2022年1月22日土曜日

【ワシのヒカセン冒険記】第31話【FF14二次小説】

■あらすじ
不慮の終結。


【第31話】は追記からどうぞ。

第31話

「――なんじゃと? 依頼人のニニネ・ニネ殿が、双蛇党に……身柄を確保された……?」

 急ぎフォールゴウドに向かったワシらに突きつけられた事実はあまりにも理解の埒外の代物だった。
 フォールゴウドには双蛇党、並びに鬼哭隊の面々が押しかけ、紫色の幌をしたチョコボキャリッジから次々と証拠品であろう木箱を運び出している。
 依頼人であるニニネ・ニネ、そしてその召使であるペペロニ・ホホロニの姿はここにはなく、持ち主不在の態で検閲が進んでいる。
 双蛇党の党員であろうエレゼン族――その中の辺境の民とも呼ばれているシェーダー族の男は、「ええ、こちらも寝耳に水と言った態でして……まさか運び屋だったとは思わず」と、報告書とワシの顔を交互に見ながら難しい表情で溜め息を零している。
 顛末としてはこうだ。レヴナンツトールに運び込まれたクリスタルを何者かが強奪、その奪われたクリスタルが、“何故か”ニニネ・ニネのチョコボキャリッジの中から発見された……それ故にニニネ・ニネにクリスタル窃盗の嫌疑が掛けられ、容疑者として既にグリダニアへ移送された後だと言う。
 当然ペペロニ・ホホロニにも同じ嫌疑が掛けられ、共にグリダニアに発った後だと言う事なのだが、ワシは何が何やら事情が掴めないまま茫然としてしまっていた。
 つまり……双蛇党は犯罪者から依頼を受け、それを疑う事無くワシらが片棒を担いだと言う事なのだろうか。
「シラさん」声を掛けられてハッと意識が現実に戻ってくると、シェーダー族の男は苦笑いを滲ませながら肩を叩いてくれた。「今回の一件は、双蛇党、並びに冒険者ギルドの管理体制に問題が有ったと言わざるを得ず、フリーカンパニー【オールドフロンティア】に責任は一切問わないとの事です。後味は悪いかも知れませんが、あなた方は確かに依頼を成し遂げていますから、報酬は正当に受け取ってください」
「それは……そうかも知れんが……」
 食い下がろうにも、ワシにそんな権限が有る訳でもなく。
 まさしく後味の悪い依頼だったと片付けるべき事案なのだが、本当にそれだけ済ませるべきものなのかと、頭の中で疑問符が泥のようにへばりついていた。
 共に話を聞いていたツトミちゃん、サクノ殿、ユキミ殿、全員が不可思議だと言わんばかりの表情で首を捻っているのを見て、ワシだけがおかしいと感じている訳ではない事は分かる。
 分かるが……そう認識できるだけで、証拠も無い、証明も出来ない、ただ不愉快な蟠りだけが胸に残る、違和感だけがそこに有った。
「あくまで私の見立てですが……」サクノ殿がこそっと耳打ちしてきた。「ニニネさんは、そういう事をするような人には見えませんでした。人を見る目には、自信が有るつもりです」
「私もサクノさんと同じ意見です」ひそひそと小声で語り掛けてくるユキミ殿。「悪い人には見えませんでした。アレが演技だったとは、とても……いやでも、完璧な演技で騙されたのかも知れませんが……」
「なーんか嫌な流れだよねぇ」眉間に皺を寄せて難しい表情を覗かせて腕を組むツトミちゃん。「サクちゃんとユキちゃんの話を聞いてたから分かるよ、依頼人は何か別のトラブルに巻き込まれたんじゃないかなぁ」
「……慮外の出来事が、更に生じている可能性か……」
 ワシも瞑目して沈思する。
 何より情報量があまりに少ない事が不味い。ワシらはただ、依頼人を依頼された場所まで護衛する事だけが仕事だった筈。その依頼を受けたのは冒険者ギルドであり、双蛇党でもある。であれば、ワシらが詮索して良い立場にすら立っていない事は明白だ。
 これ以上彼らを困らせる訳にもいかないし、彼らには彼らのやり方での捜査が有る筈。食い下がり続ければ割を食うのはワシらに違いないのだ。
「……後味は悪いが、ワシらに出来る事は今、ここには無かろう」三人の顔を代わる代わる見て、ワシは沈鬱な笑みを覗かせて頷いた。「一旦帰ろうか。彼らの邪魔をする訳にもいくまい」
「そうだねぇ……」疲れた鼻息を落とした後、ツトミちゃんの猫のような瞳がきらりと輝いた。「――でも爺ちゃん、これで終わった訳じゃないんでしょ?」
 ツトミちゃんの何かを期待する小声に、サクノ殿とユキミ殿も不敵な笑みを覗かせて首肯する。
 ワシは三人の期待に応えるようにチロリと舌を覗かせると、「当然じゃ、こんな胸糞悪いまま終わって堪るか。この依頼はここで終わりだとしても、水面下で独自に捜査を続けようぞ。勿論、普段の活動には支障を来たさん程度に、な」
「そうこなくっちゃ♪」「ですよねですよね!」「うんうん! それでこそですね!」
 ツトミちゃん、サクノ殿、ユキミ殿が満足そうに頷くのを見て、ワシもこっそり微笑むと、「さて、じゃあ取って返すようじゃが、クロス殿とマコ殿を迎えに参ろうかの」と三人の肩を叩き、再び駆け足で山道を登って行くのだった。
 もう夜の気配が近づく北部森林は、いつもより冷えているように感じられた。

◇◆◇◆◇

「――なるほど、それでマスターは秘密裏に捜査を続行する事にした、と」
 クルザス中央高地まで戻ると、クロス殿とマコ殿が帰途に着いた場面に遭遇した。
 彼らは既にツームストーンの身柄を明け渡した後で、ワシらの元へ駆けつけようとしていたところだった。
 これで事実上の事件の収束に違いなかったが、クロス殿もマコ殿もワシらと同じ感想を懐いているのか、依頼主の捕縛に対して懐疑的で、何かしらの裏が有ると睨んでいるのは明白だった。
「表立った捜査は出来まい。双蛇党や冒険者ギルドが依頼の完遂を以てこの件を終わらせたのじゃ、変な軋轢を生んで別の場所で問題を起こす訳にものぅ」
 夜の訪れを感じさせるクルザス中央高地は、ますます冷え込んでいく。落ち着いていた風雪も徐々に勢いを増し、明度が堕ちていくのも手伝って段々と視野が狭まっていく。
 暗澹たる想いは変わらない。けれど同じ想いを懐く仲間が傍にいる。まだこの依頼は終わっていない、終わらせてはならないと信じ、今夜は帰途に着く。
 ――あぁ、このエオルゼアなる世界だって様々な思惑が蠢いているのだろう。一枚岩ではない何かが、ワシらの意識の届かぬどこかで。
「ともあれ今に限って出来る事は無かろう。ゆっくり体を労わって、明日からまた依頼に備えようぞ」
 在りし日の己を思い出す。あの時は力が無かったばかりに何も救えなかったと嘆いていたが、力が有ったとしても、それだけでは救えないのだと痛感しきりだ。
 今はそれに加えて仲間もいる。彼らと共に、まだ立ち向かえるのだと歯を食い縛れる。
 きっとここから長い冒険が始まるのだろうと、そんな予感を覚えつつ。風雪に溶け消える青白き月を仰ぎ見て、ワシはまた、前を向く。

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