2021年7月2日金曜日

【ワシのヒカセン冒険記】第19話【FF14二次小説】

■あらすじ
エール、どれだけ飲める?

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【Lodestone】、【Pixiv】で多重投稿されております。




【第19話】は追記からどうぞ。

第19話

 
「地下にバーを拵えたのだ、折角だから皆で乾杯でもせぬか?」

 カンパニーハウス寄合所の地下。階段を下りてすぐに設営されたバーのカウンターに立ち、ワシは隣室で寛いでいる皆に笑いかけてみた。
「おお~、いいねぇ~。みんなで飲み明かしちゃおっか」ニパーッと微笑みかけながら嬉しそうに頷くツトミちゃん。「でもな~、わたし、お酒弱いんだよねぇ~」
「私も強くは無いので、程々にお願いします」苦笑を交えながらワシの隣を通り、エールサーバーを弄り始めるエレット殿。「そうですね、問題無く動きそうです。皆さんには私から配膳しますよ」
「エレットさんも無礼講ですよ無礼講!」サクノ殿が駆け寄って来て、エレット殿の持っていた盆を一枚奪取する。「えへへ、実は最近エールの味を覚えたばかりなので、皆さんと飲めるなんてワクワクします……!」
「サクノさんもイケる口なんですね!」ユキミ殿が青い豚の被り物を喜びで上下させている。「皆さんそういう話題全然しないものですから、てっきり禁酒法でも敷かれたフリーカンパニーなのかと……!」
「と言う事はユキミさんも相当好きですね?」クロス殿がニヤリと更新を歪めて、バーチェアに腰掛ける。「さぁさぁマスター、乾杯の音頭をお願いします!」
「う、うむ」まさか皆がここまで乗り気だとは思わず、若干気後れしてしまう。エレット殿にジョッキを手渡され、皆にジョッキが行き渡ったのを見計らい、――空咳。「皆のお陰で、このフリーカンパニー【オールドフロンティア】はカンパニーハウス、寄合所を得るに至った。感謝してもしきれん恩義じゃ。そしてこれからも皆には世話になるだろう。改めて皆に感謝の意を表するべく、ここで乾杯したいと思う。有り難う! 乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」
 からん、とジョッキの中の氷が揺れる涼やかな音が弾けた後、呷るように酒精を喉に流し込んだ。
 キンキンに冷えたエールは喉越しが良く、ピリピリとした刺激を伴って臓腑に染み渡っていく。
「ッックァ~ッ!」一気にジョッキを丸ごと飲み干して一息。「最高の一杯じゃのう!」
「ふぇ~、爺ちゃん、お酒強いなぁ~?」
 どこかフニャフニャした声に振り返ると、ツトミちゃんの顔が真っ赤に染め上げられていた。視線が定まらず、頭がくらくらと揺れている事からも、先刻の一杯で相当酔いが回っている様子が窺えた。
「ツトミちゃんはだいぶ酒精に弱いようじゃの」苦笑を浮かべながら、エールサーバーからジョッキにエールを注いでいく。「無理はするでない。何ならシャインアップルが余ってるでの、アップルジュースを拵えてやっても良い」
「んにゅぅ~……じゃあ~それでぇ~……」
 床の上で段々と丸くなっていくツトミちゃんを観て、最早アップルジュースを飲むまでも無くこのまま寝る事は明白だった。
 そんな感想を懐いている間にもツトミちゃんはスピスピと気持ち良さそうな寝息を立ててすっかり眠り込んでしまった。普段の意識の失う速度よりも倍増しと言ったところだろうか。
「済まぬがサクノ殿、何か掛ける物でも持ってきてはくれぬだろうか」
 微笑ましい光景から視線を逸らして、ソファで寛いでいる筈のサクノ殿に視線を向けると、彼女は彼女で「んぇえ? な、何でしゅ??」と意識が有るのか無いのか分からない表情でジョッキをローテーブルに戻している。
「サクノ殿もか……!」驚きながら更に地下を見回す。「相済まぬ、エレット殿、掛ける物を――」
「…………」
 バーチェアに腰掛けている彼女を発見するも、反応が無かった。
「エ、エレット殿……?」
「マスター。エレットさんなんですが、先程からひたすらジョッキを空けては注ぎ、空けては注ぎって感じで……」クロス殿が笑顔でジョッキを傾けている。「止めなくて良いんですかね?」
「う、うむ……まぁ、特に害は無さそうじゃしの……そっとしておこうかの……」
「あ、タオルケットでも用意しましょうか? 今動けそうなの、私とクロスさんとヤヅルさんだけみたいですし」
 助け舟を出してくれたのはユキミ殿だった。青い豚の被り物をしているために素顔は窺えないが、酩酊している様子は無く、足取りも軽快で、階段をひょこひょこ往復して、タオルケットをツトミちゃんとサクノ殿に掛けてくれた。
「エレットさんはさておいて、マスターとユキミさんは呑兵衛ですね。全然雰囲気が変わらない!」クロス殿がジョッキを傾けながら嬉しそうに呟き、用意していた甘味なのだろう、コーヒークッキーを摘まみながらワシらに差し出してきた。「どうぞこれを。納品する程のクオリティが無かった訳アリ品ですが……」
「わーい、有り難う御座います!」青い豚の被り物の下からポリポリ食すユキミ殿。「クロスさんも中々イケる口ですね! グビグビ飲んでる……!」
「訳アリ品と言うからどんなものかと思えば、店に並んでいても遜色ない美味さではないか」コーヒークッキーを齧りながら、エールを呷る。「うむ、酒の肴に丁度良い」
「中々こういう機会が無かったので、とても嬉しいです」
 ジョッキをカウンターに戻しながら、感慨深そうに呟いたクロス殿に意識が向く。
 彼は懐かしむようにジョッキを傾けながら、どこか遠くを眺めるようにエールに視線を落とす。
「ひたすら……ひたすら先へ先へと駆け抜けていましたから。こういう風に、誰かと一緒に飲み交わす感覚なんて、疾うに忘れてました」
「クロス殿……」
「マスターに拾って貰えた事、本当に感謝してるんですよ。どれだけ冒険を経ても、その旅物語を語り合える仲間を得るのって、今だと分かります……とても難しい事だったのだと」エールを呷り、クロス殿は改めてワシらに視線を向けた。「また、皆さんと冒険に出られる喜びに感謝を」
 クロス殿はそこで気恥ずかしさを覚えたのか、掲げたジョッキを戻して再びエールサーバーからエールを注いで、一気に飲み干した。
「私も……クロスさんの気持ち、分かるなぁ……」
 クロス殿の隣の席に腰を下ろしたユキミ殿が、ジョッキを両手で掴んで青い豚の被り物を俯かせた。
 ワシも倣うようにユキミ殿の反対側、クロス殿の隣に腰掛けて、ジョッキを呷った。
「気の合う仲間だったとしても、ずっと一緒にいられる事って、実はとても難しいんですよね……」ジョッキの底に視線を落としたまま、ユキミ殿の独白は続く。「だからこそ、皆さんとこうしてわちゃわちゃできるの、凄い楽しくて……」
「ユキミ殿……」
「ですから私もヤヅルさんに感謝してるんです。勿論、皆さんにも! これからもわちゃわちゃ楽しみながら、皆さんと一緒にいられたら、いいなぁ……なんて」
 ユキミ殿もそこまで言って気恥ずかしくなったのか、「クロスさんの空気に当てられて、何か変な感じですね! えへへ!」とワタワタ手を振り回し、改めてジョッキを青い豚の被り物の下から呷っていく。
 ワシもそんな二人に当てられたように、普段はしない酔い方をしている気がした。
 ワシの独り善がりで動いている訳ではないにしても、メンバーそれぞれに掛け替えの無い想いが有る事を、改めて認識する。
 ワシの綴った文章を観て加入してくれた、それは確かにそうだ。彼らなりに感じ入る事が有ったからこそ選び、そして今もなお、こうして集ってくれる。
 スピスピ寝息を立てているツトミちゃんとサクノ殿。そして遂に酔い潰れたのかカウンターに突っ伏して安らかな寝顔を覗かせるエレット殿。彼らにも感謝の念は尽きない。
 ……最早、ワシが生涯を通しても返せない程の恩義を、彼らから与えられてしまっていると言っても過言ではあるまい。だからこそ、少しでも彼らに尽くしたい。そんな想いに駆られてしまう。
「あぁ、ワシは果報者じゃ。これほどまでに人に恵まれた事が有ったじゃろうか」
 ジョッキを傾けながら、ふと声に出ていた事に気づき、――小さく苦笑してしまう。
 三人で笑い合いながら、夜が更けていく。
 思い出すのは、初めてツトミちゃんと出会ったウルダハの夜。あの時もツトミちゃんの優しさに救われ、一晩中語り明かしたものだった。
 それが巡り巡って、今では素敵な出会いを経た者達と語り明かし、飲み明かし……
 昔日の夢を経て、エオルゼアに罷り越し、こんな幸せを得られるなど、夢にも思わなかった。
 マザークリスタルに導かれ、このような幸福を甘受できたのであれば、その導きとやらも軽視は出来まい。
 であれば、一人の冒険者として。異郷よりエオルゼアまで導かれた者として。マザークリスタルが夢見る先を目指すのも悪くないと思えてくる。
 ああ、そうなったら、皆と共に……導き…………ぼう……け……ん………………

◇◆◇◆◇

「みんなおはよー。ほらー、朝だよ朝~いつまで寝てるんだ寝坊助さんども~」
 …………ツトミちゃんの声が聞こえる。
 窓から燦々たる陽光が差し込んでいるのが感覚として知れるが、頭が重く意識も明滅気味だ。
 無理矢理瞼を抉じ開けると、――惨憺たる世界が広がっていた。
 エレット殿、サクノ殿、ユキミ殿、そしてワシの四人がグッタリ倒れ伏し、ツトミちゃんとクロス殿が不思議そうにワシらを見下ろしていた。
「皆さん、お酒本当に弱かったんですね……」クロス殿が腕に蒸留水を入れて持ってきてくれた。「いや私もいつの間に寝たか記憶は無いんですが……」
「クロスさんは真っ先に寝てましたね……」青い豚の被り物を押さえながらグッタリ横たわっているユキミ殿が囁くような声を漏らした。「私とヤヅルさんが最後まで飲んでましたが……次の日はいつもこんな感じなんです……済みません……」
「ううう……お酒舐めた程度でこの体たらく……」ソファに横たわったまま動かないサクノ殿が呻き声を上げている。「うえぇ……世界が回るぅ……ぐるぐる……ぐるぐる……」
「申し訳ないです……飲み始めの頃から記憶が無く……」頭を押さえてカウンターに突っ伏したまま青い顔を覗かせるエレット殿。「……学びました……今後、エールは控えようと思います……」
「ワシもまさかここまで酔い潰れるとは思わなんだ……ユキミ殿も中々酒豪じゃのう……」
 頭痛で動けなくなる程になるとは予想だにせず、最早今日は依頼もへったくれもないだろう。
「全くもう、大の大人がだらしないぞ~。見て! このピンピンしてるわたし!」
 フッフーン、と謎の主張を始めるツトミちゃんを見上げながら、ワシは白目を剥きながら深く頷いた。
 このフリーカンパニーは安泰だ……と。

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