2020年8月28日金曜日

【ポケットモンスター東雲/浅葱】第1話 巣立つ雛【ポケモン二次小説】

 ■タイトル
ポケットモンスター東雲/浅葱(シノノメ/アサギ)

■あらすじ
ポケットモンスター(ポケモン)のオリジナル地方であるホクロク地方を舞台に、少年少女がポケモンチャンピオンを目指す、壮大な冒険譚です。

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【第1話 巣立つ雛】は追記からどうぞ。
第1話 巣立つ雛


「シノー、もう朝だけど博士の所に行かなくても良いのー?」

 階下から聞こえてくる女声に反応するように、少女の隣で丸くなっていた、こいぬポケモンのガーディが耳をピクリと動かし、ベッドの上で未だに夢の世界に旅立ったままの少女の顔を覗き込み、「ワオン!」と小さく吼えた。
「ふぇ?」一瞬惚けた表情で目を覚ました少女――シノノメは、「あ、おはようディ子~!」と眼前にいたガーディ――ディ子の頭を撫でながら身を起こす。
「シノ~?」再び階下から女声が飛んでくる。
「今起きたよ~!」目を擦りながらベッドを這い出て、パパッと着替えを済ます。その間ディ子はお座りの体勢でシノノメを見上げて尻尾を左右に振りながら待機していた。
「よしっ、着替え完了!」と姿見で自分の格好を確認して、薄い赤色の髪をゴムでポニーテールに纏める。濃い赤色の大きく円らな瞳で改めて自分の姿をチェックし、自分で自分にゴーサインを送る。「ディ子、行こっ!」
「ワオン!」シノノメを追って階段を駆け下りて行くディ子。
「ママ、おはよう!」居間に降り立つや否や敬礼をするシノノメ。「今日の朝ご飯は!?」
「トーストとハムエッグよ!」と言いながら左手に持つフライパンを振ると、右手に持っていた焼きたてのトーストの上にハムエッグが載った。「はい、たんとお上がり!」
「わーい! いただきまーす!」手渡されたハムエッグトーストを千切り、その小さな欠片をディ子の口元に運ぶシノノメ。「はいディ子!」
「ワフン」ぺろぺろと確認するようにシノノメの手を舐めた後、落とされたハムエッグトーストの破片をガツガツ食べ始めるディ子。
「ママ、遂に今日だね!」ハムエッグトーストを口に含みながら告げるシノノメ。「今日からやっとあたしもポケモントレーナーとして冒険に出られるんだね!」
「やっとって言うか、もうそんな時期なのーって感じよ」椅子に腰掛けながら苦笑を浮かべる母。「ついこないだディ子が来たばっかりな気がしてねぇ」
「ディ子が来てからもう三年だよ~?」呆れた様子のシノノメ。「ママこそ、今日から一人で大丈夫? 朝ちゃんと起きれる?」
「それはママより早起きしてから言いなさい」こつん、とシノノメの額に拳骨を当てる母。「気を付けて行ってくるのよ? 巷じゃ悪い事をするトレーナーもいるって話だから、ママ心配よ」
「大丈夫だよ! だってあたしにはディ子がいるもの!」
 ハムエッグトーストを飲み込んで、ディ子の頭を撫でるシノノメ。ディ子はシノノメの期待に応えるように、瞳を細めて「ワフン」と誇らしげに頭を上げた。
「……そうね! ディ子、ちゃんとシノの事、見ててあげてね?」と言ってディ子の前にしゃがみ込み、首をワシャワシャと撫で回す母。
「ワオン!」気持ち良さそうな表情をしながら、快活な返事を発するディ子。
「じゃあママ、あたし行ってくるね!」鞄を肩に掛け、ディ子の頭を小さく叩くシノノメ。「行こっ、ディ子!」
「ワオン!」立ち上がり、シノノメを追って玄関を飛び出して行くディ子。
 そんな一人と一匹を見送り、母は優しげな表情で「行ってらっしゃい」と小さく手を振るのだった。

◇◆◇◆◇

「あ! アサギ!」「……」
 コハク博士の研究所に行く道すがら、シノノメは一人の少年を見つけて透かさず駆け寄って行く。
 浅葱色の瞳がつり目になっている、シノノメと同じ十歳の少年――アサギ。短い黒髪を揺らして、シノノメを涼しげな表情で待ち構える。
「おはよう、アサギ!」
 手を挙げてニパーッと笑むシノノメに対し、アサギは「あぁ、おはよう」と静かに声を返した。
「アサギも今日から冒険に出るんだよね?」隣に並んで喋り出すシノノメ。「一緒に頑張ろうね!」
「おれはお前と慣れ合うつもりは無い」きっぱりと吐き捨てるアサギ。
「あれ、ナックラーは? モンスターボールに入れてるの?」きょろきょろとアサギの周りを見回すシノノメ。
「人の話を聞け」
「アサギの夢ってあたしと一緒だもんね! だから一緒に――」「同じ夢だから、一緒じゃダメなんだろ」
 立ち止まり、シノノメを冷たい瞳で見据えるアサギ。シノノメはきょとんと足を止め、アサギを振り返る。
「チャンピオンは、一人しかなれない。だったらチャンピオンになるのは、おれかお前のどちらかだ。そしておれの夢は、おれのポケモンと一緒に一番になる事。お前とじゃない」
 ふん、と鼻を鳴らして再び歩き出すアサギの後を、数歩遅れて追い駆けるシノノメ。
「そうだよねぇ、一番って一人だけだもんねぇ。あたしもチャンピオンになりたいけど、アサギと一緒じゃ無理か~」
「……」頭が痛そうに額を押さえるアサギ。
「ワフン」アサギと同じような表情を浮かべるディ子。
「でもさ、一緒にチャンピオンは無理でも、一緒に腕を磨くのは出来るよねっ?」アサギの顔を覗き込んで笑むシノノメ。「だから、一緒に頑張ろうよ!」
「……好きにしろ」疲れた様子で溜息を落とすアサギ。
「やったー!」万歳するシノノメ。
「ワオーン!」ぴょんっと跳ねるディ子。
 そうこうしている間に二人と一匹は大きな研究所の前に辿り着いた。立て看板には“コハク研究所”と記されている。
「たのもー!」バァーンッ、と扉を蹴破って研究所に侵入するシノノメ。
「研究所破ってどうするつもりなんだ」呆れ果てた様子でシノノメの後を追うアサギ。
「ワフン」アサギと同じ表情で溜息を落とすディ子。
 綺麗に整頓された研究所の中では、長身の黒いツナギ姿の男が待っていた。
 アッシュの髪が短い、愛嬌の有る糸目の、二十代後半の青年は、小さく頭を下げて「おはようございます、シノノメさん、アサギ君」と微笑を浮かべた。
「おはよーございまーす!」ピッと敬礼するシノノメ。「……おはようございます」値踏みするように男を見据えるアサギ。
「エレクさん、博士は?」はい! と挙手して尋ねるシノノメ。
「コハク博士ならそこで溶けています」と男――エレクが手で示した先では、床に寝そべっている白衣姿の女が見えた。
 オレンジの髪は綺麗に梳かれていて、寸前まで整っていたのだろうが、今は早くもボサボサになりつつある。野暮ったい眼鏡の奥の垂れ気味の茶瞳を胡乱に上げると、「おあー、来たかぁー」と寝転がって手を伸ばす二十代前半の女――コハク。「起こしてぇー」
「はいっ、と」コハクを引っ張り起こすエレク。「博士、眠気覚ましのコーヒーです」と言って透かさず椅子と一緒にマグカップを渡す。
「うむ、ずびび」椅子に腰掛けてすぐにマグカップに口を付けた後、コハクは少年少女に視線を投げ、「えぇと、よく来てくれた。……えぇと、何すんだっけエレク?」ぼそぼそとエレクに耳打ちを始めた。
「ポケモン図鑑を渡す約束でしたね」ぼそぼそとコハクに耳打ちするエレク。
「ぉお、そうだったそうだった。ほれ、そこのテーブルに有るのが君達のポケモン図鑑だ」
「雑ですね」最早それ以外の感想が出てこないアサギ。
「ぉおー! これがポケモン図鑑! 何か小さな手帳みたい!」テーブルの前まで駆け寄り、しげしげとポケモン図鑑と呼ばれる手帳のような電子機器を見据えるシノノメ。「可愛い! これ貰って良いの!?」
「その図鑑、今時風に多機能だから便利よ~。番号さえ登録しておけばテレヴィ電話としても使えるし、マップも見れるし、勿論ポケモン図鑑としてポケモンの情報も確認できるし、更にホクロク地方のテレヴィも見れるのよ~凄いよねぇ~」と言いながらずるずると椅子から滑り落ちていく博士。「あと説明宜しくぅ~」と言って完全に椅子から滑り落ち、床の上に寝そべり始めた。
「では助手の僕が僭越ながら」こほん、と咳払いするエレク。「お二人がポケモンリーグの頂点を目指している事を僕達は把握していますし、応援もしていますが、その序でで良いので、ポケモン図鑑を埋める手伝いをして欲しいんです」
「分かったよ! あたし、頑張っちゃうよ!」二つ返事でドンッと胸を叩くシノノメ。「序でで良いんですか」醒めた表情のアサギ。
「お二人のポケモン図鑑にはコハク博士と助手の僕の番号が登録してありますので、困った時はいつでも連絡してください」
「あ、アサギとも連絡交換しとこうよ、ねぇねぇ」ツンツンとアサギを突くシノノメ。
「お前と慣れ合うつもりは無い」ぷいっとそっぽを向くアサギ。
「既にお二人の連絡先は登録済みですから、いつでも好きな時に連絡を取り合ってくださいね」ニッコリ笑顔で二人の頭を撫でるエレク。
「わーい! ありがとエレクさん!」「ちっ……」
 対照的な反応を見せる二人に、エレクはうんうん頷くと、二人と目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「他ならぬ君達ならもう既に知っている事だと思いますが、チャンピオンになるには、つまりポケモンリーグに挑戦するには、ホクロク地方に在る八つのジムを踏破して、八つのジムバッジを獲得しなければなりません。これは並大抵の努力では成し得ない、とても大変な道程になるでしょう。そんな途方も無い夢を、お二人は目指すのです」
 シノノメはアサギを、アサギはシノノメを意識するように視線を向ける。
「あたし、パパの代わりにチャンピオンになるって決めてるから、絶対頑張れるよ!」グッと親指を立てるシノノメ。
「おれは、おれのポケモンと一緒に一番になると決めました。それ以上に言う事は有りません」やんわりとエレクの手を振り払うアサギ。
「幾らアサギが幼馴染だからって、あたし負けないよ!」
「お前が幼馴染だろうが関係無い。おれが一番になる」
 熱気と冷気がぶつかり合う視線の交錯に、エレクは「それだけ覚悟が据わってるなら、僕からこれ以上言う事は有りませんね」と糸目を更に細めて立ち上がった。「どうかお二人の冒険に幸多からん事を」
「うん、じゃ行ってくるね!」ピッと敬礼をするシノノメ。
「……では、行ってきます」小さくお辞儀をしてスッと立ち去るアサギ。
「……博士、雛が巣立って行きましたよ」二人の後姿を見送ったエレクは、背後で溶けているコハクに静かに声を掛けた。「彼らがどんな物語を描いてくれるのか、楽しみですね」
「あー、うん、そうねぇ」ゆっくりと起き上がり、欠伸を浮かべるコハク。「じゃあ私達も頑張んないとねぇ」
「博士が珍しくやる気に……! 急いで一週間前に頓挫した研究の再準備に取り掛かりますね!」バタバタと研究所を走り回り始めるエレク。
 それを見たコハクが「えー、今日はさ、新しい雛が巣立った記念にお休みにしない? ねぇ?」とヘロヘロと手を伸ばしたが、聞く耳を持って貰えなかった。
 そんな研究所のゴタゴタを遠目に眺めていたシノノメは「大掃除でも始めたのかな?」とディ子に向かって小首を傾げる。
「ワフン?」同じ向きに小首を傾げるディ子。
「――シノノメ」
 不意に先を歩いていたアサギが振り返って、モンスターボールを構えている姿が視界に飛び込んできた。
「どしたの?」不思議そうに振り返るシノノメ。
「おれはお前を超えて、一番になると決めた。だったらまずはここで、お前を超えている証明をしたい」
 モンスターボールのスイッチを押すと、中からポケモンが飛び出してくる。
「グワワァ」
 現れたのは、ありじごくポケモンのナックラーだ。円らな瞳をアサギに向け、指示を待っている。
「おれと、ここで、ポケモンバトルをしろ」
 シノノメを指差して宣戦布告するアサギ。
 シノノメは驚きに目を瞠るも、すぐに好戦的な笑みを刷いて、「良いよ! やろうよ、ポケモンバトル!」と言って同じような格好でアサギを指差す。「いざ、勝負だ!」

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