2022年1月25日火曜日

【ネトゲ百合】第17話 喫茶「かしま」にて【オリジナル小説】

■あらすじ
ネトゲで好きになってしまった相手は、きっと異性だと思っていた。

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【第17話 喫茶「かしま」にて】は追記からどうぞ。

喫茶「かしま」にて

◇◆◇◆◇>>ジン<<◇◆◇◆◇

「――この間のイベントの報酬、ほんとしょぼかったですよね」

 初詣を終え、徒歩で行ける距離に在る喫茶店に連れて行かれた私は、座長さんと対面のテーブル席に腰を下ろし、店内の暖かさにホッと吐息を漏らしてコートを脱いだ。
 静かな店内には耳を澄まさないと聞こえない音量でジャズが流れている。お客さんは私達の他にはお婆さんが一人だけで、店員さんであろうお姉さんは暇そうにカウンターの奥で週刊誌を広げて欠伸を浮かべている。
 初めて入る店だったけれど、雰囲気は悪くなかった。それこそ、テスト勉強とかに利用しても良さそうだ、なんて思ってしまうぐらいには、落ち着いた雰囲気で居心地が良い。
 座長さんは「クリスマスイベントの奴でしょ? アレはいけないね、コンビニコラボに全力出し過ぎてアクティヴユーザーを邪険に扱うとか、そりゃプチ炎上もしちゃうよ」と微苦笑を浮かべて頷きながらメニューを手に取る。
 テーブルの上にメニュー表を広げた座長さんは、「ジンちゃんは何にする?」と私の方にメニュー表をずずいと寄せてきた。「オススメはこれ、たまごサンド! たまごがね~ふわっふわで最高なのよ……」
「座長さんはよくここに来るんですか?」
 メニュー表に記された“ふんわりたまごサンド”と言うテキストの上に記されたシンプルなイラストを見てから、座長さんに視線を移す。
 座長さんは自分に意識が向けられた事に気づき、「ん? あぁ、お仕事サボタージュする時の避難所だね。あそこで暇そうに雑誌読んでる店長、あたしの顔見知りなんだ」と苦笑を返してくれた。
「へぇ~……」チラッと店員さんに視線を向けると、彼女は来店したお客さんがいる事すら気づいていない様子で週刊誌に夢中だった。「……何か、良い感じにマイペースなお店なんですね」
「そうなのよ~。だからついつい入り浸っちゃう」ははは、と笑うと、座長さんは小さく空咳を挟んだ。「どうする? 同じもので良いなら注文しちゃうけど」
「はい、座長さんと同じ奴で!」
「了解っと」こっくり頷くと、座長さんは立ち上がると、カウンターに向かって行った。「おーい、あっちの席にたまごサンド二つとホットコーヒー二つ、なるはやでね」
 声を掛けられた店長さんはその声でようやっと座長さんの存在に気づいた様子で、週刊誌から顔を上げると、「んぉ? あぁ、いらっしゃい。たまごサンドとホットコーヒーね、はいはい」と見るからに面倒臭そうに腰を上げると、店の奥に引っ込んで行ってしまった。
「……お客さんが全然いない理由が分かった気がしました」苦笑を浮かべずにいられなかった。「店長さんとは長い付き合いなんですか?」
「ん~、まぁそれなりかな? 社会人になってからだから……もう十年ぐらい? もっと長いかな?」
「ほうほう……」
「ここはいつも閑古鳥が鳴いてるから、感情とかストレスとかリセットしたい時に来るんだよね」
「なるほど……」
 ……座長さんが、よく訪れる喫茶店、と言うだけでもう私の感情は揺さ振られまくっていた。
 ここに来たら、もしかしたら普段の座長さんに会えるかも知れない……! 仕事で疲れた座長さんがひょっこり顔を出した瞬間に、話を聞きに行けるチャンス……!
 などと、うっかりストーカー染みた発想をしてしまう。いけないいけない……座長さんだってつけ回されたら流石にドン引きされて口を効いてくれなくなるかも知れない……そんなのは嫌に決まっている。
 静かな店内に微かに流れるジャズが、まるで外界と時間が隔絶しているような錯覚を与えてくる。いつも以上にゆっくりと時間が流れるような、そんな感覚。
「……私も、テスト勉強とかしに来ようかな……」ぽそりと呟きが漏れてしまう。「図書館とかより、よっぽど集中できそう」
「うんうん、あたしも資格の勉強する時は活用してたなぁ~」感慨深そうに頷く座長さん。「頭があんまり宜しくないから、何度も落ちたけどねっ」
「座長さん、頭良さそうに見えますけど」
「またまたぁ~。おばさんを煽てても何も出ないよ? 飴ちゃんあげようか?」
「あははっ」
 あぁ、本当にこれは、デートに違いない。
 いつか夢見た世界が、ここに顕現していた。
 座長さんとは、いつもFPの中で一緒に駆け回っていたけれど、まさかリアルの世界でも同じ事が出来るだなんて、本当に信じられない。
 このままこの喫茶店だけ世界から隔離されて、ずっと閉じ込められてしまえばいいのに、なんて甘い妄想を考えてしまう。
 でも、きっとこれから、こんな時間が増える筈。いいや、増やしてやる。もっともっと座長さんと会って、話して、FPだけじゃなくて、リアルの思い出を増やしていくんだ。
 そう、新たに決意をして、私は座長さんとの会話を心底から楽しむのだった。


◇◆◇◆◇>>座長<<◇◆◇◆◇

「はーい、お待ちどーさん。ふんわりたまごサンドとホットコーヒーだよ。コーヒーは淹れ立てだから火傷に気を付けてね」

 トレイをテーブルに置きながら告げる店長に、あたしは「ありがと~、ジンちゃんと楽しく話してたら時間忘れちゃっててたわ」と思わず苦笑を返してしまった。
「そうだね、厨房までアンタの笑い声が響いてたよ」と、店長がおどけた表情で浮かべた。「珍しいね、ツレがいるなんて。彼女?」
「「かッ」」あたしとジンちゃんの言葉にならない声が飛び出た。
「違う違う! 同じネトゲのフレンドさん! 突然何を言い始めてんの!?」
「そそそそうです! まだそんな仲じゃ……!」
「ふ~ん?」店長はジンちゃんを見つめて意味深な笑みを浮かべると、「ま、頑張りな」ぽん、とジンちゃんの肩を叩いてカウンターの奥に戻ってしまった。
「……」「……」
 な、何とも言えない空気が蟠って、ヤバい……! あの店長はいつか殺そう……
「か、変わった人ですね、店長さん……」
「そ、そうなんだよ、ちょっと変わってるって言うか……」
「えと、じゃあ、いただきます……」
「う、うん、食べて食べて」
 冷や汗が凄くて何も考えられねえ……
「わ、本当にふわっふわだ。美味しい~」
 対面から嬉々とした感想が漏れて、私はやっと失われかけていた感情を取り戻した。
「でしょ~? ここのたまごサンドはほんとふわっふわでさ。ついつい食べに来ちゃうの」
「分かる……! これは通っちゃう美味しさ……!」
 互いに笑い合って、やっと空気が和んだ。店長に空気を破壊され、店長のたまごサンドで空気が和むとか、完全に手のひらの上で遊ばれてる感がヤバいな……今度何か奢ってやるか……
「あっ、あの、座長さん?」
「ん?」
「えぇと、その……ラインとかって、やってます……?」
「んぐっ!」
 たまごサンドを噴き出しそうになって直前で全神経を集中させて噎せ返るに留めたあたしまじぐっじょぶ!
 ここっ、これはっ、この流れはアレか!? 都市伝説だと思っていた、連絡先交換のフラグなのか!?
「だ、大丈夫ですか……?」
 噎せ返るあたしにそっとハンカチを差し出してくるジンちゃんに制止の手を見せて、何度も咳き込みながら頷く。
「ごーっほごほごほっ! はぁ……はぁ……だ、大丈夫、大丈夫……ラ、ライン? やってる、やってるよ……!」
 完全に頭のおかしいおばさん状態になってて自分で言いながらあまりにも辛い……どんだけ必死なんだ……いや必死になるだろ常識的に考えて! こんな据え膳食わぬはおばさんの恥だぞ!
 慌ててポーチからスマフォーンを取り出し、「あ、じゃあ、えと、交換する? ライン……?」ともう訳の分からないおばさんムーヴをかまして恥ずかしさで死にそうになっている。
「落ち着けよ、興奮し過ぎだぞお前」
 カウンターの向こう側から面白そうに声を上げる馬鹿に、「煩いよ! こっちは真剣なんだ!」と思わず怒鳴り返してしまって、「ぎゃあああ違うの今のナシ! 聞かなかった事にして!」とワタワタになってしまった。
「え、あ、えと、あの、えぇと……」ジンちゃんもワタワタに!「あ、有り難う、御座います……?」
「え、あ、ここ、こちらこそ……?」
 その後、混迷を極めつつも連絡先を交換できたので良しとしよう、うんそうしよう。あたしは考えるのを辞めた。

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れさまですvv

    お待ちしておりました!もう最高だ!!最高オブ最高!!!

    いつもどおりのモダモダ感と胸がきゅーっとする感覚がベストなバランスで散りばめられてて、読み切るまでに3回ほど討ち死にしました。
    たまらねぇ!!たまらねぇ!!!

    ジンくんと座長以外でちゃんとセリフがあるキャラは2人めかな?店長なかなか曲者っぽくて活躍に期待w

    ほんと、もうジンくんと座長のやり取り見てるだけでお肌ツヤツヤですw先生ありがとう!!

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想コメント有り難う御座いまする~!!(´▽`*)

      大変お待たせ致しましたーっ!!! そして最高を頂きました有り難う御座いまする!!!┗(^ω^)┛

      3回も討ち死にを!wwwめちゃんこ堪能されたようで嬉しさMAXです良かった…!!!(´▽`*)

      確かに2人目ですな! 今後もちょこちょこ増やしていきたい所存です…!w

      こちらこそヴァイタル溢れる素敵な感想コメントを頂いてお肌ツヤツヤになりました…!! 本当に有り難う御座いまする~!!!(´▽`*)

      今回もお楽しみ頂きまして有り難う御座いました!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!!

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