2021年9月11日土曜日

【ワシのヒカセン冒険記】第23話【FF14二次小説】

■あらすじ
地下工房と飛空艇。


【第23話】は追記からどうぞ。

第23話


「――地下工房?」

 寄合所の庭で焚き火を囲みながらのんびりと休息していたワシとツトミちゃんの元に、クロス殿が書類を持って現れた。
「カンパニーハウスの地下に当たる部分に工房を作成できると、先程エレットさんからお話を伺いまして」書類をワシに手渡しながら、クロス殿は手振りを交えて説明する。「金銭的な問題は私達が解決しましたので、後はマスターであるヤヅルさんに確認をと」
「……金銭的な問題と言うと、また高額なギルを工面したのか?」怪訝な表情をしてしまう。「何度も言うておるが、有り難い事には違いないのじゃがの、そうポンポンと高額なギルを用意して貰うのはこう……流石に心苦しいんじゃが……」
「済みません……ただ、ヤヅルさんが喜んでくれるかなと思いまして……」
 しょんぼりと、寂しそうに佇むクロス殿に、雨に濡れた子犬を連想してしまったワシはそれ以上強く言えなくなり、「……ま、まぁ、悪気が有っての事じゃないしの。今後は気を付けてくれい」と空咳を挟んで首肯を返した。
「クロちゃん、爺ちゃんの扱い方を心得てるね……!」ツトミちゃんが肯定の意を示す。
「勿論です、ヤヅルさんはウチの姫ですからね……!」クロス殿も肯定の意を返した。
「? 何の話じゃ?」「「何でもないです」」「??」
 よく分からないが二人が楽しそうに笑い合っているのを傍目に、ワシは立ち上がって寄合所の中へと入って行く。
 クロス殿とツトミちゃんはそれに続き、寄合所の一階――待合室として設けた部屋の奥、個室に続いている扉の前にエレット殿とサクノ殿、そしてユキミ殿が立っているのに気づいた。
「……もしや、もう地下の工房とやらの工事が終わっておる感じかの?」呆れた表情を浮かべずにいられない。「手が早いと言うか何と言うか……」
「ヤヅルさんの許可待ちでしたが、メンバーの皆さんが“ヤヅルさんなら絶対に許可してくれる”と……」エレット殿が苦笑交じりに空咳をしている。「既に工事は終わっていまして、後は確認のために訪れるだけです。今、お時間大丈夫ですか?」
「ワシは構わんが……皆も今で良いのかの?」
 振り返ると、メンバーの皆が期待を込めた眼差しを向けてコクコク頷いている様子が見て取れた。
「では参ろうか。その、地下工房とやらに」
 扉を開き、廊下の先――新たに建築された地下へと続く階段に足を踏み入れ、その先の扉へ――
「――――これが、工房か……!」
 見たままの感想を言えば、小さな工場とでも表現できるだろうか。
 部屋の中央には巨大な装置が設置され、その装置を起動するためのモノであろう機材が置かれている。資材を投入する事で、その装置の中で資材同士が結合し合い、目当ての代物が製造される……と言った仕組みだろうか。
 入って右手には何かしらの機械を操作・管理するための機材が置かれ、左手には設計図を精製するための白板が製図者を待ち侘びている。
 童心に返る想いで、目を皿にして地下工房に見入る。まるで童が夢見る秘密基地そのものだった。
 フリーカンパニーに許された施設と言う事は、グランドカンパニーにも認知された施設である事は自明の理。故に秘密裏に悪巧みが出来る……と言う事ではないのだろうが、全部が全部グランドカンパニーに筒抜けと言う事もあるまいし、或る程度は知られずに好きなものを製造できる筈だ。
 そう考えると……悪戯っ子の思想が鎌首を擡げてしまう。悪事を働こうと言う訳ではないが、隠れて何かを為すと言う行為は、それだけで好奇心と高揚感が高まってくるものだ。
「わぁ~、ここが奴隷の仕事場かぁ~」ツトミちゃんがまた不穏な事を呟いている。「うんうん、ここで一日中働かせる訳だね? おギルがたんまりだね爺ちゃん!」なぜそこで肯定の意を示すのだお主は。
「奴隷工場……! ここ、奴隷工場だ……!」はわわ、と仰天し始めるサクノ殿である。「完全にブラック! 私はとんでもないフリーカンパニーに来てしまったのか……!」落ち着いて欲しい。
「ツトミの姉御が壺を高く売りつけてるって聞きました!」ユキミ殿、それはワシ初耳なんじゃが。「つまりここで奴隷に壺を作らせてるって事……!」何もかも初耳じゃな。
「ホワイトでクリーンなフリーカンパニーと聞いていましたが……まさかそこまで悪事に染まっていたとは……」ふぅ~っと溜め息を零すクロス殿。「ヤヅルさん、出頭するならお供しますよ?」おいおい。
「お前さん達……」ジト目で皆を見やる。「どういう目でワシを観とるのか、よぅく分かったぞ……」
「「「「えへへ」」」」ツトミちゃん、サクノ殿、ユキミ殿、クロス殿が同時に頭を掻きながら微笑んでいる。
「全く……」やれやれと肩を竦め、改めて機材を一つ一つ確認していく。「どうやら飛空艇……ブロンコ級の飛空艇を作成できる設計図が用意されておるようじゃの」
「飛空艇……!」サクノ殿が目を輝かせている。「奴隷が空に羽ばたいていく……」奴隷から離れんかい。
「違うよサクちゃん、きっと奴隷を諸国から拉致してくるんだよ」ひそひそとサクノ殿に声を掛けてるのが丸聞こえじゃよツトミちゃん。「これで労働力は心配ないね!」その発想が心配しかないんじゃが。
「飛空艇は各地で資材を収集してくるために運用するようです」エレット殿が書類を片手に説明している。「基本的にマメットが乗り込むので、私達はそれを管制盤で見守るのが主立った活動になるかと」
「なるほど……ちょっと乗ってみたかったですよね、飛空艇」ユキミ殿が腕を組んで名残惜しそうに近くに佇んでいるマメットと言う機械人形を見つめている。「こっそり隠れて乗船したら怒られますかね……?」そりゃ怒られるじゃろ。
「資材を持ち帰ると言う事は……」何かを閃いた表情を見せるクロス殿。「やはり壺作りの資材を集めさせる……!」違う違う。
「ええいっ、マトモな話が出来る者はおらんのかっ!」思わず地団太を踏んでしまう。「まぁ、ウチらしいと言えばウチらしいが……」
「爺ちゃん、分かってるぅ~♪」「ヤヅルさんが遂に堕ちた……!」「うんうん、それでこそヤヅルさんです!」「マスターはそうでなくては!」ツトミちゃん、サクノ殿、ユキミ殿、クロス殿が銘々に肯定の意を示したり頷き合ったりしている。
「……お主ら……」
 拳を固めてワナワナと震え出すも、最早この流れを止める事は出来まいと早々に諦めた。
「ヤヅルさん、ブロンコ級の飛空艇を建造するにも、まずは大量の資材が必要になります」こほん、と咳払いをして書類を見せてくれるエレット殿。「設計図に記された見積もりをザッと確認したところ、これぐらい……」
「何々……?」手渡された書面を観て目を丸くしてしまう。「……ま、まぁ、飛空艇を一隻、自前で建造するとなれば、そりゃのう……着手して何ヶ月……いや、何年の月日が掛かるやら……」
「見せて見せてー」ツトミちゃんが肩越しに覗いてきた。「わぁ~、みんな頑張ってねぇ~」端から手伝う気が無いのかお主っ!
「どれどれ……」サクノ殿も一緒に覗きに来た。「なるほどなるほど……私もギャザラーの心得は有りますから、お手伝いできる資材が有ったらちょちょっと採ってきますよ!」グッと肯定の意を示してくれた。
「うんうん、私も手透きの時にでも採集活動してこようと思います!」ユキミ殿も豚の被り物越しに頷いてくれた。「見たところ近場の資材が多そうですし、すぐ終わりますよきっと!」すぐには終わらんような量だと思うんじゃが……
「ですね……私もギャザラーの血が沸き立ってきましたよ……」クロス殿が燃えている……!「久し振りにピックとハチェット片手にエオルゼアを駆け巡りましょうか……!」本気の目じゃぞこやつ……!
「では私は資材の確認と整理を任されましょう」トンッと胸を叩くエレット殿。「帳簿も付けますので、もし経費に計上できそうなものは申告してください。確り支払いますので」いつの間にかとても確りしてきたな……!
「ワシも折を見て採集はしてくるがの、皆も手透きの時で構わんからの?」念のため釘を刺しておく。「普段の活動が疎かにならん程度で構わんからの?」
 念には念を入れて釘を刺したつもりだったのだが、ブロンコ級の飛空艇の建造に着手して僅か三日で資材が集まる事になり、皆が尋常ならざる冒険者である事を改めて再認識するのだった。

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