2021年9月27日月曜日

【ネトゲ百合】第14話 共迎の大晦日【オリジナル小説】

■あらすじ
ネトゲで好きになってしまった相手は、きっと異性だと思っていた。

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◇◆◇◆◇>>ジン<<◇◆◇◆◇

ジン「おっさん起きてるかー?」

 大晦日。一年の終着点。今日で今年が終わると言う事を噛み締めて、また明日から始まる新たな一年をどうこう……なんて、私にはよく分からない感覚だった。
 年末はコタツに入ってテレヴィのバラエティを観て、散々笑った後は元旦に初詣に出掛けるぐらいで、後は気が向いたら宿題を適当に済ませるぐらいの、何でも無いお休みでしかない。
 だけど、今年はちょっと違う。去年までの年末が思い出せないぐらい、今年は断じて違う。
 FPにログインしたまま、座長さんとカウントダウンを迎える。普段なら居間のテレヴィに齧りついて笑い飛ばしてたところだけれど、今年は自室でスマフォーンに齧りついている。
 お母さんに作って貰ったうどんを部屋に持ち込んで、ファンヒーターに当たりながら座長さんが打っているであろうチャットの返信を今か今かと待ち侘びる。
 今年の特別番組も面白そうだったし、楽しみにもしていたけれど、それより何より座長さんと一緒に迎える大晦日を心待ちにしていたのだ。
 座長さんも仕事から帰って来てログインしている事は確認済みで、広場で二人揃って座り込んでFPの世界を満喫している。

座長「おー」

 やっと返ってきたかと思えば、本当に起きているのか不安になる返信だった。
 ……これはアレだな、FPしながら絶対に飲酒してる。間違いない!
 そう思いながらニヤニヤと眺めていると、更にチャットが動いた。

座長「もう一年終わりかあ」
ジン「早いよなぁ」
座長「あつちいうまだよねえ」
ジン「なにて?ww」
座長「あつというま!」

「……ああ、あっと言う間、か」
 思わず噴き出しながら、……確かにそうだな、と溜め息を零してしまう。
 座長さんと出会ったのって、いつだったっけ。もう何年も一緒にいると思ってたけど、大晦日は初めて一緒に迎えるんだっけ。
 そう言えば……座長さんって、どんな風に出会ったんだっけ……

ジン「おっさん、俺らの出会いって覚えてる?」
座長「おー、どうだつたけ」
ジン「何かもうずっと一緒にいる感覚なんだよなー」
座長「しうだねえ」
座長「そう!」
ジン「www」

 そう、もうずっと一緒にいる感覚なのだ。
 だから、これからもずっと一緒にいるのが当たり前だと思っている。
「…………」
 今、一緒にいられるからと言って、いつまでも一緒、と言う訳ではないのだろう。
 前にも話題に出していた。このネトゲがサービスを終了してしまったら、どうするのか、とか。
 一緒に別のゲームに引っ越そうか、なんて話もしていたけれど。……本当に私は、座長さんの隣に居続けても良いんだろうか。
 ふと、不安の種が芽吹く。親離れできない子供のように、座長さんに引っ付いているだけでは、もしかして迷惑なんじゃないかって。
 困らせるような事はしたくないし、言いたくない。今のこの関係が好きだから、崩したくないから、……離れたくないから、何も言いたくないし、……言えない。
 いっそ崩してしまえば、楽なんだろうか。なんて、そんな破滅的な思考だって生まれてしまう。

座長「まあ、これからもなんだかんだいつしょにいるでしょ」

  ――――だからこそ、そんな何気無い座長さんの言葉があまりにも温かく、私の胸をきゅぅきゅぅと締め付ける。
 嬉しくて、切なくて、言葉にならない想いが喉を圧迫して、悲しくも無いのに瞳が潤んじゃって。
 あーあ、どんだけ好きなんだよ、私。なんて、笑えてきてしまうのだ。


◇◆◇◆◇>>座長<<◇◆◇◆◇

ジン「だよな! おっさんは俺がいなきゃ始まらねーし!」

 ケラケラと楽しそうに笑うジンちゃんを想像して、口元がニヤリと歪んでしまう。
 今日は大晦日なのでシャンパンを開けて楽しんでるけど、酔いも程々にジンちゃんのチャットを観るのが一番心の栄養になってるよね。
 あたしの一言一句で嬉しそうに反応するのがあまりにも可愛くて、こういう子と一緒の過ごせている今があまりにも奇蹟だと実感できて、この幸せを噛み締めなくちゃって気持ちで一杯だ……
 毎年年末は実家にも帰らず一人寂しくシャンパンを開けて寝正月を決め込むのだけれど、今年はジンちゃんがいるからね、そうそう簡単に寝落ちする訳にはいかない。
 それに明日は元旦と言う事で、ジンちゃんとの初デートイベントが確定しているのだ。何としても体調は万全を期さなければなるまい。
 そう、明日が本番なんだけど……今夜は今夜で特別なのだ。何せ初めて推しと一年が切り替わる瞬間を共に出来るかも知れないのだ、そんなスペシャルイベント、見逃す手は無い。
 グラスを空けるのも程々に、あたしはさっきジンちゃんが不意に漏らした言葉を反芻する。
「ジンちゃんとの出会いかぁ……どんなんだったかなぁ」
 今思えば、何でもない出会いだったように思う。たまたまダンジョンが一緒になったとか、同じイベントを一緒にやろうってなったとか、そんな感じの。
 気づけばいつも一緒にいて。寧ろいないと居心地の悪さを感じる程に自然と溶け込んでいて。だからきっとこれからも一緒にいると勝手に確信していて。
 ……あたしの独り善がりかも知れないって、分かってる。分かってるけど、ジンちゃんとは今後も仲良くしていきたいし、願わくはFPが終わるまでずっと一緒にいたい、いいや、FPが終わっても別のゲームについていきたいさ!
 迷惑な大人だと思う。もしかしたらストーカーだと思われるかも知れない。……いや、勿論ジンちゃんが嫌がったらすぐに身を引こうとは思ってる。思ってるけど……絶対にメンタルがやられる自信が有る。それだけ、ジンちゃんはあたしの中でとても大きな存在になってしまった。
 何気無い出会いから始まった関係も、続けばこんなクソデカ感情を懐くようになるなんて、あたしも流石に想像できなかったよ。
 ジンちゃんの二倍近くも人生を長く生きてる先輩だけど、そんな先輩ですら予期できない事が有るんだ、先輩面なんて出来る訳が無い。
 出来る訳が無いけれど……これからもポンコツな先輩面をしていきたいな……

ジン「おっさん、そろそろカウントダウン来るぜ!」

 ジンちゃんの浮足立ったチャットに、あたしも嬉しさで手が震えそうになりながらも、何とか間違えないようにタップする。

座長「おー」

「カァーッ! このおばはんの語彙力よ!」
 気の利いた一言すら言えない態だけれど、何でジンちゃんはこんなおばはんに愛想も尽かさずに付いてきてくれるんだろうねえ……
 ――そうして、日付変更線を跨いだ瞬間、FPがお祭り騒ぎになった。
 ワールドチャットは騒然として、一面に「あけましておめでとう!」の文字が津波のように押し寄せる。
 あたしはパーティチャットでジンちゃんにだけ見えるように慎重にスマフォーンをタップする。

ジン「あけましておめでとう!」
座長「あけおめー」
ジン「今年も一年宜しくな! おっさん!」
座長「今年もよろしくねー」

 ……ああ、こんな幸せな一年の始まりが有るなんて、去年のあたしは知らなかっただろうな。
 世界的に混乱している時代で、皆が皆、明日を不安に過ごしている中、あたし一人、推しと共に過ごせるってだけで、明日も明後日も期待と希望で一杯なのが申し訳なかった。
 そうしてジンちゃんの嬉しそうなチャットを横目に、あたしは意識を失った。
 幸せで全身を包まれながら寝落ちする事の喜びを覚えた瞬間だった。
 ああ……今年はどんなジンちゃんが……見られるんだろうなぁ…………

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れさまですvv

    本当に素敵な二人だなぁ~
    お互いを想うあまり不安になったり、幸せになったりw
    もう尊すぎてこっちが爆発しそうです!

    いよいよデートか…気合いれてけ!!

    まだまだ続きそうな予感wめっちゃ嬉しいですvv

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想コメント有り難う御座いまする~!!

      素敵な二人と想って頂けてほっこり…!(´▽`*)
      そうそうww互いに恋する乙女ですからね!ww
      ヤッター!!┗(^ω^)┛ どんどん爆発させて参ります!!ww

      遂に次回はデート…! 気合入れて参りまする!!

      ですです!w まだまだ続けて参りますゆえ、どうぞお楽しみに!w

      今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいでする~!!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!!

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