2022年1月27日木曜日

【ワシのヒカセン冒険記SS】第1話【FF14二次小説】

■あらすじ
「ワシのヒカセン冒険記」のヤヅルが所属するリンクシェル【シューティングスター】での活動に焦点を当てたショートストーリーです。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【Lodestone】、【Pixiv】で多重投稿されております。




【第1話】は追記からどうぞ。

第1話


「――店の手伝いをして欲しい?」

 神々に愛されし地・エオルゼアに罷り越して暫く経った頃。ワシは冒険者として活動する傍ら、リンクシェルと呼ばれる通信機器で繋がる集まりの一つに所属する事になった。
 フリーカンパニーでの活動は据え置きのまま、更に多方面への繋がりを増やそうと、丁度新規加入者を募集していた集まりを見つけて応募を掛けたところ、すんなりと加入申請が通り、無事にフリーカンパニー以外の集まり……シューティングスターなる集団に属する事が叶った。
 フリーカンパニーと異なる点と言えば、集まりと言っても拠点を軸に活動する訳ではなく、あくまで通信機器であるリンクシェルで連絡を取り合いながら、互助の活動を行っていく……と言う点だろうか。
 人数の多い集まりであれば、その分募集を掛ける頻度は高く、その都度適役であろう冒険者を選出したり、或いは人手が足りなければ本職ではなくとも互助の活動に精を出したりもする。
 手伝いも多岐に亘るため、今回のように「店の手伝い」なんて募集が掛かる事も、無くも無い。
「ヤヅちゃん今暇そうにしてると思ったからお願いしようと思って」
 声を掛けてきた相手は大柄なルガディンの男である、通称カボ殿。自分の事を「わいの事はハゲって呼んで!」と言う酔狂な輩で、ワシは本名である“カボチャ”から取って“カボ殿”と呼称させて貰っている。確かに禿頭ではあるのだが……
「ダメかい?」
「無論構わぬが、外せぬ用でも出来たのか?」
「おーう、ヤヅ、カボの兄弟は俺とこれからランデヴーなんだ、済まんなぁ~」
「ポヨ殿に呼ばれたのか……なるほどのぅ」「そういう事」
 野太い声で笑い声をリンクシェルから飛ばしてくるのは、このリンクシェルのマスターであるルガディンの男、通称ポヨ殿。金色に輝く衣服を好んで着用するのと、褐色の肌とその傷だらけの面から、一見して裏稼業でも嗜んでいそうな風貌で、まさしくその通りと言わんばかりの言動ばかりが目につく、一言で言えば「係わってはいけない人物」と言う存在だ。
 その実、新米の冒険者には甘かったりもするのだが……如何せんその風貌と言動が若葉を遠ざける原因となり、普段は寂しそうにリンクシェルのメンバーを拉致してはとんでもない依頼を引き受けて暴れ回っている。
 今回の標的はカボ殿だったのだろう。ワシが選ばれなかった事をまず幸運に思うべきか、どうか……うぅむ。
「普段なら別にお手伝いさんが来るんだけどね、間が悪くて皆いなくてさ。ヤヅちゃんが良ければで良いんだけど……開店を楽しみにしてるお客さんもいるからさ……ヤヅちゃんが良ければで良いんだけど……ヤヅちゃんがどうしてもダメだったら――」「わぁーかった分かった! やるから圧を掛けるな圧を!」「あー良かった、仕入れたサザエが傷む前に使い切りたかったんだよね」「此奴……」
 してやったりと言いそうな顔が目に浮かぶカボ殿の反応に、ワシはフルフルと拳を震わせて言葉にならない激情を歯噛みする。
「おう、話は終わったか? さぁ行くぞ兄弟! 地獄が俺達を待ってるぜぇ!」
「しょうがないなこの人は……って訳だから、ヤヅちゃん、後は頼んだよ。鍵は開けとくから勝手に入って、後は何か適当にやって! ほなさいなら」
 通信が途絶し、ワシは途方に暮れながら、「やれやれ……では参るかのぅ」と足早にカボ殿の店に向かうのだった。

◇◆◇◆◇

 テレポでクガネまで転移した後は、第二波止場から船頭の船に乗って冒険者居住区であるシロガネへ。拡張街の方の船着場である茜雲桟橋に着いたら、海岸線に沿って北東を目指して歩いていくと見えてくるのが、古風な外観の店――『モラの墓場』と名付けられた、カボ殿が経営している居酒屋だ。
 一階はカボ殿が占星術師に扮して占いや相談などを受け持つオカマカフェだそうで、その地下に在るのが今回の依頼の目的地である居酒屋だ。
 入り口は不用心にも確かに施錠されておらず、すんなりと中に入ったワシは、モーグリの柄の床と壁紙を眺めながら、右手に見える階段を下りていく。
 カボ殿に連れられ数度暖簾を潜った事が有ったが、相変わらず地下の異様な光景には、今以てなお言葉を失う。
 一面に壁と言う壁に飾られたモモラと呼ばれる魚の魚拓。店名の由来でもあるそれがありとあらゆる壁面に飾られているのだ、何も知らずに迷い込んだら恐怖すら禁じ得まい。
 奥には無数のナマズオと呼ばれる蛮族が群れを為して動き回っている様子が見て取れる。ワシが知る前世の記憶に存在したナマズに手足が生えて二足歩行しているような生命体で、カボ殿が雇っているお手伝いなのだろう。
 彼らはワシが現れた事を見て取った瞬間、「待ってたっぺよ~!」「ご主人があの金色野郎に連れ去られて困ってたっぺ~!」「さっ、早く仕事に取り掛かるっぺよ!」「もう開店まで時間が無いっぺな!」と、ナマズオの群れが有無を言わさずワシを連行していく。
「ん? カボ殿、確か手伝いはいないと吐かしてはおらなんだか?」
 ナマズオの群れになす術も無く連れ去られながら尋ねると、ナマズオは「それは冒険者さんの事だっぺな」「僕らだけじゃ何も出来ないっぺから、冒険者さんのお手伝いがいないと始まらないっぺ!」「早くするっぺお客さんはもう来る直前っぺよ~!」と銘々に喚きながらワシは厨房に叩き込まれた。
「冒険者さんは調理師の資格は!?」「調理師ギルドに通ってはいるが……」「なら問題ないっぺ! これから僕らが注文を取ってくるから、冒険者さんはじゃんじゃか料理を作るっぺよ~!」「後は頼んだっぺ! 僕らは注文を取る事しかできねえっぺからな!」
 矢継ぎ早に告げるだけ告げると、ナマズオ達は嵐のように立ち去ってしまった。
「……さて、ようやっと依頼の中身が見えてきたの」
 調理師の道具一式を取り出すと、ワシは拳を合わせて神経を集中させる。
 調理師ギルドに世話になってるとは言え、店に出せるような料理を完成させた記憶は終ぞ無い。けれどこの場に調理できる者がワシ一人であると言うのなら致し方なし、最善を尽くすにはワシが腕を振るう他無い。
 カボ殿の店の看板に泥を塗る訳にはいかぬし、此度も全力で事に当たるとしようか……!

◇◆◇◆◇

「注文が来たっぺ~! サザエの壺焼と、とろろ蕎麦をお願いするっぺ~!」「承知!」
「こっちも注文だっぺ~! カエルの餡かけと、がめ煮、天ぷら盛り合わせを頼むっぺ~!」「む!? しょ、承知!」
「更に注文だっぺよ~! キジハタの清蒸と、味噌田楽、ヒラマサの兜煮に、潮汁を宜しくっぺ~!」「ぬ!? ま、待たれい待たれい!」
 注文票が次々と放り込まれ、あっと言う間に手が回らなくなったんじゃが!?
 並列で調理を行う事になり、普段とは違う技量を要求されて、開幕からてんてこ舞いの様相を呈し、ワシは早くも依頼の難度の高さを痛感する事になった。
 カボ殿は普段こんな大変な立ち回りを熟していたと言う事なのか……と感動するのも束の間で、最早忙殺の勢いで思考が纏まらない。
 せめて丁寧に仕事を熟そうと考えていたのが遥か昔日のような感覚で、今はとにかく速度に偏重した立ち回りを要求されているのだと察した。
 それでも――それでもまるで間に合わない! あの小ぢんまりとした店舗にどれだけの来客が有るのか、注文票の飛来が絶え間なく、調理の一区切りなどまるで来る事は無かった。
 いよいよこれは破綻する……! と思い、観念してナマズオに弱音を吐こうと顔を上げたところに、見知った顔が見えた。
「やづこぉん。大丈夫? 何か手伝おうか?」
「ル、ルニャ殿……!」
 まるで天使かのように映ったお洒落なミコッテの娘は、ルニャ殿と言う、これまたリンクシェルのメンバーの一人である。人当たりの良さと、どんな依頼にも尻尾を嬉しそうに振って付いてきてくれる事から、わんこのよう……と言う事でそのまま安直に「わんこ」と呼ばれたり、名前をもじって「るにゃわん」などと呼ばれる事も有る娘だ。
 ワシは救いの光を見た感覚で、コクコクッと頷き返すと、懇願するように手を合わせた。
「相済まぬ、まるで手が回らぬゆえ、調理の手伝いをお願いしたく……!」
「んむ! りょうかい! やづちゃん、こっち借りるね!」
 やる気に満ちた表情で厨房の一角に滑り込むと、彼女も持ち前の調理道具を取り出して颯爽と準備を始めた。
「注文票はそこに纏めてあるゆえ、片っ端から頼む!」
「ぷぉぉ! 任せて!」
「有り難い……!」
 人手が二倍に増えれば労力は半分だ。先刻より遥かに楽になった環境に、少しだけ肩の荷が下りる。
 それでも注文速度は緩まない。次々と注文票が届いては、ワシとルニャ殿で捌いていく。
「こんちゃー! やづるんが大変だって聞いてきたよー!」「勝手にお邪魔します! ルニャさんも大丈夫? 今お手伝いがたくさん来るから待っててね……!」
 厨房に飛び出して来たのは、小柄なララフェルの二人組。アンコ殿と、クマ殿である。仲の良い二人組で、一緒に依頼を熟している後ろ姿を見る事が多い。溌溂で意気軒昂なアンコ殿と、リンクシェルの纏め役なクマ殿。
「おお……! アンコ殿にクマ殿も! 助太刀感謝致す……!」
「あんがとぉ! 助かるよ~!」ルニャ殿も振り返りながら嬉しそうにふぁさふぁさと尻尾を振っている。
「今リンクシェル全体に声を掛けたから安心して!」クマ殿がグッと肯定の意を示す。「ヤヅさんもこういう時はどんどんリンクシェルを利用して! みんな募集が掛かるのを今か今かと待ってるから!」
「そうだよ~! もう飢えた獣のようにお手伝いできる依頼を探してる冒険者で溢れてるんだから!」アンコ殿が得意気な表情で胸を叩く。「どんどん声掛けて! どんどん!」
「承知致した……!」調理の手を止めてお辞儀を見せる。
「ザッと見た感じ、調理の人出が足りてないっぽいかな?」辺りを見回す挙措を見せるクマ殿。「アンコさんは厨房の二人を手伝ってあげて! 私は店内を見て回って、後から来た人員を割り振っておきます!」
「任せて! くまちゃんもそっち任せた!」「うん! じゃあまた後で!」
 アンコ殿とクマ殿がハイタッチを交わして、それぞれの業務に専念し始める。
 互いに信頼し合っているからこそ短いやり取りで済むのだろう。まさに阿吽の呼吸……いや、ツーカーの仲、と言う奴か。
 ともあれ徐々に作業環境は改善の兆しを見せ始め、ワシも調理を丁寧に熟せる程には余裕が出来てきた。
 陽は暮れ、夜半に差し掛かる頃。本番はまだ始まっていなかった事を、ワシらは知る事になる。

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