2018年4月20日金曜日

【神否荘の困った悪党たち】第2話 ニャッツさんは可愛い【オリジナル小説】

■あらすじ
非現実系ほのぼのニートフルコメディ物語。宇宙人、悪魔、殺し屋、マッドサイエンティスト、異能力者、式神、オートマタと暮らす、ニートの日常。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、【Fantia】で多重投稿されております。



【第2話 ニャッツさんは可愛い】は追記からどうぞ。
第2話 ニャッツさんは可愛い


ニャッツさんは可愛い。

「おい人間! 貴様はどんニャゲームをするのか言ってみるニャ!」ニャッツさんが俺の素足をペシペシ肉球で叩きながらニャーニャー言ってるのが最高に可愛い。
「色々しますよ。FPSとかMORPGとか」しゃがみ込んでニャッツさんの前脚を指で小突く。
「ニャるほど、貴様もFPSを嗜む人間だったかニャ……我輩の腕前を見せてやるニャ! 付いて来るニャ!」とっとこ歩き出して、中庭から廊下に跳び上がった。
中庭をグルッと回るように連なっている四角く区切られた屋根付きの廊下。木目調の床は綺麗に磨かれてツヤツヤだ。俺は一旦廊下に腰掛け、足の裏に付いた砂を払ってから、ニャッツさんの立つ扉を見据える。
「ニャッツさんどうやって扉開けてるの?」ニャッツさんを見下ろす。
「我輩はサイコキネシスが使えるのニャ! この程度の扉、難無く開けられるのニャ!」ふふふ、と得意気に告げるニャッツさんが最高に可愛い。「見てろニャ! ニャーッ!」と言っただけで扉がカチャリと開き、部屋の中が見えた。
畳敷きの部屋には大きなモニターと、家庭用ゲーム機が数台並んでいる。更にパソコンが一台と、携帯ゲーム機も数台。八畳のスペースはそれだけで一杯だった。
「しゅごい、ゲームヲタクかな?」ニャッツさんの後を追って部屋に入る。冷房が効いてるのか、中はとても涼しかった。
「我輩は地球侵略を諦める代わりに一日中ゲームをする権利を得たのニャ」ふふん、とどや顔で振り返るニャッツさん。「さぁ人間! 我輩を楽しませろニャ! FPSはこの中から選べニャ!」
「あっ、じゃあこれで」と言ってBO3のパッケージを指差す。
「貴様っ、……ニャフフ、そうか、それを選択するとは中々ニャ! 我輩の見る目は間違っていニャかったニャ! コントローラーを取れニャ! 対戦を始めるニャ!」
ニャッツさんの隣で胡坐を掻き、PS4のコントローラーを手に取る。ニャッツさんが「ニャーッ!」と尻尾を叩いて鳴き声を上げると、PS4が起動し、モニターに映像が映し出された。
「ニャッツさん、もしかしてコントローラーもサイコキネシスで動かすんですか?」ニャッツさんを見下ろしながら尋ねる。
「ふふっ、そんニャ力の無駄遣いはしニャいのニャ!」
「えっ、PS4の起動が力の無駄遣いではない」
「見てろニャ、今泡を噴かせてやるニャ!」
ゲームの画面まで辿り着くと、ニャッツさんがコントローラーを抱き締めてモダモダし始めた。
するとモニターでは素早く色々な設定が行われ、即座に戦闘が始まる画面へと移行した。
「ニャッツさんは全身でコントローラー使うんですね」微笑まし過ぎて頬がにやけてくるんですが。
「ふんっ、その余裕もここまでニャ! 我輩の全力、受けて見ろニャ!」
戦闘が始まった。
俺はいつもの癖で短機関銃を選び、上の画面に映っているニャッツさんのキャラクターがどこにいるのか確認して移動していく。
十秒もせずにニャッツさんが見つかった。
「……」ニャッツさんを見下ろすも、ニャッツさんは操作で忙しそうだった。
「えいっ」銃撃を加えると、ニャッツさんのキャラクターが血塗れになった。
「ニャニャッ!? どこから撃ってきたのニャ!?」
ガチャガチャと全身を使ってコントローラーを操作しているが、どうやら俺が見つからないらしい。
下の画面には、ニャッツさんを見据える俺のキャラクターが映っているのだが、気づかないらしい。
「……」ニャッツさんの背後に回り、「ていっ」殴りかかる。
「ニャニャーッ!? どこからか殴られたニャ!? どこからニャ!?」驚いた様子で視界をぐるぐる回し始めるが、俺も一緒にニャッツさんの周りをぐるぐる回るので、ニャッツさんの視界に俺が映らない。「ニャニャーッ!? ニャんだ!? バグかニャ!?」
「バグですね」コックリ頷く。「これはバグに違いない」
「貴様っ、まさかチーターニャ……!?」ニャッツさんが驚愕の表情で俺を見上げている。
「違います、ニャッツさんより強いだけです」ニッコリと返す。
「卑怯ニャ! どこにいるニャ! 姿を現せニャ!」コントローラーをガチャガチャ操作し続けるニャッツさん。
「ニャッツさん! いましたよ! アレが俺です!」俺のキャラクターをニャッツさんのキャラクターの前で棒立ちさせる。
「いたニャーッ! 喰らうニャーッ!」コントローラーをガチャガチャさせて持っている突撃銃を乱射するニャッツさん。
AIMが酷過ぎて一発も俺のキャラクターに当たらない。
「当たらニャい……!」
「残像ですからね」
「ニャんだと!? 貴様っ、残像が使えるのニャ!?」愕然とした表情で俺を見上げるニャッツさん。
「たぶん」
「ニャんて奴ニャ……!」コントローラーをスッと置いて、ニャッツさんは俺を前にお座りした。「貴様は強いニャ。貴様の強さを見込んで頼みたい事が有るニャ」
「あっ、はい」俺も正座してニャッツさんを正視する。「何でしょう?」
「我輩の師匠にニャって欲しいニャ」
「えっ、いいですよ」
「えっ、本当に良いのかニャ!?」
「えっ、断っても良いんですか?」
「えっ、ダメニャ」
「ですよね」
「人間……いや、師匠! 我輩をプロゲーマーに育ててニャ!」
「たぶん無理ですけど、頑張ります」
「宜しくニャ!」
ニャッツさんが前脚を伸ばしてきたので握り返すと、嬉しそうに「ニャ~♪」と鳴いたのが最高に可愛かった。

◇◆◇◆◇

「ヒーさんの孫君って誰っすか!?」
バァーンッ、とニャッツさんの部屋の扉を開け放って入ってきたのは、ピンク色のスーツ姿の兄さんだった。
二十代前半っぽい若さの男で、茶髪は肩に届くくらいに伸ばしてる。綺麗な碧眼で、高級そうな腕時計を嵌めて、ピンク色のサングラスを鼻の頭に掛けた、何かすげーチャラそうな兄さんだ。
「あっ、俺です」コントローラーから手を離して挙手する。
「君かぁー!」スーツの兄さんは馴れ馴れしくポンポンと俺の頭を撫でた。「僕、九窓愛火(クマド アイヒ)! 九つの窓に、ラヴファイヤーって書いて、九窓愛火って言うんす! 宜しくっす!」
「ラヴファイヤーって名前しゅごいですね」見上げる高さなので、たぶん身長が百九十くらい有りそうな兄さん、もといラヴファイヤーさん。
「おい悪魔! 我輩のゲームの邪魔をするニャ!」ニャッツさんがタシタシとラヴファイヤーさんのピンク色の靴下を叩き始めた。
「悪魔」ラヴファイヤーさんを改めて見る。
「そうっす! 僕、悪魔っす!」サングラスを押し上げて八重歯を覗かせるラヴファイヤーさん。「人間を快楽に溺れさせる魔性の存在っす!」
「こんな明るい悪魔初めて見る」
「孫君! 悪魔だからって淫靡とか卑猥とか、そんな事考えてないっすかぁ~?」ツンツンと鼻の頭をプッシュされてだいぶ恥ずかしい。「今時悪魔も明るく元気じゃないと契約取れないんすよ!?」
「契約って?」鼻の頭を撫でながら尋ねる。
「ほら、孫君は知らないっすか? 悪魔って人間と契約するのが主な仕事なんすよ! つまり営業っすね! まずは地道に顧客を増やして、契約を交わすのが仕事っすから!」むんっと力こぶを作るラヴファイヤーさん。
「俺の悪魔のイメージとだいぶ違うなぁ」
「それだけ時代が変わったって事っすよ! 今時召喚とか待ってたって全然っすから! 生け贄とかもう時代が古過ぎて誰もしてくれないんす! これからは悪魔が訪問して契約結びに行かないといけない時代なんす!」
「おい! 悪魔! 貴様は我輩と師匠の時間を仕事の話で潰す気かニャ!? 何をしに来たニャ! とっとと帰れニャ!」憤慨しまくってるニャッツさん。
「あれ? ニャーさん聞いてないんすか? 孫君の歓迎会するんすよ? 早く中庭に来て欲しいっす! 今日はバーベキューっすよ!」と言って部屋を出て行くラヴファイヤーさん。「早く来ないと無くなっちゃうっすよ~!?」
「ニャんだと!? それを早く言うニャ! 師匠! 早く行くニャ!」タシタシと素足を肉球で叩かれて幸せを感じた。
ニャッツさんを追って廊下に出ると、確かに中庭にはバーベキューの準備が出来ていた。大きな網に、炭火。その上には野菜や肉が刺さった串が並び、焼き加減を見ているのは二十代後半に見える、ジャージ姿の姉さんだった。
紺色のジャージを着ているけど、豊満な胸を見るに女性である事は間違いない。ボッサボサの金髪が腰まで届き、眠そうな碧眼は本当に焼き加減を誤っていないか不安にさせた。ラヴファイヤーさんと一緒くらいの長身で、百八十センチは有ろうかと言う、引き締まった肉体の、スタイルの良い姉さんだ。
「シンさん、もう焼けたっすか!?」ラヴファイヤーさんがジャージのお姉さんに声を掛けている。
「ん~……」虚ろな反応を返すお姉さん。
「これ食べてイイっすか!?」串を一つ取るラヴファイヤーさん。
「あ~……」殆ど返事の態を成していないお姉さん。
「シンさん、また徹夜っすか?」もぐもぐと串の野菜を食べ始め、「うえ、これ生焼けっす……」と串を網の上に戻した。
「仕方ないだろ……ハイフリの一挙放送昨日までだったんだよ……」ぼーっとした顔で呟くお姉さん。
「あのお姉さんは何者なんですか?」ニャッツさんに話しかけてみる。
「殺し屋ニャ。元だけどニャ」てこてこと元殺し屋のお姉さんに近づくニャッツさん。「おい、殺し屋! 師匠に挨拶しろニャ!」
「師匠……?」虚ろな瞳を俺に向ける元殺し屋さん。「ニャーさん、お前いつの間に師匠なんか作ったの……?」
「おっ、何か人体錬成したみたい」
「ついさっきニャ」
「アレがヒーさんの孫君っすよ!」
「あ~……お前が……」
お姉さんが俺に向き直り、ボサボサの金髪を掻いて、品定めするようにじろじろ見つめた。
「……あ、自己紹介」ボソリと呟くお姉さん。「あたし、裁倉臣(サバクラ シン)。皆はシンさんって呼んでるよ」
「あっ、俺は二糸亞贄って言います。友達からはにーさんって呼ばれてます」ぺこりと頭を下げる。
「ニャーさんと被りそうだから、にー君って呼ぶね」と言ってから、シンさんは俺の目をまじまじと覗き込んだ。「にー君。君……アニメは見る?」
「少しなら」
「フェイト知ってる?」
「少しなら」
「あんたウチのマスター?」
「そんなんでしたっけ?」
「ランサー、自爆しろ!」
「おっ、試されてるのかな?」
シンさんは目を閉じて空を仰いだ。
「フェイトはいいぞ……」
「フェイトおばさんかな?」
「おい、あたしはまだ二十九だ」
「あっ、お姉さんでしたか」
「そうだ」
「シンさん、これもう焦げてない?」
ラヴファイヤーさんが指差す先には、真っ黒な何かが有った。
「ニャーさん、これをあげよう」シンさんが真っ黒な何かを菜箸で地面に落とす。
「ニャにこれ?」真っ黒の塊を見てすんすんと匂いを嗅ぐニャッツさん。
「炭」
ニャッツさんが爽やかな顔で唾を吐き捨てた瞬間が見れた。

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