだもの、相当な疲れが溜まってるのではないかしら」
「おう、さり気なく喧嘩売りやがったなエレ公良いぜ表出ろ」
 ノウム・カルデアの食堂にて、モードレッドとエレシュキガルの二人は、紅閻魔とエミヤが調理してくれた絶品の夕餉を摂りながら、雑談に華を咲かせていた。
 お互い、マスター・浮世に聖杯を捧げられた身として、一緒に行動する事が多いモードレッドとエレシュキガルだが、話題にも上がった式部――紫式部も最近聖杯を捧げられ、マスターの寵愛を一身に受けるが如く、連日のようにレイシフトに付き合わされ、モードレッドが口にするように、見る度に疲れが色濃く出ているように感じられるのだ。
 同じ聖杯を捧げられたサーヴァント同士と言う事で、彼女らにも思う所が有るのか、紫式部をどうにかしてやれないものかと、フォークで料理を突っつきながら歓談していたところ、和装の巨躯が近づいていた。
「ンンッ、モードレッド殿、エレシュキガル殿、お二人とも花顔(かがん)を顰めてどうなされました? 拙僧で宜しければ相談に乗りますぞ」
「おう、リンボか」「あら、リンボさん」「ンンンッ、リンボでは御座いませぬ、拙僧は芦屋道満でありますれば」「リンボの方が呼び易いんだから良いだろリンボで」「そうなのだわ、リンボさんの方が愛嬌が有りますし」「それは…………であればそれで構いませぬな! どうぞリンボと」
 アルターエゴ・リンボこと、芦屋道満は何かを察したように一礼を見せ、あっさりと引き下がった。
 彼(性別は不詳であれど、この場では男性と認識されているので、ここは"彼"と)は最近マスター・浮世の召喚に応じて加わったサーヴァントであり、且つマスターの一存であっさりと貴重な聖杯を捧げられた、紫式部などと同様に、マスターの寵愛を受けている者でもある。
 今まで散々カルデア一行を苦しめてきた怪僧でありながらも、マスターの一存で全てを赦された、とんでもないサーヴァントではあるのだが、そんなマスターの召喚に応じたサーヴァントしかいないカルデアである、不協和音もどこへやら、何事も無く馴染んでいるのがこの芦屋道満こと、アルターエゴ・リンボなのである。
 モードレッドが食事に戻ってしまったため、エレシュキガルが簡単に今までの説明をリンボに聞かせると、彼は「ンン~、確かに心配ですなぁ。香子殿……いえ失礼、紫式部殿程の英霊が疲弊を感じさせる程……それもモードレッド殿に察知される程ともなれば、一刻の猶予も無いのでは?」としたり顔で呟き、即モードレッドに顔パンされた。
「モ、モーちゃん、せめてノーモーションで顔パンはやめるのだわ……」リンボの顔面が梅干しみたいになってるのを見てはわはわし始めるエレシュキガル。「やっぱりここは、式部さんに癒されて貰うべく、槍檻に入って貰うしかないのかしら……」
 悩ましげに頬杖を突くエレシュキガルを眺めるモードレッドが、「式部がメソメソする未来しか見えねえ……」唖然とした面持ちで口の中のモノを零しそうになっていた。
「フフフ……ここは拙僧にお任せあれ! 時既に解決の軌跡を見つけてしまいましたぞ!」
 リンボが意気揚々と告げるのを見て、モードレッドは「そもそも何でこいつに相談しちまったんだ? 明らか碌でもねー結果にしかならねえぞこれ?」とエレシュキガルに声を掛けるも、彼女は「あら、同じ悪/混沌属性の私が観るに、きっとリンボさんは素敵な解決策を講じてくれるに違いないわ!」と自信満々に返されてしまい、最早二の句が継げられないのだった。

◇◆◇◆◇

「ふぅ……」
「あら、式部様。溜め息など吐かれて、お疲れのようですが、これからどこへ……?」
 ノウム・カルデアの通路をトボトボ歩いていた紫式部に、通りがかったジャンヌ・ダルクの心配そうな声が掛かった。
 紫式部は一瞬自分に掛けられた声だと気づかずにスルーしそうになるも、頭語に自身を示す名が冠せられていた事に気づき、慌てて居住まいを正してジャンヌ・ダルクに向き直った。
「す、済みませんジャンヌ様。ちょっと頭が呆っとしておりまして……これから図書の整理などを行ってから休もうかと……」
「これから図書の整理を……? 私の目から見ても明らかにお疲れのご様子。些か無理が祟っているのではと思いますが……もし良ければ手伝いますよ、書物の整理ともなれば、人手は有って困るものではないでしょうし」
 心配そうに小首を傾げてからの、朗らかな微笑を浮かべての申し出に、紫式部は「あ、有り難う御座います……! お心遣い、痛み入ります……!」と泣きそうになりながら、彼女であれば任せられそうだと頷き、「では、図書館までお越し頂けますか……?」と先立って歩き始める。
「ええ、勿論です! 早速参りましょう!」
 紫式部は改めて首肯を返し、急ぎ図書館に向かおうとした、その矢先。
「その前に!」紫式部の手を取り、ジャンヌ・ダルクは微笑んだ。「まずはその、疲労困憊の霊基を恢復するのが先決です!」
「ふぇ……?」力強いジャンヌ・ダルクの握力に倒れそうになりながら、紫式部は間の抜けた声を上げて何とか踏み止まった。「と言うと……魔力の供給など、ですか……?」
「そんなところです! 何と今回、マスター・浮世に聖杯を捧げられし我ら聖杯組一同の総力を以て、式部様の疲労を癒そうと計画を練らせて頂きまして!」紫式部の返答など待たずに、腕をがっしりと握り締めて引き摺って行くジャンヌ・ダルク。「発案者はリンボ様ですが、安心してください! 聖杯組の皆が監督致しましたので、悪いようにはなりません! たぶん!」
「は、はぁ……」最後の力一杯の"たぶん!"で嫌な予感しかしない紫式部なのだった。
 やがて連れられて行った場所は、【リラクゼーションサロン】と銘打たれた部屋だった。
 部屋の中で待機していたのは、李書門、ニコラ・テスラ、超人オリオン、そしてマーリンの四騎だった。
 ジャンヌ・ダルクを含め、全員がマスター・浮世から聖杯を捧げられたサーヴァント達である。
「やぁやぁ待っていたよ紫式部。ここにいる四人のサーヴァントが、――いや、四人のエステティシャンが、君に最上の癒しの提供しよう!」
 マーリンが胡散臭さ爆発させながら三人の男性サーヴァントを示す。
「まずは儂の按摩を受けるが良い」スッと一歩前に出る李書文。「老いてなお衰えぬ拳で、主の凝りを限界まで解してやろう。痛みは寸毫、後は快癒の法悦に身を浸せ」
「彼の按摩は人類史に於いても至上と言っても過言じゃないだろうね」うんうん頷くマーリン。「と言う訳で、はい。紫式部。そこに寝そべって。私は手を出さないから。ほんとだから」
「…………」不安げに用意された台の上に寝そべる紫式部。「あ、あの……別に体は凝っていないと思うのですが……」
「否。サーヴァントと言えど、実体化に伴い筋繊維、血管や臓器、諸共表出しておるのだ、酷使すれば摩耗するのが肉体の常。負担を斯様に掛ければ錆も出よう」台の上でうつ伏せで寝そべる紫式部の背に手を添える李書文。その瞬間、ビクリと紫式部の肢体が揺れた。「――ふむ、主は文筆家だったな。宝具を撃つ度に筆を執っておるのだろう、肩に掛けての筋肉が全体的に張っておる。今に限り、儂が筋肉を解すが、常ならば体操を取り入れるが良かろう」
「た、体操ですか」刹那の触診で全てを見破られた紫式部は赤面しつつも、これから行われるであろう処置に心臓の高鳴りを抑えられなかった。「そ、それで、筋肉を解すと言うのは――」
「ふんッ」
 李書文が一喝した瞬間、紫式部の肉体から全身の骨が砕けたかのような音が弾けた。
「ンゴフッ」そして紫式部の喉から、婦女子が出してはいけないような声が漏れた。「カッ……あッ、あの……ッ!」
「ぬッ!」「ンヒィッ!」
 その後も、李書文が一打重ねる毎に紫式部はあられも無い嬌声を上げ、マーリンと超人オリオンが瞑目してその演奏を楽しむのだった。
 約十分後。果てた姿で蕩け顔の紫式部は「ご、ご容赦ください……も、もうこれ以上は……」と顔を真っ赤にしてベソベソ泣いていた。
「筋肉の張りは全て除いた筈じゃ。暫くは執筆活動も楽になるじゃろうて」フッと笑いかけると、李書文は紫式部の肩を叩いた。「筆も持てなくなる程に熱中するのも分かるが、体は正直じゃ。不全になってからでは遅い、もうちと早く儂を呼べ。次はもっと軽めに当ててやる」
 それだけ言い残すと、李書文は「後は任せた。儂は先に失礼する」とリラクゼーションサロンを去って行った。
「あ、有り難う御座います……李書文先生……」その背中にか細い声を掛けた紫式部は、やっと解放されると思って立ち上がりかけ、「ん? 待て待て式部女史。次は私の番だ」とその体を再び台に戻された。
「二コラ様……?」「李書文氏の按摩はどうだったかね? 彼の人体の理解度に関しては到底及ばないが、私にはこれがある!」
 紫式部を押し戻したのはニコラ・テスラで、彼の右手からはバリバリと電撃が迸っていた。
「ま、まさか……?」「そのまさかだ! 交流の天才たるこの私が! 直々に! 電気治療を施そう! 何、心配には及ばない! 李書文氏には人体のどこに電流を流せば効果が如実に表れるか話を伺っている! 何も心配はいらない!」「ちょっ、ちょっとお待ちを……!」「では処置を始めるぞ! 人類神話! 雷電降臨!」「アアアアーッ!」
 リラクゼーションサロンに凄まじい火花が走り抜け、紫式部の絶叫が轟くのだった。
「カッ……」放心の態で白目を剥いている紫式部。「お……終わり……ましたか……?」
「うむ! これで解した筋肉は更に癒され、最早十代……否! 最早赤子も同然の張りを取り戻したと言っても過言ではあるまい! なぁに、礼には及ばんよ! リンボ氏に声を掛けられた時はどうかとも思ったが、式部女史が快癒する事には些かの問題も無いのだからな! フハハハハ! それでは私もこれで失礼する!」
 満足気に大笑しながら去っていくニコラ・テスラを見送ると、紫式部は冷や汗をダラダラ流しながら、「そ、それでは今度こそ失礼致しますね……?」と、残された二人を観ないように立ち去ろうとして、肩をむんずと掴まれた。「ヒィッ!」
「待ちなよ嬢ちゃん。まだこの俺の処置が済んでないぜ……?」「そうだとも! 私にも処置をさせてくれたまえよ!」超人オリオンとマーリンが悪い顔で笑っていた。
「お、お助けを……!」紫式部が泣きながら崩れ落ちそうになった瞬間、「はい、そこまでです、お二人とも」とジャンヌ・ダルクが制止に入った。
「なんでいなんでい、俺にも色々癒せる事は有るんだぜ?」不満そうに片眉を持ち上げる超人オリオン。「ほら、人が寝そべられる台が在る。男と女がここにいる。となりゃ、やる事はただ一つだろう!」
「おう、もしそれが叶うってんならここでクラレントぶっ放すから覚悟しとけよゴリラ」
「そ、そういう男女のあれこれは、もっと親密になってからだと思うのだわ!」
 超人オリオンが涎を垂らしながら襲い掛かろうとする前に、リラクゼーションサロンにモードレッドとエレシュキガルが顔を出した、
 二人の醒めた視線に晒された超人オリオンは、「冗談だって……そう怒るなよぉ、だってそうじゃないと俺がここにいる意味なくね?」と不貞腐れるのだった。
「つか、マーリンは何してんだここで。お前そもそも呼ばれてねーだろ」モードレッドがマーリンを顎で示して怪訝な表情を覗かせた。「デバガメか? 殺すぞ」
「何を言うんだモードレッド。私はね、紫式部が快楽と共に吐き出すであろう色艶を間近で吸い上げたくて――」「エレ公、あいつ槍檻に詰め込んでくれねえか?」「言われるまでも無いのだわ」「誤解誤解、誤解だよ二人とも。私がそんな事をする訳無いじゃないか~アハハハ」
「……オリオン様とマーリン様は、あちらでお話を伺いましょうか?」
 にっこり笑顔のジャンヌ・ダルクに、二人は冷や汗を流しながら「「お、お手柔らかに……」」と付いて行くのだった。
 残された紫式部とモードレッド、エレシュキガルは、互いに顔を見合わせて、苦笑を見せ合った。
「それで、どうだよ式部。疲れは癒えたか?」「お疲れだって聞いてたから、こんなサプライズを用意してみたのだけれど……余計なお世話だったかしら……?」
 モードレッドが顔色を窺うように紫式部の顔を覗き込み、エレシュキガルは心配そうに指を組んで紫式部に視線を向けた。
 紫式部は、そこでやっと、二人が元々の計画者なのだと察し、ホッと胸を撫で下ろしながら微笑を浮かべた。
「……お心遣い、有り難う御座います。お陰様で、霊基は万全の状態まで回復致しました」
「おう、そりゃ良かった」「これで一安心なのだわ!」
 二人がはにかみ笑いで安心するや否や、紫式部はそっと挙手して、「で、ですがその……」と言い難そうに口を挟むと、二人を上目遣いに見つめて、こう言うのだった。
「図書の整理を、忘れていまして……皆様が宜しければ、そちらを手伝って頂きたく……」
『あ』
 リラクゼーションサロンの隅で説教したジャンヌ・ダルクと、説教を受けていた超人オリオンとマーリン、もうサプライズは終わったかと確認に戻って来た李書文とニコラ・テスラ、そしてジャンヌ・ダルクと紫式部の話を実は聞いていたモードレッドとエレシュキガルが、同時に声を出して、思い出した。
 そうして――別室で暇をしていた同じ聖杯組のオジマンディアスと清姫、加藤段蔵、そしてリンボもも連れ立って、皆で図書の整理をする事になるのは、また別の話――――

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