2021年6月14日月曜日

【ワシのヒカセン冒険記】第16話【FF14二次小説】

■あらすじ
クロス殿が行方不明?

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【Lodestone】、【Pixiv】で多重投稿されております。




【第16話】は追記からどうぞ。

第16話


「――クロス殿が行方不明?」

 森の都グリダニアの冒険者居住区、ラベンダーベッドの一角。フリーカンパニー【オールドフロンティア】のカンパニーハウスこと、寄合所にて。
 まだ内装工事中の寄合所の中で、エレット殿が深刻そうな表情を浮かべて、「はい。どうも昨夜から連絡が取れない模様で。フリーカンパニーのリンクシェルにも応答が有りません」と、ワシの顔を見つめている。
「と言うと……」昨夜からとなると、既に丸一日連絡が付いていない事になる。「何らかの任務中と言う訳ではないのかの?」
「記録によりますと、」エレット殿が手に持っていた書類を捲る。「ディアデム諸島に向かった後、音信不通となっているようです」
「ディアデム諸島……?」聞いた事の無い単語に眉を顰める。「と言うと、リムサ・ロミンサから船で向かった、と言う事かの?」
「ディアデム諸島ですか?」自分の個室に家具を運び入れようとしていたサクノ殿が、ワシの声に気づいて、抱えていた家具ごと振り返った。「アバラシア雲海を探索していた時に見つかった、通称空島と呼ばれる、空に浮かぶ島々の事ですよ!」
「空に浮かぶ……島とな」
 前世の記憶にそんなものが存在しなかったためか、驚きも大きい。エオルゼアに罷り越してから驚きの連続ではあれど、まさか空に浮かぶ島も有るとは思わなかった。
 併し……だとしたらクロス殿はその空島とやらで遭難していると言う事なのだろうか。リンクシェルにも応答が無いともなれば、雷波か何かで通信が阻害されている可能性も考慮できる。
 最悪、ガレマール帝国の軍勢と居合わせて戦闘状態に陥っている、とか……
 サクノ殿が扉を閉めた音で我に返ったワシは、焦燥感に駆られながらエレット殿に視線を戻した。
「そのディアデム諸島にワシらは向かえるのだろうか?」
「……ディアデム諸島に向かうにはまず、山の都イシュガルドに向かう必要が有るのですが、その許可をヤヅルさんはお持ちですか?」
「ぬぅ……未だその地は未踏じゃの」
 歯痒い想いを噛み締めながら、何か策は無いかと思考を巡らせる。
 こうしている間にもクロス殿が危険に晒されている可能性が有るのだ。一刻も早く救助に向かうべきだろう。
 社員が命を落とす事など有ってはならない。マスターとして、社員の命を預かる身として、それだけは絶対に順守せねばならない。
「爺ちゃんどうしたの?」「家具が足りないなら言ってくださいね、いつでも用意しますよ!」
 そこに、事情を知らないツトミちゃんとユキミ殿が、並んで寄合所に入って来た。
 ツトミちゃんは季節を先取りして氷菓を食みながら、ユキミ殿は家具の元であろう大量の資材を抱えながら、ワシらに視線を向けている。
 ワシはエレット殿と顔を見合わせ、頷き合うと簡単に事情を説明した。
「……なるほど。クロスさんが音信不通……」
 ユキミ殿が青い豚の被り物を俯かせて呟く。丁度その時節で個室から出てきたサクノ殿が「あれ? 皆さんお揃いで何事ですか?」と不思議そうに歩み寄って来たので、改めてクロス殿の状況を掻い摘んで説明する。
「クロちゃんが音信不通なんて珍しいね」氷菓を食べきり、深刻そうに腕を組むツトミちゃん。「このわたしを差し置いて寝落ちしてるとかだったり」
「有り得ない話じゃないですけれど、ディアデム諸島で寝落ちって相当危険じゃないです?」サクノ殿が心配そうに眉根を顰める。「確か、魔獣が普通に闊歩してますよね、あの空島……」
「ディアデム諸島に関しては資料を通しての情報しか知り得ませんが、リンクシェルが最後に反応を示した場所がそこである以上、ディアデム諸島から出ていない筈です」エレット殿が不安そうに俯く。「そんな危険な場所にいながら、連絡が取れないとなれば……最悪の事態を想定すべきではないかと」
「寝落ちにしても、魔獣に襲われたにしても、善は急げ! 私、ひとっ走りして様子を見てきます!」ビシッと豚の蹄で敬礼をするユキミ殿。「幸い、ディアデム諸島に行く権限は持ってますから、イシュガルドに着き次第、即向かえます!」
「済まぬが頼む」咄嗟に頭を下げる。「ただ、無理だけはなさるな。向こうがどういう状況に陥っているか杳として知れぬ以上、警戒は厳にした方が良かろう」
「分かりました! 何か有りましたらすぐリンクシェルでお知らせしますね!」グッと肯定の意を示し、「では行ってきます!」と、即座にテレポを発動させ、ワシらの返答も待たずにユキミ殿は転移した。
「クロちゃんは心配だけど、わたし達は待つ事しか出来ないよねぇ」不満そうに唇を尖らせるツトミちゃん。「エレちゃん、わたし達にも何か出来る事、無いかなぁ?」
「そうですね……」頬に手の甲を当てながら思案するエレット殿。「リンクシェルに反応が有るかも知れませんし、それを注意深く見守る事でしょうか」
「ですねですね」コクコクッと頷くサクノ殿。「雷波の影響で連絡が途絶えたのだとしたら、雷波の影響圏を脱すれば声が届く筈ですし!」
「それしかない、か」大仰に頷く。「皆、交代でリンクシェルを確認しよう。何か反応が有り次第、皆を呼んでくれ」
 ツトミちゃん、エレット殿、サクノ殿が代わる代わる肯定の意を示すと、ワシも首肯を返して、……長い夜が始まる……
 ……始まる、筈だった。

◇◆◇◆◇

「――こちらユキミです! 今イシュガルドからディアデム諸島に向かっていますが、現地で話を聞く分には、何もトラブルは確認されていないようです!」
 サクノ殿がリンクシェルの番をしている時に入ったその通信で、ワシらは改めて家具も何も準備が出来ていない寄合所の広間で車座になって顔を見合わせた。
「となるとガレマール帝国の軍勢が侵攻……と言う訳ではなさそうじゃの」ひとまず胸を撫で下ろす。「魔獣に襲われた説が濃厚になってきた訳か……」
「危険な魔獣に対しては、ディアデム諸島に向かう前にエーテルオーガーと言う兵装を渡される筈ですから、よっぽどの事が無い限り……」サクノ殿が難しい表情を浮かべている。「勿論、そのよっぽどの事が発生した可能性も外せないのですが……」
「あれからも全然応答無いしねぇ」リンクシェルをツンツンとつつくツトミちゃん。「うぅ……早く無事に帰ってきて欲しいねぇ……」
「リンクシェルが最後に応答した場所に関しては、ユキミさんに座標でお伝えしますので、まずはそこに向かってください」エレット殿が資料を観ながらテキパキと指示している。「何かしらの痕跡が残っているかも知れません」
「分かりました! また連絡します!」
 ユキミ殿からの連絡が途絶え、ますますワシらの元に重い沈黙が下りてきた。
 無事であってくれ。ただただそう願っていた。
 ――――その時だった。
「ふわぁーああ。皆さんおはようございます」
 間延びした欠伸と共に、クロス殿の声がリンクシェルが飛び出したのだ。
 ワシらは食いつくようにリンクシェルに声を浴びせた。
「クロス殿!? 無事か!? 周囲に危険は無いか!?」「クロちゃん大丈夫? どこか怪我してない?」「クロスさん、こちらの声は聞こえていますか?」「クロスさん!? 今ユキミさんが向かってます! どうか安心してください!」
 数瞬の間が有った。
「…………え? 何か遭ったんです?」
 クロス殿の困惑した声が、ワシらを徐々に冷静にさせていく。
「何か遭ったも何も、お主、丸一日音信不通だったのだぞ?」焦燥感で早口になりそうになるのを懸命に堪え、必死に感情を律して続ける。「それもディアデム諸島の只中で。そこには危険な魔獣もおるのだろう? お主の身に何かが起こったのかと思ってだな……」
「あ。ああー……」クロス殿が非常に言い難そうに口ごもっている。「それは、そのぉ……」
「こちらユキミです! クロスさんを発見しました!」続けざまにユキミ殿の大声が入り込んだ。「今向かいますね!」
「あ、ユキミさん待って待って! 私は問題無いので来なくても――」
「大丈夫ですかクロスさん!? クロス……さ、ん?」ユキミ殿の声が段々と困惑に変わって行く。「…………クロスさん、何ですか、このエールの空瓶は」
「「「「…………エールの、空瓶?」」」」
 ワシと、ツトミちゃんと、エレット殿と、サクノ殿の声が重なった。
「え、えぇーと……」クロス殿が言い難そうに口をモゴモゴ言わせている。「これはですね、そのぉ……」
「……事情を、聞かせて貰おうかの?」
「いやー、リンクシェルがですね、ちょっと故障しちゃったのか、声が届かなくなったのと、欲しい素材が見つからなかったので、自棄酒をして……その……不貞寝してました…………」
「…………………………」
「す、済みません。まさかそんな大事になってるとは思わず……」
 申し訳無さそうなクロス殿の声を聞いて、ワシは心底からの安堵の溜め息を漏らすと、「いやいや、クロス殿が無事であるなら何よりじゃ。最悪の事態など、取り越し苦労である方が何倍もマシと言うもの。良かった良かった……」穏やかな笑みが先に出てしまった。
 ワシらが勝手に悪い妄想を膨らませた、と言うのは勿論有るが、それだけクロス殿の事が……いいや、皆の事を大切に想っている証左でもある。
 その後、クロス殿は平謝りで皆に頭を下げて回っていたが、からかいはすれど、誰も責める者などいなかったのが、まさにその証明になろう。
 不意に皆の絆の強さを再確認できた出来事で、ワシは改めて、人に恵まれているなと思い知り、この絆を大切にせねばなと痛感した次第なのであった。
 ……まぁ、それはそれとして、自棄酒も程々にの、と、チクリと釘を刺しておいたが。

0 件のコメント:

コメントを投稿

好意的なコメント以外は返信しない事が有ります、悪しからずご了承くださいませ~!