2021年9月3日金曜日

【ネトゲ百合】第13話 初約束【オリジナル小説】

■あらすじ
ネトゲで好きになってしまった相手は、きっと異性だと思っていた。

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【第13話 初約束】は追記からどうぞ。

初約束


◇◆◇◆◇>>ジン<<◇◆◇◆◇


ジン「おっさんってさ、年末はどうすんの?」

 聖夜が明けて、普段の日常が戻ってきた、いつもの夜。
 私は学校が冬休みに入って更に暇を弄ぶようになっていたけれど、座長さんは日中に姿を現す事は無く、普段通りの夜半になってログインしたのを見て、社会人はこんな時節でも仕事が有るんだな、と感心したり心配したり。
 座長さんは挨拶を終えた後に身動きが無くなっていたが、私の発言に気づいたのか暫くして返信が来た。

座長「死後とだなえ」
ジン「なにて??w」
座長「仕事ーーー」
ジン「うへぇ、ブラックじゃん~休み無いの?」
座長「んー」
座長「がんたんはやすみだつたかな」

「元旦かぁ……」
 思わず何も考えずに「初詣一緒に行かない?」ってチャット欄に打ち込みそうになって、緊張感と羞恥心で顔に全身の血液が集まりかけて心臓が暴れ始めた。
 流石に……流石に厚かましいでしょ……と震えた吐息が漏れる。
 FPの中では長い事一緒に……っていつから一緒にいるようになったのかもう思い出せないけれど、たまたま地元が一緒でばったり出くわしたからって、行動を一緒にするような関係じゃないし……座長さんの都合だって有るだろうし……
 …………そういう関係じゃ、ないし……
「…………もやる」
 そうだ、別に座長さんと付き合っている訳ではない。本当にただのゲーム仲間で、フレンドで、……片思いしてる相手で……
 …………誘ったら、一緒に来てくれるかな……
 深い――深い溜め息が口を衝いて出て、私はどうしたら良いのか分からない感情に悩まされていた。
 そもそも座長さんと地元が同じじゃなければこんな想いは懐かなかっただろう。時節も時節だし、外出自体が忌避されるこのご時世、オフ会なんて白昼夢は考えなかったし、実際に会うなんて事は泡沫の世界だと信じていた。
 けれど……まさかこんな身近にいるなんて。そんなの……どうしたら良いのか、分からなくなる。
 こういう時、暴走してしまったら取り返しのつかない事になるって分かってる。
 今まで通りに振る舞って、今まで通りに話して、今まで通りの距離感で。
 そうして必死に繋ぎ合わせてでも、私は座長さんと一緒に過ごしたいくらいに、恋焦がれている事を自覚して。
 昨日の反応から察するに、座長さんに幻滅はされてないだろうし、嫌われてもないと思う。けれどそれは昨日までの話で、今日もそうだとは限らないんだ。
 だから――怖い。今まで築き上げてきた交流が水泡に帰すのが、ただただ怖い。
 ちょっとでもヒビが入れば、きっとすぐにでも決壊する。それがひたすら怖い。

座長「ジン君はもう冬休み?」

 そんな私の心情を知ってか知らずか、座長さんは普段通りのテンションでチャットをしている。
 これが……大人の落ち着きって奴なんだろうか。突然ゲームの中でしか話してなかった相手とリアルで遭遇しても普段通りのテンションを維持する……私もいつかそういう風に振る舞えるようになるんだろうか……
 たった一言のチャットテキストにどれだけ想いを馳せてるんだ私、と自分で自分の事を笑いながらスマフォーンをタップしていく。

ジン「ふはは、もう今日から来月までお休みだぜ!」
座長「いいなあ。おじさんもお休みほすいなあ」
ジン「おっさんはもっと休むべきだろ! 早く有休を取るんださあほら早く!」
座長「有休あるかなあ」

 いつもの流れに戻ったな、と思って安心してチャット画面を見ていたら、

座長「そだ、ジン君がよかつたら、一緒に初詣行く?」

 突然の爆弾に、私は心臓が口から飛び出るかと思った。


◇◆◇◆◇>>座長<<◇◆◇◆◇


「……流石に展開が急過ぎるかなこれは……」
 仕事明けの一杯を楽しんでたら、案の定自分でも何を言ってるんだ発言をかましてしまった気がして、一気に酔いが醒めてしまった。
 そもそもあたしみたいなおばはんと……しかもゲーム内でしか交流の無い赤の他人と初詣って……こいつは何を考えてるんだと、つい一分前の自分を叱りつけてやりたくて顔面が発火しそうになっている。
 こういうトンチキな発言を考え無しに吐き出してしまうからアルコールはやめようって誓った筈なのに、昨日の出来事があまりにも嬉し過ぎてつい羽目を外してしまったこの大馬鹿野郎は一度本気で殴られた方が良い。
 絶対に気持ち悪がられただろうなと思って頭を抱えて、酔いも回ってないのに頭痛が酷くてのた打ち回っていると、チャット画面が動いた気がした。
 潤みそうになる瞳を擦り、スマフォーンに視線を落とすと、確かにジンちゃんが発言していた。

ジン「え、良いのか!? 行く行く!」

「かぁ~っ! やめてやめて! おばさんそういうのに弱いから!!」
 もう姿を観なくても分かるレヴェルの尻尾フリフリ嬉しさ満点の表情をしているジンちゃんを想像してしまって、あたしのときめきは上限を遥かに超えて宇宙になりました……
 悶絶する程の可愛さ爆撃を受けてしまって、あたしは暫くスマフォーンを抱き締めたまま動けなかった。何だこの尊い生き物は……神は何てものを生み出してしまったんだ有り難う感謝しかない……
 感動の渦に巻き込まれて無言で涙を流していたけれど、何の反応も無かったらジンちゃんが困ると思って慌ててスマフォーンに向き直る。
 さっきまでは酩酊感で指が震えて上手くタップ操作できなかったけれど、今はもう緊張感と羞恥心で文章が纏まらねえ……!

座長「おー、じゃあいくかあ」

「このおばはんなんっっっっにも気の利いた事言えねえのかよ!!」
 スマフォーンを叩きつけそうになりながらも懸命に堪えて自分の膝を何度も叩いた。痛い。夢じゃない。夢で有って堪るか!
 これってつまり実質デートって事だよね……? うわ気持ち悪いなこのおばさん……女子高生と一緒に出掛けるだけでこの浮かれよう……さては犯罪者予備軍……
 ヤバい、思考が纏まらない。缶チューハイ一杯でここまで酔いが回るなんて初めてだぞ……おかしい……世界がグルグル回る……
 気持ち悪いって言うか、とんでもない事をしてしまったのではないかって言う危機意識が全身を駆け巡って痺れている感覚だった。
 いたいけな女子高生の気持ちを弄んでいるのではないかと言う背徳感と優越感。それらが鬩ぎ合ってあたしから語彙力を奪い取っていく。

ジン「じゃあ約束な! どこで待ち合わせする?」

「も、ももも、もうそれ以上胸をキュンキュンさせるのはやめてくれ……死んでしまう……」
 突然青春時代の幕開けだなんて言わんばかりの展開に、私は胸を詰まらせていた。
 きっとジンちゃんから見れば、近所のおばさんが初詣に連れてってくれる感覚なんだろうけれど、あたしはもう完全にデート感覚って言う……ほんと気持ち悪いおばはんでごめんな……
 でも…………やっぱり、嬉しいな。あたしに対してじゃなかったとしても、これだけ喜んでくれるなら、誘った甲斐が有ったってもんだ。
 そうしてその夜は何時にどこで待ち合わせをするかと言った話に終始してログアウトしたのだった。
 来年の年始は尋常ならざるハッピーな始まり方を迎えるのか、それとも……その年全てが灰色に染まるのか、どっちかしか有り得ない気がして、中々寝付けなかった……
 神様お願いします。どうか彼女だけでも、幸せな初詣で終わりますように――――

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れさまですvv

    スマフォーンを抱き締めるジンくんと愛おしげにスマフォーンをつつく座長に”きゅー”っとなってからはや247日お待ちしておりました!
    モダモダ感がたまらない二人が帰ってきた!!

    相変わらずのモダモダ感と驚くべき進展が同居する今回、待った甲斐があったってもんだぜ、べらんめぇ!(謎
    二人が素晴らしい年始を迎えられるよう祈らずにはいられないッッ!!

    本当に嬉しいです、先生ありがとう!!

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想コメント有り難う御座いまする~!!

      247日!wwwもうそんなになりますか…!www
      モダモダ感、帰ってきましたぞ!!ww

      やったぜべらんめぇ!www
      二人には最高の年始を迎えられるように頑張りますっっ!!

      めちゃんこ喜んで貰えてこちらこそ嬉しいです…! 有り難う…!!

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!!

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