2020年12月23日水曜日

【紅蓮の灯、隻腕の盾使い】007.カタリとフウッチャ【モンハン二次小説】

■あらすじ
隻腕の盾使いリスタは、狩人都市アルテミスにて、或る情報を求めにやってきた。週刊少年誌テイストのモンハン二次小説です。

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■第8話→未定



【007.カタリとフウッチャ】は追記からどうぞ。

007.カタリとフウッチャ


「ところで、緋色の盾使いよ。狩場までの足跡はどう残すつもりだ?」
 狩人都市・アルテミスの北門へ向かいながら歩いていた一行だったが、不意に漏れたゼラフの問いかけにリスタは片眉を持ち上げて振り返った。
「移動手段か? 走れば良いだろ走れば」
「えええぇ~? 無理無理~無理だよリスタ君~」慌てた様子でパタパタと両腕を振り回すクーリエ。「わたしぃ~、竜車で移動だと思ってたのにぃ~。ここから高地まで走るなんて~、死んじゃうぅ~」
「ボクも、無理」スッと挙手するシア。「竜車、借りるべき」
「レディの言い分は尤もだと私も思うのだが、まさか正気で高地まで己が轍を付けながら辿る訳ではあるまいよ、リスタ」
 ゼラフも困惑した様子で続けるも、リスタは逆に困った風に頭を掻いて溜め息を吐き出した。
「竜車を借りてェのは山々だがよ、さっきのご馳走が前払いっつったろ? もう残ってねーんだわ、一文無しなんだよ」己の財布を見せて、中身が入っていない事を示すリスタ。「無賃乗車する訳にもいかねーし、お前らがゼニー持ってるってんなら、都合して竜車を借りるって算段も立つんだが?」
 リスタの剣呑な眼差しを注がれ、三人は互いに視線を配り合って、早々に白旗を上げた。
「で、でもでもぉ~、流石に高地まで走るなんて~、絶対に間に合わないと思うの~」泣きそうな表情で懸命に挙手するクーリエ。「お手伝いしたいって申し出たけど~、たぶんわたしぃ~、高地に着くまでに倒れちゃうよ~」
「とは言うがな……」
 リスタも三人の言い分が理解できない訳ではないのだろう。頭をガシガシ掻いて、どうしたもんかと思案を始めた。
 前借……借金すれば、竜車を一台借りるぐらいの金銭は都合できるかも知れない。併しこれから行う依頼の報酬は既に前払いとして無くなったばかりだ。借金を返せる目途が立っていない以上、金貸しも笑顔で金を貸し付けるとも思えない。
 かと言って、リスタの感覚に委ねて高地まで走り抜けると言うのは、三人にとっては体力的に厳しいと言うのも分かる。狩場に着いて疲労困憊した三人が役立つとも思えないし、まず何より高地に辿り着くまでにどれだけの時間が経過するか知れたものではない。
 リスタはフレアに改めて金を借りに行こうと結論を出す――その間際。腰をツンツンと誰かに突かれ、意識を足元に向けると、チャチャブー――獣人種……アイルーなどと同じ種族に分類される、奇妙な仮面を顔に被っている事から“奇面族”と呼ばれる、小型のモンスター――が、リスタを見上げて小首を傾げていた。
「おン前、足ィが欲ジいっちゃ?」ペストマスクのような奇面を被ったチャチャブーは、聞き取り難い言葉遣いで声を掛けてきた。
 リスタは一瞬呆けた顔をした後、跪いてチャチャブーと視線を合わせた。
「移動手段を都合できるのか?」
「足ィが欲ジいンなら、オイにまガせるっちゃ!」
 ペストマスクのチャチャブーは手に持っていた松明を掲げると、「つイでくるっちゃ!」小さな足をちょこまか動かして先導し始めた。
 リスタは再び立ち上がると、三人を振り返り、「渡りに船だ、話だけでも聞いてみねェか?」と笑い、チャチャブーを追って歩き始めた。
 リスタが意に介した様子も無くチャチャブーを追って行く姿に、シアが「知らない人、ホイホイ付いて行くね、リスタ」と呆れた様子で肩を竦めながら追い駆けて行く。
「ゼラフ君~、あれって――――」「我らは随伴者なれば、意見は二方の所感を聞いてからでも遅くはあるまい。判断を委ねるではなく、知見を深めてから相談した方が効率が良いと言う判断さ」「うんうん~、そうだね~」
 クーリエが心配そうに小声で呟くと、ゼラフが気にした風でも無く応じたのを見て取り、クーリエもコックリ頷いて二人を追い駆ける。
 チャチャブーは狩人都市の路地裏に入っていき、治安が悪そうな雰囲気を醸し出す隘路を抜けて、辿り着いた先は狩人都市の外周部――仕事にあぶれたであろうハンターや獣人種が身を寄せ合って暮らしている区画だった。
「ババア! 足ィ欲ジいギャく、連れデ来たっちゃ!」
 チャチャブーが声を掛けた先にいたのは、ボロを纏った老婆だった。煤で汚れ切ったローブで全身を覆う、小柄な体躯の老婆は、焚火に当たりながら、ゆっくりとその胡乱な瞳をリスタに向け、次にシアに向かった。
「……おやおや、遂に星を見つけたようだね」老婆はしわがれた声で呟くと、杖の先でトントンと焚火を崩すと、リスタに向き直った。「足が欲しいんだってね、坊や。そいつを疑わずに付いて来たって事は、まぁ、分かってるんだろうねぇ」
「碌なモンじゃねェーとは分かってるが、チャチャブーにも縋りてェ有様でね」肩を竦めるリスタ。「払える代価も持ち合わせてねェ俺らに足を貸せると思って来たんだが、齟齬が生じてるならさっさと去るぜ?」
「……どこまでだい」老婆は朗々とした声で尋ねた。
「ちょっくら高地まで野草採取に」
「野草……? あぁ、あんた達もその口かい」カッ、と痰を吐き出す老婆。「イワヒメ草だろう? やめときな、もう稼ぎになる分は残ってないよ」
「……? 何の話だ? 確かに俺らはイワヒメ草を取りに行くところだが、稼ぎどころか依頼が終わり次第無一文が確定してるんだが」
 リスタと老婆が目を合わせたまま、動かなくなった。
 老婆はリスタの表情から何かを読み取ろうとしていたようだったが、彼自身見つめられている事に嫌悪感でも湧いたのか、露骨に不快感を露わにし、老婆を鋭い眼光で睨み据えた。
「何だコラ、喧嘩売ってんのか?」挙句の果てにメンチを切り始めるリスタ。
「……惚けてンのかと思ったけど、違うようだねぇ」ハァ、と溜め息を吐き出す老婆。「貴族共の肥満解消に使われてンのさ。確かにそんな効能自体は有るけどね、お陰でお抱えのハンター共が根こそぎ採取して、今じゃ奥地も奥地、大型の竜が闊歩する領域にまで足を延ばさないと一目見る事も叶わない」
「なに、それ。許せない」
 老婆の話が終わるや否や殺気立つシアに、リスタが「おい、そこの婆さんに斬りかかるなよ?」と剽げた表情で窘めた。
「貴族連中がどうこうってのはどうでも良いんだ。近々この街を旅立つ依頼人の姉ちゃんに一輪拝ませてェ、それだけだ。それでもダメか?」
「……」
 老婆の水晶のような透き通った視線が、リスタを撫でた。
 暫く無言で見つめ合っていた二人だが、先に折れたのは老婆だった。溜め息を漏らしながらペストマスクのチャチャブーの頭を杖の先で小突く。
「何ズるっちゃ!」
「どうせ客人に名乗ってすらいないんだろう。商売の肝は信頼と実績だよ。名も名乗らない商売人がいて堪るかい」
「ちゃ! 名乗ル、忘れデたっちゃ! 許しデ許ジてっちゃ!」
 チャチャブーが慌てた様子でペストマスクを整え始め、リスタに向かって鼻の先を向けて胸を張った。
「オイ、フウッチャ! フウッチャ言ウっちゃ!」
「フウッチャか。俺ァリスタだ、宜しくな」
 ペストマスクのチャチャブー――フウッチャが差し出してきた右手を握り返し、リスタは改めてフウッチャと視線を合わせるように跪いた。
「それで? 足ってのは都合できるのか?」
「ババア! 良イっちゃ?」
「あんたの客だろう、好きにしな」「りょウガいっちゃ!」
 フウッチャはぎこちない敬礼を返すと、「リスタ! 今、足ィ連れデ来るっちゃ! 待デっちゃ!」小さな足をちょこまか動かして走り去ってしまった。
 老婆はシアと視線を合わせたまま何も言わず、シアもまた、何も言わずに老婆を見つめている。
「……? 知り合いか?」シアを振り返って声を掛けるリスタ。
「うん。カタリさん」こっくり頷くシア。「貧民区の元締め、って聞いてる」
「ほぉ」改めて老婆――カタリに視線を向けると、彼女の前に跪いて視線を合わせるリスタ。「さっき口にした、星、ってのは俺の事か?」
「……存外耳聡いな」悪い笑顔を見せるカタリ。「そうとも、お前は秒針であり鼓動だ。そこの小娘の天球儀は瞬き始めた。……坊やもそうじゃ。そこの小娘こそが、坊やの真核となる。互いに、離すでないぞ」
「……シア、もしかしてこいつが例の預言者っつー奴か? お前の一族とやらの?」「違う」「違うのかよ……こんなぶっ飛んでる奴、早々いねーと思うんだが……」
「星詠みの一族とは関係無いよ。あたしゃ預言なんて大それた真似は出来ないからねぇ。老婆心ながらのお節介が良いとこさ」カカッ、と乾いた笑い声を上げるカタリ。「もし坊やが良いなら、その野草採取が終わった後にでも、話を聞かせて貰いたいもんだね。勿論、そっちの嬢ちゃん達にもだ」
「機会、有ったらね」淡々と応じるシア。
「ええっとぉ~、もしかして~、わたしも含まれてる~?」
 遠巻きに眺めていたクーリエが、自分を指差して微笑むと、カタリは「当然じゃろ」と鼻で笑った。
「えへへ~、ゼラフ君~、わたしぃ~、長老と仲良くなったみたい~♪」
「魔性に見初められたかクーリエ……! かの者こそ、老練の帥たる御仁……迂闊に手を出そうものなら食いちぎられるぞ……!」警戒心も露わにクーリエを庇おうとするゼラフ。
「婆さん、好き勝手言われてるぞ」苦笑交じりにゼラフを顎で示すリスタ。「良いのか?」
「アレが都民の総意じゃよ、好きに言わせてやりな」鼻で笑うカタリ。「さて、そろそろ時間か。――良き旅を。フウッチャを頼んだぞ」
 カタリが真摯な眼差しで頭を下げたのを確認した瞬間、ドカドカと地を蹴る音と共に現れたのは、五頭のランポスと、それに鞍を付けて乗馬……ならぬ、“乗ランポス”しているチャチャブー達だった。
 ランポス。小型の鳥竜種と言う位置づけだが、成人男性より少し大きいぐらいの体躯を誇る。鮮やかな青と黒の縞模様と、鋭利な黄色い嘴が特徴の、平野から森林地帯などを中心に幅広い範囲に生息しているモンスターだ。
 そう、モンスターなのである。人間に害を為す事で広く知られる害竜であり、獲物を発見すると群れで襲い掛かる習性から、移動中のキャラバンや資材調達中の民間人は固より、群れの規模によっては村一つが滅びる事も起こり得る、脅威そのものである。
 それに騎乗してチャチャブーが現れたのだから、ハンターであっても度肝を抜かれるのは当然だった。
 意表を衝かれて瞠目している四人に向かって、先頭に立っていたペストマスクのチャチャブー――フウッチャは手を振りながら大声を吐き出した。
「待たゼたっちゃ! フウッチャ印の、“ランポス便”! こコに参上っちゃ!」『待たゼたっちゃ~!』
 どう返答して良いのか混乱している一同に対し、カタリがゆっくりと立ち上がって四人に笑いかけた。
「どうした? 遠足の足が欲しいンだろう? 用意してやったンじゃないか、人馴れしたランポス四頭、これに騎乗して高地までひとっ走り。……苦情は聞かないよ、代わりにフウッチャの要求する代価を叶えてやりな」
「おい、まじでこれに乗って――」「オイの代価! ゾれは、良ギ風景、見ゼろ!」
 リスタがカタリに詰め寄る前に、フウッチャの大声が弾けた。
 飛び出しそうになった文句が喉から下がり、リスタは感情の捌け口に迷いながら、ランポスに跨るフウッチャを見上げた。
「……俺達が見せなくても、手前でそのランポス駆って観に行きゃ良いんじゃねェのか?」
「ガりば、きゲん、いッバいっちゃ! ハンターといッジょに行けって、ババアよグ言ウっちゃ!」フウッチャは手に持った松明を掲げて、リスタに突きつけた。「オイ、連れデけ! 良ギ風景、見ゼろ! 代価に、ランポス便、貸ジ出すっちゃ!」
 フウッチャに虚偽を述べている空気は感じなかった。
 リスタはあっと言う間に思考を纏めると、三人を振り返った。
「――渡りにランポスだ。乗るしかねェと思うが?」
「……冗談だろう?」怪訝な面持ちのゼラフが問い返す。「懐に余裕が無いとは言え、違法に手を染めるべきではない……理に適った竜車を求めるべきだ、違うか? 乗り物に映りしブルー&ブラックは、他に形容せし名無きモンスターだぞ? 今すぐ都民を守護せし衛兵に報せ、私達は然る後に竜車を手に入れ、猟地へと足を踏み入れる……これしかあるまい……」
「わぁ~、ランポスに乗るなんて初めて~。長老さ~ん、これってぇ~、訓練してなくても乗れるの~?」糸目をペカペカに輝かせてカタリに詰め寄るクーリエ。「わたしぃ~、騎乗経験ってぇ~、一度も無いの~。大丈夫かなぁ~?」
「たぶん、大丈夫」グッとサムズアップするシア。「ボクも、初めて、だけど」
「……ってェ事だが、どうするよゼラフ君?」含み笑いを隠しきれていないリスタ。
「…………」真顔で固まったままのゼラフは、小さく咳ばらいをした。「――――危難は説いた、されどそれを凌駕せし猫殺しの好奇心には敵うまい。ならばこの私も、万難排して同乗させて貰うさ。それが天命であるならば已むを得まいよ」
 フッと寂しげに笑いながらも、確りと足が震えている事を見逃さなかったリスタは、「お前も大変だな」とさりげなく肩を叩くのだった。
「ともあれ、そうと決まればフウッチャ、」ランポスに騎乗したまま松明を掲げるチャチャブーを見上げると、リスタは挑戦的な笑みを覗かせてサムズアップを送った。「早速頼むぜ。俺達を高地まで案内してくれ。良き風景とやらは、それが終わってからでも良いか?」
「商談ゼいりヅっちゃ! 乗レ乗レ! ランポス便バ、速ザと、正確ザが売りっちゃ!」
 ――そうして四人のハンターは、未知の経験であるランポスの騎乗と共に、フウッチャと名乗るチャチャブー先導の元、一路高地を目指す事になった。
 道中、ゼラフの声無き悲鳴を何度も目撃する事になるのだが、誰も口は挟まなかったと言う……

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れさまですvv

    おいおい、チャットバグってるよ…って思ったらチャチャブーでしたw
    たしかにこんな話し方しそうです。ってか入力大変そうw

    いろいろ知ってそうなカタリさん…気になりますね。

    いよいよ現場に向かう4人!事前情報はヤバめな奥地まで行かないと…
    こんなのなにも起こらない訳ないじゃない!!!(めっちゃ楽しみw

    ゼラフ君……大変だな……

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想コメント有り難う御座います~!

      ですですww確かにこれ、傍目にはチャットがバグってるようにしか見えませんな!ww
      メタい話ですが、入力は中々アレです…ww 似非外国人っぽさで頑張ります!ww

      カタリさん、意味深な発言からのミステリアスムーヴをかましておりますので、きっと大事なキャラですたぶん…!

      ですよね!wwこんなの何も起こらない訳が無い!ww

      ゼラフ君、開幕早々苦労人キャラが定着して参りましたね…!ww

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!!

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