2021年7月21日水曜日

【ワシのヒカセン冒険記】第20話【FF14二次小説】

■あらすじ
侍ツトミの初陣。


【第20話】は追記からどうぞ。

第20話


「ゴントラン殿、今日はどんな依頼が舞い込んできておるのか見せて貰っても?」

 森の都グリダニアのカーラインカフェの一角。ギルドリーヴ――冒険者ギルドに寄せられる依頼を一手に扱い、冒険者に卸しているのが、カウンター越しにワシに穏やかな眼差しを向けているエレゼンの親仁、ゴントラン殿である。
 揉み上げから顎まで伸びている青みがかった白髭、すらりとした体型に揺らがない体幹、力強い眼光からはかつて歴戦の冒険者だったのではないかと言う邪推をさせる。
「ようこそ、ヤヅルさん。本日カーラインカフェに寄せられた依頼の中で、ヤヅルさんが受けられるものはこちらになります」
 ザッと並べられる依頼書の束に見ると、ワシは首肯を返して一枚一枚精査していく。
「ではこの依頼を頼まれよう」一枚の依頼書をゴントラン殿に手渡す。
 ゴントラン殿は依頼書を受け取ると、ザッと確認した後、「――承りました。依頼主のウジェネールにはこちらから連絡を入れておきますので、任務を達成されましたらバノック練兵所のムリオルに報告をお願いします」目礼を返した後、依頼書に受任のサインをして、手渡してきた。
「忝い。ではまた、宜しく頼む」
 ワシもお辞儀を返すと、カーラインカフェの中で寛いでいる二人の冒険者に向かって歩いて行く。
「待たせたのぅ。今日の依頼はこれじゃ」
 テーブルに着き、遅めの朝食であるベントブランチ牧場の野菜キッシュを摘まんでいた二人――ツトミちゃんとサクノ殿に、先刻の依頼書を見せる。
「もぐもぐ。わたしにできるかなぁ~。わたし若葉だもんな~。もぐもぐ」
「むぐむぐ。大丈夫大丈夫、ヤヅルさんはそんな意地悪しませんよ。むぐむぐ」
 美味しそうに野菜キッシュを頬張る二人を微笑ましく眺めながら、空咳を一つ。
「依頼主は猟師ギルドのウジェネール殿でな。黒衣森の北東に在る滝壺で釣りを行っていたギルド員が、獰猛な魔物に襲われる事案が起こったそうでの。丁度その滝壺が有望な漁場でな、安全を確保するためにも魔物を駆逐せよとの事じゃ」
「猟師ギルドのギルド員が襲われるぐらいの魔物……」口元を綺麗に拭ってサクノ殿が難しい表情を覗かせる。「黒衣森の北東の滝壺って、グリダニアから出てすぐそこですよね? 猟師ギルドもそうですけれど、若葉の冒険者の安全の確保って言う意味でも、大事な討伐任務ですね……!」
「そうだねぇ~。大丈夫かなぁ~」サクノ殿に倣うように口元を綺麗に拭ったツトミちゃんが、思い出したように手を打った「あ、そうだ。爺ちゃん爺ちゃん。わたしね、サクちゃんに刀を教えて貰う事になったんだ~」
「ぬ?」片眉を持ち上げて剽げた表情を見せる。「刀を教えて貰うと言うと、侍になると言う事かの?」
「そうそう~。侍って良いよね~、こう、ズバッとやっちゃう感じがさ~」
「そうですそうです、侍はもうスパパパッとやっちゃう感じがですね……!」
「うんうん、メタタタッ、って感じだもんね~」
「そうそう、シュピピピッ、って感じが……!」
「……よく分からんが、ツトミちゃんの恰好が侍装備になっている理由は何と無く分かった」頭が痛くなる言葉の応酬が始まりそうになったので慌てて片手で制する。「サクノ殿が侍の熟達である事は周知じゃしの、師として仰ぐには問題無かろうて」
「へへへ、ツトミさ……ツトミちゃんは筋が良いからすぐに上達しますよ! 私が責任持って最前線に送ります!」自信満々の様子でサクノ殿が肯定している。
「ええ~、最前線は困っちゃうな~。アレだよ、近場で定時で帰れるようなとこで弱っちい奴を倒す感じにしよう!」ニパーッと惚けた様子で微笑みかけるツトミちゃんである。
「定時で帰る……! ですねですね! その方が全然良いです! もう三時にはおやつも食べちゃう感じで!」サクノ殿の瞳が爛々に輝いている。
「うんうん、昼寝付きでね!」嬉しそうに喜び始めるツトミちゃん。
「おいおい、話が脱線したまま帰ってこぬではないか。話を戻して良いかの?」
「「は~い」」ツトミちゃんとサクノ殿が顔を見合わせてニヒヒと笑っている。
 やれやれと肩を竦めると、ワシは改めて依頼書を叩いた。
「急ぎの依頼ではないとしても、早い内に片付けねば新たな被害者が出ぬとも限らん。早々に片付けて、定時とやらで帰ろうではないか」
「うんうん、定時は大事!」「早く帰っておやつにしましょう!」
 ツトミちゃんとサクノ殿が嬉しそうに応じたのを見て、ワシも素直に頷く。
 ……これが、ワシらフリーカンパニー【オールドフロンティア】の日常。グリダニアのラベンダーベッドに拠点を構えてから、グリダニアに寄せられる依頼や任務を熟して、日々の糧を得ている。
 今日はエレット殿とユキミ殿、クロス殿は別件で活動しているため、今回はワシとツトミちゃん、サクノ殿の三人で依頼を熟す事になった次第である。
 金銭的な面で活動をしている訳ではなく、ワシらにでも出来る、困った者に手を差し伸べる活動をしているに過ぎないため、毎日依頼を熟さなければならない訳ではない。勿論、口に糊して冒険者業に励んでいる訳ではないのだから、報酬は報酬としてかっちり頂く訳だが。
 ワシやツトミちゃんはまだ冒険者として若葉……新兵に他ならない戦力である事は自他ともに認める事実だ。それ故に、ワシらでも出来る範囲と言うのは極々限られている。その中で出来る事を、誠実に、しっかりと熟すべきだろうと言うのが、ワシの思想でもある。
 少しずつ実績を積めば、何れもっと大口の依頼が受けられるようになるのは分かる。だからこそ地盤固めとして、一歩ずつ、己の手が届く範囲の困窮者に手を差し伸べていく。

◇◆◇◆◇

「……確かに魔物の姿が散見されるのぅ」
 グリダニアの青貉門を出て左手に在る滝の裏手側。再生の根株が鎮座するだだっ広い空間には、ナッツブレーカーと呼ばれるリスのような見た目の魔物がそこここに見受けられた。
 猟師ギルドの末端であれば、確かに襲われて怪我をしてしまうかも知れない。冒険者であれば或る程度の練度を有していれば苦戦する相手ではない。ワシは隣に立つツトミちゃんに視線を向けると、視線でナッツブレーカーを示した。
「侍の手習いに丁度良いのではないか? 侍になったばかりであるなら、立ち回りの理解も不十分であろうし」
「ああ~爺ちゃんそう言ってズル休みする気でしょ~? いけないよ、そういうのは」不満そうにワシを問い詰めるツトミちゃん。「爺ちゃんもちゃんと働くよーに! そう! 馬車馬のように~」
「馬車馬のように~!」楽しそうに反芻するサクノ殿。「あっ、これ私も馬車馬のように働かされる流れでは……?」
「フフフ……気づいた時にはもう遅いっ、さぁ働けぇ~馬車馬のように~♪」
「いやいやお主も働くんじゃよ、ツトミちゃんよ」
「くぅ~、誤魔化しきれなかったかぁ~」「流石ヤヅルさんですね……!」「おいおい……」
 すらり、とツトミちゃんが鞘から白刃を抜き放つと、その刀身に魅入るようにうんうんと頷く。
「今宵の……何だっけこれ……何とかは血に飢えておるわ……くくく……」
「まだ昼間じゃぞ」「大事なところが何とかになってる……!」ワシとサクノ殿のツッコミが走った。
「まぁまぁそこはアレだよこまけー事は気にスンナ!」照れたように白刃を振り回すツトミちゃん。「よーし、やっちゃるぞー」
 トテトテとナッツブレーカーに歩み寄って行くツトミちゃんを、ワシとサクノ殿が固唾を飲んで見守る。
「……さて、お手並み拝見……!」「頑張ってツトミちゃん……!」
 ワシとサクノ殿の視線の先で、ツトミちゃんが刀を構える。
 ナッツブレーカーは近づいてきた脅威であるツトミちゃんに気づき、牙を剥いて飛び掛かり――――「てやー!」咄嗟に十字に切り裂く斬撃――刃風が直撃し、裂傷を負ってそのまま動かなくなった。
 ツトミちゃんは緊張した面持ちで浅く呼気を吐き出すと、ワシとサクノ殿に向かって振り返り、「ぶい!」と勝利の手振りを見せてはにかんだ。
 ワシとサクノ殿は互いに安堵の吐息を漏らして、これなら大丈夫だと頷き合うと、そこからナッツブレーカー狩りの競争が幕を開けるのだった。

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