2020年8月29日土曜日

【ポケットモンスター東雲/浅葱】第2話 間違った戦い方【ポケモン二次小説】

 ■タイトル
ポケットモンスター東雲/浅葱(シノノメ/アサギ)

■あらすじ
ポケットモンスター(ポケモン)のオリジナル地方であるホクロク地方を舞台に、少年少女がポケモンチャンピオンを目指す、壮大な冒険譚です。

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【第2話 間違った戦い方】は追記からどうぞ。
第2話 間違った戦い方


「ディ子! ひのこ!」「ナックラー! すなかけ!」

 シノノメとアサギが同時に宣言し、ディ子とナックラーも同時に行動を起こした。
「ワウ!」ディ子が口から火の粉を吐き出し、「グワァ!」ナックラーは大地を手で擦って砂を振り払う。火の粉は大気を舞った砂で掻き消され、殆どが霧散してしまう。
「むぅ! ディ子! あっち!」唇を尖らせるも、すぐにシノノメはディ子に別の目標を示す。
 指差した方向に在るのは、【コハク研究所】と記された立て看板。
「ワウ!」ディ子はそこを目掛けて駆けて行く。
「おい、いきなり戦闘放棄か?」怪訝な様子でディ子とシノノメの様子を見やるアサギ。
「同じ高さでひのこが防がれるなら――」ぴょこんっ、とディ子が立て看板の上に立ったのを見計らい、シノノメはナックラーを指差す。「上からよ! ディ子! ひのこ!」
「ワウ!」ディ子が口元に力を込め、火の粉を吐き出す。
「しまっ――ナックラー、すなかけ――ッ」アサギは咄嗟に指示を出すが、ナックラー自身その指示を待っていたにも拘らず、振り払った砂は大気に舞うものの、頭上を飛び越えてくる火の粉には届かず無防備の態で火の粉を浴びてしまう。「ナックラー!」
「グワァ……」フルフルと体を振って火の粉を振り払うナックラー。
「地の利を活かしたって訳か……!」瞳を輝かせるアサギ。「ナックラー! あの立て看板にかみつく!」
「グワァーッ!」ノタノタした動きで立て看板に向かって駆け出すナックラー。
「ディ子! ひのこ!」近づけさせないようにと指示を投げるシノノメ。
「ワウ!」再び口元に力を溜め、火の粉を吐き出すディ子。
 火の粉を何度も浴びるナックラーだが、我慢強く立て看板まで辿り着くと、根元にがっぷり噛みつき、――立て看板の根元を圧し折った。
「ワウーッ!」咄嗟に跳び上がり、ナックラーから距離を取るディ子。
「ディ子! ひのこ!」「ナックラー! かみつく!」トレーナーから同時に指示が飛ぶ。
「ワウ!」「グワワワァーッ!」ディ子が火の粉を吐き出そうとしている間にナックラーが距離を詰めてくる。
 火の粉が舞い、ナックラーに雨となって降り注ぐも、ナックラーは歩みこそ遅いものの耐え忍んでディ子を追い詰める。
「行けっ、ナックラー!」「グワァーッ!」
「ッ、ディ子っ、避け――っ」「ワウゥッ!」
 咄嗟の事で回避の指示が間に合わず、ディ子はナックラーに後ろ足をがっぷり噛みつかれた。痛そうに表情を歪め、「キュウン、キュウン」とディ子は後ろ足を振り解こうとするが、ナックラーは全く力を緩めない。
 その時、シノノメの脳裏に先刻の立て看板が辿った軌跡が蘇る。根元から圧し折られ、無残な最期を遂げた立て看板。あれがもしディ子の身に起こったら――――
「も、戻ってディ子!」モンスターボールのスイッチを押し、ディ子を強制的にモンスターボールに帰還させるシノノメ。
「おい、そのガーディはまだ瀕死じゃなかった筈だ」ナックラーの隣に立ち、シノノメを見据えるアサギ。「……それとも降参か?」
「――うん、降参! だってディ子がこれ以上痛い目に遭うの、嫌だもん」モンスターボールから出して、ディ子の足を見やるシノノメ。「ごめんねディ子、痛かったよね? 今手当てしてあげるからね……!」
「――甘いな。そんなんじゃチャンピオンになんかなれない」
 切り捨てるように告げたアサギに、むくれた表情で振り返るシノノメ。
「アサギだって酷いよ! そのナックラー、火傷してるのに下がらせないなんて、酷い!」
「何?」
 弾かれたようにナックラーを凝視すると、確かに火傷の痕が刻まれて、ナックラー自身辛そうな呼吸をしている事が分かった。
 それこそ、あと一撃火の粉を受けていれば、もしかしたら先に倒れていたのは……と思い至り、アサギは何か言いたげに歯を食い縛った後、ナックラーをモンスターボールに戻し、シノノメに背を向けた。
「……バトルをすれば、傷つくのは当たり前だ。傷つくのを恐れていたら、バトルなんかできない」
「自分のポケモンを大事に出来ないのにチャンピオンになるなんて、そんなのあたしはチャンピオンだと思わないよ」ディ子を抱き上げてアサギを見据えるシノノメ。
「勝てる勝負を逃した奴にとやかく言われる筋合いは無い!」
 怒鳴るようにそれだけ言い残して立ち去って行ったアサギを見送り、シノノメは「何よぅ、ポケモントレーナーなのに自分のポケモンを大事にするのは、そんなにおかしい事……?」と不貞腐れたように転がっていた石ころを蹴飛ばす。
 その様子を研究所の窓から窺っていた博士と助手は、どちらからともなく溜め息を零した。
「……どうやら課題がたくさん有るようですね」「それだけ伸びしろが有るって事かしらねぇ」
 互いに苦笑を見せ合い、「そうだ」とコハクは手を叩いて椅子のキャスターを転がし、机に向き直るとインクに浸かっていたペンを取り出し、サラサラと便箋に文字をしたため始めた。
「博士が文字を綴るなんて三日振りの快挙ですよ!」嬉しげに駆け寄って来るエレクに、ポン、と便箋を手渡すコハク。「おっと、これは?」
「有休届」にんまりと笑むコハク。「エレク、あの二人を暫くの間で良いから、影から見守ってあげてくれない? ウノハナタウンからポケモントレーナーが誕生したのって、今からもう十八年も昔になるでしょ? 次は君が見守る番って事よ」
「……併し、それでは博士の世話は誰が……」心配そうにコハクを見やるエレク。
「研究は暫くお休みよお休み! 私も有休休暇取ってゴロゴロするわぁー」もう既に椅子から転げ落ちて床をゴロゴロし始めるコハク。「……まぁ、暫く見守って、大丈夫そうだと思ったら帰ってきてね。じゃ、宜しくぅ」パタリ、と倒れて寝息を立て始めた。
「……困りましたね」コハクをお姫様抱っこし、寝室に運んでベッドに寝かせると、エレクは困り果てた様子で顎を摘まんだまま硬直していたが、「……博士の指示であるなら、そうですね、やるしかありませんか」と言いながらテキパキと研究所を片付け始め、玄関に“臨時休業”の札を下ろし、圧し折られた立て看板を直して、二人のポケモントレーナーが消えた方向――161番道路へと足を向けた。

◇◆◇◆◇

「ディ子、痛くない?」
 キズぐすりを吹きかけて、ディ子の後ろ足を撫でながら心配そうな表情を浮かべるシノノメに、こいぬポケモンは「ワオン!」と元気な声で応じた。
「良かったぁ……もう、アサギってばやり過ぎだよね、瀕死になるまで戦えだなんて……ポケモンが可哀想だよ……」
 ディ子を連れ立って161番道路を散策するシノノメ。
 161番道路はシノノメにとって通い慣れた土地だった。隣町のアイテツシティに買い物に行くのに使う道で、長く緩やかな下り坂になっている。
 ここはトレーナーが犇めき合う土地でもあり、シノノメ自身、ポケモンバトルはさっきのが初めてではなかった。もう何度も経験してるのに、先刻のバトルだけは、どうしても拭い難い嫌な匂いを嗅ぎ取ったのだ。
「……」
 アサギへの文句はそこで音が途絶え、神妙な面持ちでシノノメはディ子を見つめる。
 ガーディのディ子は大切な家族だ。ポケモンバトルは確かにポケモン同士を戦わせる行為だが、そのために瀕死になるまで戦わせ続けるのは、あまりに可哀想ではないかと、そんな想いが強く心を騒めかせる。
 今まで、161番道路で出逢うトレーナーと戦う時だって、相手は瀕死になるまでポケモンを戦わせ続ける、と言う事は無かった。或る程度傷を負えばモンスターボールに戻す、それが当たり前だった。
 如何にポケモンセンターで瀕死までの怪我ならポケモンを治療できると言っても、ポケモンだって自分達と同じ生き物なのだ、無理に怪我を負わせてまで戦わせる必要なんて無い筈だ。
 それに……とシノノメ自身気づいていた。あの時、もう一撃火の粉をナックラーに与えていれば、瀕死の重傷を負わせていた事を。
 ナックラーを見れば、一目瞭然だった。確実に弱っていたし、辛そうな顔をしていた。それに気づかないなんて、アサギは何を考えているのだろうと怒りたくなった。大事な家族が辛い状態になってるのに、どうして気づいてあげられないんだと、思わず喚きそうになった程だ。
 その瞬間躊躇が生まれ、更にナックラーの攻撃がディ子に瀕死の重傷を負わせるのではと恐怖が湧き上がり、気づいたら考える間も無く咄嗟にモンスターボールを起動していた。
「……あたし、まだトレーナーとして半人前なのかな? ディ子」
 しゃがみ込み、ディ子の鼻をちょん、と押すシノノメ。
 ディ子はきょとんとした顔で小首を傾げると、ぺろぺろとシノノメの顔を舐めた。
「ふふっ、ありがとディ子。そうだね、こんな所で落ち込んでても仕方ないよね! 次こそ頑張らなくっちゃ!」立ち上がって拳を突き上げるシノノメ。「えーと、まずはアイテツシティから行けば良いよね、一番近い町だし」
 言いながら鞄の中からポケモン図鑑を取り出す。操作がまだたどたどしいが、何とかマップを開いてアイテツシティのデータを探し当てる。
『埋没林の町、アイテツシティ。ホクロク地方北東部に位置している。ポケモンジムであるアイテツジムは、仲の良い兄弟が運営している。』
「ママと買い物によく行くけど、埋没林なんて在ったっけ……?」不思議そうに小首を傾げるシノノメ。「えーと、チャンピオンになるためには、ポケモンリーグで優勝しないといけなくて、ポケモンリーグに挑戦するためには、ジムバッジを八つ集めないといけない! うん! だったらまずはこのご近所のアイテツジムから挑んでみよう!」
「ワオン!」元気よく吼えるディ子。
「よーし、走るよディ子~! 付いてこーいっ!」「ワフワフ!」
 突然駆け出したシノノメに追従するように追い駆けてくるディ子に、冒険も、いつもの散歩の延長線なのかな、と不意に思ってしまった。
 きっとどこまでも続く散歩。そんな気がして、思わず表情がにやけてくるシノノメ。
「おっと止まれ!」
 声を掛けられ、思わず少年と目が合ってしまう。麦わら帽子を被り、虫捕り網と虫かごを持っている少年は、モンスターボールを向けてニヤリと笑んだ。
「トレーナーは目と目が合ったらポケモンバトル! 基本だよな!」
「ディ子、行けるね?」ディ子と目線を合わせるシノノメ。
「ワウ!」小さく吼えて上を向くディ子。
「そうだね! 良いよっ、今度はさっきより上手くやってみせるからね!」
 応じるように虫捕り少年を指差すシノノメに、少年は「決まりだな! 行けっ、キャタピー!」とモンスターボールからいもむしポケモンが飛び出してきた。
「よし! 勝負だ!」キャタピーを指差すシノノメ。「ディ子! ひのこ!」
「ワウ!」口元に力を溜め込み、火の粉を放つディ子。
「させるかっ、キャタピー、たいあたりだっ!」虫捕り少年が透かさず指示を放つ。
「ピーッ!」もそもそと、併し素早い動きでディ子の火の粉を掻い潜り、ディ子にぶつかって行くキャタピー。
「ディ子っ!」体当たりを喰らって踏鞴を踏むディ子だが、ダメージは軽微と即断したシノノメは、彼女の眼前に佇むキャタピーを指差して宣言する。「――かみつく!」
「ガウ!」目の前にいたキャタピーに喰らいつくディ子。
「ピーッ!?」悲鳴を上げてモダモダ抵抗するキャタピー。
「あぁっ、キャタピーっ!? くっ……おいらの負けだ……っ、戻れ! キャタピーっ!」
 モンスターボールが起動してキャタピーがディ子の口から強制的に外れていく。
(そうだよね、ポケモンバトルって、やっぱりこうだよ!)
 虫捕り少年が悔しそうにモンスターボールを撫でるのを見て、確信する。大怪我を負ってまで戦わせるなんて、間違ってる。ポケモンバトルは戦いであっても、殺し合いではないのだ。
 だから今度アサギに逢ったら言わなくてはならない。あんな酷い戦い方は、ポケモンが可哀想だ――と。
「負けたよ……あんたのポケモン強いなぁ」若干鼻声の虫捕り少年が握手を求めてきた。「どこの出身のトレーナーなんだい?」
「あたし? そこのウノハナタウンだよ!」ニコッと華やぐシノノメ。
「え? あのど田舎の?」一瞬惚けた表情を浮かべる虫捕り少年。「ま、まじかよ……そんな田舎者に……負けた……のか……」ガックリと膝を折って四つん這いになってしまった。
「何よう、どこの出身だって良いでしょー?」腰に手を当ててぷりぷり怒るシノノメ。「真のトレーナーは出身地で決まるんじゃないの! ポケモンを大切にする想いの量で決まるんだから! ねーっ? ディ子~♪」
 しゃがみ込んでディ子の体をワシャワシャ撫で始めたシノノメを見て、「……悔しいけど、負けちまったからにはお前の言い分に従うよ。おいらの、ポケモンを大切にする想いが負けちまったって事だな、ちくしょう!」と地団太を踏み始める虫捕り少年。
「でも、きみのお陰であたしスッキリしたよ! 有り難う!」ぎゅ、と虫捕り少年の手を両手で掴んで微笑むシノノメ。
「お、おう? よ、よく分かんねえけど、どういたしまして……」照れ臭そうに鼻の下を擦る虫捕り少年。
「そうと決まれば、いざ! アイテツシティ!」遥か彼方を指差して駆け出すシノノメ。「じゃ、また逢ったら宜しくね~!」
「おーう」と言って手を振り返す虫捕り少年の視線の先では、また別のトレーナーに呼び止められて臨戦態勢になっているシノノメの姿が映っていた。「……あいつ、アイテツシティに向かうかトレーナーと戦うか、どっちかにすりゃ良いのに……」と思わず苦笑を浮かべてしまうのだった。

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れさまですvv

    朝葱くん、袴男子はこうあるべき!まさにお手本状態w
    おねいさんもうキュン死寸前ですww
    対する東雲ちゃんは委員長タイプというかwとってもいい子です。
    これから二人がどんな成長をしていくのかめっちゃ楽しみ!!

    と、ここまで書いて「あ、そういえばファンティア…」覗いてみようw
    同じようなこと書いてあって「3年たっても全然成長の様子が見られませんね、お薬出しておきますね。」お手数おかけしますコハク博士…
    さすがにアキさんは控えておきましょうw

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想コメント有り難う御座います~!

      袴男子のお手本になっているとは…!ww
      キュン死www浅葱君の攻撃力がヤバい…!www(笑)
      東雲ちゃんは委員長タイプだったのか…!ww 言われてみれば段々とそう思えてきますね…!ww
      ヤッター!┗(^ω^)┛ ぜひぜひ、二人が成長していく様子を見守って頂けたら幸いです!!

      寧ろ当時の想いをちゃんと受け継いでいると言いますか、変わらずの想いを懐き続けてる事がしゅごいと思わずにいられないですよ…!w
      アキさんはアカンwww大変な事になる奴ぅ!ww
      そしてコハク博士はたぶん薬を出してさえくれずに溶けていそうな予感がします!ww(笑)

      今回も楽しんで頂けたようでとっても嬉しいです~!!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!!

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