2020年12月17日木曜日

【ネトゲ百合】第9話 静かなる夜、祈り絡まる【オリジナル小説】

■あらすじ
ネトゲで好きになってしまった相手は、きっと異性だと思っていた。

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【第9話 静かなる夜、祈り絡まる】は追記からどうぞ。

第9話 静かなる夜、祈り絡まる


◇◆◇◆◇>>ジン<<◇◆◇◆◇

ジン「おっさんはクリスマスの予定ってどうなってんの?」

 窓の外を見ると、部屋の灯りに照らされた夜の街に、ちらちらと白い粉が舞い降りてきている様子が見て取れた。
 部屋の中ではファンヒーターが音を立てて部屋を必死に温めようとしているけれど、私はブランケットに丸まっていてでさえ、やっぱり寒い。
 コタツが欲しいと訴え続けているけれど、部屋の構造上、置けない事は分かっているので、よっぽどなら自室を離れて居間に設置されたコタツに潜り込むのが一番なのだけれど……おっさんとのチャットを家族に監視されるのは、何だか嫌だ。
 夜も更け、いい加減明日の学校の準備をして寝ようと言う頃合いなのだけれど、寝よう寝ようとするタイミングに限って、気になる話題がポッと出てきてしまう。
 座長は微動だにしないまま棒立ちしているのを見て、もしかしてまた寝落ちしたのかな、と思いながら欠伸を浮かべていると、チャットのログが動いた。

座長「クリスマスは仕事だ姉」
ジン「もしかして「ねえ」って言ったのか??」
座長「仕事だぬえ」

「おっさん、クリスマスも仕事とかブラック過ぎでしょ」
 思わずチャットには打ち込まずにツッコミの声を漏らしてしまった。
 最近忙しいと言っていたけれど、夜中には必ずインしているのを見る限り、ソシャゲが出来なくなる程の忙しさではないようだけれど……それでも、クリスマスの日にまで仕事だなんて、ちょっと心配してしまう。
 それとも……もしかしてそれは、私を言い包める方便でしかなく、職場の女性社員とでも飲み会に行く予定が有る、と言う隠喩なのだろうか。
 夜気に当てられてのネガティヴな発想だとは思いつつも、座長がもし、その女性社員と良い感じになったりしたら……こうしてチャットする機会も減っちゃうんだろうか。
 座長とチャットを長い間しているからこそ分かる、彼の人当たりの良さに、遂に職場の人間も気づいてしまったとか……
 悶々としてしまい、これではまた座長に向かって失言を発してしまいそうだと感じた私は、「そろそろ寝るわー」とチャットを打ち込もうとして、――その前に座長のチャットが挟み込まれた。

座長「ジン君はクリスマスどうすんに?」

「どうすんに……」相変わらずの誤字に、思わず口に出してニヤニヤしてしまった。

ジン「クリスマスはFPかなぁ」
座長「まじかあ。灰色だなあ」
ジン「仕事乙のおっさんに言われたくねーんだけどー!?」

 和やかな雰囲気が戻ってきた。そうそう、こういう雰囲気のまま落ちれば、気持ち良くお布団に潜り込めると言うものだ。
 朗らかな気分で改めて「そろそろ寝るわー」と打ち込もうとして、――またしても座長のチャットが私の発言を遮った。

座長「ジン君、彼女とか作らないのかー?」

「…………ん?」
 私はぞわっと一瞬産毛が逆立った後、二度も三度も座長のチャットを見直した。
 併し、何度見直しても文面は変わらないし、座長からの誤字報告も無い。
 ……深呼吸。私は今、夜気に当てられて変な考えをしているのかも知れない。
 寝惚け眼だから、座長の発言が上手く脳幹に届いていないのかも知れない。
 既に夢見心地で、座長が何を発言したのか理解できていないのかも知れない。
 いや……いやまさか、まさかとは思うけれど……座長は、私の事を……女子好きの女子と勘違いしているのではないか……?
 とんでもない勘違いである。それに私が好きなのは座長なのだから、異性が好きな女子高生である……筈だ。
 …………段々と訳が分からなくなってきた。

ジン「彼女てwww作らんて!www」
座長「そうなの??」

 座長のあまりに訳の分からない反応に、私も混乱してきた。
 あれ……座長って確か、ボーイズラヴが好き……なんだった……よね?
 確かこないだ、私に彼氏が出来たらどうする~って話をしてた時、私じゃなく彼氏の方に興味が有るって言ってた……筈……あれどうだったかな……
 じゃあ……何か? もし……もし座長が私に気が有るとして……いやそんな訳は無いと思いつつ……でも私じゃなく、私に出来るであろう彼氏や彼女に興味が有るってこれ……もしや……
 …………寝取られ系が、好き……なのか……?
 私は目元を覆ったまま思考がぐるぐる回り続けてどうしたら良いのか分からなくなってしまった。
 座長の事は好きだ。けれど彼が、その……私にはよく分からない世界である、寝取られってジャンルの恋愛が好きなら……私はどうしたら……どう立ち回れば、座長のハートを仕留められるんだ……
 ……座長が好きな人と、疑似恋愛をしたら、座長に見て貰え……る……?
 …………いやもう訳が分からない。
 もう訳が分からないから、話題を変えよう。これ以上私の頭をオーヴァーヒートさせないでくれ頼む……


◇◆◇◆◇>>座長<<◇◆◇◆◇

ジン「つか、おっさんこそ彼女とかいるんじゃねーのかよ?」
ジン「クリスマス、仕事とか言って、彼女としっぽりしてくるんじゃねーだろーな!?」

「…………は?」
 ジン君から返ってきた返信があまりにも予想外過ぎて、あたしは面食らったまま、呷っていた発泡酒を零しそうになった。
 彼女? あたしに?? 何で???
 どういう理論でそんな話になったのか理解が追い付かず、流石にチャットをする指が止まってしまった。
 もしかして……いやそうに違いない、恐らくあたしの不用意な発言でジン君を怒らせてしまったのだ。
 そりゃそうだ、クリスマスに予定が無いからって、彼女の有無は関係無い。彼にとってすれば、華の男子高校生が彼女の一人もいない事を野次られたら怒るに決まってる。
 悪い事をしてしまった……ちょっと悪酔いが過ぎたな、と猛省しきりだ……
 併し話題は止まらないし、チャットのログも修正する事も不可能だ。一度飛び出た言葉は、二度と戻ってこない。謝って許されるか分からないけれど、どうにかここから汚名返上できないか考えよう……

座長「ごめん、寄った勢いで変なこといつた。ごめん」

 頭がグラグラする。取り返しのつかない事態になったかも知れないと、あたしは気が気じゃなかった。
 アレだけ楽しかったチャットが、張り詰めた糸の上でタップダンスを踊るような緊張感で一杯になってしまった。
 変な高揚感で、口がワナワナと震え、呼吸が浅く短くなっていく。
 怖い。こんな訳の分からない事で、ジン君を失いたくない。
 泣きそうな想いで、気づいたら更に指を走らせていた。

座長「ほんとごめん。許してほしい」
ジン「いや怒ってねえけど……もしかして仕事で嫌な事でもあったのか?」

「ジン君……ッ」
 もう涙腺が限界で、ボロボロと涙がスマフォーンを汚していた。
 こんな気遣いが出来る子に、あたしは何て軽率な発言をしてしまったんだと、後悔で頭が一杯だった。
 そして彼の優しさにまた救われた事実に、あたしは感動で震える指を無理矢理酷使して、感謝の言葉を何とかして伝えた。

座長「ありがとう、ちょっと悪酔いしちゃったみたいだ」
ジン「飲み過ぎだっていつも言ってんだろー? 今日は早く寝ろい!」
座長「そうするわー、ほんとごめん、ありがとね」
ジン「ほいほい。つか、俺もごめん。たぶん寒さで気が立ってたんだと思う」
座長「イイってことよー。じゃあおやすみー」
ジン「おー、おやすー」

 ログアウトを押して、ドッと出た疲れに吐きそうになった。
 ……今までにこういう事が一度も無かった、なんて事は無い。
 オンラインで繋がっている以上、些細な言葉の擦れ違いや、感情の行き違いで、人ってのは簡単に別たれてしまう。
 どれだけ好きだったとしても。どれだけ憧れていたとしても。どれだけ感謝している相手ですら。簡単に、絆の糸なんてものは千切れてしまうものだと、あたしは理解している。
 色んなオンラインコミュニティに属して、離れて、属して、離れてを繰り返して、行き着いた場所が、ジン君のいるここなのだ。
 今までだって、別れたくない相手がいたし、憧れたまま会えなくなってしまった相手もいたし、感謝を伝えたくても二度と伝えられない相手だっていた。
 それら全ての出会いと別れで、何度だって素敵な時間を過ごして、何度だって絶望に身を浸した。
 だからこそ、もうそういうのはいいやって思ったのは、いつだったか。
 ジン君だって、いつかは離れて行くのかも知れない。どれだけ想っても、たった一言で崩れ去る関係でしかないのだから、薄氷を踏みながらのコミュニケーションでしかないのだから、……簡単に、閉ざされてしまう事を知っているのに。
「……はぁ…………流石に、禁酒するかな」
 好きな子に素面で付き合えないなんて、そんな困った大人のまま、彼と向き合い続けるのは、もう辞めよう。
 窓の外に目をやる。チラチラと見え隠れする小さな白に、あたしは感傷的な想いを託すように、視線でその影を撫でた。
 明日も、その次の日も、クリスマスだって、彼とまた、素敵な軽口を叩ける未来を信じて、あたしは部屋の灯りを落とすのだった。

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れさまですvv

    まさに恋は盲目w
    少し冷静になって考えれば解決(?)しそうだけど…
    このままずっとぬるい感じの二人を見ていたい気もします。
    次のクリスマスも、その次のクリスマスも…

    毎回ドキドキドキドキ、どっちかが誤爆しないかヒヤヒヤしながら拝読しておりますw
    今回もかなりいい線いってるんだけどなぁ~w

    今回も楽しませて頂きました!
    次回も楽しみにしてますよ~vv

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    1. 感想コメント有り難う御座います~!

      恋は盲目! まさにですな!w
      そうなんですよね!w たぶん順序だてて考えれば、割と早い段階で気づきそうなものなのですが…!ww
      いつまでこのぬるい感じの二人が続くのか、わたくしにも最早未知数と化しておりまする…!w
      次のクリスマス、その次のクリスマス…ずっとこんな感じで過ごせたらいいですなぁ…!

      どっちかが誤爆しないかwww確かに緊張感が凄まじそうです…!ww
      そうなんですよ!w もう少し考えるベクトルが変わればもしかしたら…!w

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!!

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