2021年9月29日水曜日

【ワシのヒカセン冒険記】第26話【FF14二次小説】

■あらすじ
新しい冒険の始まり。


【第26話】は追記からどうぞ。

第26話


「――護衛の依頼?」

 グリダニアに在る冒険者に宛がわれた居住区ラベンダーベッド、その一角に構える我らがフリーカンパニー【オールドフロンティア】のカンパニーハウスこと寄合所。
 その地下に当たる空間に設けられた憩いの間で、ワシは調理師の姿でエーコンクッキー……どんぐりを入れて焼いた、キキルン族と言う蛮族風のクッキーを焼いていた手を止めて、依頼書を手に持ったエレット殿に意識を傾ける。
 レザーソファに腰掛けてワシの焼いたエーコンクッキーを摘まみ食いしていたツトミちゃんとサクノ殿、そしてユキミ殿とクロス殿の四人も興味深そうにエレット殿に視線を注いだのが分かった。
 エレット殿はこの場に居合わせる五人の冒険者が自身を注視したのを確認して首肯すると、依頼書に改めて視線を落とす。
「モードゥナに滞在している行商人がこれからグリダニアに向かうとご連絡が有り、その道中の護衛を頼める冒険者を探している……との事でして、こちらの依頼をボルセル・ウロア大牙佐から直々に【オールドフロンティア】に打診してきた、と言う次第です」
 皆一様に驚きの感情を隠し切れず、ワシ自身も一瞬言葉を詰まらせてしまった。
「ボルセル・ウロア殿と言うと、白樫のボルセルと呼ばれる、あの御仁よな? 確か黄蛇隊の隊長の……」
「その方で間違いありません」エレット殿も幾許かの緊張を孕む声で首肯を返す。「今までのフリーカンパニーの活動を鑑みての、言わば試練……と言う意味合いを兼ねての依頼なのではと思っています」
 試練。双蛇党直下のフリーカンパニーであるが故に、グリダニアに、引いては黒衣森にとって実りの有る組織であるか試そうと言う意図が有る、と言う事か。
 確かに今までコツコツと熟してきた魔獣退治や、資材調達の依頼とは趣を異とする依頼だろう。直接人命を預かり、指定された地点まで安全を確保する……言葉にするのは易いが、行動に起こすともなれば至難の業。
 いよいよフリーカンパニーとしての正念場に立たされた想いで、ワシは生唾を呑み込んで不敵な笑みを覗かせる。
 無辜の民を守れる程の力を得て、このエオルゼアに転生した身である。前世では叶わなかった、市井のために力を振るう行い、ここで貫かねば何とする!
「爺ちゃん、やる気満々だね!」
 ツトミちゃんの嬉しそうな声に反応して周囲に意識を戻すと、皆ワシを観て不敵な笑みを浮かべていた。
 皆、これから始まるであろう大仕事を予感して血の気を多くして浮足立っているに違いなく。それは或いはワシから伝播したのかも知れないと、ワシも笑みを濃くしてしまう。
「無論じゃとも。マコ殿ももう少ししたら帰って来る筈じゃし、フリーカンパニー一丸となってこの大一番に当たろうぞ!」
『おーっ!』
 メンバー全員の高揚した掛け声を噛み締め、エレット殿に依頼の受理をお願いする。
 そうしてフリーカンパニー【オールドフロンティア】のメンバー総出で参加する大仕事、行商人の護衛任務が、――長い長い冒険の幕が開けるのだった。

◇◆◇◆◇

「――まずはモードゥナまでのルートを確認しましょう」
 寄合所の一階、来客用のソファに皆が座り、座卓の上に世界地図が広げられる。まずは地図上のモードゥナ、そしてグリダニアの二ヶ所に駒を置き、そこから道筋を確認する。
 ワシとツトミちゃんはモードゥナに行った事が無いと明言した事により、まずはワシら二人をモードゥナまで連れて行く事から始まる。
 先立ってサクノ殿とユキミ殿はモードゥナに旅立ち、先方と話をしてくる事になり、ワシとツトミちゃんは、クロス殿とマコ殿に連れられてモードゥナを目指す。
 エレット殿は二組に分かれたワシらの橋渡し役……そしてグリダニア側から齎されるであろう情報を即共有するための連絡役として寄合所に残って貰う事になった。
 行商人は急ぎの用事ではなく、モードゥナで一仕事を終えたところで、グリダニアには帰郷と言う形で帰途に着こうとしていたのだが、昨今の情勢……イクサル族や異端者の動向が不穏との事で、新たに護衛を雇って安全に帰路に発ちたいと言う申し出のため、時間的猶予は幾許か有り、それ故に先遣隊としてサクノ殿とユキミ殿に向かわせ、後からワシらが追従して護衛を補完する形を取る事になった。
 クロス殿がグリダニアの西端、旧市街の豊穣神祭壇のやや北側に位置する黄蛇門を指差す。
「ここから北部森林に出て、まずは北部森林の中央部に位置する集落、フォールゴウドを目指します。こちらは訪れた事が有りますか?」
「北部森林と言えば、ひそひそ木立の辺りで狩りを行うか、エ・タッタ監視哨に届け物に出向いたぐらいじゃのぅ……」「わたしもそんな感じだねぇ」
「――なるほど」クロス殿が重く頷き、腕を組んで瞑目した。「……秋瓜湖と言う湖の上に橋を架けて作られた水上の集落でして、浮かぶコルク亭と言った名旅館などでも知られている、観光名所でも有ります」
「町が湖上に浮かんでいるように見える様を捉えて、親しみを込めて“浮き村”などと呼ばれる事も有るらしいっすよ!」
 話の突然割り込んできたマコ殿は、クロス殿の隣にドカッと腰を下ろし、ワシらに満面の笑みを見せた。
「ただいま戻りやした!」ピッと軽快に敬礼を見せるマコ殿。「いやぁちょっと依頼が立て込んでて中々合流できなくて申し訳ない!」
「構わん構わん、ウチのフリーカンパニーの社員には自由に振る舞っていて貰いたいしの」軽く手を振って歓迎の意を表する。「この湖上の町に寄りつつ、モードゥナへ向かう感じかの?」
「フォールゴウドはモードゥナとの中継地点になりますね」クロス殿が再び世界地図に人差し指を下ろす。示す先は北部森林の中央――フォールゴウドより更に西――アルダースプリングスと呼ばれる一帯を指し示した。「アルダースプリングス。岩石が宙に浮いている風景が見られる土地なのですが、ここはフォールゴウドの東側……ひそひそ木立方面よりも危険な土地として知られています。採掘師の採集地でも有るのですが、少しでも道を逸れようものなら中堅冒険者であっても命を落とす事も……」
 クロス殿の表情に不穏な色が宿るのを見て、ワシとツトミちゃんが一緒に喉を鳴らす。
「護衛は私とクロスさんも付いてますから安心してください!」ドンッと胸板を叩くマコ殿。「暗黒騎士と戦士! もうあらゆる魔獣の敵視は俺達に釘付け……だよなっ!?」
「マコさんが言うと途端に不安になるんですが……」クロス殿が呆れた様子で肩を竦める。「とは言え、魔獣の相手は私達に一任してください。指一本触れさせはしませんから!」
 ニコッ、と微笑むクロス殿に、マコ殿が追い縋るように「まっ、そういう訳だから安心してくだせえ! 俺とクロスさんに掛かればあらゆる魔獣がイチコロよ……」フッとすまし顔で微笑んだ。
「爺ちゃん、ウチのフリーカンパニーの男性陣はほんとイケメンだよね、わたしもう震えてきた」「奇遇じゃの、ワシもあまりの心強さに震えが止まらんよ」
 ツトミちゃんと顔を合わせて笑い合う。ここまで頼りになる社員もそうおらんじゃろうとは、本心からの言葉である。
 妙な空気になったのを察して、クロス殿が空咳を一つ落とすと、改めて地図をなぞり始めた。
「話を戻しますね。アルダースプリングスを北西に向けて進むと、フロランテル監視哨が見えてきます。この先は黒衣森を抜けて、クルザス領になります。一年を通して雪深い地域ですので、確り耐寒装備を整えておいてくださいね」地図を更に北上――クルザス中央高地と呼ばれる地域まで指を延ばすクロス殿。「クルザス領――中央高地に入ったらゼーメル要塞を観て左手……川を渡って更に左折……丁度山岳を迂回するようにUターンして、右手に洞窟――オーラムヴェイルを横目に、ここから南下していきますと――ようやくモードゥナです」
「やっとモードゥナだぁ~」ふはぁ~っと大きな吐息を漏らすツトミちゃん。「長い道程だねぇ、これを一日で踏破するの?」
「急ぎの依頼ではないと言っても、依頼人に待たせている訳ですからねぇ、急ぐ分に越した事は無いと思いやすよ」マコ殿が苦笑を交えながら頷く。「モードゥナに着いたらちょっと観光! と行きたいところですけど、今回は仕事ですからね、また今度ゆっくり回りましょう!」
「モードゥナは巨大なクリスタルと、赤紫がかった不思議な霧が特徴的な、幻想的な土地ですからね、機会が有れば皆さんと一緒にのんびり観光したいですね」クロス殿も楽しそうに微笑んでいる。「ただ、帝国軍の軍事施設であるカストルム・セントリも間近に在る土地柄ですから、危険度で言えばクルザスや黒衣森の比ではない事もお忘れなく」
「警戒は厳に、と言う事じゃな」こっくりと首肯を返す。「相分かった、道筋も大まかに理解した事じゃ、依頼人をいつまでも待ちぼうけにさせておく訳にもいくまいし、早速出立と相成ろうではないか」
「もう出立の時間ですか?」そこに丁度、盆にオレンジジュースを四つ載せてエレット殿が地下から上がってきた。「――ご武運を。皆さんの動向はリンクシェルを通じて見守っていますから、安心して任務に臨んでください」
「わーい、エレちゃんありがと~」オレンジジュースを受け取り、一息に呷るツトミちゃん。「う~ん、美味しっ。これで依頼もバッチリだよぅ」
「丁度喋り通しで喉を潤したかったところでした」オレンジジュースを受け取り、同じく一息に呷るクロス殿。「エレットさんも無理はなさらず。行ってきます!」
「有り難う御座います!」オレンジジュースを掻っ攫い、これまた一息に呷るマコ殿。「カァーッ、仕事前にこれはクるなァ! さっ、気合入れて行きましょうか!」
「感謝するぞ、エレット殿」最後にワシがオレンジジュースを呷り、空になったコップが盆の上に四つ並んだ。「いざ、参ろうか! モードゥナへ!」
 初めての土地に向かい、今までとは異なる依頼を全うする。
 これもまた、冒険者として味わえる醍醐味の一つだろう。
 どんな出会いが有るのか、どんな景色が見られるのか、どんな出来事が起こるのか。
 期待に胸を膨らませ、ワシらはグリダニアを後にする――――

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