2021年11月15日月曜日

【ワシのヒカセン冒険記】第29話【FF14二次小説】

■あらすじ
凍土、途上、襲撃。


【第29話】は追記からどうぞ。

第29話


「青いポーキーの着ぐるみなんて初めて見たのだけど、可愛いわねぇ~。ちょっと撫でてみても良いかしら?」

 チョコボキャリッジが幾分か急ぎ足でレヴナンツトールを出立して間も無く。幌の中で同席していたユキミの頭に手が伸びているニニネ・ニネの姿が有った。
 チョコボキャリッジを先導する形でツームストーンが先行し、しんがりはサクノが後方の安全を確認しながら追走している。
 クルザス中央高地に差し掛かったのが肌を通して実感する。一面が雪化粧を施した銀世界に移ろい、漏れる吐息は自然と白く染まっていく。チョコボキャリッジの風通しの良い幌では吹き荒ぶ吹雪も防ぐ事は出来なかった。
 幸い、今はまだ天候も悪化してはおらず、吹雪も弱々しい。晴れ間が見える程ではないにしても、視界が遮られる程の風雪ではないのは有り難かった。御者台のペペロニ・ホホロニが心配そうに先行するツームストーンを見やりながらチョコボに指示を下している。
「あらやだ、とてもふわふわじゃない! 一生撫でてられるわね……」
「えへへ、そんなに褒めなくても……」
 ニニネ・ニネにされるがままに撫でられ、ユキミが恥ずかしそうに揺れていると、――その気配が一瞬で殺気立ったものに切り替わった。
 チョコボが戸惑うように足踏みをしたのと同時に、ペペロニ・ホホロニが「うわぁーっ! ツームストーン殿~っ!」と言う悲鳴が重なったのだ。
 咄嗟に細剣を抜き放ちながら幌を出るユキミと、後方から駆け込んで来たサクノが同時にチョコボキャリッジの前に出る。
 チョコボが立ち往生した瞬間の出来事である。危機を察知しての反応は最高速。寧ろツームストーンは何をしていたのか、と二人は怪訝な想いを禁じ得なかったが、視認して即時把握――ツームストーンは倒れ伏し、代わりにフードを目深に被ったローブ姿の集団が視界に飛び込んでくる。
「異端者か……!」即座に抜刀し、チョコボを守るように前に出るサクノ。「問おう、如何なる理由で我らの行く手を阻む?」
 サクノの誰何の声に、襲撃者――異端者と思しき一団は言葉を交わす事も無く長槍に長弓、片手剣を抜き放って臨戦態勢に入った。
「問答無用ですか……」サクノの瞳に鋭い敵意が点る。「寄らば……斬る!」
「ペペロニ・ホホロニさん! チョコボを宥めておいてくださいっ、すぐにでも移動できるように!」
 チョコボキャリッジの側面を守るように細剣を構えるユキミの大声に、ペペロニ・ホホロニは「りょ、了解ですぞ~!」と慌てふためいた声を返した。
「サクノさん! 遠慮はいらないのでサクッと片付けちゃいましょう!」「承知致しました! ユキミさんの援護が有れば心強い!」
 互いに姿は見えずとも、その力量を認め合っているからこその言葉の応酬で確認し合い、己が為すべき事を見定める。
「殺せ……殺せ、殺せェーッ!」
 数にして八人の襲撃者の集団が動く。サクノは見える範囲の敵勢の動きを或る程度目測した結果、真っ先にチョコボキャリッジに害を為せるであろう存在――弓兵を落としに敵陣に単身駆け込んで行く。
「生憎と加減はしませんからね、後悔しても遅いですよッ!」
 襲撃者が長槍で応戦する前に慈悲の無い斬撃を浴びせ、返す刃で別の槍術士を袈裟懸けに削ぎ落とす。
 二人の襲撃者が鮮血を撒き散らしながら舞っている間に更に踏み込み、弓兵を斬獲する――前に、視野の外で魔法光が迸ったのが認識できた。
 黒魔法――恐らくはサンダーかファイアか。喰らって即死と言う訳は有るまいが、致命傷を避けるには――と思考を急速展開する、その間際にユキミの鋭い檄が差し込まれる。
「術者は任せてください!」「――承知ッ!」
 チョコボキャリッジに近づけさせないようにヴァルサンダー、更に連続魔からのヴァルサンダラで、至近距離まで接近していた剣士二人を吹き飛ばし、もう一人接近を許していた槍術士を細剣で首筋を一閃――鮮血を浴びないようにデプラスマンで大きく距離を取ったユキミは、その飛翔したタイミングでサクノが敵陣を突っ切るように走り込んでいる場面を視認。着地した瞬間に迅速魔で詠唱破棄――サクノに黒魔法を浴びせようとしている黒魔道士にジョルラを叩きつけて黙らせた。
 魔法光が刹那に途絶えたのを視界の外で捉えたサクノは、眼前に迫る弓兵の首を鮮やかに刈り取り、残った襲撃者である杖持ちも素早く仕留めようと更に踏み込み――咄嗟に危険を嗅ぎ取り、必殺剣・夜天を以て斬撃を加えながら大きく後躍する。
 サクノの不可解な動きを見て取ったユキミは改めて白魔道士と思しき襲撃者に意識を移し――納得する。白魔道士は何らかの詠唱を終えた瞬間で、纏うローブの下からボコボコと肉体が変形していく様子が見て取れた。
「ドラゴン化……っ!」「ペペロニ・ホホロニさん! 私達に構わず先へ! 私達の仲間と合流を果たしてください!」
 サクノが生唾を呑み込み、ユキミは咄嗟にチョコボキャリッジへ大声を張り上げた。
 ペペロニ・ホホロニは最早何が起こっているのか分かっていない様子で瞳をぐるぐるに回しながら、「は、はひぃ~っ!」とチョコボに指示を出し、恐怖に怯えた様子で山道を走って行く。
 チョコボキャリッジを追おうと動き始めた襲撃者――否、エイビス型の魔物に変身を果たした異端者の進路を塞ぐようにサクノとユキミの二人が立ちはだかる。
「ここを通りたければ通行料を頂きましょうか」サクノがニヤリと微笑みかける。「勿論代価はその命で」
「咄嗟にそんなカッコいい事言っても、聞いてるの私だけなんですよサクノさん!」どういう反応をして良いのか困り果てているユキミ。「エイビス程度、パパッと仕留めましょうパパッと!」
「そうですね、まだ襲撃の全容が見えていませんから、チョコボキャリッジをこのまま一人で行かせて良いものか分かりませんし」コクリ、と首肯を返すサクノ。「急いでドラゴンを三枚下ろしにして追い駆けましょう」
「うんうん、煮ても焼いても美味しそうじゃないですけれどね!」
 二人が余裕を見せて笑い合っていると、――不意にサクノとユキミが同時に振り返り、その刀と細剣が同時に火花を散らして、振り下ろされた戦斧を受け止めた。
「……おやおや? てっきりもう動かないのかと思いきや、斧を振るう相手を間違えているのでは?」
「……どういう理由で牙を剥いたのか知りませんが、それはつまり、死ぬ覚悟が出来てるんですよね……?」
 サクノとユキミの冷酷な眼差しを受け止めるロスガルの戦士は、応えるように冷然とした表情で舌打ちを返した。
「――腐っても冒険者、ってところか。簡単な仕事だと思ってたら意外と骨が折れる」
 犬歯と共に殺意を剥き出しに吼えるツームストーンに、二人は互いに視線を交わして頷き合うと、――眼前のロスガルを敵と認識した。
「今ならまだギルドに突き出すだけで留飲を下げても良いですけど……獣性勝って私達を殺す気しかないですね貴方?」
「二対一で挑むほどの蛮勇……いいえ、私達の力量を見誤りましたか?」
 サクノとユキミの挑発的な宣言に対し、ツームストーンは不思議そうに眉根を持ち上げた。
「あの軍勢を相手取るだけの力量は有ると認識を改めたが、やはり理解力に乏しい連中のようだ」はぁ、と失意の嘆息を落とすツームストーン。「勝機も無く攻勢に出る程の魯鈍に見られていたとなれば吐き気すら催すぜ」
「何――――?」
 サクノが険のこもった声を返した――その直後。
 続々と異端者が駆け込んでくる様子が、視野一杯に広がる。
 十人――二十人――三十人――白銀の世界に映える深紅のローブ姿の異端者が、獰猛な眼差しを二人の贄に向かって浴びせかける。
 それだけではない。誰もがドラゴンブラッドを有し、一人、また一人とエイビス型の魔物へと変貌を遂げていく。
「さて、この物量をどう捌くのかお手並み拝見だな、可愛らしい冒険者共よ?」
 ニヤリと笑いかけるツームストーンに、二人は咄嗟に攻撃を仕掛けようとして――彼はオーバーパワーで雪原を叩き割ると、その動きを利用して二人から距離を取る。
「逃がすかッ!」「逃がしませんよッ!」
 二人が更に追い縋ろうと攻勢に出るも、その間隙を縫うようにドラゴン化した異端者が進路を埋めてしまう。
「やれやれだ、小娘二人如きにこれだけの戦力投入……明らかに費用対効果が不味いじゃねえか……ったく」
 ブツブツとボヤキながら二人の冒険者の最期も確認せずに立ち去ろうとしたツームストーンの前に、白刃が迫っていた。
 咄嗟に屈んで回避するも、数瞬間に合わずその逞しい髭が数本飛び散ってしまった。
 驚きながら数歩後じさり、気づく。新たな侍が、眼前に佇んでいる事を。
「――爺ちゃん、アレは斬っても……ううん、斬らなきゃいけない奴だよね?」
「――応とも。有り難い事にサクノ殿もユキミ殿もリンクシェルを常に通信状態にしておいてくれたお陰で、全部筒抜けじゃったからな」
「……だとしてもツトミさんの判断は早過ぎるの一言ですね……まさか確認もせずに抜刀からの斬撃だなんて、ちょっとヒヤリとしましたよ私……」
 抜き身の刀でツームストーンを牽制するツトミ、険のこもった眼差しでツームストーンを捉えるヤヅル、心臓をバクバク言わせながら安堵している様子のクロスの三人が、そこにいた。
 ツームストーンの顔に苛立ちが強く走り、戦斧を握る拳が音を立てる。
「やれやれだ……今日は厄日だな、ワームみたいなクズばかりが湧きやがる」怒りに沸騰した顔で、ツームストーンは吼える。「残念だが誰一人として生かして帰さねえから覚悟しとけよクズ共……」
「さァ皆の衆、歯を食い縛れ――ここが大一番よ!」
 ヤヅルの檄に、皆が呼応する。
 戦が、始まる。

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