2021年6月25日金曜日

【ワシのヒカセン冒険記】第17話【FF14二次小説】

■あらすじ
僕は、バッ……バヌバヌ族だ……

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【第17話】は追記からどうぞ。

第17話


「僕は、バッ……バヌバヌ族だ……」

 森の都グリダニアの冒険者居住区ラベンダーベッド。我がフリーカンパニー【オールドフロンティア】のカンパニーハウスこと寄合所の近くに在る若草商店街へと足を運ぶと、普段は聞き慣れない喧騒が聞こえてきた。
 晩飯の調達にと訪れたのだが、視線を巡らせてみると、ララフェル族と思しき一団がやいのやいのと騒いでいる姿が見て取れた。
 ララフェル族。エオルゼアと言う世界に於いては珍しくない種族なのだが、未だに見慣れない。子供……いや、幼児と言って差し支えない矮躯を有する種族で、その愛らしい姿に見惚れる者も少なくない。
 その小さな種族に囲まれているのもまた、同じララフェル族と思しき者なのだが、ララフェル族にしてはその顔立ちがあまりに……顔立ち、ではなく、被り物……なのだろうか。ずんぐりとした鳥のような顔をしている者が懸命に訴えている姿が見て取れた。
「自分をバヌだと思い込んでるララフェルだ」「いや、ララフェルだろ!」
 周囲のララフェル達は囲んでいる鳥のような子に呆れていたり、物申していたりしているが、自称バヌバヌ族の――声から察するに女性は、フルフルと、その鳥の頭を否と振り、バタバタと両手を振り回す。
「バヌバヌですってばー!」
「何言ってんだこいつ……」「どう見てもララフェルだろお前!」
 騒ぎになっている……と言う程でも無いが、問題が起きているように感じたワシは、買い物の思考を退かし、ララフェル族の一団に歩み寄ってみる。
「本人がバヌバヌ族と申しておるのだ、無理に認めさせるのも如何なものか」
「な、何だお前……?」「いやいやいやいや、どう見ても……」
 ララフェル族の取り巻きが、ワシを見定めるように一歩引き、互いに顔を見合わせて溜め息を吐き出した。
「あほらし、行こうぜ」「あ、待ってよ~」
 ララフェル族の一団は走り去って行き、ワシは腰に手を当てて小さく鼻息を落とした。
「ホアァ~~~……」自称バヌバヌ族の少女は、鳥の頭から気の抜けるような声を出している。
「……ふむ」まじまじとその鳥の頭を観てしまう。「相済まぬ、バヌバヌ族とやらを観るのは初めてでな。鳥のような種族……なのか?」
「んが……」自称バヌバヌ族の少女が声を詰まらせた。「なんと! バヌバヌ族を知らない!?」
「うむ。このエオルゼアには多種多様な種族が息づいていると言う話は聞き及んでおるが、バヌバヌ族とやらは、其方が初めてだ」
「オァー……」自称バヌバヌ族の少女は再び言葉を失っている様子だ。「バ……バヌバヌ族は、アバラシア雲海に浮かぶ島々に住まう、原住民で……それで……」
 ブツブツと何かしらの説明をしているようだったが、細部までは聞き取れなかった。
「その、アバラシア雲海とやらから、遠路遥々グリダニアまで罷り越したと言う事か」聞き取れる部分を、理解できる範囲で噛み砕いてみる。「雲海と言うからには、よほど標高が高い場所と観る。空気は合うのか?」
「何も、何も、問題はなく……! グリダニアは緑豊かゆえ、故郷のように大気が爽やかなのですよ」
 自称バヌバヌ族の少女がどこか安堵した様子で吐息を吐く姿を確認したワシは、落ち着いたと観て軽く微笑む。
「ワシはこの近所に越して来た、ヤヅルと申す。その坂を下った先が、ワシが長を務めるフリーカンパニーのカンパニーハウス、寄合所じゃ」
「え!?」自称バヌバヌ族の少女が頓狂な声を上げた。「ぼ、僕のお家、そこの橋を渡ってすぐ……」
「おお、ご近所様であったか」視線を上げて、橋の向こう、その更に坂の上に建つ一軒家に視線を向ける。「ではこれから宜しく頼む。何分、ここにはつい先日越して来たばかりでな」
「オァー……あ。そうだ、そうだ、せっかくだから、自己紹介をば……僕は、フィレーナです」ぎこちなくお辞儀をする自称バヌバヌ族の少女――フィレーナ殿。「よ、よろしく……」
「フィレーナ殿か。こちらこそ宜しく頼む」こちらもお辞儀を返し、改めてフィレーナ殿に視線を向ける。「ここに住居を置くと言う事は、フィレーナ殿も冒険者よな。もし機会が有れば、共に依頼を受ける事も有るだろうか」
「そ、そうですね」どこか視線が上の空のフィレーナ殿だ。「ヤ、ヤヅルさんは……冒険者、長い……のです……?」
「いや、まだまだ一兵卒と呼ぶに相応しい。熟達の背を追い駆けておる次第よ」
 笑いかけると、フィレーナ殿も心なしか笑ったように感じられた。
「僕も、まだまだだ。だから……一緒に、がんばろ……り、ましょう」
 言ってから恥ずかしくなったのか、フィレーナ殿は突然ワタワタと慌てだして、「そ、そろそろ帰る! またな!」と短い脚を懸命に回して橋を渡り去って行った。
「おお、ではまた」
 思わず挨拶が遅れてしまったが、橋の向こう側でフィレーナ殿は立ち止まり、「さ、先程は、助けてくれた事、満天の星の数ほど、感謝する……!」振り向かずに囁くように囀ると、そのまま走り去ってしまった。
 不思議な隣人だ、と思いながらも、何と無しに心がポカポカとして、ワシは胸を高鳴らせながら買い物に戻るのだった。
 まだまだエオルゼアと言う世界は未知で溢れている。やっと歩き慣れた地であると自負できるようになったグリダニアですら、見知らぬ種族と遭遇する事が有るのだから。
 寄合所を構えて、冒険者ギルドの依頼を熟していけば、きっともっと多くの未知に触れる事になるだろう。そんな予感を携えて、ワシは寄合所への帰路を急ぐ。
 宵の口のラベンダーベッドは、フィレーナ殿の色を強く感じさせた。いつか、あのふさふさの体毛を撫でてみたいと思いながら、ワシは苦笑を一つ落とすのだった。女性に対してそれは流石にあまりに失礼か、と。

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