2020年12月25日金曜日

【ネトゲ百合】第11話 聖なる夜、密やかな奇蹟〈後編〉【オリジナル小説】

■あらすじ
ネトゲで好きになってしまった相手は、きっと異性だと思っていた。

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【第11話 聖なる夜、密やかな奇蹟〈後編〉】は追記からどうぞ。

聖なる夜、密やかな奇蹟〈後編〉


◇◆◇◆◇>>座長<<◇◆◇◆◇


 ――初めから確信が有った訳ではなかった。
 コンビニに入った時、店内のBGMとは別に聞こえるFPのフィールドBGMの音源を辿ると、女子高生らしき女の子がお菓子を品定めしている姿が見つかって、同志さんなのかな? と思った程度で、それ以上の感想は浮かばなかった。
「あっ」
 煙草の銘柄を選んだ瞬間に漏れたその声だって、あたし宛てではないだろうと思っての反応だったのだけれど、女子高生があたしを見る目が、こう……何かを訴えているようで、それでつい、同志である事を意識した上で、あんな発言をしてしまった訳で。
 ミニクーペの中でログインしたままになっているFPのチャット欄を見ると、ジン君、あれから一言も発してなかったみたいで、あたしは煙草を銜えながらポチポチとチャットを打って、返信を待ってから帰宅しようとした、その時に視界に映った光景で、あたしはやっと確信を得たのだ。
 焦燥感に衝き動かされるように店内から飛び出して来た女子高生は、コンビニの外を忙しなく見回した後、スマフォーンを取り出して、慌てた様子で操作し始め――チャットログが動いた。
 もしや――いや、そんな事は有るまいと感じながらも、興奮と緊張で震えそうになる指を這わせ、確信を絶対のものにしようと打ち込み――――車外に出て敬礼を見せた瞬間、女子高生が驚きに目を見開き、パクパクと金魚のように口を震わせ始めた。
 ――何て顔してるんだ、可愛い顔が台無しだぞ。
 と思いながら煙草を銜えて近寄ってみると、――小柄な女子高生はあたしを指差してぷるぷる震えていた。
「も、もも、もしかして、座長……さん?」
「じゃあやっぱりジン君だったかー」
 あたしがヘラッと笑いかけると、女子高生――ジン君は感極まった様子で口元を隠すように両手で覆った。
「うそ、まじ……? 座長さん、本当に……?」
「いやあたしもビックリしてるよ。まさかジン君がその……」
 ――――女子高生、女の子だなんて、全然想像すらしてなかった。
 そう続けようかと思ったけれど、それは胸の内に秘めておく事にする。
 ジン君は「うわぁー、うわぁー」と、どういう感情が渦巻いているのか、動揺した様子でワタワタと慌てふためくだけで、言葉になりそうな台詞は出てこなかった。
 あたしはそんなジン君が、FPで観る彼女らしさが垣間見えて、思わず小さく笑みを零してしまった。
「と言う訳で改めて、座長です」煙草を挟んだ手で小さく敬礼する。「まさか地元が一緒だとは思わなかったよ」
「わ、私も! あ、私、ジンです! あ、あの、えっと……!」
「どうどう、落ち着いて、落ち着いて」苦笑を噛み殺せなくてニヤニヤした笑いが頬から取れなかった。「何か突然オフ会みたいになっちゃったけど、今日はこれで一旦帰ろっか。ジン君、風邪引いちゃうでしょ」
「あ、う、」
 ジン君の恰好がスウェットでなければ、と言うかもっと厚着しているのであれば、もう少し引き留めて話もしたかったけれど、今も寒さなのか緊張なのかで震えているし、マスクから出た鼻の頭なんて真っ赤だ。
 先輩として、ここは帰してやらねばだろう。
「あ、あの、座長……さん」
 ミニクーペの扉を開けた瞬間、ジン君がもどかしそうに声を漏らした。
 再び彼女に視線を転ずると、顔を赤くした彼女は消え入りそうな声で、呟いた。
「ま、また……会ってくれますか……?」
 ――まるで、恋に焦がれる少女のような、そんな甘い声で囁かれて。
 あたしは呼応するように心臓が早鐘を打つのを気づきながら、決して悟られないようにすまし顔を崩さず、頷いた。
「うん、また一緒にお話ししようよ」
「――――! う、うん! ぜひ!」
 まるで春が訪れたかのような、咲き誇る笑顔を見せつけられて、あたしは彼女を抱きしめたい衝動に駆られながらも「じゃあ、またね」と言い残して、そそくさと運転席に乗り込んでしまった。
 フロントガラス越しに見えるジン君は何度も何度も頭を下げてから、立ち去る――かと思いきや再び振り返って律義に頭を下げて……ようやく見えなくなった頃に、あたしは盛大に溜め息を吐き散らして、己の鼓動の高鳴りを静めようと深呼吸する。
 まさか中の人に出会えるとは思ってなかったし、中身が想像していた性別と違っていた事も驚きだった。
 そして何より、想っていたジン君の性別が違っていた事に対して、己の中の感情が微動だにしなかった事に、驚きを感じていた。
 推しの性別が異なっていたからと言って、推しである事には変わりない。
 FPの中で楽しく話す彼が、女の子であっても、何事も無く受け入れられている自分が、そこにはいた。
「……ジンちゃん、って呼んだ方が良いのかな」
 自分より一回り小さな年の、一回り小さな体躯の女の子を、こんな風に想うのは、最早犯罪の領域なのかも知れない。
 けれど……あんな健気な姿を見せられて、恋に落ちない輩は存在するのか? 否、存在しないに違いない。
 違いないけれど……あたし以外の前では、見せてほしくないな……なーんて、気持ち悪い思考すら擡げてしまう始末だ。
「うぅっ、さむっ!」
 今更のように車のエンジンを付けていない事に気づき、慌てて暖房をオンにして発進する。
 彼女は言ってくれた。また、会ってくれますか、と。
 だったらきっと、嫌われてはいない筈だ。
 きっと今夜のチャットは大変な事になるな、と思いながら、あたしは鼻歌交じりに帰路を急ぐのだった。
 ああ、こんなクリスマスは初めてだ。きっとこれから、忘れられない夜が来るだろう――――

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れさまですvv

    昨日は取り乱してしまって大変申し訳有りませんでした。
    でも、実は今日も取り乱しそうですw

    本当はジンくんよりドッキドッキなのに悟られないよう注意してる大人な座長と、お花畑全開かわいい女子高生ジンくん…
    今まで画面越しでしか話したことがなかった二人。あれこれ想像で補完していたことがまるっきり逆でもその想いが揺るがないのは、画面越しでもお互いを思いやれる二人だからこそなのかな。

    取り乱しそうなのでそろそろお暇しましょうw最高のクリスマスプレゼントありがとうございました!

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv(あるよね?)

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    1. 感想コメント有り難う御座います~!

      いえいえ!w それだけ興奮されていたのだなぁと嬉しかった次第です!ww
      そして今日も取り乱してしまうレヴェルとは…!ww 嬉し過ぎるぅ!www

      大人の対応をしていますけれど、実際はジン君以上に興奮している座長さんと言う、神視点で観なければ分からない機微がね、こう、更にモダモダに拍車をかけたかなと…!
      ですです! 互いに想い合っているからこそ、性別なんて些細な問題ですし、それ以上に一目見れた事が嬉し過ぎると言いますか…!

      いえいえ!w こちらこそ最高のクリスマスプレゼント(感想コメント)有り難う御座いました!!

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!!(まだ続きますよ!w)

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