2021年6月26日土曜日

【ワシのヒカセン冒険記】第18話【FF14二次小説】

■あらすじ
カンパニーハウス【寄合所】、その竣工。

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【第18話】は追記からどうぞ。

第18話


「地下にバーを作ってみました!」

 森の都グリダニアの冒険者居住区ラベンダーベッドの一角。我がフリーカンパニー【オールドフロンティア】のカンパニーハウスこと寄合所、その地下にて。
 寄合所に入って右手に在る、地下へ続く階段を下った先。地下に当たる部分の内装を、ユキミ殿にお願いしたところ、快く承ってくれてから数日。フリーカンパニーのリンクシェルにてそんな報告が走った。
「バーとな?」「わぁ~お洒落ぇ~」「もう完成されたのですね」「今観に行きます!」「おおお! 寄合所でエールが……!」と、リンクシェルが混線するぐらいに皆、興奮を隠しきれない様子だった。
 慌ててテレポを使って寄合所の玄関に跳ぶと、皆一様に寄合所に殺到しているところだった。
 中に入るとまず何も無いロビーが……在ったところは、ソファが鉤型に設置され、カンパニーチェストや観賞魚が入った水槽などが目に映る。白い鮮やかな花弁を湛える鉢植えが台座の上に鎮座し、エオルゼアの世界地図が正面の壁に貼られている。随所に観葉植物も添えられ、空虚な空間が和やかな客室へと変貌を遂げていた。
「なんと……」ソファに歩み寄り、その触り心地を確かめてしまう。ゆっくりと腰を沈め、改めて一同を見返す。「これは……和むのぅ……」
「冒険から帰って来て、ここでゆっくり寛ぐ……うぅ~ん、いいねぇ……」
 ツトミちゃんも対面のソファに座し、満足そうに両目を細めている。
「あ、観てください! この戸棚、ケーキが入ってますよ! これ……摘まんじゃって良いんですか……!?」
 戸棚のケーキを指差しながら瞳を爛々と輝かせているサクノ殿だ。
「ここなら皆さん全員で寛げますね……私も採掘などから帰ったら、ここでぐっすり……」「クロスさん、就寝はベッドでされた方が良いかと……」
 ソファで寝転がりそうになっているクロス殿に、エレット殿が空咳を挟んで諫めている姿が見えた。
「そうじゃ、地下じゃったな」思わずこのまま満足して寛ぎ始めそうだったが、慌てて意識を取り戻す。「バーが出来た、と」
「見よう見よう!」ツトミちゃんがパタパタと地下への階段を駆け下りて行く。
「ツトミちゃんお早い!」その背中を慌てて追い駆けるサクノ殿。「おおお! これは……!」
「マスターも早く!」
 階段の傍で手を振って催促するクロス殿にせっつかれ、ワシも慌てて階段を駆け下りて行く。
 そこには、確かにバーが在った。
 手狭な空間に、三つのバーチェア。その二つにツトミちゃんとサクノ殿が腰掛け、カウンターの奥にはユキミ殿がバーテンダーの装いで歓迎している。
 エールサーバーが見える事から、本当にエール……酒精を頼む事も出来そうだ。
「ユキミ殿……よもやここまで完璧な内装工事を行えるとは……感服致した」バーに歩み寄りながら、ユキミ殿に恭しくお辞儀を見せる。「まさか寄合所の地下に、バーを併設するなど、誰が予想できたか……」
「フフフ……寄合所の地下は、皆でエールでも飲みながら、ゴロゴロダラダラする空間にしたかったんです」照れ臭そうに身動ぎするユキミ殿。「なので、バーの隣はゴロゴロダラダラする空間になってます!」
 階段を下りて突き当たりの左側がバーであり、バーの右側には確かに寛げる空間が広がっていた。遠い大地を映し出す画面が映し出された壁面と、ふかふかのソファ。その隣は短い階段を上がった先に、本棚と囲炉裏が用意されていた。
「これは……ヤバいね」ツトミちゃんが囲炉裏の元に歩み寄ると、そのままごろりと横になった。「こんなの寝落ちしない方が無理だよね」
「エールを飲みながらゴロゴロダラダラ」本棚の前の空間に、コテッと横になるサクノ殿。「……最高です……最高の空間です……」
「甘味を食べながら書類の整理など……」ソファに腰掛けて、ローテーブルの上に在る三食団子に視線を落とすエレット殿。「……良いですね……」
「もう個室の内装を弄らずにここで生活した方が良い気がしてきました」燦然と差し込む陽光を浴びながら爽やかに微笑むクロス殿。「ここで寝てここで食べてここに帰ってきますね私」
「ワシもそうせざるを得ない程に、ここはあまりにも居心地が良いのぅ」バーのカウンターの奥に続く暖簾を潜りながら、感心しきりと言った態で頷く。「このバーでエールを提供するのも有りか……」
「皆さんに喜んで貰えて良かったです……!」嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねるユキミ殿。「今日は完成祝いと言う事で、皆さん思い思いに寛いでいってください!」
 皆、喜びの声を上げて、今までの疲れを癒すように寛ぎだすのだった。
 まさか……まさか異郷の地で、こんな至れり尽くせりな環境に身を置けるとは露にも思わなかった身である。嬉しい、有り難いと言った感情が綯い交ぜになり、上手く言語化できなくなっていた。
 バーチェアに腰掛けながら、棚の隙間から皆を見やる。
 募集文を観て、集ってくれた皆々。まだ付き合って日も浅い筈なのに、もう何年も過ごしたかのような安心感を与えてくれる彼らに、ワシはこれから何を返せるのだろうか。
 これからも共に冒険者として肩を並べてくれる彼らに、ワシはどう恩を返していけば良いのだろうか。
 雨風を凌げる場所を提供してくれた事は、勿論有り難いし、何にも代え難い恩義に違いない。けれどそれ以上に、未だ何も成し得ていないワシに対し、見返りも無く尽くしてくれる彼らに、ワシは恥じない行いを為せているのだろうかと、ふと疑念に駆られてしまう。
 冒険者として未だ駆け出しの身であり、フリーカンパニーの長でありながらも、そのメンバーの方がよほど熟達と言う環境。ワシは彼らを従えてなどおらず、寧ろ長であるワシを引っ張って貰っていると言っても過言ではあるまい。
 きっと彼らには今後も世話になる。ずっと、と言う訳にはいくまいし、彼らの優しさに甘え続ける訳にもいくまい。
「……皆、有り難う。いつかこの恩義、必ずや返すからの」
 バーチェアから降り、皆に向かって深々と頭を下げる。
 ワシに今出来る事は、感謝を尽くす事ぐらいだ。何度だって世話になるだろうし、何度だって迷惑を掛けるかも知れない。その度、何度だって、彼らには感謝を尽くしたい。そうしなければ、ワシは彼らに報いる権利すら失う気がした。
「え? 爺ちゃん、何かしてくれるの? 楽しみだなぁ~」
 ツトミちゃんの喜びで弾んだ声が聞こえてきた。
「ヤヅルさんにはたくさん働いて貰いますから、大丈夫ですよ」
 おっとりとしたエレット殿の声が続く。
「こ、これ以上何を返してくれるんですか……!?」
 驚きと戸惑いの声が、サクノ殿の口から零れる。
「やったー! 今度は何をしてくれるんですかヤヅルさん……!」
 ユキミ殿から、期待に満ち溢れた眼差しを注がれているような気がする。
「言質を取りましたからね、楽しみにしてますよマスター!」
 顔を上げると、クロス殿がグッと肯定の意を示して笑っていた。
「……お主ら……」
 釣られて、思わず笑ってしまう。
 ああ、きっと大丈夫だと確信してしまう。
 彼らが自然とワシに手を差し伸べてくれたように、ワシも自然と、彼らに手を差し伸べられる。
 その手は彼らだけでなく、きっと手の届く誰かに、困っている誰かに。

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