2021年9月19日日曜日

【ワシのヒカセン冒険記】第25話【FF14二次小説】

■あらすじ
七人目のメンバー。


【第25話】は追記からどうぞ。

第25話


「――面談の申し込み?」

 場所は寄合所、その中に在るワシの私室――と言う名の書斎で、学者に関する情報が記載されている書物を片っ端から読み耽っていたワシの元に、ユキミ殿がいつもの青い豚の着ぐるみ姿で訪れていた。
 乱雑に散らばっている書物を脇に退かして正座したユキミ殿は、「はい。ウチのフリーカンパニーに新規で加入したいと言う方が、私のフレンドに……」と、神妙な声で応じた。
 ワシはユキミ殿を正視して、一つ大きく首肯を返す。
「ウチは大々的に社員の募集を行ってはおらんが、新規で加入したいと言う申し出は基本的に受けたいと思っておるでの」手振りを交えてユキミ殿を肯定する。「それに、ユキミ殿の朋友であれば、どこぞのチョコボの骨と言う事もあるまい」
「わぁ~、有り難う御座います……! お話だけでも聞いて貰いたいなって思ってたので……! それじゃあ、先方にお話を通しておきますね! 有り難う御座います!」
 嬉しそうに、飛び跳ねるように書斎を去って行くユキミ殿を見送り、ワシは悶々と妄想してしまう。
 ユキミ殿の朋友……と言うと、もしや青い豚の着ぐるみがまた一人増えるのだろうか……いやいや、そんな事はあるまい。いや待て、色違いの豚の着ぐるみが……? 或いは全く異なる生物の着ぐるみが来るのやも……?
 などと、大変失礼な妄想を一通りした後、ユキミ殿の朋友だからと言って着ぐるみである訳は無いか、と結論付け、ひとまず予定と都合を擦り合わせようと、ワシも書斎を後にするのだった。
 今やフリーカンパニーの予定表や計画書などの作成はエレット殿に一任しているので、その確認と申請になる。冒険業は中々できないものの、こういう形ででもワシらに係わってくれる彼女には感謝しかなかった。

◇◆◇◆◇

 そして面談の日取りはあっと言う間に決まり、ワシとツトミちゃんの二人はグリダニアのカーラインカフェで、加入希望者を待つ事になった。
 ……のだが。
「……相済まぬ、同席予定であるサブマスターは、少しばかり遅刻する事になるやも知れぬ……」
「いえいえ! お構いなく!」
 カーラインカフェに定刻通りに向かう手筈が、ツトミちゃんだけでなくワシまで遅刻してしまい、先方――加入申請者であるミコッテの青年が快活な笑みを浮かべて待ち構えていた。
 元気溌剌と言った雰囲気のミコッテの名は――マコ・ユメナと書類には綴られていた。
「お初にお目に掛かる。ワシがフリーカンパニー【オールドフロンティア】の元締め……マスターを務めておるヤヅルと言う者じゃ。マコ・ユメナ殿で間違いなかろうか?」
 着席を勧めながらワシも席に着くと、ミコッテの青年――マコ殿は大仰に頷いてくれた。
「間違いありません! 私がマコです! ヤヅルさんとお呼びしても?」
「ああ、構わんとも」ワシも大仰に頷き返す。「ワシもマコ殿と呼ばせて頂くゆえ」
「有り難う御座います! ナマコでも良いですよ!」
 間。
「…………ナマコ?」
「はい! 私、一般海産物の、ユメナマコです!」
「一般海産物の…………ユメナマコ…………?」
 …………イカン、理解に及ばない世界ゆえに、理性が理解を拒んでいるようだ。
 ワシが宇宙の深淵を垣間見ている間に、「お待たせ~」と声を上げながら、パタパタと足音を響かせてツトミちゃんが駆け寄って来た。
「――――お、おお、待っておったぞ」意識が宇宙から帰ってくる。「マコ殿、こちらサブマスターのツトミちゃんである。今回の面談はこの娘とワシの二人で致すゆえ、宜しく頼む」
「了解です!」ビシッと敬礼を返すマコ殿。「宜しくお願いします!」
「よろしくぅ」ニパーッと微笑むツトミちゃん。「マコさんはどうしてウチのフリーカンパニーを?」
 ツトミちゃんの開幕の質疑に、マコ殿は「それがですね……」と難しい表情を覗かせて腕を組んだ。
「元々別のフリーカンパニーのマスターだったんですけどね、ちょっとトラブルが遭って、脱退してきたところなんです」
「ほう」思わず食いついてしまう。「と言うと、メンバーに何か問題が……?」
「いえ、私自身の問題……ですね」難しい表情のまま唇を尖らせるマコ殿。「マスターとして、メンバーに気を配り切れなかった……自分の事を優先するあまり、メンバーともっと交流できず、それが齟齬になり軋轢になり……なので、メンバーのせいではないです。マスターとしての、自分の落ち度だと思っています」
 真摯な態度で向き合うマコ殿に、ワシとツトミちゃんは顔を見合わせて頷き合う。
「それで、ウチのフリーカンパニーに?」
「そちらのフリーカンパニーのメンバーである、ユキミさんにお話を伺いまして。活動らしい活動は無く、マスターも率先して行動をする訳ではないフリーカンパニーであると」こっくり頷くマコ殿。「そこでなら私も、もう一度やり直せるのではないかと思いまして。何も活動が無いからこそ、もっと率先してメンバーの皆さんと交流できるのではないかと……!」
 グッと握り拳を作って熱く語るマコ殿に嘘の色は見られなかった。
 今までの行いを悔いていると言うより、今まで以上に自分と周りを大切にしていきたいと言う意気込み、そして熱意をヒシヒシと感じる。
 後悔が全く無いと言う訳ではないだろう。けれどそれ以上に、もっと良くしていきたいと言う意志が溢れ、それが活力・気力として漲る程に映っているのだ。
 ワシとしては申し分無い申し出に違いなく、ツトミちゃん自身も彼の意志を否定する様子は見られなかった。
 だが、それはそれとして、ワシらには懸念が有った。
「ワシもツトミちゃんも、マコ殿の加入自体は即時受け入れしても構わんのだが、一つだけ言っておこうと思う」こほん、と空咳を一つ挟む。「ワシらは全く活動していないと言う訳ではないにしても、日がな一日茶をしばいて過ごす事も有る程に、冒険者としての活動は控えめでな。マスターであるワシ、そしてサブマスターであるツトミちゃんの装備を観て感づいたと思うが、まだまだ雛チョコボに等しい戦力じゃ。受けられる依頼もこのグリダニア周辺の警邏が精々……そういう意味での、活動らしい活動が無いフリーカンパニーなのでな、マコ殿が精力的に活動したいと言う意志を尊重するにしても、ワシらがそれに応えられるかどうか……」
 纏う雰囲気、そして見た目……彼を彩る装備品の質の高さからも、その練度は推して測れるし、何よりあの熟達冒険者であるユキミ殿の知己ともなれば相応の実力者である事は自明……
 それ程の練達が、ワシらのような若輩者と肩を並べても、張り合いが無いのではと危惧しているのだ。
 無論、共に活動してくれる事には異論は無く、有り難い事この上ないのだが、それはマコ殿にとって実りある事なのか。その疑念が払拭されない限り、安易に受けるべきではないと思うのだ。
 ……とまぁ、今まで加入してきたサクノ殿、ユキミ殿、クロス殿、何れの御仁の時も同じように思い、同じように問うてきたのだが、彼はどういう答を有しているのか、それが気になっていた。
 マコ殿は瞬きを数度した後、得心したように手を打つと、屈託の無い笑顔を返してきた。
「それは全然気にしてません! 寧ろこちらからガンガンお誘いを掛けていこうと思っていますので、メンバーの皆さんが迷惑しないか、そちらの方が心配です……!」
 今度はワシとツトミちゃんが目を白黒する番だった。
 精力的に活動されている御仁なのだろうと言う推測は有ったが、まさかこの若輩者のワシらにすら声を掛ける程に熱心に活動されるとは……
 ワシが言葉を失っていると、ツトミちゃんがおかしそうに笑い声を漏らし始めた。
「爺ちゃん爺ちゃん、こうなったらもうお腹を括るしかないよ。マコちゃんはアレだ、きっとどこでも引っ張ってってくれる冒険者さんだよ」
「どこにでも引っ張っていきますよ!」
 グッと即座に肯定の意を返すマコ殿に、ワシも観念したとばかりに白旗を上げる。
「そこまで言うのであれば、是非も無し! こちらからも加入を受け入れを願いたいのだが、宜しいか?」
「有り難う御座います! これから宜しくです!」
 席を立って固い握手を交わすと、ワシらは早速契約書を取り交わし、マコ殿は正式に我がフリーカンパニーのメンバーになった――その直後。
「では改めまして、マコです! 宜しくお願いします!」仰々しくお辞儀をした後、即座に顔を上げてワシの手を取るマコ殿。「早速ですが沖釣りに行きませんか!? 最近釣りにハマってるので、ぜひ親睦を深めながらヤヅルさんと釣りをしたいのですが!」
「お、おう? 急な話じゃな」驚き戸惑うも、幸い今は予定が無い。「そうじゃな、折角じゃからその申し出を受けようかの。ツトミちゃんも一緒にどうじゃ?」
「行きたいところなんだけどぉ~」ふわぁ~と大きな欠伸を浮かべるツトミちゃん。「今日はちょっとこれでお休みしま~す。気を付けて楽しんできてね~」
「かしこまりです!」軽快に敬礼を返すマコ殿。「じゃあ行きますかヤヅルさん!」
「い、今すぐかの?」と言いながらもう既に腕は引っ張られていた。「うおお力強い引き! じゃ、じゃあのツトミちゃん~!」
「いってらっしゃーい」手を振りながら笑うツトミちゃんが彼方に消えていった。
 ――そうして、急遽リムサ・ロミンサまで連れてこられたワシは、手を引かれるままに漁船に詰め込まれ、エオルゼアの沖合を一日掛けて巡る船旅が始まるのだが、それはまた別の機会に……
 その時に知る事になったのだが、このマコ殿、だいぶ猫を被っていた事が判明し、面談の時はまだ片鱗だった元気溌剌意気揚々が、これでもかと発揮され、ワシが精魂尽き果てた姿で漁船から運び込まれるのは、更にその後の事になる……

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