2022年3月8日火曜日

【ワシのヒカセン冒険記SS】第2話【FF14二次小説】

■あらすじ
モラの墓場のお手伝い/後編

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【第2話】は追記からどうぞ。

第2話


「次! 御鮭様のムニエルが七人前と、茶碗蒸しが五人前、それと豚角煮が八人前お願い!」

 クマ殿が厨房と客席の間に立って次々と届けられる注文票を捌いている。調理師として厨房に立つのはワシ、ルニャ殿、アンコ殿の三人。明らかに許容を凌駕しているが、それでも作らねば終わらない。
 並列作業で次々と調理を熟していく二人を横目に、ワシはワシで出来る限りの事を消化していく。多忙を極める調理と言うのは経験が無いもので、新たな経験を得られると考えを改め、今この場で出来る事を堪能しているところだ。
「ひとまずこれで注文は一区切りみたい! みんな、お疲れ様!」
 クマ殿がトテトテと歩み寄って笑いかけた。その一言を待ち侘びていたワシは、やっと人心地と嘆息を落とす。
「併し、こんな注文量の店を、よくカボ殿は一人で切り盛りしているものだ」やれやれと肩を回して解す。「素直に感嘆するわい」
「ビックリだよね~。かぼたん、まさかこんな働き者だったとは……」ルニャ殿がうんうん頷いている。「わんこと最近遊んでくれないのはそういう理由が……きぃ!」
「だとしたらさ~、そんな状況にやづるん一人放り込むなんてかぼちゃん酷過ぎない?」アンコ殿が据わった瞳で虚空を睨んでいる。「ちょっとこれは話し合いが必要なんじゃないかな~?」
「そうだよねぇ。かぼさん、そういうところしっかりしてるって思ってたけど、これは……」
 クマ殿も一緒になってうんうん唸り始めた時、客席の方から誰かが厨房に入ってきた。
「ヤヅさーん! 遅くなったけど邪魔しに来たよ!」「手伝いに来たんでしょ!? 遅くなってごめんね~、外せない用事が有って遅くなっちゃったよ……ごめんね!」
 現れたのはミコッテ族の女性と、ヒューラン族の男性。お洒落に気を遣っているミコッテ族の女性が、マコ殿。宮廷音楽家の実家を飛び出してきたと自称しているヒューラン族の男性が、レイゼ殿。二人が仲睦まじく一緒にいるところをよく見かけるのだが、生憎とそういう間柄ではないそうだ。と言うのも……
「てかレイくんはちゃんとロキとしっぽりやっててよ~、ヤヅさんを手伝うのも分かるけどさ~、分かるでしょ~? ロキレイを中断してまでする事じゃないよね?」「いきなりホモすなっ! ヤメテ~、僕ほんとロキさんとはそういうのじゃないから~! 仲良しだけどね! へへへ」「ほら匂わせてきた。ほんと最高だよねロキレイ……」「えーんもうやだ助けてヤヅさん!」
 マコ殿が腐った妄想を堪能している横で、泣きそうになりながらワシに縋りついてくるレイゼ殿である。
「う、うむ。レイゼ殿はカボ殿やポヨ殿とも仲睦まじいよな」狼狽えながら頷いてみる。
「カボさんもポヨさんも良い人だからね……! って違うんだよな~そうじゃない~そうじゃないんだよ~えーんどうしてこうなった……」「やはりカボレイ……? いやポヨレイか……?」「喧しいわ!」
 レイゼ殿が情緒不安定に憤慨している様子を尻目に、マコ殿が新しい燃料を堪能するように妄想に耽り始めている。
「丁度忙しい時間も過ぎ去ったみたいだし、みんなでご飯にしよっか!」クマ殿が手を叩いて注目を集めた。「みんな調理師ギルドにお世話になってた冒険者でしょ? 美味しいご飯を期待してるよ!」
「ぷぉぉ! わんこのまかない飯を食べさせてやろう!」やる気満々で尻尾をふぁさふぁさ振り始めるルニャ殿。「待っててね、食材確認してくる!」
「かぼちゃんの冷蔵庫を漁るチャンスじゃん!」ハッと何かに気づくアンコ殿。「絶対良いもの持ってると思うんだよね~、お手伝いしたんだから、これぐらいの報酬はね~、良いよね~」悪い顔をしている……
「おおっ、カボさん家のまかない飯が食べられるってさレイ君! 早く作ってきてよ私の分!」グイグイとレイゼ殿を押し出し始めるマコ殿。
「何で何も手伝ってないのにまかない飯にありつけると思ってんだこの人~」グイグイと押し出されているレイゼ殿。「てか僕に作らせないで自分で作らんかいっ! 君も調理師ギルドで修行してたでしょ!」
 ……と言う訳で、やんややんやと、先程とは別の方向性の賑やかさで厨房は一杯になった。
 誰かのために食材を調理するのも大事だが、みんなで食卓を囲むために、笑い合いながら食材と格闘するのもまた、味わい深きものだった。
 思えば――寄合所でも皆と食卓を囲むまでに、社員の皆と食材を調理するのもこうだったか。たった一晩離れただけにも拘らず、妙に懐かしい気分にさせられてしまった。
 カボ殿の店の手伝いは途轍もなく大変だったが、それ以上に楽しい時間を過ごさせて貰って、今では感謝の念を懐いている始末だ。彼はもしや、そこまで見通していたのだろうか……などと勘繰ってしまう。
 そうして皆で大鍋一杯に食材を詰め込んで煮込んだものを客席で囲もうと移動した時に気づく。
 客席に、カボ殿とポヨ殿が大きな腹を膨らませて佇んでいる事に。
「ぬ? お主ら、どこかに出掛けていたのではなかったか?」思わずと言った態で声を掛けてしまう。「今お帰りか?」
「よぅやづるん。いやなに、お前に戦闘以外の地獄をどうやったら味わわせられるかなぁと考えててよぅ」膨れ上がった腹をポン、と太鼓のように叩いてニヤリと笑うポヨ殿。「中々の腕前じゃねえか、カボの兄弟と一緒に舌鼓を打たせて貰ったぜぇ」
「………………ぬ?」
 一瞬何を言われたのか分からずに固まっていると、カボ殿が膨れ上がった腹を撫でながら、「いやぁ、ポヨさんが悪い。うん、わいはただヤヅちゃんの料理の腕前ってどんなもんなんかね? って言ったらね、ポヨさんが有りっ丈食べたいって言うもんでね。わいは食材提供役兼味見役したって事。うんまかったよ、ヤヅちゃん」
 客席に静かな時間が生まれた。
「…………さて、他に言い残してる事は無いかなポヨさん?」クマ殿がニッコリ笑顔なのに何も笑っていない顔でポヨさんに詰め寄っている。「カボさんも同罪で良いよね?」
「グハハハ、まぁそう怒るなよ、ちょっと小腹が空いてたから余分に注文しただけだろ? それにやづるんの調理の腕前を上げるのにも一役買ってやったし、皆で協力するって事を体で教え込ませたんだから、俺は寧ろ良い事をしてやったと思うんだよね? だろぉ? 兄弟」ポヨ殿がカボ殿に笑いかける。
「しーらない。わいは何も聞いてまへん」カボ殿がそっぽを向いた。
「みんなーっ! ポヨさんがポケットマネーでご飯奢ってくれるってーっ! たかれたかれーっ!」アンコ殿が号令を上げた!
「やったー! ポヨさんありがと~♪」マコ殿が嬉々としてメニューを開いた。「レイくん、これとこれとこれとこれとこれとこれを十人前ずつお願いね♪」会心の笑みである。
「えっ、何で僕が作る流れになってるの?」「あんたはポヨさんのコレでしょ? ほら早く!」「何にも納得できないんだけど!? って十人前も食べないよね君!? 食材を無駄にしちゃだめーっ!」
「かぼちゃん……わんこにご飯! 早く作って!」ピッとカボ殿を指差すルニャ殿。「お腹空いた! くぅくぅ言ってる!」
「何だぁ?」片眉を持ち上げて剽げた表情を浮かべるカボ殿。「ポヨさん、これもうわいらが作るしかないよ、贖罪するんだよ贖罪。お腹一杯になればみんな許してくれる」
「仕方ねえなぁ、見てろよ本場の調理って奴をよぉ」重たい腰を持ち上げて厨房に向かっていくポヨ殿。「食いきれねえとか吐かすなよぉ? 作ったからには全部食え、感謝して残さず平らげろよなぁ」
「お残しは許しまへんで!」挑戦的な笑みを浮かべてポヨ殿に続くカボ殿。「まぁー寛いで待ってなさい、カボ印のまかない飯を今作ってあげるから。ほら、レイゼさんも」
「待って僕ほんと冤罪なんだけど!? 僕も作るの!? 僕カボさんとポヨさんの手料理食べたい側なんだけど!?」「はいはい、そういうのはロキさんとやりなはれ」「何でその誤解だけは撤回されないの~えーん無慈悲」
 カボ殿に連れられてレイゼ殿が厨房に運ばれていき、残されたワシらは大きな鍋を抱えて顔を見合わせると、――笑いが零れた。
 その後、シューティングスターの皆がカボ殿の店に集まり、どんちゃん騒ぎの宴会が開かれる事になるのだが、それはまた別の話。
 更にその後、カボ殿から膨大な額の請求書がポヨ殿に届き、血の気の引いた彼を観る事になるのだが、それもまた、別の話……

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