2021年11月26日金曜日

【ワシのヒカセン冒険記】第30話【FF14二次小説】

■あらすじ
襲撃の終わり。


【第30話】は追記からどうぞ。

第30話


「――マコ殿、後は任せても良いか!?」

 突然繋がったリンクシェルから流れる不穏な音声の数々、それと同時に向かう先から駆け込んで来るチョコボキャリッジの姿を見たヤヅルが、咄嗟に声を上げる。
 我先にとチョコボキャリッジを追い抜いて先へ先へと駆けて行くツトミ、そしてそれに追走する形で駆け抜けて行くクロスを追う形のヤヅル。しんがりを務めていたマコはマスターの付託の声に、「依頼人をひとまずフォールゴウドまで送り届けたら援護に向かいやすから、それまでどうか!」とヤヅルの肩を叩きながら応じ、チョコボキャリッジに向かって跳躍する。
 瞳をぐるぐるにしてチョコボを繰っていた御者――ペペロニ・ホホロニは、突然眼前に現れたミコッテの青年を見て、新たな敵襲かと思い込んだのか、「ひょえぇ~! お、お助けくだしゃれ~!」と頭を抱えて蹲り始めた。
「勘違いすんなっ、俺ァ救助に来た側の冒険者よ!」混迷を極めつつあるチョコボを宥めるように、隣を追走しながら優しくその羽を撫でるマコ。「フォールゴウドまでの安全は俺が保証する! ひとまずそこで待機して貰うが構わねえか!?」
「も、もしや護衛の方……!?」ペペロニ・ホホロニの顔が恐る恐ると言った態で持ち上がる。「よ、宜しく頼みします~! フォールゴウドに辿り着いたら鬼哭隊の皆様に匿って貰いますぞ~!」
「応よ!」
 後は、来た道を戻るだけ。フロランテル監視哨が見えれば、そこから先は鬼哭隊の力も借りられる筈。
 酷寒の地から徐々に緑の匂いが濃く移ろって行く。この下り坂を抜ければ、そこはもう北部森林――黒衣森に入る。
 フロランテル監視哨も視界に映り込み、間も無く安全は確保される――その間際、マコは不意に敵視を感じて咄嗟に両手剣を抜き放った。
 カンッ、と言う小気味よい音を立てて両手剣に弾かれたのは、一本の矢――イクサル族が用いる矢尻だと即座に見咎めたマコは、舌打ちしながらチョコボキャリッジの幌の上に跳び上がる。
 開けた視野が捉えたのはイクサル族の群れ。武装したイクサル族の小隊が喊声を上げながら山の斜面を下りながら弓矢に因る射撃を敢行してくる。
「多勢に無勢だが――マスターに任せられた以上、ここは押し通させて貰うぜ!」
 凄烈な笑みを刻んでマコは両手剣に魔力を集中させると、魔力を放出――アンメンドと呼ばれる魔法を飛ばし、飛来する矢ごとイクサル族の弓兵を吹き飛ばす。
 イクサル族の群れは仲間が一人魔法の餌食になったにも拘らず、まるで意に介した様子が無いまま射撃を続行――次々に矢の雨がチョコボキャリッジに降り注ぐ。
「白状だねぇ、仲間の死すら厭わずに攻撃続行とは――」
 間際、マコは考える。徒党を組んでまでチョコボキャリッジを襲撃するのはまだ分かる。荷を奪って戦争の備えとする、或いは困窮している故に奪ってでも食料などを獲得したいのかも知れない、などと予想も付く。
 だが、仲間の死にすら全く尻込みしない……いや、仲間の死をそもそも認識すらしていない様子で吶喊を決めるとはどういう事だ――? そこまでイクサル族が困窮しているとは噂も流れていなかったが、双蛇党や神殿騎士団が掴めていないだけで内情は想像を絶する程に逼迫していたのか。
 何にせよ、イクサル族の群れは最早暴走をしていると言っても過言ではなかった。仲間の命など無視してでもこのチョコボキャリッジを狙っているのは明らかで、であれば最早撤退させる事など不可能――奴らを落命させてでも止めねばなるまい。
「イクサル族にも譲れねえ何かが有るんだろうが――」両手剣の切っ先をイクサル族の群れに向け、不敵に笑うマコ。「俺を超えられたら考えなァ――!」
 マコの咆哮と、イクサル族の喊声がぶつかり合い、剣戟がアルダースプリングスに響き渡る。

◇◆◇◆◇

「――クロス殿! あの大群を何とか出来るか……!?」
「任せてください! ひとまずサクノさん、ユキミさんのお二人と合流します!」
「じゃあわたしはあのケダモノを何とかするね!」
「ツトミちゃんも無理はするなよっ!」
 見た事も無い黒々とした竜の大群を観て怖気が走るも、それとて一瞬。やらねばならん事を確実に熟していく事こそが肝要と見たワシは、孤立している二人――サクノ殿とユキミ殿と合流こそが先決と判断し、クロス殿に先陣を突っ切って貰う事を選択した。
 ツトミちゃんは眼前にいる恐らくは元凶――この黒竜の群れを現出させたであろうロスガル族の青年……ツームストーンなる男を逃がすまいと白刃をちらつかせているが、彼は彼でワシらの事などまるで脅威だと判じていない様子が見て取れた。
「まさかとは思うが、そのナマクラで俺と相対するつもりか? 猫娘」
「わぁ~、爺ちゃん爺ちゃん、あのケダモノ凄い煽ってくるんだけど、もしかして余裕が無いのかしら?」
「ツトミちゃんの煽り方も大概じゃと思うぞ……」
 ツームストーンの表情筋が見るも鮮やかに顰めていくのを見て取るも、彼の宣言通り、恐らくワシとツトミちゃんでは歯が立たない……そんな想像が脳裏をちらつく。
 かと言ってここでむざむざ彼を逃がしたとあっては冒険者としての名折れ。お縄に着かせるにはどうすれば良いか、可能な限り思考を回転し続ける。
「……時間稼ぎ、と言う訳か。弱者らしい甘ったれた考えだ」戦斧を握り直し、ツームストーンの瞳がぎらつく。「ならば容易くその策、捻り潰してやろう」
 来る――――そう認識してワシは魔道書のページを繰る。
 狙いはツトミちゃん。侍として活動を始めた彼女の得物は刀――ツームストーンの有する戦斧を相手にしては、その白刃を受け止めるにはあまりにも華奢であり、避ける以外に選択肢は無い。
 ワシは咄嗟に詠唱を始める。学者としての知識も経験もまるで無いワシにとって、これはまさに付け焼き刃の実践に他ならず。土壇場で無理矢理経験の差を埋めるしかないと判じ、ワシはツトミちゃんの無事を祈りながら素早く、正確に呪文を言祝ぐ。
 ツームストーンの振り被った戦斧が過たずツトミちゃんの頭蓋を破砕する――――その間際、彼女は心眼を開いてゆらりと陽炎ように体幹を揺らがせると、爆弾でも直撃したかのような音を立てて戦斧が彼女の隣を爆砕――ツトミちゃんは無傷の態でツームストーンを見つめる。
 ツームストーンは激昂した表情のまま、ツトミちゃんが繰り出すであろう斬撃を如何に回避しようか、刹那に思考を閃かせている様子だったが、彼女はそんな間隙すら逃さないとばかりに間髪入れずに十字に斬撃を走らせる刃風をお見舞いし、ツームストーンを怯ませる。
 十字傷を浴びせられたツームストーンは、併し怯むどころか更に怒りを煮え滾らせ、横薙ぎに戦斧を一閃――ヘヴィスウィングでツトミちゃんを薙ぎ飛ばす。
 ツトミちゃんはヘヴィスウィングを喰らう直前に後躍して距離を取り、やはり無傷の態でツームストーンを見つめている。
「ちょこまかと……! ブロウフライ・スウォームみたいな小娘だ……ッ!」
「えぇと……ブロウフライ・スウォームって何だっけ?」ツトミちゃんがワシに耳打ちしてくる。
「確かハエみたいな魔物だった筈じゃ」ワシもコソコソとツトミちゃんに耳打ちし返す。
「ふむふむ。なにおう? そこは蝶みたいな小娘って言いなさいよう!」ぷんぷんと怒り始めるツトミちゃん。「華麗だったでしょ? 蝶のように舞って、蝶のように斬る!」
「蝶は斬らんじゃろ流石に」思わずと言った態で合いの手を入れてしまう。
「……見縊っていた、いや過小評価し過ぎていたようだな」自身の胸板に十字傷を付けられたツームストーンが、どこか冷静さを取り戻した様子で吐露した。「所詮冒険者の雛だと甘く見た俺の過失だ、認めよう。策もいよいよ取り返しのつかないところまで来た」
 チラリとツームストーンが背後に意識を向ける。ワシとツトミちゃんも、彼の背後で行われている虐殺劇には気づいていた。サクノ殿、ユキミ殿、クロス殿の三人の手に因って、黒い竜種は次々と斬獲されていき、もう残り僅かとなっている事に。
 敗戦濃色だと彼も判じているのだろう。これ以上の戦線維持は不可能であり、何れ縄に着くか、――死か、と。
 彼が何を以てこんな事件を起こしたのか、詳らかにする必要が有る。こちらの戦力も申し分無い以上、無理矢理にでも投降させたいところだが、さて。
「……投降する」ガラン、と音を立てて戦斧を投げ落とすツームストーン。その両手は頭の上に置かれ、ゆっくりと膝を着いた。「これ以上の抵抗はしない。冒険者ギルドに突き出してくれ」
「あれれ、やけに素直だね。てっきり限界まで抵抗するのかと想っちゃった」
 ツトミちゃんが拍子抜けと言った態で呟いた台詞に、ワシは同意の意を示す。
 ここまで大掛かりな立ち回りをしておきながら、抵抗らしい抵抗と言えばツトミちゃんに斬りかかっただけ。戦力差を思い知ったのかとも思ったが、彼自身、まだ本気を見せていないようにワシには感じられた。
 何かを隠している。そう思わせるに充分な行為だった。
「ヤヅルさん! ツトミちゃん! ご無事でしたか!」
 駆け寄って来たサクノ殿が、ワシとツトミちゃんの姿を交互に見て、大きく安堵の溜め息を吐き出した。全身が返り血で真っ赤に染まっているのを見て、その大立ち回りの凄さを思い知る。
「首謀者のツームストーンは……このままギルドに突き出して、尋問、ですかね?」
 後からやってきたユキミ殿の豚の被り物が、冷たい視線をツームストーンに注ぐ。細剣で更なる追撃をしそうな雰囲気を醸し出しているが、ワシは宥めるような仕草で応じた。
「異端者の幹部……ってところでしょうか。何にせよこれで一件落着……ですか?」
 クロス殿が手早くツームストーンの両手を拘束して安全を確保したのを見て、ワシは首肯を返す。
「ひとまずこの場はこれ以上どうにもなるまい。急ぎ北部森林に取って返し、マコ殿の援護に入ろうぞ!」
「はーい!」「承知しました!」「了解です!」「はい!」
 ツトミちゃん、サクノ殿、ユキミ殿、クロス殿の相槌を確認し、ワシは再び北部森林へ駆け込もうとして――「むぐっ」――何かにぶつかった。
「あちゃ、もう終わっていやしたか。か~っ、俺の出番も残しておいてほしかったすねぇ」
「マ、マコ殿!?」
 眼前には全身泥だらけになっているマコ喉の姿が有った。軽快に挨拶を返し、辺り一帯に広がる黒い竜種の死骸を見て、うんうん頷いている。
「そちらは大丈夫だったんですか……?」
 ユキミ殿が心配そうにマコ殿を見つめている。マコ殿は、「おおよ。こっちはどうやらイクサル族の連中とビーステップしてる間に片付いちまったんだな。もっとヘイスト掛けときゃ良かったぜ」と不敵に微笑みを返した。
「流石マコさんです」こっくり頷くも、耳聡く単語を汲み取って怪訝な表情を覗かせるクロス殿。「って、あの後イクサル族から襲撃でも受けたんですか? それをお一人で対処された……と?」
「おうさ!」ドンッと胸板を叩いて鼻高々のように見えたマコ殿だったが、すぐに苦笑を浮かべた。「……って胸張って言いてえところだが、実を言えば鬼哭隊に手伝って貰って何とかよ。依頼人はフォールゴウドに駐留させたから、これから向かう事になるぜ」
「何から何まで助かる」お辞儀を返し、ワシはマコ殿とクロス殿に視線を向けた。「ワシらはこのままフォールゴウドに向かうが、お二人にこの者の監視をお頼みしても構わぬか? この事件の全容が分からぬ以上、証言を聞き出したいのだ」
「私とマコさんがいれば大丈夫でしょう。任せてください」グッと肯定の意を示すクロス殿。「マコさん、誤ってこのロスガルを殺さないでくださいね、お願いしますよ?」
「おいおい、何でそんな殺したがってる風に観られてるの俺?」「冗談です」「クロス……遂に俺に冗談まで交わしてくれるようになったのか!? だよなぁ、俺達の仲だもんなぁ!」「冗談です」「えっ? 今の冗談はどこに付く奴?」
 クロス殿とマコ殿が漫才を始めたのを見計らい、ワシはツトミちゃんと、サクノ殿、そしてユキミ殿に目配せしてその場を後にした。
 空を見上げると、斜陽が山稜に隠れようとしているところだった。
 長い長い一日も、もうじき終わる。……その筈、だった。

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