2020年12月30日水曜日

【ネトゲ百合】第12話 その後の聖夜、その後の二人【オリジナル小説】

■あらすじ
ネトゲで好きになってしまった相手は、きっと異性だと思っていた。

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【第12話 その後の聖夜、その後の二人】は追記からどうぞ。

その後の聖夜、その後の二人


◇◆◇◆◇>>ジン<<◇◆◇◆◇

ジン「座長さん、女性だったんですね!」

 興奮冷めやらぬままFPでチャットを打ち込みながらファンヒーターに当たっていると、座長のアバターが身動ぎしたのが目に見えた。中身が有るな、つまり今の私の発言は聞いている筈だ!
 そう思って冷えてしまった体を熱風で温めていると、数瞬の間を置いてから座長の返信が届いた。

座長「おじさんもビックリだよーましかジンちゃんが女の子だったにんて」
ジン「ジンちゃんはやめてwwwいつも通りジン君でいいってww」
座長「じゃあおじさんの事もおっさんのままでいいつてー」

「……いや、流石におっさん呼びはダメじゃないか……?」
 とも思ったけれど、座長ってそもそもが一人称「おじさん」なんだよな……じゃあおっさん呼びで良いのか……?
 よく分からなくなってきたけれど、私は逸る気持ちを抑えられず、抑えられないけれど何を聞いたら分からなくて、チャット欄を見つめたまま指がぷるぷる震え始めた。
 座長は……私の想い人は、女性だった。それも……綺麗な人、――いや、カッコイイ人だった。煙草も似合っていたし、たぶん、お酒を飲んでも似合う人なんだと思う……そんなイメージが、あの一瞬で全て固まってしまった。
 そんな人に惚れていた事が嬉し過ぎて、言葉にならなかった。それもそれも、身近に暮らしているかも知れないなんて、そんな奇蹟が有り得るのだろうか。

座長「まあ、あれだ」
座長「コンゴも、仲良くしてくれりと嬉しい」
ジン「大事なところで噛みよるwww」
座長「ぐおー」

「良かった……」
 真っ先に覚えた感情は、安堵だった。
 私を知って、もしかしたら幻滅したのではないかとか。愛想を尽かされたのではないかとか。……もうこういう形でチャットする事も叶わないのではないか、とか。
 そんな想いが過ぎっては、頑張って打ち消そうとしながら、家路を急いだ先刻の己に言い聞かせてやりたい。座長は、そんな人じゃない。貴女が信頼したままの人だよと、今すぐ教えてやりたい。
 はぁーっと安心感で漏れた溜め息を胸の底から吐ききると、改めてチャットを打ち込む。

ジン「おっさんさえ良ければ、これからも宜しく!」
座長「おー、巻かせろー」
ジン「何を巻くつもりなんだ??w」
座長「任せろー」

 いつもの何気無い日常が、返ってきた。
 ……いいや、そもそも日常はどこにも行っていない。ちょっと、私の中の不安が肥大化しただけなんだ。
 改めて、この座長と言うアバターの先にいる、あの素敵な人に想いを馳せながら、今後も末永く……いいや、可能ならずっと、楽しく言葉を交わせたら良いなと思いながら。
 彼と……いいや、彼女と巡り合えた事を感謝して、スマフォーンを抱き締めるのだった。


◇◆◇◆◇>>座長<<◇◆◇◆◇

「はぁー……ジンちゃ……ジン君、これ詐欺師に引っ掛かる奴じゃないかな……」
 エアコンを起動して部屋を暖めながら、久方振りの煙を楽しんでチャットをしていたのだけれど、ジン君のこの優しさはちょっとヤバいな……
 悪い人に捕まらなければ良いけど……と思いながらも、そもそもあたし自身が悪い大人の一人だよね、と思わず苦笑してしまう。
 女子高生を捕まえて、ネトゲに縛り付けている訳だから。学業も疎かにさせているだろうし、日々夜更かしさせて体調までおかしくさせているに違いない。
 ……でも、そんなジン君の優しさに、あたしは今心の底から救われている。
 本当にジン君だとは思ってなかった。思ってなかったけれど、あの場にいた女子高生がジン君で、あたしは心底安堵した側面も有る。
 安堵した、けれどその反面、あたしは女子高生に恋をしていたんだな、と虚ろな芽が咲いたのも事実だ。
 尤も、あたしはそもそも、彼が……いや、彼女が男子高生だから恋をした訳ではない。ジン君と言うアバター、そしてそのアバターを操作している誰かに対して関心を持ち、恋慕を懐き、愛情を以て接したに過ぎない。
 だからジン君が男性じゃなかろうが、女子高生だろうが、そもそもが関係無いんだ。
 ジン君が好きだと言う事実は覆らず、あたしは深い沼に嵌まっている事を改めて自覚するだけ。
 ……どんだけ好きなんだよ、って話だけれどね。

ジン「たださ、おっさんが女の人で、俺はホッとしたよ」

 ふとチャット欄が動いている事に気づいて視線を落とすと、ジン君の意味深な発言が流れていた。
 あたしは相変わらず不慣れな指操作で文字を入力していく。

座長「そうなの?」
ジン「何だろ、別に男の人だったらどうこうって訳じゃねーんだけど」
ジン「何か、すげードキドキしたw」

「それはズルくない……?」
 あたしの方がドキドキしとるわ! ってツッコミを入れたくなりながらも、チャットは慎重に、以前の反省を活かして打ち込んでいく。

座長「おじさんもジン君が女の子って知ってびっくりしたけと」
座長「ホットしたね」
ジン「熱くなってるwww」
座長「ぬあー」

 自分の指操作の悪さに辟易しつつも、ジン君が画面越しに笑っている姿を連想して、こっちまで笑みが零れてしまう。
 ああ、本当に良かった。何もかも崩れ去るイメージすら浮かんでいた未来が、こんなにあっさりと覆り、今まで通りの日常として、ちょっとしたスパイスにしかならないなんて。
 これからも、……願わくは、いつまでも。
 彼……いや、彼女とは、ずっとこういう関係であり続けたい。
 そう願わずにいられない程の幸せを、あたしは、初めて聖夜に与えられたように思う。
 素敵なクリスマスプレゼントを有り難う。あたしは、まだまだ幸せでいられそうだ。
 ……いいや、きっと、ジン君と一緒にいられる限り、ずっと幸せなんだろうな、なーんて。
 今日は深酒する前にもう酔っている自覚が有ったから、きっと夢見も良いだろうと思いながら、愛おしげにスマフォーンをつつくのだった。

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れさまですvv

    スマフォーンを抱き締めるジンくんと愛おしげにスマフォーンをつつく座長…
    なんだかこっちまでキューってなっちまいますねw
    「……どんだけ好きなんだよ、って話だけれどね。」
    この一言が座長だけではなく、二人の想いの全てなのではなかろうか。

    怒涛の三話更新ほんとうにありがとうございました。二人がこれからも幸せな時間が過ごせるようみんなで祈ろう!!

    今年も楽しませていただきありがとうございました!来年も誤字脱字全開でまいりますのでぜひぜひよろしくお願いいたしますv

    今年も楽しませて頂きましたー
    来年も楽しみにしてますよーvv


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    1. 感想コメント有り難う御座います~!

      ヤッター!w そのキューってなってくれるのをお待ちしておりました!w
      ですです! まさにその一言こそが、この物語に於ける根幹と言いますか、全てだと思いまする…!

      何とか時期的な兼ね合いも有りましたが無事に3話連続更新できて良かったです…! そのお祈りこそが作者にとっての救いです…! 本当に有り難う御座います…!

      こちらこそ! 今年も大変お世話になりました! 来年も誤字脱字どんとこいで、どうぞ宜しくお願い申し上げまする!

      今年も大変お世話になりました!
      来年もぜひぜひご贔屓に宜しくお願い申し上げまする!!

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