2021年11月13日土曜日

【ワシのヒカセン冒険記】第28話【FF14二次小説】

■あらすじ
フォールゴウドにて。


【第28話】は追記からどうぞ。

第28話


「見えてきましたよ、アレがフォールゴウドです」

 クロス殿の先導で、ワシとツトミちゃん、そして殿にマコ殿を加えた四人は、グリダニアの旧市街にある黄蛇門から北部森林に出ると、エ・タッタ監視哨を北に望みながら緩やかに南下……ひそひそ木立を西に向かって進軍。鬼哭隊の衛士であるケンナード殿と挨拶を交わした後、サソリのような大型の魔物であるベーンマイトの視線を掻い潜りながら更に西へ。
 見えてきたのは木製の門。その奥には複数の橋で形成されている集落だった。
 ワシやツトミちゃんが普段狩場として利用しているひそひそ木立より練度の高そうな魔物がそこここに見受けられる土地を越えた先に在る集落である。屯する冒険者も、どこか顔つきが逞しいように映った。
「道中はまだ長いのじゃろう? ここは休憩せずに距離を詰める感じかの?」
 特別長い距離でもないし、魔物と大立ち回りをした訳ではないにも拘らず、慣れない土地と見慣れぬ環境に因るものか、緊張感が幾許か、そして心身に少なからぬ負荷が掛かっているように感じられた。
 この場にはクロス殿やマコ殿と言った歴戦の強者は確かに同席しているものの、単純に己より練度を上回る魔物が蔓延っていると言う環境自体が言い知れぬ悪寒を全身に纏わせる。
 ともすれば一撃で死に直結するかも知れないのだから、さもありなんと言えばそうなのだが。
「ゆっくり観光して回りたいけど……」ツトミちゃんの表情がいつになく曇っている。「何だか空気がピリピリしてるねぇ。みんなお腹でも空いてるのかな?」
 ツトミちゃんの言葉に釣られて周囲に意識を向けると、――確かに。フォールゴウドを行き交う冒険者ともなればワシよりも熟達であろう事から顔つきも違うのだろうと察していたが、そもそも皆、何か切迫した危機でも感じ取っているのか、張り詰めた空気を強いているように伝わってくる。
 クロス殿とマコ殿もその雰囲気に気づいてか、不穏な気配を漂わせながら、「ちょっと話を訊いてきてみますね」「俺もちと先にアルダースプリングスの状況を見てきやす」と、ワシとツトミちゃんに待機を命じて我先にと駆け出して行った。
「流石に冒険者としての場数が違うのぅ。ワシらも背を観て学ばねばな」
 よっこいしょ、と近場の腰掛に座り込むと、ツトミちゃんも倣うように隣に腰掛けた。
「爺ちゃん爺ちゃん、わたしの背中もどんどん見て良いよ?」
「言われずともよ。ツトミちゃんから学ぶ事もたくさんあるわい」
「でしょでしょ? フフフ……まだまだ爺ちゃんには負けないからね!」
「ワシと何を競うと言うんじゃ……」
 他愛の無い会話を、燦々と降り注ぐ陽光を浴びながら楽しむ。
 今までの緊張感が緩やかに和んでいく感覚に満たされながら、そうまさにこれこそがツトミちゃんから学べる事の一つだろうな、などと得心の意で首肯をしてしまう。
 依頼に集中するのも大事だが、そこに傾注し過ぎるあまり周りが見えなくなっては本末転倒と言うもの。力を入れつつも、適度に抜かねば大事な時に力が出せなくなる……彼女の背中を見て学べる事は、そういう技術や術……生活の知恵と言えるものだろう。
「お待たせしました、どうやらイクサル族の尖兵が近隣で複数回目撃されてるようで、大規模な戦闘が行われるのではと、鬼哭隊や冒険者まで緊迫した空気が伝播しているみたいですね」
 駆け足で帰ってきたクロス殿が、険しい表情をして素早く報告をしたのを聞いたワシは、顎に指を添えて数瞬考え込む。
「戦か……広範囲が鉄火場ともなれば、依頼主をグリダニアまで送り届ける以前の問題になりそうじゃの……経路の変更ないし、一旦レヴナンツトールで待機と言う訳にはいかんかの?」
「急な依頼でしたからね……ただ、依頼主にも都合が有るでしょうから、最悪戦場を突っ切る形で移動する事になるかも知れません……」
 難しい表情で腕を組むクロス殿に、ワシも重たく鼻息を落とすほか無かった。
「――だったらアレじゃない?」ピンッとツトミちゃんが人差し指を立てた。「戦端が開かれる前にササッと依頼主を送り届けちゃう! もし間に合わなかったら……もう全力ダッシュ! これで行こう!」
 ニパーッと微笑みかけるツトミちゃんに、ワシとクロス殿は顔を見合わせ、真剣に頷き合った。
「幸い、一触即発ではありますが、まだ衝突は起こっていませんしね……戦闘が始まる前に戦域を突破できれば、或いは……!」
「善は急げじゃの」こっくりと首肯を返す。「ツトミちゃん、レヴナンツトールに先行している二人に連絡を取ってみて貰えるかの? 準備が万端であればワシらの到着を待たずに移動を開始して欲しい旨を伝えてくれんか」
「りょーかーい」ピッと軽快に敬礼を返すと、リンクシェルに触れて連絡を取り始めるツトミちゃん。「こちらツトミでーす。ちょっと道中でトラブルが――」
「こちらサクノです。ちょっと依頼主との間でトラブルが――」
「え?」「え?」
 ワシとクロス殿も目が点になりながら、ツトミちゃんを見つめている事しか出来なかった。

◇◆◇◆◇

「……なるほどのぅ。先行組は先行組でそんな不手際が……」
 サクノ殿から掻い摘んだ報告を聞き終えたワシは、更に眉間の皺を深く刻んで考え込む事態に陥った。
「――いや、事態は急を要すると判断した。サクノ殿。ユキミ殿と協力して、そのツームストーンとやらを宥めつつ、一路クルザス中央高地を目指してくれんか。ワシらも北部森林を北上して合流を目指すゆえ」
「畏まりました」サクノ殿の冷静な声がリンクシェルから返ってくる。「ツームストーンとか言う問題児はさておくとしても、依頼主を無事に送り届けてみせますよ! ユキミさんが一緒ですからね! ツームストーンとか言う問題児はおまけですおまけ」ううむ、あんまり冷静ではないのかも知れない……
「イクサル族の一派がクルザスでも戦線を押し上げてる可能性が有りますから、どうかお気をつけて」クロス殿がリンクシェルに割り込んで声を掛けた。「話を聞いた限りでは、どうも蛮神……ガルーダ召喚に躍起になってるそうで、行商人や冒険者問わず、目に付いた者に襲い掛かっているそうですから……」
「了解です! 安全第一を優先して護衛任務に就きます!」サクノ殿のやる気に満ちた声が返ってきた。「では一旦通信切りますね。また後程!」
「またね~」
 ツトミちゃんの台詞を最後にリンクシェルが静かになったのを確認すると、いざ出立しようと立ち上がりかけたその時、ドタバタと音を立ててマコ殿が駆け込んで来た。
「お待たせしやしたーっ!」全力で疾走してきた割には息が切れておらず、華麗に汗を拭う仕草をすると、マコ殿は元気溌剌と言った態でワシの顔を覗き込んで来た。「その分だと、イクサル族の話はもう耳に挟んだっぽいすね?」
「うむ。アルダースプリングス全域が鉄火場となる可能性が有ると」厳かに首肯を返す。
「ザッとフロランテル監視哨まで突っ走ってきやしたが、イクサル族の部隊は視認できやせんでした。突っ切るなら今しかないかと」マコ殿の視線がフォールゴウドの先――アルダースプリングスの浮遊岩石地帯に向けられている。「イクサル軍伐採所の動きが気になるところですが……最悪私とクロスさんの二人に任せちゃってくだせえ! チョコボキャリッジの一つや二つ、押し通してみせやすから!」
 自信満々に力こぶを見せつけるマコ殿に、クロス殿が応じるように涼しげな表情を覗かせて、「イクサル族を完封するところを見せて差し上げますよ」と微笑み返している。
「爺ちゃん爺ちゃん、これもしかしてわたし達いらないんじゃない?」「それは言わぬが花じゃよツトミちゃん」
 何が、とは敢えて明言を避けつつ、ワシらは頷き合うと即座に行動を開始した。
 チョコボなどのマウントが有れば更に早く辿り着けるのは明白だが、ワシとツトミちゃんは未だ自分だけのチョコボを有していない身。ここはその足で駆け抜けて行くしかない。
 アルダースプリングスからクルザス中央高地までは上り坂……それもその筈、クルザスは山岳地帯であるため、森林地帯の黒衣森からは勾配が厳しくなるし、何より山道ともなれば道自体が険しさを増す。
 ここからが依頼の本番と言っても差し支えないだろう。ここら一帯が戦場と化す前に合流を果たし、依頼主をグリダニアまで送り届ける。
 徐々に依頼の難易度が上がっている事を自覚しながら、ワシらはアルダースプリングスに足を踏み入れる。この先に待つ白銀の世界に想いを馳せながら。

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