2021年10月30日土曜日

【ネトゲ百合】第16話 歩く先、願いの先【オリジナル小説】

■あらすじ
ネトゲで好きになってしまった相手は、きっと異性だと思っていた。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、【Pixiv】で多重投稿されております。

Twitter■https://twitter.com/hisakakousuke
カクヨム■https://kakuyomu.jp/my/works/1177354054891786316
Pixiv■https://www.pixiv.net/novel/series/7776571




【第16話 歩く先、願いの先】は追記からどうぞ。

歩く先、願いの先

◇◆◇◆◇>>ジン<<◇◆◇◆◇

「ジンちゃんっていつもこの神社に来てたの?」

 元旦の朝。厳密には昼ちょっと前ぐらい。私は年上のお姉さんと一緒に近所の神社をゆっくりと歩いていた。
 ほんのりと雪化粧を施された景色を背景に、温かそうなコートを纏ったお姉さんこと、座長さんは何気無い仕草でケースから煙草を取り出して銜えると、私の視線に気づいて慌てた様子でケースに戻した。
「ごめんごめん、ついうっかり!」
「えっ、吸っても良いですよ。私、気にしませんから」
「いやぁほら、未成年者の前で煙草はちょっと……」
 ばつが悪そうに頭を掻いて誤魔化す座長さんに、ちょっと罪悪感を覚えてしまう。
 今の自然な動きから察するに、普段もこんな感じでふとしたタイミングで紫煙を楽しんでいる筈なのに、私の前だからと我慢させるのは、こう……ちょっと不満が募る。
 何とかして吸って貰えないかなと思いあぐねていると、座長さんが何かに気づいたように「あ、」と声を漏らした。
「ジンちゃん、まさか煙草を吸ってないでしょうね? おばちゃん、そういうの煩いよ!」
「座長さんに言われましたもん。吸ってないですよう」
「そ? なら良かった……」
 はぁーっと安堵の吐息を漏らす座長さんに、複雑な感情を懐いてしまう。
 私の体を気遣ってなのか、体裁を想っての事なのか、そこまでは理解が及ばないけれど、心配してくれている気持ちは伝わっているつもりだ。
 伝わっているからこそ、座長さんに無理をさせているのではないかって想いが募って、一緒に煙を纏いたいって言い出せなくなってしまう。
 体に悪い事は分かっている。大人として、反面教師として諭してくれているのも、理解できない訳ではない。
 それでも……座長さんにもっと近づきたかったし、もっと同じ事を共有して、もっともっと彼女を知りたいと言う気持ちに嘘は吐けなかった。
「……でも、座長さんが吸わないなら、私が吸おうかな……なんて」
「えええ? そ、そんなにあたしが吸うとこ見たいの……?」
「見たいって言うか……座長さんに我慢して欲しくないって言うか……」
「うーん……じゃあ、参拝が終わった後に、そうだなぁ、どこか寄って行こっか。そこでちょっとゆっくりしよ」
「えっ? やった!」
 棚から牡丹餅とはこの事だった。そんな意図なんて無かったのに、初詣が終わった後にどこかでゆっくりお話しが出来る機会が得られるなど、想像すらしてなかった。
 ……考えてみれば、初詣に一緒に行く、と言う話だけで、その後どうするかなんて全然話題にすらしてなかった事に気づく。
 本格的にデートの様相を呈してきて、私は嬉しさで腹の底が煮え滾る想いに駆られた。
 こ、これを機に、連絡先とかも交換できれば……!
 そんな想いを募らせながら、座長さんに笑顔を返すと、彼女は彼女で「まぁ、うん、ジンちゃんが良いならそうしよっか」と朗らかな笑みを返してくれて、心拍数は上がる一方だった。


◇◆◇◆◇>>座長<<◇◆◇◆◇

「こんな朝早くに来たの初めてなんですけど、あんまり人って多くないんですね、この時間帯」

 推しの女子高生が温かそうな格好で隣を歩いている幸せを噛み締めながら、あたしは興奮で震えそうになりながらも、落ち着いてゆっくりと首肯を返した。
 本当に……本当にジンちゃんと一緒に参拝客として神社を一緒に歩いているとか、夢なのではないかと疑ってしまう。いやまぁこれが初夢だったらあたしの今年の運は極運待ったなしであらゆる凶事を破壊しかねないけれども。
 浮足立ってちょっと足元が覚束無いジンちゃんを横目に、先程交わした約束を思い出しては、口元が緩みそうになって仕方なかった。
 初詣だけして帰る……なんて、こんな千載一遇の好機を逃してなるものかと、何かしらの理由を付けてジンちゃんと一緒にいられる時間を引き延ばしたかったのだけれど、向こうにも都合が有るだろうし、無理に引き留めて印象を悪くしたら嫌だったのだが、何とかその辺を有耶無耶に第二のデートスポットに着地できる算段が出来て、ひとまず心の中でガッツポーズをした。
 自然な形で、落ち着いた大人として振る舞って、こう……気持ち悪がられないように、楽しく話せたら……と思えば思うほど、普通の大人ってどんな感じだ? 落ち着いた話し方って丁寧語であれば何でも良いのか? などと、疑問が湯水のように湧き出してくる。
 会社員として最低限の礼儀自体は有っても、一回り程も年齢差が有る女の子と話す機会なんて無かったあたしである。突然奇天烈な妄言を吐き出して眼中からアウトされてしまったらどうしようと言う危機感は常に点っていた。
「座長さんは、何をお願いするんですか?」
 ジンちゃんがチラリと振り返りながら小首を傾げる。その所作の一つ一つがあざと可愛くて、あたしの心臓は最早加速度的に破裂への道を走っていた。
 何だこの可愛い生き物は~と内心で拳を握り締めて演歌のように大音声を轟かせながらも、現実世界のあたしはとにかく冷静沈着を目指して、声が震えないように落ち着いて返答を捻り出す。
「ん~、やっぱりアレじゃない、レア運上げて欲しい! とか」
「分かります~、最近ガチャっても全然良いの出ないですよね……運営が絞ってるとしか……」
「そうそう~! 年々ユーザーも増えてるんだから、もう少し還元しても良いと思うんだよね~! コンビニとコラボしたのは、まぁグッジョブだけどさ!」
「ですね。座長さんとも会えましたし」
「そうそう、ジンちゃんとも巡り合えたし!」
 互いに笑い合って、そこで一旦話題が途切れたように見えて、あたしは冷や汗がドッと湧き出て呼吸困難になるかと思った。
 え、何……あたしと会えた事が……そんなに良かった事だったって事……? そんなナチュラルに持ち上げてくれる子だったっけ君……? あたしもう嬉しさで涙が出てきそうなんだけど……
 もうこのまま世界が滅んでもあたしだけ幸せなままハッピーエンドになりそうな予感しかしなかったけれど、それだとジンちゃんが死んじゃうのでダメだ。彼女だけは幸せにならなければならない。
「ジンちゃんは何をお願いするの?」
 訊かれたのだから、訊いても構わないだろうと思って話を繋げてみると、彼女は「えへへ、ナイショです」と人差し指を口元に当てて可愛く微笑んだ。
 あたしは死んだ。死因は尊死。良い人生だった。
 一瞬あたしの意識が宇宙の彼方に飛んで行ったまま帰ってこないと思ったけれど、そのままフリーズしてしまえば頭のおかしいババアだと思われる可能性が有るので、即座に体裁保持機能がフル稼働して、「え~、ナイショかぁ~、あはは」と限界語彙力で反応したけれど、もう興奮のあまりに理性がエンプティマークを主張し始めて大変だった。
 ……いけない、初詣延長戦を予約したはいいけれど、最後まで理性を保てる自信が無くなりつつあるぞ。
 そしてあたしはあんな事を口走りつつも、今日参拝する時に願う事は全く別の事なのである。
 それは勿論――ジンちゃんと、末永く一緒にいられますように、――だ!
 ジンちゃんがあたしの事をどう思っているか、それは定かじゃないけれど、流石に一緒に初詣に付き合ってくれる子が嫌悪感を持っているなんて思いたくないし信じたくも無かった。
 だから、あたしの独り善がりだとしても、彼女とは今後も交流を続けていきたいし、一緒にゲームを楽しんでいきたいと思っての願いだった。
 ……いいや、神様。やっぱりさっきの願い事は無しだ。あたしが神様に願う事は、そう――――ジンちゃんが、これからも幸せでいられますように、……これしかない。
 願わくは、その中にあたしも含まれていたら嬉しいな、とは思うけれど、まずは推しが笑顔でいてくれたら、それ以上は望まない。
 あたしはもう、充分な幸せを頂いているのだから、ジンちゃんにはもっともっと幸せでいて貰いたいのだ。
 ……その隣にあたしがいたら、それは……そんな幸せが有り得るんだろうかって、それこそ夢心地だな、って。

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れさまですvv

    座長ついに討ち死に!死因は尊死!!致し方無い、素晴らしい最後でした。
    そんなこんなで読めば万病に効くと言われ、おまけに美肌効果まであるというネトゲ百合更新です。
    いやぁー素晴らしい!!お互い体内ではマグマが煮え滾ってるのに、遠慮しあってしまっててなんともじれってぇww
    でもそこが良いんだ。そう、今までずっとそうだった。これからもそんな二人をずっと眺めていたい…そんな気にさせてくれる今回のお話でした。
    先生ъ(゚Д゚)グッジョブ!!

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

    返信削除
    返信
    1. 感想コメント有り難う御座いまする~!!

      座長討ち死に!wwwwこれはもう回避が出来ない死ーッ!www
      万病に効く上に美肌効果まで!?!?!wwww控えめに言ってヤバ過ぎですね!?!?!wwwww
      有り難う御座いまする~!!!(´▽`*) そうそう!wwwこのじれったさを味わって頂きたく!www
      互いに中々踏み出せないのがこう、ね! 堪らん感じに仕上げて参りますゆえ今後ともどうか宜しくお願い申し上げまする~!!
      (*´σー`)エヘヘ!w よせやいっ!w

      今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいでする~!!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!!

      削除

好意的なコメント以外は返信しない事が有ります、悪しからずご了承くださいませ~!