2021年10月21日木曜日

【ネトゲ百合】第15話 待ち惚けと肉まん【オリジナル小説】

■あらすじ
ネトゲで好きになってしまった相手は、きっと異性だと思っていた。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、【Pixiv】で多重投稿されております。

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【第15話 待ち惚けと肉まん】は追記からどうぞ。

待ち惚けと肉まん

◇◆◇◆◇>>ジン<<◇◆◇◆◇

「座長さん、遅いな……」

 元旦、待ち合わせのコンビニにて。
 昨夜、大晦日は座長さんが寝落ちした事で私もそっとログアウトして床に就いたのだけれど、心配になって今朝ログインしたら、確かに座長さんはいなかったし、何ならタイミングを観るにタイムアウトして勝手にログアウトしたようだと分かった。
 その後、一応FPにはログインしたまま、何らかのアクションが来ないかと待ち合わせ場所に指定したコンビニの中で漫然と週刊誌を立ち読みしたり、スマフォーンを覗いたりしているのだけれど……
 本当にアレは寝落ちだったのかと、段々と心配の芽が出始めて、居ても立っても居られない心境に陥り始める。
 もしかしたら、突然の病に倒れ、そのまま……いやまさか、こんな時に限ってそんな事は……いやいや、そのまさかこそが起こるのが現実世界じゃないのか。
 かと言って座長さんと連絡を取る手段が無いのもまた事実で。こんな事なら連絡先を交換しておくべきだったとか、せめて座長さんの自宅を知っていればとか、次から次へと後悔の波が押し寄せてくる。
 今すぐ会って安否を確認したい、だなんて。
 普段だって、座長さんがログインしない日が有った時、そこまで不安になる事は無かった筈だ。
 仕事が忙しいんだろうな、とか。どーせまたお酒飲んで酔い潰れて寝ちゃったんだろうな、とか。
 今日だって寝坊しただけの可能性だって有るのに。
 どうしてこんなに不安な気持ちになるのか、分からなかった。
 待ち合わせの時刻は、やがて一時間を過ぎようとしていた。
 …………もしかしたら。
 嘘だったのかも知れない。ただ、私一人が浮かれていただけで、座長さんは一人で待ち惚けを喰らっている私を観て笑っている……
 ――そんな訳、あるもんか。
 騙されても良いとは思っているけれど、座長さんはそんな意地悪な事はしない人だって、いつもチャット越しに接している私には分かる。
 ……いや、そう信じたいだけだ。
 悪い大人だってたくさんいるだろう。相手が女子高生と分かったから、悪い事に利用しよう、なんて考える輩なんてゴマンといる筈だ。
 私だって、もう社会に進出するまで間も無くの歳なのに、分別が出来なくてどうする。
 …………そんな甘い気持ちを弄ばれていたのだとしたら、私は…………
 そんな時、バタバタと誰かが駆け込んでくる音が聞こえて、ハッと顔を上げると、そこには――
「ごめん! ほんとごめん! 寝坊したの! ああもうほんとこんな時に限って……っ! 一時間も待たせちゃってごめんね! スマフォーンは充電切れてるし、時計は壊れてるしでもう……ああ違うの言い訳したいんじゃなくて……! ほんとごめん!」
 泣きそうな顔を一瞬だけ見せて、盛大に頭を下げる、座長さんがいた。
 ……あまりにも、座長さんらしくて、一瞬呆けた後に、笑いが込み上げてきた。
 緊張感が溶けていく。あぁ、そうだよね。座長さんは、そういう人だから。だから私は、話すと安心しちゃうんだ。
「くふふ……座長さん、昨日寝落ちしてましたもんね?」
「くあああ! いやあれはね!? もうあんまりにも気分が良くてさぁ!? ああいやちょっと待って、普段のあたしのテンションに戻させて……落ち着いて……落ち着いて……」
「普段の座長さんのテンションじゃないんですかそれ?」
「…………ふぅ~、そうよ、あたしはクールで落ち着いたおばさん、そういうキャラで通してるの」
 スッと表情に冷静さが戻って、それがあまりにも面白くて更に噴き出してしまった。
「ちょ、何で笑うの~?」
「あはは、あははは! うんうん、座長さんはやっぱりそうじゃないと! あははは!」
 一時間待ち惚けを喰らったのだって、最早スパイスだ。
 こんな貴重な座長さんが見れたのなら、帳消しどころかプラスだって言えるだろう。
 だから……
「でも、次は遅れないでくださいね? 私もう帰るところでしたから」
「う……それはもう、ほんと面目ない。次から気を付けます……」
 しょんぼりと俯く座長さんが可愛過ぎるあまり、私の胸は高鳴りっ放しだった。
 あぁ、本当にこの人は、魔性の人だ。私の心を掴んで離さない。
 ズルい人だなぁと、改めて実感してしまうのだった。


◇◆◇◆◇>>座長<<◇◆◇◆◇

「そうだ、ジンちゃん。遅刻したお詫びに、何か奢らせて?」

 肝が冷えたなんて騒ぎじゃなかったのだけれど、ジンちゃんの安心した顔を見て、心底安堵したあたしである。
 昨夜は気づいたら寝落ちしてた挙句、スマフォーンのバッテリーは枯渇した状態で目を覚ますだけに飽き足らず、普段目覚ましに使っている時計まで故障するとか、未だかつてない程にパニックの極みを体現してしまった……
 本音を言えば、もう愛想を尽かされて帰ってしまったのではないかと思ってメンタルはもうグチャグチャだった。
 あたしが勝手にそう思ってるだけだけれど、今日は初めてジンちゃんとデートできると思っていただけに、そのメンタルダメージは尋常ならざるもので……
 コンビニを外から見た時にその人影が見えた瞬間、もう涙腺が破壊される程の安堵を覚えた次第だ。
 だから……せめてものお詫びと言う形で、彼女には奢られて欲しいところなのだが、ジンちゃんは「え?」と不思議そうな顔をしてあたしを見上げている。
「ええ、いや、悪いですよ、別に私そんな、気にしてないですし」
「いやいや、それじゃあたしの気が治まらないのよ! こう……ほら、うら若き乙女をコンビニに一時間も幽閉してたなんて噂されたら、ほら、ね!?」
「ふふっ、座長さん……ふふっ、うら若きて……幽閉て……ふふふっ……」
 ジンちゃんが堪え切れない様子で笑声を落とす姿を見て、あたしは「そんな笑うところ有った??」と思いながらも懸命に手振りを交えて主張を続ける。
「こういうのはケジメを付けないとね確りね! だから……ね? 別に奢ったからって後で請求とかしないし、因縁付けるつもりも無いから、だからそのぅ……」
「座長さん必死過ぎてウケる~あははっ」思わず口元に手を当てて笑い始めるジンちゃんだったが、すぐに納まると恥ずかしそうに空咳を挟んだ。「えと、済みません、笑い過ぎました。じゃあ……肉まん! 肉まん頼んでも良いですか?」
 ジンちゃんが指差すのは、レジカウンターの真ん中に置かれている中華まんが入ったボックスだった。
 あたしは「よし分かった、肉まんで良いのね?」と確認すると、ジンちゃんはコックリ頷いた。
 透かさずレジに並ぶと、肉まんをそそくさと購入する。
 コンビニの出入り口の傍で待っていたジンちゃんに肉まんを手渡しながら、「ごめんね、遅刻したお詫びとしては弱いかもだけど……」と声を掛けると、彼女は受け取りながら朗らかに微笑んだ。
「良いんです、座長さんが無事で良かった」と呟き、肉まんを徐に取り出して、綺麗に二つに割ると、半分をあたしに差し出してきた。「はい、座長さんの分」
「え? いやいや! それ全部食べちゃって食べちゃって!」
「座長さん、遅刻してきたって事は、朝ご飯まだなんじゃないですか? ちょっとだけでも、お腹に入れておいた方が良いかなと思って」
 慌てて受け取りを拒絶するも、ジンちゃんは譲らない様子で押し付けてきた。
 ホカホカと湯気を漂わせる肉まんを受け取って、あたしは……何だろう、嬉しいと言うか、この娘は、本当に良い子なんだなぁ……と痛感したと言うか……
「良いお嫁さんになれるだろうなぁ、ジンちゃんは……」
「え?」
「有り難うね、ほんと言うと、おばちゃん、お腹ぺこぺこだったの」
 そう言って笑いかけてから、肉まんを頬張ると、あぁ~至福の味だ……と感動しかけてしまった。
 何よりこれは、推しから貰った大切な施し。本当は飾っておきたいぐらい大切なものだけれど、今はあたしの血肉となってあたしの体内に循環させる事で、推しからのエネルギーを摂取する事にする。
「…………やっぱりズルいなぁ、座長さんは」
「え?」
「肉まん美味しいですね。久し振りに食べた気がします」
 何か聞きそびれた気がしたけれど、ジンちゃんが美味しそうに肉まんを頬張っている姿を見て何もかも思考が吹っ飛んでしまった。
 これから初詣に行く事を忘れてしまいそうなぐらい、もう既に幸せがピークに差し掛かろうとしているのだけれど、あたし今日ちゃんと帰って来られるかな……幸せで倒れないか心配だこりゃ……

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れさまですvv

    あまりの尊さと眩しさに気絶してしまいまして、気づいたら一日たっておりました。皆様お元気ですか?わたしは元気です。
    待ち合わせの段階でこの状態では、初詣なんてされたら死者がでてもおかしくない気がします。肉まん二つに割るとかもう殺しに来てるとしか思えません。タスケテー

    「…………やっぱりズルいなぁ、あなた達は」
    ジンくんではありませんが、思わずつぶやいてしまうほど眩しい二人です。
    遅れてる座長を心配で心配でたまらないのに、もしや悪い大人なのでは?なんて考えてしまうジンくん。ジンくんが待っていてくれたのを確認して涙腺が崩壊しかける座長…もうニヤニヤがとまりませんなw座長が遅れてきたのだって、肉まんを半分もらうためだったのかもしれませんよ?w

    なんとなーく「春の雪」を思い出してしまい、すこし読み返して見たりしておりますw前半は殺人ビーム出まくりなのでうっかり読む人は気をつけるように。

    これから初詣デートなのにまだお互いの本名もしらない二人に出会わせてくれた先生に最大の感謝を!

    色々書きたいことが有りすぎてやっぱり今回もうまくまとまりませんでした…乱文申し訳ありません(๑•̀ㅂ•́)و✧(反省の色なし

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想コメント有り難う御座いまする~!

      あまりの尊さと眩しさで気絶!wwwとんでもねー作品を作り上げてしまいましたな…!www(ありがとーっ!!w)
      死者が出てもおかしくない!www 生きてーっ!wwwwww(笑)

      不安が芽吹いてしまうと、段々とネガティヴになってしまいますからね…! 肉まんを半分貰うために遅れてくるとか座長さん策士過ぎでは!??!!wwwwww

      「春の雪」まで読み返して頂いたのですね!?www 有り難う御座いまする…!!! って殺人ビーム出まくりwwwwwヤバいwwwww

      こちらこそ素敵な感想をたっぷり頂いてもうつやっつやです!! 有り難う御座いまする!!!┗(^ω^)┛

      いえいえ! もう有りっ丈の感情を摂取できてわたくしホクホクですぞ!! 感謝感謝!!(´▽`*)

      今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいでする~!!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!!

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