2021年9月12日日曜日

【ワシのヒカセン冒険記】第24話【FF14二次小説】

■あらすじ
ウチの豚は飛べる豚!


【第24話】は追記からどうぞ。

第24話


「――本当に資材が集まっとる……」

 昼下がりの寄合所、その地下工房。
 秘密基地の様相を呈したその部屋で、カンパニーチェストに詰め込まれた大量の資材と、ユキミ殿が作成してくれた資材の一覧表を照らし合わせて、愕然とした面持ちでワシは確認を終えた。
 振り返ると、照れ臭そうに鼻の下を擦っているメンバーが複数名……いや最早全員と言って差し支えないだろう。
「皆……何と言うかの、頑張り過ぎじゃぞ?」腰に手を当てて呆れた表情を見せる。「急ぎの用でも無し、年単位で掛かりそうな調達を、よもや三日で終わらせるなど……常軌を逸し過ぎじゃ。少しは体を労わらんか」
「そういう爺ちゃんこそだよぅ~」ぷぅ~っと頬を膨らませるツトミちゃん。「わたしは頑張ってないけど、爺ちゃんを含めて皆頑張り過ぎ! わたしを見習いなさ~い! 今日もお昼寝とおやつで元気いっぱいお腹いっぱいだよぅ!」得意気な顔をして踏ん反り返っている。
「そうですそうです! 皆さん、ツトミちゃんを見習いましょう!」サクノ殿が不満そうな表情で皆に睨みを利かせている。「私も三食昼寝におやつでやる気満々眠気満々ですよ!」やはり得意気な顔をして踏ん反り返っている。
「全くです! 皆さんちょっと張り切り過ぎではないですか?」こっくりと豚の被り物を傾かせて腕を組んでいるユキミ殿。「私はちょぉーっと資材を入れただけで、全然頑張ってませんからねホントデスヨ?」言葉尻が妙にカタコトのように聞こえる。
「やはりこのフリーカンパニーはブラック……誰も自覚せずに労働基準を破っていますね……!」クロス殿が難しい表情をして皆を見渡している。「週休二日制ではもう無理です、週休五日制ぐらいにしないと皆さん倒れますよ! 私は倒れませんけどね!」最後の台詞で何もかも台無しにしている。
「……と言う訳で、皆さんも気づかない内に資材が集まるほど働いていたようです」纏めるように空咳を挟んでから告げるエレット殿。「斯く言うヤヅルさんも過労死一歩手前の労働をされていた事は確認済みですので、言い訳は無用です」キリッとしておる……
「う、うむ。まぁ、その、何じゃ」ケフケフと咳払いを挟む。「皆もこれから無理せず、ゆとりを持って活動しよう、な?」
「「「「はーい」」」」ツトミちゃん、サクノ殿、ユキミ殿、クロス殿が挙手して気の抜けるような声を返してくれた。
 さておきだ。
「何にせよ、まさか飛空艇の資材が集まり切るとはのぅ……早速建造してみるか」
「やったね爺ちゃん! これでエオルゼアの各地から奴隷が」「奴隷船ではないぞ!」「ちぇー」ちぇーではないちぇーでは。
 ツトミちゃんが脹れっ面でそっぽをむいているのに溜め息を返しつつも、早速装置に資材を投入していく。
 ガゴン、ガゴン、と物々しい音を立てて巨大な装置に資材が吸い込まれていき、巨大で透明な器の中で資材同士が結合、合体していく。
 船体、艤装、船首、船尾……大まかな四つの機構に別たれた部品を、それぞれ作成し、あれだけカンパニーチェストを圧迫していた資材は見る間に溶けて、四つの巨大な部品に組み上げられていった。
「……完成、じゃな」
 地下工房の一角に鎮座するその巨大な部品を観て、ワシはひとまず安堵の吐息を漏らした。
「わぁ~! 飛空艇って大きいんだねぇ……」部品を突いて驚きの声を上げるツトミちゃん。「奴隷……はさておいても、皆でこれに乗ってお空の散歩とかも楽しそうだねぇ~♪」
「お空の散歩……! それは夢が広がりますね……!」瞳を輝かせているサクノ殿。「確か飛空艇って、ガーロンド社が保有する物しか運航されてないんでしたよね? こっそり運用して空島探索も良いですね……!」
「皆さんと一緒に空の旅……!」ユキミ殿の青い豚の被り物の瞳が輝いているように錯覚した。「ところで、雲海釣りと言うのも有るんですよ! 飛空艇で旅しながら釣り糸を垂らす……ロマンだ……!」
「空島と言えばディアデム諸島で採集も忘れてはなりませんね……」クロス殿の瞳がギラリと輝いた。「この飛空艇でこっそり赴けるなら、採集が更に捗る……良いですね……!」
「……皆さんが夢と希望に満ち溢れてるのを見て、私も冒険業をもっとしたくなってきました……」口元を隠して上品に笑むエレット殿。「私も皆さんに追い着けるように、出来る事からコツコツと、冒険業を楽しんでいこうと思います」
「そうじゃの。皆の熱い想いが込められた飛空艇、もう既に愛着が湧いてきよるわい」うんうんと頷き返す。「さてと、では早速双蛇党にでも登録申請を出して、運用を開始しようかの」
「登録申請でしたら抜かりなく」エレット殿がどこから取り出したのか、双蛇党の印が捺された書類を手渡してきた。「今からでも運用は開始できます」
「ほ、本当に抜かりないのぅ」思わずたじたじになってしまう。「では早速……」
「ところで爺ちゃん」はいっと挙手するツトミちゃん。「その飛空艇、名前は付けないの?」
 皆の動きが一瞬固まった。
「……確かに、名前は考えてなかったのぅ」思わずと言った態で難しい表情を浮かべてしまう。「名前……飛空艇の名前、か……」
「う~ん……折角名付けるのですから、そのフリーカンパニーの特色と言いますか、象徴するものの名前が良いですよね……」ワシと同じように考え込む仕草をするサクノ殿。
「フリーカンパニーを象徴するもの……」
 ――ふと、ワシの視線の先に映ったのは、ユキミ殿だった。
 青い豚の着ぐるみ。それが「う~ん、名前……名前……」と唸っている姿が、視界に映り込んでいる。
 ワシがジッとユキミ殿を凝視している事に気づいた面々が、ユキミ殿を見つめながら閃いたと言わんばかりに瞠目して納得した風な表情を見せ合っている。
「……豚、とか?」クロス殿がポツリと漏らした。
「えっ? 豚??」ユキミ殿がハッと自分が皆に見つめられている事に気づいた。「えっ? 飛空艇の名前が……豚??」
「うむ、単純明快、我がフリーカンパニーの名物とも言えるし、何より目立つ!」ポンと手を打つ。「決まりじゃ! 我がフリーカンパニー【オールドフロンティア】が初めて保有する飛空艇の名は――【Buta(豚)】!」
「うんうん、いいね!」ツトミちゃんがグッと肯定の意を表してくれた。「飛べない豚はただの豚! ウチの豚は飛べる豚!」
「良いですね良いですね!」うんうんと頷くサクノ殿。「ユキミさんモチーフなら、塗装も青色にしたいですね!」
「青色の豚の飛空艇……中々味が有りますね」腕を組んでコックリ頷くクロス殿。「とてもウチらしくて良いかと!」
「では塗料を用意しておきますね」ニコリと微笑んで早速買い出しに行こうとするエレット殿。「すぐにでも運用できるように、お店まで走ってきます」
「えっ、えっ、良いんですか!? 青色の飛空艇で、名前が【豚】で!?」驚き戸惑い慌てふためくユキミ殿。「嬉しいですけれど! 嬉しいですけれど、皆さん本当にそれで良いんですか!?」
「勿論じゃとも」「異論なーし」「素敵じゃないですか!」「とてもイイと思います」「異存は有りません」ワシ、ツトミちゃん、サクノ殿、クロス殿、エレット殿、皆満足そうな笑みを浮かべて首肯を返した。
「わぁ~! 嬉しいです、有り難う御座います……!」感極まった様子でぷるぷる震えるユキミ殿。「もう飛空艇に愛着が湧いてきちゃいますね……!」
「そうじゃのぅ。これから宜しく頼むぞ!」
 ――そうして、製作に着手して僅か三日で建造された飛空艇――【豚】は、今後グリダニアの空を駆け巡り、数多の資材を獲得してくる事になるのだが、それはまた、別の機会に。
 ……ただ、飛空艇を呼ぶ度に「豚がのぅ」「豚の成果はどうですか?」「豚、今います?」「豚ちゃんどうなった~?」などと、謎の会話になりがちで、出先で話そうものなら「豚でも飼っているのか……?」と思われるなら未だしも、同席するユキミ殿に奇異の視線が向けられるのは、どうにかならんものかな……などと思ってしまうのだった。

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