2020年12月24日木曜日

【ネトゲ百合】第10話 聖なる夜、密やかな奇蹟〈前編〉【オリジナル小説】

■あらすじ
ネトゲで好きになってしまった相手は、きっと異性だと思っていた。

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【第10話 聖なる夜、密やかな奇蹟〈前編〉】は追記からどうぞ。

第10話 聖なる夜、密やかな奇蹟〈前編〉


◇◆◇◆◇>>ジン<<◇◆◇◆◇

「……おっさん、いるかな」
 クリスマス、当日。
 座長は仕事が忙しそうだったし、もしかしたら同僚や上司とクリスマスパーティに出掛けているかも知れないと思うと、どうにもログインのアイコンに指が伸びなかった。
 スマフォーンを抱えたまま、ベッドの上で寝返りを打つ。ファンヒーターが唸る音だけが静かに積もる部屋で、私は瞼を下ろして、自分の気持ちにどう落としどころを与えるべきか、ずっと悩んでいた。
 好きだ、と告白したとして。それで何かが変わるのかと言われたら、環境が激変するでもなく、気持ちが急変するでもないだろうし、ただ、自分自身と、座長との間の関係が、一つの終わりを迎える事だけしか、確かな事は無い。
 伝えて、気持ち悪がられたら。……いいや、そのぐらいならまだマシな部類だ。もし、もう二度とコンタクトを取らないで欲しいとまで言われたら、私は立ち直れるだろうか。
 深々と降り積もる窓の外の白雪に、私はどうか、この爛れてしまった心臓も白く埋めてしまって欲しいと願うばかりだった。
「……考えても、仕方ないよね。まずは行動、っておっさんが言ってた台詞だったっけ」
 悶々としてたって、何も解決はしないし、向こうから解決の糸口が現れる訳でもない。
 自らの意志で行動して、その末に後悔に至るのであれば、それはもう、端からどうにもならなかった問題だと諦めるしかないだろう。
 FPを起動して、ジンと言うアバターでファンタジーな世界観の大地に降り立つ。

座長「おーっす」

 ログインして間も無く、座長名義のチャットログが流れてきて、我が目を疑った。
 今日は仕事の筈で、忙しい筈で、普段はこの時間にインしてもいない筈で。
 私は弾む鼓動を抑えながら慌ててチャットを打ち返す。

ジン「あれ!? おっさん今日仕事は!?」
座長「サボり~」
ジン「クリスマスにサボれるもんなの!?」
座長「おじさん結納だからねえ」
ジン「結納??」
座長「あああ有能!」

 絶対嘘だ、と思いながらも、にやけた頬が戻らない自分に気づいた。
 そんな訳は無いと分かっていても、……私が気になって仕事を早く終えて帰ってきたんだ、と思ってしまって、感情が暴発寸前だった。
 ……勘違いだって分かってる、……分かってる、つもりだ。
 ただ、座長の優しさに甘えている自分にも、気づいているつもりだ。

ジン「おっさん、いつからインしてんの?」
座長「さっき着たとこよ~」
ジン「じゃあ今から夕飯?」
座長「あ」
ジン「あ?」
座長「ごはん買うの忘れてた~」
ジン「ほ? 夕飯抜きなのおっさん? クリスマスなのに??」
座長「ちょっと買って来るわ~」
ジン「通報されないように気を付けろよ~」
座長「なにおー😡」
ジン「わははw」

 暫く座長から返信が来ないだろうと思って、私は部屋を出て炭酸水でも飲もうと冷蔵庫を訪ねたが、生憎と切れていた。
「……ん~、この寒空の下、炭酸水を買いに出る馬鹿はいないでしょ……」
 と呟きながら外出着に着替えて、FPにログインしたまま傘を差して家を飛び出した。
 クリスマスに彩られた住宅街は、静かにネオンを反射するだけで、音は全て粉雪に吸われていた。
 遠く、電車が踏切を横断する走行音だけが小さく響く、薄っすらと街路でぼやけた薄闇の世界。
 外出は必要最低限に、密を避けて。そんな言葉ばかりが目に付く世界だけれど、今この白い闇の世界を闊歩しているのは、私一人だけ。
 ショートブーツを少し濡らす程度の積雪に足跡を残しながら、近所のコンビニに駆け込み、目当ての炭酸水が入っている棚に直行。ガラスの扉を開けようとして、ふと店内で流れているBGMがFPのフィールドBGMである事に気づいた。
「そう言えばコラボしてるんだっけ」
 炭酸水を手に取ってお菓子のコーナーに回ると、確かにFPとコラボしている事が窺えた。お菓子を三点購入する事で、クリアファイルが貰えるようだ。
 好きなチョコを二点と、あと一つ何にしようかな、と迷っていると、会社員と思しき女性が、私と同じようにお菓子を品定めし始めた。
 一瞬目が合って、互いに関心が無いようにスッと視線を外すも、私は何と無くそのOLさんの挙動から目が離せなかった。
 OLさんはチョコを三点と、クリアファイルを手に取って、そそくさと立ち去ってしまい、私も慌てて適当に選んだチョコを手に持ち、レジに並ぶ。
 OLさんは先に空いているレジに向かうと、「済みません、七十二番一つ。袋はいらないです」と煙草のケースを指差しながら呟き、小銭をジャラジャラ言わせて支払いを済ませていた。
 私はその七十二番と名指しされた煙草のパッケージが、あまりに見覚えの有るものだったために、思わず「あっ」と声を漏らしてしまい、店員とOLさんに怪訝な視線を向けられてしまった。
 その後OLさんは支払いを済ませて私の傍を横切った時に、一瞬足を止めて、――少年のような笑みで、囁きを残した。
「そのコラボしてるゲーム、面白いよ。いや、やってるなら同志だけどね」
 私の返答など聞かずに煙草のパッケージを早速開け、口に銜えながら出て行くのを見て、私は暫く動けなかった。
「次のお客様~?」「あ、はーい!」
 店員さんが怪訝な顔で声を掛けてきてやっと我に返り、私は慌ててレジを済まし、コンビニを飛び出して――いなくなったOLさんの影ばかりを探してしまった。
 幻のようにさえ感じられる出来事に、私は暫く白い二酸化炭素を吐き出す装置になってしまっていた。
 その時、ポケットに入れていたスマフォーンから小さなサウンドエフェクトが鳴り、慌てて取り出すと――ログインしたままになっていたFPのチャットログが動いていた。

座長「ただいまー」
座長「あれ? ジン君離籍中か?」

「あれ……? って、やっぱり……違う、よね……」
 もしかしてさっきのOLさんが……とも思ったけれど、そんな訳は無いよね。
 そう思って、まずは返信しようとコンビニに屋根が突き出している場所でタプタプとチャットを打ち返す。

ジン「ちょっと今出掛けてる! ジュース切れててさ!」
座長「なるなる」
座長「もしかしてさ、今コンビニの前でスマホ弄ってる?」

「え……?」
 視線を持ち上げて、辺りを見回すと、駐車場に停められた一台のミニクーペに寄りかかる形で、OLさんがこちらを見つめて、――煙草を挟んだ手で、小さく敬礼する姿が見えた。

2 件のコメント:

  1. こうsいやいやいやいや、それどころじゃないっす!!
    これはついにきたのか、きちゃったのか……

    コメント入力する指が震えておりますw
    もうドキドキとまらないのですが…

    うは、もう書けねえぇやばいやばい

    次回!!!

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    1. 感想コメント有り難う御座います~!www
      もう混乱の極みみたいな感じですね!ww(笑)

      ぜひぜひ次回も楽しみにお待ち頂けたらと思いまする~!!

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好意的なコメント以外は返信しない事が有ります、悪しからずご了承くださいませ~!