2018年4月19日木曜日

【神否荘の困った悪党たち】第1話 俺の祖母ちゃんはヒーローだった【オリジナル小説】

■あらすじ
非現実系ほのぼのニートフルコメディ物語。宇宙人、悪魔、殺し屋、マッドサイエンティスト、異能力者、式神、オートマタと暮らす、ニートの日常。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、【Fantia】で多重投稿されております。



【第1話 俺の祖母ちゃんはヒーローだった】は追記からどうぞ。

第1話 俺の祖母ちゃんはヒーローだった


俺の祖母ちゃんはヒーローだった。

小さい頃から何かと祖母ちゃんの世話になる事が多かった俺は、祖母ちゃんが語って聞かせてくれた物語が最高の娯楽だった。
と言うのも父さんも母さんも俺の力を使って豪遊三昧で家にいる事が少なかった事が起因する。俺の力は、ザックリ言えば“当てる力”。宝くじを買えばそれが当たってしまう、と言えばその力の程が分かると思う。
でまぁ親はいつもその金で遊びに出掛けてしまい、俺は暇を持て余していた訳だが、そういう時が何故か分かっているかのようなタイミングで祖母ちゃんが遊びに来て、俺に色んな話を聞かせてくれた、って流れだ。
祖母ちゃんの語る話は冒険譚が殆どで、聞いてるとまるで本当に起こった出来事のように思えて、俺の胸は高鳴るばかりだった。
世界征服を企むマッドサイエンティストが作った殺戮兵器を一つ残らず破壊するに留まらず、マッドサイエンティストの居城である空に浮かぶ研究所も破壊して平和に導いたり。
魔界から人界を支配しようと押し寄せてきた悪魔の軍勢を一匹残らず殴り飛ばして、どころか魔界に乗り込んで魔王すらもボッコボコに殴って改心させたり。
遂に世界中から恐れられた彼女を仕留めようと放たれた伝説の殺し屋と死闘を繰り広げて、殺し屋を説得するだけに留まらず、世界中の要人に対して“自分に構うな”と釘を刺しに行ったり。
宇宙から地球を侵略しに来た異星人との宇宙規模の戦争を一人で勃発させて、異星人を残らず全部フルボッコにするだけに留まらず、宇宙船を全て破壊した上で不可侵条約を結ばせたり。
異能に目覚めた人類が徒党を組んで世界を滅茶苦茶にしようとした所を徒手空拳で全員タコ殴りにして阻止するだけに留まらず、全員を更生させて社会復帰させたり。
そんな話を中学卒業辺りまで色々聞かされてた俺は、毎回瞳をキラキラと輝かせてた。祖母ちゃんは物語を作るプロだと本気で思ってた。
祖母ちゃんが、亡くなるまでは。

◇◆◇◆◇

七月二十七日。俺の二十歳の誕生日。
だけどこの場に祝う人はいない。親はいつものように出掛けたまま一週間以上帰ってきていないし、唯一の友達は仕事の都合でメールの祝電を送ってくれたぐらいで、他に知り合いがいない俺は、自室で自由気ままにネトゲに精を出していた。
因みにネトゲでも俺はボッチだった。ギルドに属していないし、特定の知り合いもいない。野良でパーティを組んではその場限りの付き合いを楽しんでるだけの、自由気ままな一匹狼。
唯一の友達も同じネトゲをやってはいるが、今日は仕事でいない。だから俺一人で楽しんでいた訳だが、不意に聞き慣れない音と共にウィスパーチャットが飛んできた。
《式子》「こんにちは!」
キャラクターの名前を見ても、見覚えが無い。俺は誰かと間違えて声を掛けられたんだろうと思って無視してキャラを操作する。
《式子》「日色さんのお孫さんですよね?」
ぞわ、と鳥肌が立った。“日色(ヒイロ)”は祖母ちゃんの名前だ。
得体の知れないモノと遭遇した気持ちで、キーボードに触れる指が汗を掻く。反応すべきか否か。相手は完全に俺を特定している。下手な事を言うと碌でもない事になりそうな気がしてならない。
逡巡している間に、《式子》と言うキャラは更にチャットを送り付けてきた。
《式子》「驚かせてしまってごめんなさい! 私、日色さんの遣いなのです」
祖母ちゃんの遣い? 祖母ちゃんまさかネトゲ始めたのか?
意味不明過ぎて困惑を隠しきれなかったが、このまま放置しても話が進まないと思い、震える指でタイピングする。
《自分》「日色さんの遣いってどういう意味ですか?」
《式子》「良いですか、よく聞いてください。あなたの祖母である二糸日色さんは、本日お亡くなりになりました」
……は?
再びタイピングしようとした指が固まる。
祖母ちゃんが……死んだ?
《式子》「その事でお話したい事が有るのですが、少しお時間良いですか?」
思考が停止したまま、《式子》が綴る文面を眺めている事しか出来ない。
最後に会ったのって……中学卒業の時だから、もう五年も前か。高校受験せずにずっとニートしてたから時間の感覚が無かったけど、パソコンのカレンダーを見て確認する。
あの時、すげー元気に見えたけど……そうか、亡くなったのか……
《自分》「良いですけど、どこで私の事を?」
《式子》「良かった! 今窓の前に来てるので、開けてください!」
「ホラーかな?」
再び鳥肌が腕を駆け抜けて行く。バッとカーテンの掛かった窓を見ると、陽光に影が差してるのが分かった。何かいる。それも、だいぶ小さな何かだ。
小さな人型。影だけ見れば人形のように見える。これはもうホラー確定じゃないか? 泣きそうになりながら後じさり、部屋を出ようかどうしようか悩むも、意を決して窓に近寄りカーテンを引く。
「……ん?」
窓の外、つまり二階の高さに浮いているそれは、やっぱり人形のようなものだった。
紙で出来た、人型。それに筆で描かれた顔が付いてるだけの代物。たぶんこれアレだ、式神とか言う奴だ。と何と無くファンタジー系の知識から引っ張ってきて結論付ける。
窓をカラカラと開けると、五センチほどの式神はふわりと部屋の中に入って来て、「改めて、こんにちは!」と床に着地して深々とお辞儀をした。
「あっ、こんにちは」式神に倣うように正座をする。「えーと、式子(シキコ)さん、でいいのかな」
「はい! 式子です!」立ち上がって指の無い手で俺を指差す式神――式子さん。「二糸亞贄(フタイト アニエ)さんですね?」
「あっ、はい、そうです」コクコクと頷く。
「私の姿を見ても驚かれないんですね?」不思議そうに俺の膝まで歩み寄って来る式子さん。
「充分驚いてるんですが」驚いてるのは当然だけど、それよりもこんなちっこい人型の紙が歩き回ったりお辞儀したりするのはとても可愛いなって。
「流石は日色さんのお孫さんです!」組めないのに頑張って腕を組もうとして、うんうん頷く式子さん。「あっ、それでお話なんですけど、――亞贄さん。あなたに神否荘(かみいなそう)の管理人になって頂きたいのです!」
ピッと俺を指差して宣言する式子さんに、俺は「えっ、あっ、うん、分かりました」とすぐに頷いた。
「えっ、良いんですか?」ぴゃっと驚いた仕草をする式子さん。
「えっ、断っても良いんですか?」不思議そうに尋ね返す。
「えっ、その……断られると困りますね……」俯いて悩ましげな声を出す式子さん。
「式子さんの仕草が一々可愛い件に就いて」ぼそ、と呟く。
「えっ?」式子さんが顔を上げた。
「あっ、何でもないです」
「それでは……承諾して頂けるんですか……?」式子さんが俺の膝に手を当てて、俺を見上げて小首を傾げた。小首を傾げたら紙が千切れそうに見えた。
「まぁ、そうなりますね」コックリ頷く。「俺で良ければ」
「わーい! やったー!」ピョンピョン跳ね回る式子さん。可愛い。「では早速行きましょう! 今ニャッツさんを呼びますから、ちょっと待っててくださいね!」と言って、ふわりと浮かび上がり、窓から出て行ってしまった。
俺はどこに行ったんだろうと窓から空を見上げて、声を失った。
ふよんふよん、と、銀色の大きな円盤が浮いてる。UFOだ。初めて見た。てか近い! しゅごい近い! 俺んち上空を埋め尽くすように浮いてる!
幅は五十メートル以上は有ろうか。空を覆っているため地上には影が出来ているのかと思いきや、影は出来てない。周囲に視線を巡らせるも、上空に意識を向ける者はいない。アレ? これもしかして俺だけ見えてる系?
すると円盤から光の階段が降りてきた。この部屋の窓に向かって。光の階段をピョンピョン降りてきたのは、式子さんと、大人の黒猫。
「貴様がヒイロの孫かニャ」ツヤツヤの毛並みの黒猫が当然のように喋った。「確かにヒイロの面影は有るニャ」
「しゅごい、猫が喋ってる」黒猫の頭に手を触れようとしたら肉球で叩かれた。「いてっ」
「我輩を気安く撫でようとするニャ!」プンスコと頭から蒸気を発する黒猫。こいつも可愛いな。「さぁとっとと乗れヒイロの孫! 我輩は早く帰ってゲームがしたいのニャ!」
「亞贄さん、どうぞこちらへ!」式子さんが俺の手を紙の手で掴み、グイグイ引っ張って行く。
「えっ、もう行く感じ? キャトられちゃう感じ?」光の階段を上りながら尋ねる。「さっきから意味不明な展開が多過ぎて俺だいぶ頭おかしくなってる感しゅごいんだけど」
「荷物ニャら後で我輩が送り届けてやるニャ! 我輩ゲームの続きをほっぽってきたのニャ! 早く帰りたいのニャ!」俺の足を頭でグイグイ押す、喋る黒猫。
やがて円盤の中に入ると、光の階段は幻のように消え、入口は溶けるように閉じ、モニターとソファだけが有る部屋に閉じ込められてしまった。
「ヤヴァい。これもう現実に帰れない奴だ」感想が口から零れ出る。「俺これからどうなるの? 地球以外の惑星に飛ばされたりするの?」
「神否荘に送らせて頂くだけですので、ご心配なさらず!」ふわり、と眼前に跳び上がってくる式子さん。「十分ほどで着きますので、それまで私の方から神否荘に就いての説明をさせて頂きますね!」
「あっ、お願いします」ソファに座り込んで、式子さんを見上げる。
「神否荘とは、二糸日色さんが管理していた共同住宅です。二糸日色さんを含めて、六人の住人が生活を共にしています」モニターが突然映り、古い趣の有る平屋建ての家屋が映し出された。「中は廊下で繋がっています。中庭を中心に東西北にそれぞれ二つずつ、計六つの客室が用意されていまして、それぞれが住人の生活スペースになっています」
「旅館みたいですね」上から見下ろした図になっているモニターを眺めながら感想を漏らす。「お風呂ってどうなってるの?」
「北側の一室が共同浴室になっています」モニターに映っている神否荘に見取り図の上の方に、赤い点が点る。客室二部屋の間に挟まれる形で浴室が在るみたいだ。「東側の一室は共同キッチン、西側の一室は共同トイレとなっています」同じように、キッチンは東側の客室の間に、トイレは西側の客室の間に在るみたいだ。
「不思議な造りですね」思わず感想が漏れる。「俺は何を管理すれば良いの? 式子さんがいればもう万全な気がしてるんだけど」
「亞贄さんには住人の話し相手になって頂きたいのです」式子さんがふわりと舞った。
「俺、人の話を聞くのは好きだけど、話し相手にはならないんじゃないかな」
「では頑張ってください!」
「おっ、突然の匙投げか?」
「何より亞贄さんは既にこの環境に順応される程のお方です! 何の問題も有りませんよ!」
「そうかなぁ……」
「そうです!」
「そうなんだ」
「そうです!」
「あっ、これもう俺の話聞いてないな?」
「着いたニャー! とっとと降りるニャ!」
黒猫が部屋に飛び込んで来たと思ったら、床が開いて光の階段が降りて行った。そこを黒猫がピョンピョン飛び降りて行く。
「えっ、もう着いたの?」恐る恐る光の階段を降りて行く。周りの風景は、たぶん日本だ。住宅街の一角――恐らく神否荘と呼ばれる共同住宅の中庭に向かって階段が降りている。
綺麗な瓦葺きの屋根を見下ろしながら、中庭に降り立つと、不意に光の階段が消えた――と思った時には上空のUFOは綺麗に消え去っていた。
「ようこそ! 神否荘へ!」式子さんがふわりと俺の前を舞った。「まずは第一住人を紹介します!」
「そんな第一村人みたいなノリで良いの?」思わずツッコミの手を入れてしまう。
「宇宙人のニャッツ=ネコランドさんです!」ババァーンッ、と声に出しながら紙の手で示したのは、さっきの黒猫だ。
「あっ、宇宙人でしたか」よいしょ、としゃがみ込んで手を伸ばす。
「だから気安く撫でようとするニャ!」パシィンッ、と俺の手を吹き飛ばす黒猫、もといニャッツさん。「良いか!? 良く聞け人間! 我輩は誇り高きニャンダフル星の親善大使、ニャッツ=ネコランドニャ! 気安くニャッツさんと呼べニャ!」
「あっ、呼び方は気安くて良いんだ」何かほっこりした。「じゃあ宜しくニャッツさん」と手を差し伸べてみる。
「ふん、宜しくしてやるニャ!」肉球の手をポン、とお手するように置かれて、最高に和んだ。「おい人間! 貴様はゲームはするのニャ?」
「しますよ」
「ニャんだと!? ふふふ……じゃあ我輩と勝負するニャ!」
「なして?」
「そんニャ気分だからニャ!」得意満面って顔のニャッツさん。
「ヤヴァいどうしようしゅごい撫でたい」恐る恐るニャッツさんの頭に手を伸ばす。
「ええい! 気安く撫でるニャと言ってるニャ!」パシィンッと手を弾き飛ばすニャッツさん。「それとも我輩が怖くて勝負できニャいかニャ!?」
「はい、怖くて勝負できないです」
「そんニャぁ!?」ガーン、と涙目になるニャッツさん。「そ、そんニャ事言うニャよ……て、手加減するから、ニャ?」ヘロヘロと前脚を俺の方に向ける。何だこの可愛さの塊は。
「式子さん、もしかしてこの共同住宅、可愛い人しかいないんですか?」再び撫でようとして手が弾き飛ばされた。
「ニャッツさんを人と呼んで良いのか分かりませんが、基本的に有害な人しかいませんよ!」ふわふわと俺の周りを回る式子さん。
「あっ、何か急に帰りたくなってきた」基本的に有害って何やねん。
「亞贄さんの帰る場所はここですけど」不思議そうに俺の前で小首を傾げる式子さん。
「あっ、はい、そうでした」
何かこれもう断るとかそんな話を通り過ぎている事を思い知ったと同時に、ネトゲ点けっ放しで来ちゃったけどどうしよう、とか思ってしまった。

【後書】
初めての方は初めまして、お馴染みの方はどうもー。日逆孝介です。
この物語は、先日完結した「おたくんち」っぽい日常系の物語を綴りたいなー、と思って綴り始めた作品です。情景描写が極端に少ない、わたくしの原点である作風に戻った物語でもあります。
1~3話はプロローグなので、サクサク毎日投稿して参ろうと思いますが、予定は未定です。のんびり30話ほどを目指してちょろちょろ綴って参りますので、お付き合い頂けたら幸いですー。

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