2021年4月23日金曜日

【ワシのヒカセン冒険記】第9話【FF14二次小説】

■あらすじ
【オールドフロンティア】最後の新規加入者は――


【第9話】は追記からどうぞ。

第9話


「――済みません、まだフリーカンパニーの募集ってされてますか?」

 砂の都ウルダハのザル回廊に在るサファイアアベニュー国際市場、その一角で、裁縫師ギルドから注文された衣服を作るための布地を求めて露天を見て回っていたワシに、聞き覚えの無い男声が掛けられた。
 露天商が広げる色取り取りの布地から顔を上げて振り返ると、猫のような青年――ミコッテの男が、ワシを見つめて佇んでいた。
 ツトミちゃん風に例えるなら、お洒落に気を遣っていると言う点に於いて、まさしく熟達の冒険者然とした彼は、ワシの反応を窺うように黙して待っている。
「……ぬ? 【オールドフロンティア】の新規加入申請者かの?」
「はい。まだ空きが有りましたら、お話させて頂けないかと思いまして……」
 今まではフリーカンパニーの元締めである双蛇党から伝え聞いて新規加入者の話を伺っていたが、まさか直接声を掛けられる事が有るとは思わず、ワシは対面する若いミコッテの青年に、了承の意を伝えるように手振りを交えて応じる。
「であれば場所を移しても構わぬか? 立ち話も何じゃし、クイックサンドで腰を据えて話したいのだが、如何であろうか?」
「おお、ぜひ! お願いします」
 恭しく一礼を見せて、ワシに先頭を譲ってくれる辺り、礼節も常識も申し分無い事は明らか。今まで応募してきた三人ともに通じる、出来る冒険者とでも言うべき気概を感じさせる。
 クイックサンドに向かう道すがら、リンクシェルで今活動している人員に声を掛けてみようと、チャンネルを合わせてみた。
「たった今、フリーカンパニーへの新規加入者から直接接触が有っての。これからクイックサンドで面談を始めるのじゃが、相席できる者はおるかの?」
「えっ!? 今ですか!? ご同席しても良いんですか!?」ユキミ殿の慌てふためいた声が飛んできた。「わぁー! じゃあ今から向かいます! 飛んでいきます!」
「おおー、じゃあわたしも行く~。えと、クイックサンドってどこだっけ?」ツトミちゃんのふんわりした声が続いた。「テレポで行ける?」
「ウルダハにテレポした後に、簡易エーテライトで冒険者ギルド前に行けば、目前じゃな」クイックサンドの扉を開けながら応じる。「ゆっくり来ると良い、慌ててすっ転ばんようにな」
「はーい」「わぁ~、ドキドキしますね……!」
 ツトミちゃんののんびりした声とは裏腹に、ユキミ殿の興奮しきりの声があまりにも対照的で、笑みが零れてしまう。
「そう言えば名前を伺っておらなんだな。お尋ねしても?」
「あ、クロスと言います。ヤヅルさん……とお呼びしても?」
「あぁ、それで宜しく頼む。ではクロス殿、今、サブマスターと、今の時間に活動しておるメンバーもご同席して貰おうと思うのだが、構わぬだろうか?」
「はい、勿論です!」
 子供っぽく笑うクロス殿に、ワシもまた笑みと共に首肯を返した。
 クイックサンドの一角を借りるようにモモディ殿に申請し、席に着く。
 クロス殿はどこか緊張した面持ちでワシの事を見つめていた。
 改めて観るに、お洒落に気を遣っている事が窺い知れる身形だ。よほど洗練された冒険者なのだろうと理解に難くない。
 そして何より、女所帯と言っても過言ではない我がフリーカンパニーに、初めて男性からの申請が来た事にも驚きだった。いやまぁ、男女の比率に関しては委細構わないし、今まで女性ばかりが来た事の方がよほど驚きではあるのだが。
「お待たせしましたー!」「おこんばんわー」
 クロス殿と見つめ合っていた最中、不意にユキミ殿とツトミちゃんの声が弾けて、意識がそちらに向いた。
 いつもの青い豚の着ぐるみを纏ったユキミ殿と、いつも以上におめかしをしているツトミちゃんが、テコテコと歩み寄って来る。
 クロス殿は慌てて立ち上がると、恭しく一礼を見せた。
「初めまして、クロスと言います。宜しくお願いします!」
「初めまして! ユキミって言います! ゆきみんとか、おい大福って呼ばれてます!」
「初めまして~、【オールドフロンティア】の……副社長……だっけ?」「姉御ですよ!」「姉御だっけ?? の、ツトミって言いまーす。宜しくね~」
 ユキミ殿に耳打ちされながら挨拶を終えたツトミちゃんから視線を外すと、皆に一度座るように促す。
 一つの席が満員になったのを見計らい、ワシは空咳を落とした。
「と言うと、クロス殿も募集文を観て声を掛けた、と言う事かの?」
 確認するように問いかけると、クロス殿は言葉を選んでいるのか、沈思するように静寂を挟んでから、ゆっくりと口を開いた。
「そうですね、あんまり見ないような募集文でしたから、気になって」
「ですよね! 私も同じ感想でした……!」ユキミ殿がコクコクと豚の頭を上下する。
「うんうん、やっぱり爺ちゃんの募集文はアレだね、ヤバいって事だね」納得しかねる言い分で首肯を始めるツトミちゃん。
「……なるほど、であれば既知だとは思うが、ワシが代表を務めるこのフリーカンパニー【オールドフロンティア】は、結成して間もない、実績も何も無い新興組織じゃ。クロス殿程の熟達の冒険者が、利するところは少ないと思うのだが……なぜ、ここを選んだのかの?」
 ユキミ殿にも聞いたが、……いや、【オールドフロンティア】に入る者、皆に訊いてきた通過儀礼とも称するこの問いだが、ワシには或る程度その返答も予想できていた。
 曰く――――
「……今までずっと一人で活動していたのですが、フリーカンパニーに入ろうと思ったのは、【オールドフロンティア】の募集文を見て、です。変わった文章と先に言いましたけれど、ここから私も、安心して過ごせそうだなと思って」
 あの募集文に、それだけの温かみを感じる事が出来たのだと言う反証。
 それが嬉しくて、ワシには頷く事しか出来ない。
 今まで入ってきた者達も皆、あの文面にそれを見出したからこそ、勇気を出して申請してくれたのだ。
 それを無碍に断る事など、誰が出来ようか。
「ワシは文句なしに加入して構わぬと思うのだが、ツトミちゃん、どう思う?」
「爺ちゃんが良いなら、わたしもおっけ~。凄いイケメンだし!」
 グッと肯定の意を示すツトミちゃんに、ユキミ殿も(見た目は変わらないが)嬉しそうにブンブンと頭を振っている。
「では……?」
 緊張した面持ちでワシを見つめるクロス殿に、ワシは微笑を浮かべながら首肯を見せた。
「ようこそ、フリーカンパニー【オールドフロンティア】へ。クロス殿が、最後の新規加入者になりまするぞ」
「おお! 有り難う御座います!」
 スッと立ち上がり、再び恭しく一礼を見せるクロス殿に、ツトミちゃんとユキミ殿が喜んだりサムズアップを返したりする。
 これで、人員は揃った。であれば次は、活動を始めねば。
 頼りになるメンバーが揃い踏みなのだ、きっとこれから賑やかに、更に忙しくなるに違いない。そんな予感で、思考が埋め尽くされていく。
「そう言えば、活動は無いって話でしたけど、どんな事をするんですか?」
「あ、確かに。私も気になってたんですよね、募集文には活動は無いって書いてありましたし」
「「あ」」
 クロス殿とユキミ殿が不思議そうに話し合っているのを見て、ワシとツトミちゃんが同時に思い出して顔を見合わせた。
 募集文を変更する前に、二人から新規加入の申請が来たのだ。まだ本来の活動に就いては、クロス殿は固より、ユキミ殿にすら話していない事に気づいてしまった。
 そこで改めて活動内容を――慈善活動をする旨を伝える事になり、深夜遅くまで語り明かす事になるのだが、それはまた別の話。
 快く受諾してくれた二人に感謝しつつ、こうして新規加入者の募集は打ち切られる事になった。
 ここからフリーカンパニー【オールドフロンティア】の活動は本格的に始動し、エオルゼアの各地を巡る大冒険が幕を開ける事になる――――

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